バンドの10年は大きい
──sleepyheadの次の展開はどうなりそうですか?
武瑠 「センチメンタル・ワールズエンド」というタイトルのアルバムを作ってみたいと思ってるんですよ。恋とか青春とか、いろんなものの終わりをそれぞれ違う視点から表現したくて。実は「meltbeat」「endroll」もそのアイデアから派生した作品なんです。
──武瑠さんが“終わり”をテーマに据えるのはなぜなんでしょうか?
武瑠 10年間やっていたバンドが終わったことが大きいと思います。そのことを自分の中で昇華するためには、1年では全然足りなかった。sleepyheadとして最初に出した「DRIPPING」というアルバムは、まだバンドの延長線だったと思うんです。「meltbeat」からは次のモードに入ったんだけど、まだそれを表現しきれていないというか。
──武瑠さんにとってSuGはそれくらい大きい存在だったんですね。
武瑠 女々しいと思われるとイヤなんだけど、やっぱり10年って長いじゃないですか。しかも僕にとっては19才から29才の時期だったから。そういえばオーラルも10年目くらい?
山中 来年で結成10年。
武瑠 そうか。普通だったら恋愛したり家族ができたりする時期だと思うけど、それを全部バンドに注いでいるわけだからね。
山中 俺も24歳くらいで結婚するもんだと思ってた(笑)。
武瑠 ハハハ(笑)。
山中 バンド以外のことはほとんどやってないですからね。それこそ飲みに行っても、バンドの中の自分としてしゃべっているので。
──THE ORAL CIGARETTESの山中拓也として話している。
山中 そうそう。1人の人間に戻る瞬間って、ほとんどないんですよ。何をやっていても、「これ、バンドにつながらないかな」と考えちゃうし。
武瑠 トップギアで駆け抜ける時期を越えると、次の戦いがあるんですよ。俺は10年目でバンドを辞めて1人で活動し始めて、最初の1年はスケジュールも詰めまくって“復活ブースト”で走ってたけど、ひと段落すると第2段階として本当の実力で勝負しなくちゃいけないときがくる。続けることを目的にしているわけではないんだけど、勢いだけでは継続できないですから。
山中 武瑠くんもその1人ですけど、自分の周りには未来のことをすごく考えている人が多いんですよ。ミュージシャンもそうだし、ファッションブランドをやってる人、絵を描いている人もいるけど、目の前だけ見て走るんじゃなくて、「将来、こういうことをやりたい」って面白いことを考えながら活動している人ばかり。目標に達することを想定して、逆算しながらビジョンを作っているというか。
武瑠 そうだね。
山中 たぶん、カッコいいの概念が変わってきてるんでしょうね。以前は勢いがあって前のめりな人がカッコよく見えてたけど、今はそうじゃなくなってきたかな。
曲の消費のスピードが上がってる
──カッコいいの概念が変わると、音楽性にも影響しそうですね。
山中 そうですね。そこは関係していると思います。具体的に言うと、日本にはフィーチャリング文化が少ないと思っていて。
武瑠 活発にやってるのはヒップホップだけだよね。
山中 そこに違和感があったんですよ、ずっと。なので、先日リリースした配信シングルは、フィーチャリングなんですよ。女の人の声を頭で流しながら書いた曲で、その部分をロザリーナに歌ってもらいました。西野亮廣(キングコング)さんの絵本「えんとつ町のプペル」の主題歌を歌ったシンガーなんだけど、声が超よくて。
──THE ORAL CIGARETTESが女性シンガーをフィーチャーするのは明らかに新機軸ですよね。
山中 そうですね。フェスを盛り上げるようなアップテンポの曲ではなくて、自分たちの行動と曲自体がしっかり刺さるようにしたくて。音楽シーンが変わるきっかけになるようなことをどんどんやりたいんです。女性シンガーをフィーチャーしてもTHE ORAL CIGARETTESの音楽になることもわかってもらえると思うし、作家としての自分を出したいという気持ちもあって。
武瑠 いいね。独立してから業界の仕組みが少しずつわかってきたんですけど、まず、楽曲制作の予算の相場がすごく下がってるんですよ。「1万5000円で作ります」みたいな人がけっこういて、それなりのものをどんどん上げてくる。なぜこうなっているかというと、曲の消費のスピードが上がってるからだと思うんですよ。リスナーはストリーミングで聴いて、「この曲いいよ」ってSNSに乗せるだけというか。なので作家陣も「音楽に付加価値を付けないと聴いてもらえない」という考えになっている。ただ消費されるだけではなくて、人の心をしっかりつかんでメッセージを伝えるためには、楽曲だけじゃなくて、映像やファッションが必要だっていう。
山中 本当にそうだと思う。
武瑠 オーラルがフィーチャリングの曲を出すのも、すごくいいことだと思います。しかもロザリーナっていうのがいい。バンドの近くにいる人ではないし、「そこなんだ!?」という意外性がある。
──sleepyheadも“3D音楽プロジェクト”というスローガンを掲げて、音楽を届けるためのさまざまな施策を行っていますよね。
武瑠 はい。8月に「BEAT GAMBLES」という演奏者をルーレットで決定する“カジノライブ”をやってみたんですけど、ヤバいくらい面白かったですね。こういう誰もやってない企画をどんどん増やしていきたいです。
俺たちの世代にはロックスターがいない
──THE ORAL CIGARETTESも新しいプランを考えているんですか?
山中 新しいことというより“戻る”という行為をやろうと思っています。作品の出し方は柔軟に対応していきますけど、周りと同じことは本当にやりたくないんです。2つくらい先に行くためにはどうしたらいいかを考えているんですけど、音楽は時代によって回るものなので「今のオーディエンスが知らない世界が昔にはたくさんあった」ということを伝えたいんです。あと、ロックスターが存在しないことが俺らの世代の現象だと思っていて。
武瑠 そうだね。
山中 TOSHI-LOWさんもそうですけど、俺らより上の世代にはカリスマ性を持ったボーカルが存在しているんです。どうして自分たちの世代にロックスターがいないかと言うと、「そんなのどうでもいいじゃん」というフロアの空気があるのと、「4人が集まっているのがいい」という見られ方があるんじゃないかなと思っていて。ただ、俺が憧れていたのは、発言や性格込みで「全部が好き」と思えるボーカリストなんです。さっきも話に出ていた新しいアー写を90年代っぽい雰囲気にしたのも、そこにつながってくるんです。音楽的なことでは、電子音がこれだけ増えているからこそ、「声だけでいい」というシンプルな魅力を追求したくなるし、メロディの美しさを際立たせるアレンジにも力を入れていきたい。
──アートワークやサウンド、1つひとつにちゃんと深い意図があるわけですね。
山中 こうやって全部説明しないと、誤解されちゃうんですよ。何か行動するときに説明が足りないと、「前と言ってることが違う」と言われちゃうので。ファンに対しては時間をかけて、いろいろ話していかないと……。そういう意味でも、武瑠くんがやっているオンラインサロン(社畜飼育場-sleepyhead ONLINE SALON-)はすごくいいよね。
武瑠 ファンクラブよりも上にある場所を作りたかったんですよ。そこで自分の考えを共有することで、より強いコミュニティを作りたくて。それは今後、もっと大切になってくるんじゃないかなと思っています。
山中 自分たちのマネージャーも、以前から同じようなことを言ってたんです。CDの売上枚数ではなくて、コミュニティの人数が大事になってくるって。
武瑠 そうしていかないと、流行に左右されちゃうと思うんですよ。「前は好きだったけど、今はあまり売れてないから聴かない」とか。そういうことはSuGのときから考えていたんですけど、うまくやれなかったんですよね。ファッション以外のことをやっても理解してもらえなくて……。6年くらい前に初めてクラウドファンディングをやったときも「金の亡者」とか言われて(笑)。「そういうことじゃないんだけどな」ということがよくある。
山中 そうだよね(笑)。
──今のsleepyheadは、かなりやりたいことができている状態ですよね。
武瑠 やっとそうなれました。1人でやり始めてから、いろんな人に協力してもらったからだと思います。例えば今日もヤマタクに対談相手として来てもらったけど、冷静に考えるとこれだってすごいことだと思うんですよ。こういう状況が当然だと思っちゃいけないなって、改めて感じていて。
──2人の個人的なつながりがあってこそですよね。
山中 それしかないです。損得勘定ではないので。
武瑠 自分と一緒に何かをやることで「+αを持って帰ってほしい」という気持ちもすごくあるんです。そうじゃないと意味がないし、そのためにめっちゃ面白い企画を常に出せる人でいたい。「sleepyheadの作品に参加してよかった」と思ってもらえるように、もっとがんばらないとダメですね。
ライブ情報
- sleepyhead LIVE TOUR 2019 endroll
-
- 2019年10月14日(月・祝)神奈川県 横浜BAYSIS
- 2019年10月19日(土)千葉県 DOMe Kashiwa
- 2019年10月22日(火・祝)東京都下北沢BASEMENT BAR
- 2019年10月26日(土)群馬県 前橋DYVER
- 2019年11月2日(土)愛知県 名古屋ライブホールM.I.D
- 2019年11月3日(日・祝)大阪府 梅田Zeela
- sleepyhead LIVE TOUR 2019 FINAL
-
- 2019年11月21日(木)東京都 マイナビBLITZ赤坂