SKY-HI|“監獄”を抜け出す鍵はここに

「人間である」ってだけ

──日高さんはどんどん自分に正直になって、今作でも自分の弱い内面をさらけ出すことで、ある種のカタルシスを得た実感があるんでしょうか。

僕のカタルシスは「New Verse」に尽きる感じですね。その感覚を聴いた人が全部共有できるように、ストーリーをちゃんと書いていこうと。サービス精神もありますよ。「White Lily」とか「23:59」なんて、サービス精神だけで書いた曲です。サービス精神のためだけにセックス(の曲)を書こうと。それは、さっきおっしゃってた(リスナーから)求められているものがそこにあるからですね。

──うまいと思ったのは、そういう客の期待に応えるようなエンタテインメントな曲であっても、ちゃんとコンシャスな、社会的な視点も含めた自分の考えみたいなものも曲の中に織り込んでいくやり方です。すごくスマートだと思いました。

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ああ、そうですね。「Blue Monday」とかもそうかもしれないですね。すごくポップなものと、社会的なものと。でもそれはもう、さっき言った「人間である」ってだけですよ。人間だったら、両方あって当然だから。実際お酒飲んで話していて、「与党が70歳まで働くの義務化するらしいよ」みたいな話だけするってこともないだろうし、この歳で「いやー、あそこの女がマジかわいくてさ」みたいな話だけでずっと話すのも気持ち悪いし。でもJ-POPの人が曲を作るところを見ると、「こういうのがウケるから」ってことだけでしか曲を書かない例が非常に多いと思います。

──こういう取材の場でいきなり、つい先日報道されたばかりの「70歳就業の義務化」なんて話題がすぐ出てくるのが日高さんの面白いところだと思いますが、その一方で、そういう社会的なトピックを曲に織り交ぜていくと、余計な反発みたいなものが日本では起こりがちじゃないですか。

あるある!

──それがあるから、みんな面倒臭くなって、好いた惚れたの無難なテーマに終始しちゃう、みたいな風潮がJ-POPにはある気がします。

うん、それを僕は「JAPRISON」と言ってるんです。それはまさに“監獄”であって、心あるミュージシャンはそこから抜け出したいと思っている。それを僕の時代で食い止められるかわからないけど、もしちょっとでも風向きを変えることができれば、俺も幸せになるし、何よりもまず若いミュージシャンが幸せになるかなっていう気がしますね。最初から「こういうのをやったらウケるからそうしよう」って意識だけでやってる人たちに対しては何ひとつ感じるところはないし、「まあがんばってくれ」でしかないんですけど。でも真摯に音楽に向き合ってる人って、ホントはいちミュージシャンとして、いち人間として、音楽に救われた経験があるはずなんですよ。でも自分であろうとして音楽に向き合う人が苦しめられてるっていう例がホント多くて。「こういうこと言うと反発を食らってしまう」とか、「こういうことしてはいけない」とか。それこそSNSもそうだし。そういう人たちが“JAPRISON”から抜け出して、苦しまないようになればいいと思います。

──なるほど。

俺、「ブランディング」という言葉が嫌いなんですけど、アメリカで言われているブランディングと日本で使われているブランディングって意味が120°ぐらい違う(笑)。「こういうキャラクターの人間だから、こういうことをやろうよ」、というのがアメリカで言うブランディングだけど、それ対して「これがウケそうだからそれに合わせたキャラをやってよ」というのが日本のブランディング。人間は無視されてる。

好きな人が苦しんでるところを見たくない

──お話を聞くに、若いミュージシャンにイヤな思いをさせたくないとか、そういうある種の使命感が日高さんを突き動かしてるところはあるんですか?

それはもうホントにシンプルな話で、好きな人が苦しんでるところを見たくないっていう。ラッパーの先輩ですげえ好きな人だけど、でも食っていくのは大変、という人たちはいっぱいいたし。俺が20歳ぐらいのときかな、先輩たちと話していて「いやあ、みんな幸せになったらいいのにね」とひと言ポツリと言われたのが忘れられなかったりするわけですよ。そういう生活の部分も含めて、自分の好きな人が幸せじゃないのはイヤだから、幸せになってほしいと思う。ほかの芸能の人が苦しんでようがなんだろうが、ほっとけばいいかもしれない。でもイヤなんですよ。幸せになってほしい。

──はい。

あとはやっぱり若い人が余計なしがらみなく音楽に集中できていたら、もっと面白い音楽がいっぱい聴けるんじゃないかなと思うんです。今一番イヤなのは、焼き直しが増えることなんですよね。聴いたことのある音楽はもう聴かなくていいじゃないですか。「JAPRISON」っていうのは自省も込み、なんです。自分も何かの焼き直しっぽいことをやってしまったなと思って。

──過去のアルバムでってことですか?

作品の根本の作り方なんですけど。こんなこと言ったら身も蓋もないんだけど、日本で売れる音楽ってフォーマットが決まっている。自分が作るフォーマットを、既存の売れるもののフォーマットに寄せていって当てるゲーム、というのをみんなやってるんですよ、昔から。俺もラップミュージックっていう自分のフィールドがあって、その中でいかに既存のポップスのヒットのフォーマットに近付けていくかってアプローチをずっとやってたんです。決してネガティブな気持ちでやってたわけじゃないけど、それをやっても本当に面白いものはできないんですよ。みんながみんなそんな作り方をしていたら、面白い才能なんて出てこなくなっちゃう。

SKY-HI

──過去の音楽や、今流行っているものにインスパイアされて曲を作るのは普通にあると思いますが……。

それはあると思います。でもそれを「解釈」にするか「寄せる」にするかで、だいぶ違うんじゃないですか。マーヴィン・ゲイにインスパイアされたんだっていうファレル(・ウィリアムス)が作るのがあの音楽で、「どこがだよ?」みたいな(笑)。でも寄せてるものは、すぐに元ネタがわかっちゃう。

──モロパクリな。

そう、モロパクリになってしまう。

──昔から洋楽のパクリをやっている作曲家や編曲家の大先生はいますけど、でも曲がいいから許されてるみたいな。

そうですね。でもだからと言ってそんなパクリばかりが横行する音楽界がいいはずがない。海外では自己のスタイルを常に更新し続けるアーティストが常に新鮮でいて、その結果どんどん影響力が大きくなっていくって例が多い。The Beatles、ボブ・マーリー、マイケル・ジャクソン……今ならケンドリック・ラマーとかチャンス・ザ・ラッパーが象徴的ですけど、社会に対してすごく影響力がある。でも日本だけそういうものがなくて、音楽家の地位がどんどん落ちていくみたいな状況がありますね。

JAPanese Rap IS ON

──そのことはブログに書かれてましたね(参照:無料のアルバムと内情のヤバさ。 | SKY-HI(日高光啓)オフィシャルブログ「SKY'sTHE LIMIT」Powered by Ameba)。

はい。「ヤバいな」と思って責任を感じてるんです。俺たち音楽を作る人間がチップインバーディ(ゴルフ用語で、グリーンへのアプローチショットが直接カップインし、規定打数より1打少ない打数で上がること)を狙うようなことばっかやってるから。

──なるほど。

今海外の音楽ビジネスの総売上の70%をラップミュージックが占めているらしいんですけど、アジアはその中の15%とか20%ぐらいまで迫ってる。むちゃくちゃデカいシェアを持ってるんですよ。今後さらにデカくなるのはわかりきってる。韓国を筆頭に中国がすごい勢いで迫ってきて……と思ったら今はタイが強くて。ほかにもインドネシア、シンガポール……もう、“without Japan”なんですよ。「こんなつらいことあるか?」っていう。なぜそういう状況になったかって言ったら、日本はみんなでチップインバーディ狙ってたから。その間に周りの国の人たちはサッカー始めたのに気付かなかったという(笑)。そういう状況に対していろんな責任を感じているから、レペゼンジャパンしてがんばりたいんです。

──ああ、まさに使命感じゃないですか。

確かに! いや、決めつけてた部分もあるんです。日本で売れるものと海外で売れるものは別、みたいな定説があるじゃないですか。レコード会社の人もいまだによく言うんですよ。「カッコいいけど洋楽っぽいね。日本で売れるものと海外で売れるものは違うからさ」って。あまり大きな声で言えないけど、演者側も言うんですよ。「俺は好きだけど売れないんじゃない?」みたいな。そんなことやってる間に韓国はシンプルにやりだしたんです。それこそアメリカや日本の音楽の焼き直しみたいなところから始まって、やっていくうちにスタイルができてきて、欧米に何度も行ってがんばって。で、気が付いたらこの有様じゃないですか。K-POPセンセーションが巻き起こって。K-POPが押し上げたところにいろんな音楽が付いていくんですよ。韓国のヒップホップもめちゃくちゃ盛り上がってるし。ホントにシンプルな話なんです。「え、そんなこと簡単にやれんじゃないの?」ってことをちゃんとやった国と、やらなかった国っていう。

──なるほどねえ。

去年アメリカに行ったときに感じたのは、アジア人がすごく過ごしやすくなってる。特に音楽をやってるアジア人。6年前とかは「ラップやってる」って言うと「ええっ、日本人なのに? ラップとかあるの?」みたいな反応だったんですけど、去年行ったら全然状況が違う。「じゃあ俺のスタジオ来いよ!」みたいな話になって「一緒に曲作りたいって奴がいるぜ」ってバンバン話が進んでいって。スタジオでレコーディングしてたら胡散臭い大人がゴロゴロ現れて(笑)、「アメリカでお前が本気でやっていくつもりがあるなら、俺と契約しろ」みたいな。金になると思って集まってくるんですよね。

──そういう状況もK-POPやアジアのヒップホップが向こうでブレイクしたから。

そう。だから若い子は向こうに行っちゃったほうがいいと思う。住んじゃえばなんとかなるから。日本でみんなでチップインバーディ狙うより、全然夢があると思いますよ。それでスーパースターになるのもそんなに遠い話じゃないし。もちろん俺もがんばりますよ。だからアルバムタイトルを「JAPAN+PRISON」と共に「JAPanese Rap IS ON=JAPRISON」とひっかけたんですよ。なので、2019年はラップミュージックを集中してやっていきたいと思ってます。ひょっとしたらポップス的なアプローチは1回封印するかもしれない。なので「JAPRISON」のツアーが終わったらいろいろ仕切り直すつもりです。

SKY-HI
ツアー情報
SKY-HI TOUR 2019 -The JAPRISON-
  • 2019年2月3日(日) 東京都 昭和女子大学人見記念講堂
  • 2019年2月9日(土) 千葉県 市川市文化会館 大ホール
  • 2019年2月17日(日) 静岡県 富士市文化会館ロゼシアター 大ホール
  • 2019年2月24日(日) 宮城県 東京エレクトロンホール宮城
  • 2019年3月1日(金) 福岡県 福岡サンパレス
  • 2019年3月10日(日) 広島県 広島文化学園HBGホール
  • 2019年3月17日(日) 北海道 札幌市教育文化会館 大ホール
  • 2019年3月23日(土) 神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール
  • 2019年3月30日(土) 長野県 ホクト文化ホール 中ホール
  • 2019年4月6日(土) 石川県 本多の森ホール
  • 2019年4月7日(日) 愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
  • 2019年4月24日(水) 大阪府 フェスティバルホール