SKY-HI|“監獄”を抜け出す鍵はここに

SKY-HIが12月12日に4thアルバム「JAPRISON」をリリースした。

2017年1月リリースの「OLIVE」以来となるオリジナルアルバムである今作。タイトルの「JAPRISON」には“JAPAN+PRISON”と“JAPanese Rap IS ON”という意味が込められ、客演にJa Mezz、HUNGER、斎藤宏介(UNISON SQUARE GARDEN)、プロデューサーにstarRo、UTA、SUNNY BOY、Yosi、Matt Cab、MATZ、亀田誠治、蔦谷好位置といった面々を迎えた全14曲が収録された。

「JAPRISON」を制作するにあたり、SKY-HIは「相当に内省的なところから自分を掘り下げることができた」という。彼がこのアルバムで見出した“監獄”を抜け出す鍵とはなんだったのか、そして“JAPANESE RAP”に対して抱く使命感とは。音楽ナタリーでは、彼の今の思いを1万字のテキストで紹介する。

取材・文 / 小野島大 撮影 / 小原啓樹

“監獄”を抜け出すための鍵を探してた

──最近はアルバムのプロモーションとツアーを並行してやられていて。お忙しいようですね。

そうなんです。でも今年はツアーをずっと回りながら制作をする1年だったので。特にライブハウスツアーはだいぶ生活に密接してやれてるので、いいですね、逆に。ライブハウスツアーを週1ぐらいでやってる状態で生活してたほうがバイオリズムが保てそうな気がします。

──ライブハウスツアーのいいところって、お客さんと近いこととか?

はい。「究極のコミュニケーション術」と呼んでるんですけど。大きい会場もよさはいっぱいあるんですけど、ライブハウスでのライブは会話に近いです、アクションとリアクションのスピードの速さが。なんかこう……OLが女子会で愚痴を吐きあって日頃のストレスを発散するのに近いかな(笑)。ライブハウスのライブがない1週間は風邪引きましたからね。ライブがストレス解消になって、メンタル面を支えてくれたところがあったのかもしれないです。「New Verse」(「JAPRISON」収録曲)でも近いことを言ってますけど、ヴァースが自分と会話するツールだとしたら、ライブハウスはそれが大きくなっただけというか。全部いいんでしょうね。街に会って人に会って自分にも会う、みたいなことができるから。

SKY-HI

──今のお話にも出ましたが、今回のアルバムはかなりご自身と向き合って作った作品という印象を受けました。

そうですね!

──言葉も強いし、曲調もかなり大胆なものもあり、バラエティに富んでいる。手応えはいかがですか。

うん、いい手応えはいっぱいあるんですけど……自分と向き合うという意味では「New Verse」が制作の序盤で書けて、相当に内省的なところから自分を掘り下げることができたんです。自分の弱い部分を見つめる機会っていうのが意外にないことに気が付きまして。特にヒップホップがルーツにあると、弱い部分っていうのは隠すか武器にするかしか方法がない。それこそ2010年前後ですかね。自分がラッパーとして注目を浴びるようになったタイミングとかは……「アイドルスワッグ」とか言われたりしましたけど、それを逆手に取る、みたいな。アイドルとして見られることを逆手に取るボースティング(自慢、賛美)で見た目も派手にしてたし。それは意識的にやってたんですけど。

──はい。

もしくは弱みをハナから見せない、という。そういうのはかねてからのヒップホップの美学としては強くあったと思うんです。

──そうですね。

俺はステージとか音楽において嘘をつかない、自分をさらけ出す、ということを貫いていれば、大抵のことには答えが見つかる……答えがないことも含めて、解決の糸口はあるはずだと思ってたんですけど、どうも最近はそれだけじゃ解決しない“息苦しさ”を感じるんです。そういう息苦しさってなんだろうって思ったんですよ。どうやらそう感じている人は俺だけじゃなくて、周りにも異常なまでに多いなと思った。それを「監獄(PRISON)」……精神的とか文化的な意味での監獄と捉えて、そこを抜け出すための鍵を探してたんです。

SKY-HI

──なるほど。

そうして、自分の弱い部分を「New Verse」で見つめて掘り起こせたときに、自分がちょっと愛しくなりました。自分をさらに愛せた。しかも自己愛とか自己肯定って、本来自分の優れた部分を見てするものだと思ってたんですけど、自分の弱い部分や脆い部分をしっかり見つめてあげる作業をしたら、今までに感じたことのない種類の、自分への愛情が湧いたんです。それが強くなればなるほど、よそへ捧げる愛情の種類も大きく豊かになる。監獄の息苦しさを抜けられる鍵かもしれないと思えたところで、これは(アルバムが)絶対完成するなと思いましたね。「New Verse」が序盤に書けた段階で、手応えという意味では強くありました。「もう大丈夫だ、あとは間のストーリーを埋めていくだけだ」と思って、そこから同じ一人称で「Doppelganger」「Persona」「Shed Luster」と書いていった感じです。

“元・天才”とのケンカ

──弱い自分に気付いたというのは、それを感じる場面があったということですか?

あったんですよね、わりと……。

──ほかのラッパーの人に比べると、いろいろと雑音に晒されることは多そうですもんね。

雑音に晒されると、わりと強くなっちゃうから。あと、鈍くなっちゃうんですね。傷付いてることに気付かないとか。けっこう多いと思うんですよ。「つらいつらい」と思っているうちに、何がつらいかわからなくなってくるみたいな。そういう予備軍みたいな人、いっぱいいると思うんです。自分もまぎれもなくそれで。雑音に晒されるうち、何がつらいのかわからなくなってたところは正直ある。「FREE TOKYO」(8月に発表したミックステープ)なんかはたぶん“自己救済企画”なんですよ。衝動的にトラックを作って曲を書くことによって、強制的に自我を保つみたいなところがあったんですけど、今回は……「New Verse」のクレジットの中に「ともだち」っていう役割があるんですけど。

SKY-HI

──「ともだち:元・天才」とクレジットされていますけど、これは……?

(笑)。ぼくのりりっくのぼうよみってアーティストなんですけど。

──ああ、そうじゃないかと思いました(笑)。これ書いちゃっていいんですか?

ああ、大丈夫っす。(名前に)そんなに深い意味はないので。もともと仲はいいんですけど、この曲を書く前後ぐらいから話す機会が多くなって。で、ゲームしたあとかなんかに「日高さん、感情出してます?」みたいな話になったんです。「感情を爆発させるシーンを逸している可能性がありますね」「一種の心理療法に近いんですけど、ケンカしてみませんか?」みたいな(笑)。

──ケンカ?

そんなこと言い出すんで「バカかな?」と思ったんですけど(笑)、遠慮なくケンカを売ってきたんですよ。「日高氏、あの曲のここの歌詞はひどいと思うんですよね、これは駄作です」みたいなことをガンガン言ってくる。それでこっちも頭に来て「お前のあの曲のサビの部分でいきなり英語になるのって、ダメなJ-POPの典型だよ」なんて話で盛り上がりまして。そういう予定調和のケンカをしてたらだんだんとムカムカしてきて(笑)。

──公表されないビーフみたいな。

そうそう。それでムカムカして寝たんですけど、それから2、3日したら「New Verse」がより深くまで書けたんです。何があったわけでもないんですけど、筋トレするとボールが遠くまで飛ぶとか、ストレッチすると足が早くなるとか、そんな感じだったのかなと(笑)。なかなかね、全部を言える人っていないので。自分の心の内を全部言える人。特に僕の場合特殊だから、経歴が。そのすべてを知ってもらうことは無理だし、知ってくれてる人だとなおさら感情が爆発する瞬間なんてないし。そもそもあまり人に泣きついたり頼ったりすることが自分の人生の中になかったんですよね。でも「New Verse」を書いたあとは、他人に甘えられる率が増えました。1個さらけ出すことができたら、ドアが1個開くっていうか。人間みんなたぶんわかってないんですよ、自分の本質なんて。そんなことを「Doppelganger」でも書きましたけど、自分が誰かなんて自分が一番よくわかってない。ははは(笑)。普段口ゲンカなんてしないじゃないですか? だからそれは健康によかったっぽくて。それで「New Verse」みたいな歌詞も書けた。心が健康になれたんですよね。