2017年10月にアルバム「20/20」をポニーキャニオンからリリースし、メジャーデビューを果たした澤部渡によるソロプロジェクト・スカート。メジャー進出から5年、彼は持ち前のソングライティングのセンスを武器に良質なポップソングを世に届けてきた。
そんなスカートにとって約3年半ぶりとなるオリジナルアルバム「SONGS」がこのたび完成した。アルバムはスカートとPUNPEE名義でリリースしたアニメ「オッドタクシー」オープニングテーマの再録バージョンをはじめ、JBL「Tour Pro+ TWS」のWeb CMソング「海岸線再訪」、稲垣吾郎が主演を務める映画「窓辺にて」の主題歌「窓辺にて」など全13曲中10曲がタイアップ曲で構成されている。もちろんタイアップが多い=優れたアーティスト / 音楽というわけではないが、澤部のソングライティングのセンスが広く評価されている証のようにも感じる。またこれだけタイアップ曲が多い中でも、不思議とまとまりがありスルッと通しで聴けてしまうのも本作の魅力の1つだ。音楽ナタリーでは澤部にインタビューを行い、「SONGS」の制作秘話やアルバムに込めたこだわりを聞いた。
また特集の後半には、スカートのレコーディングエンジニアを務める葛西敏彦と澤部の対談を掲載。“音作り”という視点からスカートというバンドの進化や「SONGS」の魅力を紐解いていく。
取材・文 / 下原研二撮影 / 小財美香子(P1~2)
スカート・澤部渡 ソロインタビュー
タイトルは「SONGS」しかなかった
──スカートがオリジナルアルバムをリリースするのは、2019年発表の「トワイライト」以来およそ3年半ぶりになります。で、蓋を開けてみたら13曲中10曲にタイアップが付いているという。
山下達郎さんみたいなことになっていて(笑)。
──(笑)。正直、アルバムの資料をいただいた段階では「タイアップ曲が10曲も入っていてまとまるのかな?」とも思っていたんですよ。でも、実際に聴いてみたら不思議とまとまりがあって。そういったバランスは意識して制作を進めていたんですか?
そうですね。「海岸線再訪」(2021年12月発表のシングル)を作った頃にはアルバムのことを考え始めていて、それ以降にオファーをいただいたタイアップ曲に関しては「アルバムとしてまとめたときに、食い合わないようにしよう」と意識して書いていました。「オーダー的にはもっとフォーキーなほうがいいんだろうけど、あの曲がすでにあるしな」とバランスを取っていって。そういうふうに、オーダーとは違う視点も入れつつ要望に応えられるように曲作りを進めていったら、意外とそっちのほうがうまく転がることもありました。だから結果的にバラエティに富んだとまでは言えないかもしれないけど、いいアルバムにはなったのかなと。
──なるほど。あとはやっぱり、スカートが「SONGS」というタイトルを掲げたことに驚きました。
まあ、意味が出ちゃいますよね。僕も「やってしまった」とは思いました(笑)。
──タイトルはアルバムの楽曲がすべてそろってから付けたんですか?
変な話ですけど、それしかなかったんですよ。アルバムの楽曲がそろう前にタイトルを決めなきゃいけないタイミングがあって、候補として「SONGS」が挙がっていたんです。最初は「SONGS」と付けるのにすごく後ろ向きだったけど、かと言って「窓辺にて」や「Aを弾け」のように収録曲の中から1つを抜き出してアルバムタイトルを背負わせるのも違う気がしたんですね。で、曲がすべて完成したら、いい意味でバラバラなんだけど、アルバムとしてはまとまっている気がした。この感覚を表現するなら「SONGS」しかないんじゃないかって。
──SNSでもこのタイトルに反応している人を多く見かけました。
まあ、「SONGS」と言ったらどうしてもシュガー・ベイブを連想しますからね(笑)。個人的にも大好きなアルバムだから、同じタイトルを付けてもいいのか?と葛藤はありました。ほかにも「SONG BOOK」「POP SONGS」「POP MUSIC」みたいな案も挙がっていたけど、なんだか「POP」と付けちゃうと“みなまで言うな感”が出てしまうというか。「そこまで言わなくても、もうわかるでしょ?」という気持ちもあって。
──結果的には「SONGS」と胸を張って言えるようなアルバムになった?
そうですね。最終的にはなりました。
スカートらしい不健康さが出たPUNPEEとのコラボ曲
──今作には「スカートとPUNPEE」名義の楽曲「ODDTAXI」の再録バージョンが収録されます。お二人のボーカルの変化もそうですけど、バンドを軸にしたアーバンなアレンジもいいですよね。
最初はアルバムを買ってくれた人へのサービスのつもりだったんです。だからボーナストラックとして収録する予定だったんですけど、録ってみたら全然オマケっぽくなくて(笑)。アルバムの中に入れても浮くことはないなと思えたし、曲順を考える中で3曲目にこの曲があったら「SONGS」の雑多な感じも強調されるかなと。
──確かに華やかな楽曲ではあるんだけど、アルバムを一聴したときに不思議と浮いた感じがしないなと思っていました。昨年末のワンマンではサプライズゲストのPUNPEEさんと一緒にこの曲を演奏していましたけど(参照:スカートが初のリキッドワンマンで新旧織り交ぜた25曲熱演、PUNPEEも駆けつけ「ODDTAXI」コラボ)、アルバムに収録するにあたってバンドメンバーとアレンジを練り直したんですか?
基本的にはあのときのアレンジがもとになっていて、まずバンドで録音したものに対してPUNPEEさんの意見を取り入れながら進めていった感じです。
──PUNPEEさんも一緒にレコーディングしたんですか?
すべて一緒に録ったわけではないけど、管楽器の録音のときは来てくれましたね。みんなでワイワイ言いながらのレコーディングで、その中でPUNPEEさんが「ここのドラムは一瞬ミュートしましょう」とかアイデアをガンガンくれて、そういうのも超楽しかったです。結果的にシングルのときほどの開けた感じはないかもしれないけど、スカートらしい不健康さがよく出ているんじゃないかなと(笑)。
アルバムの足りないピースを埋めた「Aを弾け」
──8曲目の「Aを弾け」はテンポ感含め本作の中で異質だなと思ったのですが、これはどのように作っていったんですか?
これは制作の最後の最後に書いた曲なんですよ。「ODDTAXI」を本編に入れるとなったら「あれ?もう1曲足りないぞ」という気持ちになってしまって。それでアルバムに足りない要素を考えたときに、気分のいい曲が作りたいなと。個人的にはyes, mama ok?っぽい曲だなと思っていて、ああいうポップさとパンクさをないまぜにしつつも、オールドな雰囲気もするみたいなね。
──その軽快なサウンドの中で歌われる「きっと 私は 今でも君のこと 許せてはいないんだ 呪いのように 巡る」という歌詞が気になっていて。スカートらしいどこか影のある歌詞ではありますけど、これはどういうイメージで書いたんですか?
サウンド的にスカッとした曲なのでストレートな歌詞を乗せてもよかったんだけど、引っかかりのある言葉を入れたいなと思って、それで少し安易だけど「呪い」とか言ってみようかなと。そしたら思った以上にハマりがよかったんです。だからアルバムの中で一番歌詞に意味がない曲ではあるんですよ(笑)。
──なるほど(笑)。僕はそれに引っかかったわけですね。
(笑)。「Aと言われたら Aを弾くだけ」という歌詞も、ノートの端っこに走り書きのメモを見つけて。しかもメロディにばっちり合うから採用してみて、そこから自分の中のイメージを広げていった感じなんです。あと、この曲は最後に書いたから時間がなくて、これだけ全部自分で演奏しています。ライブでのアレンジもあまり変える予定はないんですけど、このままの雰囲気で少しリッチになるかなと思います。
スカートがバンドだったら12年も続いてない
──9曲目の「私が夢からさめたら」には間奏にメロトロンを使ったフレーズが入っていますけど、この曲はどのように作っていったのでしょう?
あの部分は(佐藤)優介に「間奏のフレーズしか思いつかなかったけど、そこにしか音が入ってないとあまりにも突然だから、エンディングに向けてフルートとチェロでアレンジを書いてくれないか?」と相談してアレンジしてもらったんです。それで優介から返ってきたものを聴いて、うまくいってると言うと変ですけど、「さすが佐藤優介だな」と思いましたね。最初はバイオリンの音を1音ずつ重ねていくフレーズで始まるんですけど、それを踏襲してくれたのか、1音ずつ重ねて降りていく終わり方になっていて。「これは細かい!」と思ってうれしかったですね。いつもだったらアルバムの中に弦を使った曲を1曲入れたくなるんですけど、今回はその余地があまりなくて。「私が夢からさめたら」も生楽器よりメロトロンっぽいほうがいいなと思って、この形になりましたね。
──ちなみに、佐藤さんのアレンジで広がった曲はほかにもあるんですか?
いやあ、それを言ったら全部ですよ。僕はピアノがあまり得意ではなくて、デモを作るときにピアノを入れないことが多いんです。今回で言うとデモから入れてたのは「十月(いちおう捨てるけどとっておく)」くらいで、ほかはレコーディングやリハのときに優介のピアノを聴いて「こうなるんだ」みたいな。アルバムの中でピアノが特に効いているのは「窓辺にて」とか「背を撃つ風」かな。このあたりを聴いたときは、これは素晴らしいピアノだなと思いました。
──そういう話を聞くと、スカートは「澤部渡」といういち個人ではなくて、やはり「スカート」というバンドなんだなと感じます。
もともとはみんながそれぞれでバンドを組んでいて、手伝ってもらっているという前提があったんですよ。だからバンドと名乗るのは申し訳ないし、矢面に立つのは1人でいいやと思っていたんです。でも、だんだん時間が経つとみんなバンドを辞めちゃうんですよね。
──じゃあ4人でバンドにしようとはならなかった?
やっぱり1人のほうが楽ではあるんですよ。「Aを弾け」みたいに締め切りがヤバいときは1人で録っちゃえばいいし(笑)。どうもスカートは普通のバンドじゃないみたいですね。例えば曲の断片を持ち寄ってセッションしながら作っていくみたいなことはあんまり得意じゃないんですよ。前の佐久間(裕太)さんとのインタビューのときも思いましたけど(笑)(参照:スカート「海岸線再訪」インタビュー)。
──結果的にかなりバンド的ではあるんだけど、「正式にバンドにしましょうか」となるとギクシャクしちゃいそう?
うん、それはちょっと怖い(笑)。難しいんですよね、自分の中でも。
──レコーディングや曲作りにおいては、メンバーがコミットしている部分が普通のバンド並みに大きかったりしますか?
曲作りにはそんなに多くはないかも。アレンジは本当に助かっています。みんなが演奏してくれることで楽曲に社会性が与えられるような感覚がありますね。(シマダ)ボーイなんかは特にそう。それと、今回のアルバムは締切やコロナの関係もあって、半分くらいはリハーサルをしないまま録らざるを得なかったんですよ。だから逆を言えばスタジオミュージシャン的でもあるのかなと思いますね。優介なんかデモを用意しても聴いて来ないだろうし(笑)。
──そうなると確かにバンドではないのかもしれないですね(笑)。
そうそう。だからバンドとシンガーソングライターの中間みたいなのが自分の中では一番しっくりきてますね。あとバンドの場合、メンバー同士で楽曲を膨らませる余地みたいなのが必要だと思うんです。僕の場合は「この曲はこういうふうにしたい」という具体的なイメージがないつもりではあるんだけど、どうやらあるんですよね。
──なるほど。
だから正式にバンドにしちゃうと意外とうまくいかないのかも。12年は続いてないかもしれないです(笑)。
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