朝方6時までゲーム
──佐久間さんはコロナ禍で落ち込んだりしなかったですか?
佐久間 僕は普通に働いているので、メンタル的に落ちたりはなかったですね。ミュージシャンの場合は、人と会う機会が絶たれたのが大変だったんじゃないかな。仕事ってのはお金を得る手段でもあるけど、人とコミュニケーションを取る場でもあって。それが急に絶たれてしまうのは嫌だと思いますね。
──なるほど。
佐久間 人間の根源的な話になるんだけど、自分が何か行動したことで人に喜んでもらえたらうれしいですよね。ミュージシャンってそういうのが強い職業だと思うんですよ。僕もスカートで演奏していて、お客さんが喜んでいるのを見るとうれしくなるし。でも、遠隔だとお客さんの反応は見えないからね。
澤部 そう、自分がどんどん孤立していく感覚はありました。佐久間さんは働いているから出勤時に街並みを見ていたと思うんだけど、僕はクソ真面目にずっと家にいたから、街が今どうなっているかもわからないまま時が過ぎていく感じがして。それもコロナ禍にしんどかったことの1つですね。
──自粛期間中はメンバー同士で連絡を取ったりしなかったんですか?
佐久間 9月に延期になった10周年ワンマンまではリハとかで会う機会もあったんだけど、そこからバンド編成でのライブはやらなくなったから少なくはなりましたね。
澤部 優介(スカートのサポートキーボードメンバー・佐藤優介)と3人でゲーム「Apex Legends」をやってたよね。あの頃は優介も「話す相手がいないからやってる」って言ってた。
佐久間 ゲームを通してコミュニケーションを取る感じでした。プレイ時間がどんどん長くなるんですよ。最初は22時くらいに始めて夜中の2時くらいに終わってたのが、朝方6時終わりとかになってきて(笑)。
澤部 そうそうそう(笑)。最近はもうゲームは最初の1、2時間しかやってなくて、そのあとはずっとしゃべってます(笑)。
ライブをあきらめたことで前向きになれた
──澤部さんは「海岸線再訪」のリリース日決定のタイミングで「創作とコロナ禍の相性は、私の場合は最悪」とコメントを発表していました。それでも今回のシングルを完成することができたのは、何かきっかけがあったんですか?
澤部 気持ちのうえで「ライブを一旦やめよう」と決めたのが大きいですね。ライブの開催時期にメンバーの誰か1人でもコロナにかかったら終わりじゃないですか。それで自分でも気付かないうちに、ライブをやること自体がプレッシャーになっていたんですよ。あと年末にイベントに出たときに地方の子が観に来てくれていて、もちろんうれしいんだけど、どこかで「大丈夫かな?」と思っちゃって。
佐久間 ライブをやることによって自分が感染拡大の原因の1つになっちゃうというかね。
澤部 そうそう。でも、出演しといて「来るな」とは言えないから。それが自分の中での決定打だったんですよ。そのあとにいくつかライブが決まったんですけど、その情報が世に出る前に中止になったりして。
佐久間 あー、あったね。演者としてはライブやるのかやらないのか、常に半信半疑の気持ちでいなきゃいけないんですよ。開催されるならリハをやらないといけないわけだけど、練習したとてなくなる可能性もあって。
──ライブをあきらめたら気持ちは楽になりました?
澤部 すごく前向きになれたんですよ。もうつまらないことで頭を悩ませなくていいんだ、と肩の荷が降りたというか。その決断をするまで「つまらないことで頭を悩ませてる」とは思ってないんですよね。それが解消されたのが大きかったと思います。
佐久間 そのマインドになったのが今年の4月頃で、そしたらコロナも少しずつ収まってきたっていうね(笑)。
澤部 (笑)。でも7月頃にまた感染者数が増えたじゃない? あの時期にライブがあったらまともじゃいられなかったと思う。
コロナ禍でも楽しかった「ナイポレ」
──シングルの制作はいつ頃から始まっていたんですか?
澤部 ライブをあきらめたのが制作にシフトしなきゃいけない時期と重なっていたので、タイミング的にはうまくいったのかなと思います。
──今回のシングルは3曲すべてタイアップが付いてますけど、話はいつ頃来たんですか?
澤部 いつだったかなあ。でもどの曲もスケジュール的にヤバかった気がします。確か「最愛のひと~The other side of 日本沈没~」は早めにお話をいただいたんですけど、実際に打ち合わせしたのは3月とかだったような。
──楽曲制作はすらすら進みました?
澤部 いやあ、遅いままですね。コロナ禍で集中力がゼロになっちゃって。昔は3、4時間くらい平気でギターと向き合えたし、ボイスメモを回してワーッと作業してたら曲ができたんですよ。でも今回は1時間くらい作業したら良し悪しの判断がつかなくなって、「制作は明日にして『Apex』やろう」みたいな(笑)。
佐久間 ゲームに救われたよね。
澤部 うん。「Apex」と「パワプロ(実況パワフルプロ野球)」と「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」が真の救世主かも。
佐久間 これはドカッと書いといてください(笑)。
澤部 (笑)。あ、音楽でいうと「ナイポレ」(α-STATION エフエム京都にて毎週金曜20:00より放送中のレギュラー番組「NICE POP RADIO」)があったのは救いでしたね。毎週自分で選曲したレコードをかけるんですけど、コロナで落ち込んでいてもその作業はずっと楽しくて。
──その「ナイポレ」も先月の放送で4周年を迎えましたね。
澤部 ねー、本当にありがたいですよ。
──4周年記念の生放送で「海岸線再訪」が初オンエアされましたけど、リスナーの反応はどうでした?
澤部 うれしいコメントをたくさんもらいましたね。でも「ナイポレ」を聴いてくれている人はスカートの曲は好きだろうから(笑)、シングルをリリースしたあとの世の中の反応が気になります。
──「海岸線再訪」は抜け感のあるさわやかなポップナンバーですけど、冒頭の「足りないピースが 多すぎやしないか 元には戻りそうにもないけど 続けようか」のラインにあるように、歌詞にどこか寂しさが滲んでいるようにも感じました。これはコロナ禍の影響が反映されているんですか?
澤部 自分もそう思っちゃったんですよ。歌詞を書いてるときは今の状況は気にせず書いてたし、「コロナの曲っぽく聞こえたらいやだな」と思っていたけど、結果的にそうとも捉えられる歌詞になっちゃいましたね。
澤部渡の曲作り
──この曲はJBL「Tour Pro+ TWS」のWeb CMソングに使用されていますけど、クライアントからはどういうオーダーがあったんですか?
澤部 「スカートのあの曲っぽく」くらいの抽象的なオーダーだったので、あまり縛りもなく自由に書けましたね。
佐久間 逆にめっちゃ縛りのある案件って今まであった?
澤部 うーん、何回かあったかな。打ち合わせのときに映像を見せてもらって「ここが3秒で、このシーンでまず展開を付けてください」みたいな。
佐久間 へー、いいね。
澤部 うん、それは超楽しかった。無から有を生み出すのも楽しいんですけど、構成がガチガチに決まっている中で曲を考えるのも面白いですね。
──その作家性が評価されているんでしょうけど、スカートは数年前からタイアップが途切れないですね。
佐久間 逆に仕事じゃないときは曲書いてないでしょ?
澤部 本当に全然書いてない(笑)。仕事が来たから書く、仕事が終わった頃には疲れて自分の曲をしばらく書かない。最近はその繰り返しですね。
──佐久間さんは「海岸線再訪」のデモが送られてきたときどう感じました?
佐久間 もうね、音源が送られてきた頃にはレコーディングが差し迫ってたので構成を覚えたりしてました(笑)。
──感想を言ってる場合じゃないと(笑)。
佐久間 そう(笑)。締め切りがエグい案件ばかりだったというのもあるんでしょうけど、リハに1回も入らなかった曲があったり、プリプロも遠隔でやったんですよ。遠隔のプリプロもそんなに意味なかったよね?
澤部 3曲目の「この夜に向け」はプリプロをやらずに録ったけど、そんなに遜色なかったもんね。
佐久間 まあ、彼はどうしても事前にやるってのができないんですよ。追い詰められないとダメなんだってことがわかりました(笑)。
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「遠い春」がバカ売れした世界線