納期に追われる
──ここからはシングルの2曲について詳しくお聞きしたいと思います。まず「駆ける」は、サッポロビール「第96回箱根駅伝用オリジナルCM」の年始特別バージョンのCMソングとして書き下ろされたナンバーです。どのようなオーダーを受けて作っていったのでしょう?
確か「CALL」みたいな曲を書いてほしいと言われた気がします。暗いだけじゃない曲展開というか。かなり納期が短くて、時間がない中での制作でした。
──納期に余裕があるときと切羽詰ってるときだと、結果的にどちらがいい曲が生まれやすいですか?
切羽詰ってるときのほうがいい曲はできますね。でも、どうだろう……やっぱりまちまちかな(笑)。
──この楽曲、CMバージョンだと澤部さんの宅録トラックと佐藤優介(カメラ=万年筆)さんのピアノのみのシンプルな構成ですよね。シングルではバンドメンバー全員が参加していますが、もともとバンドで演奏する構想はあったんですか?
CMの方もスケジュールに余裕があればバンドで録りたかったんです。でもあまりにも急だったのでメンバー全員のスケジュールが取れなくて。ドラムの佐久間(裕太)さんに声をかけたら「その日は19時からだったら行けるよ」と言ってくれたんですよ。でもその日は14時からスタジオを使うことができて、ドラムのセッティングとチューニングの時間を入れても16時にはレコーディングを始められる流れだったんです。じゃあ僕が16時からドラムを叩いた方が早いなと(笑)。
──それはもう納期的な問題で?
そうそう(笑)。その結果、CMバージョンは佐藤くんと2人で作ることになりました。
──では、シングルに収録される「駆ける」が完全版であると。
そうですね。CMバージョンと前奏がちょっと違うのは、最初にクライアント側に提出したデモが実はあのアレンジだったんですよ。バンドで「せーの」で始まるやつ。ちょっとやりすぎかなという話になって、CMではギター1本になりました。
作品に寄り添えた「絶メシ」主題歌
──「標識の影・鉄塔の影」はテレビ東京系ドラマ「ドラマ25『絶メシロード』」の主題歌です。印象的なタイトルですが、これはドラマを意識したものなんですか?
そういうわけではないんです。単純にライブ後の移動時に高速道路を運転していたら標識や鉄塔の影が目に映って、「これはポエジーなものになるんじゃないか」とメモしておいたんです。タイトルに使うつもりはなかったんですけどね。
──ドラマ「絶メシ」は、中年のサラリーマンが絶滅してしまいそうな“絶品メシ”を求めて、毎週金曜の夜に車中泊で旅に出るという内容です。このドラマの内容に対し、主題歌はどういったオーダーがあったのでしょうか?
まず金曜日の深夜帯に放送されるドラマの主題歌というのが前提があって。毎回ドラマのエンディングで「標識の影・鉄塔の影」が流れて、「今週もお疲れ様でした」とナレーションが入るんですよ。それに呼応するような曲っていうのは意識していたかもしれません。
──あの演出はいいですよね。1週間働いてあの一連のシーンを観ると「明日は休みだ!」って気がして。
そうそう(笑)。あれはやっぱりリアルタイムで観るのが一番いいですよね。あの時間帯にクタクタになりながら家に帰って、なんとなくテレビを点けて流れていたら一番いいドラマだろうなって。
──この曲はドラマのどういった部分を落とし込もうと考えていたんですか?
「絶メシ」にはロードムービー感がある気がしたんですよ。それで確かギター始まりにしよう思ったのかな。そんなに大袈裟じゃないイントロで始めよう、みたいなことを台本から感じ取ったのかもしれません。ドラマで実際に流れるのを聴いて、ピッタリじゃんと思いました。作品に寄り添うという意味では完全にうまくいったパターンかなと……そうだといいなあと思っています(笑)。
蛇行した記録
──今回のシングル、CDにのみボーナストラックとして「LIVE & MORE」が収録されています。「駆ける」のCMバージョンのほかにライブ音源が6曲という内容ですが、これはすべて初出しの音源ですか?
ラジオ(α-STATION エフエム京都にて毎週金曜20:00より放送中のレギュラー番組「NICE POP RADIO」)でかけたテイクもありますが、ほとんどが未発表です。
──2014~19年までのライブ音源が入っていますが、なにか選曲の理由はあったんですか?
10周年のシングルだし、珍しい曲を入れたいという気持ちはありました。さっき「劇的ではない10年間だった」とは言いましたけど、その中にも微妙に“蛇行した記録”のようなものがあるんですよ(笑)。例えば「すみか」だったらドラム不在でベースとギター、リズムボックスだけでやったライブのテイクだし、「ともす灯 やどす灯」はドラムの佐久間さんが病気で倒れてライブに来られなくて、やむなくほかの4人で演奏したライブだった(笑)。あと「オータムリーヴス」は音大でライブをしたときに恩師の先生とその教え子で演奏していたり、「それぞれの悪路」は僕が10代の頃から大好きだったSYLVIA 55というバンドのにしの(ちなみ)さんに鍵盤で参加していただいていたり。だから今のメンバー全員で演奏した曲って「視界良好」「トワイライト」の2曲だけなんですよ。
──なるほど。そういった澤部さん自身の中で思い出深い記録も含めて10周年を意識したシングルになったわけですね。
そうですね。でも今思うとちょっとわかりづらいかもしれません(笑)。
──「LIVE & MORE」をCDのみにして配信をしないのには何か理由があるんですか?
CDなら僕が逮捕されたとしても聴けるじゃないですか(笑)。それは冗談として、やっぱりCDというものが好きなんですよ。カバー音源とかなら、いわゆる“外貼り”の特典としてレコードショップごとに内容を変える形で出したりしてもいいですが、今回は自分たちのライブ音源なので、CDで聴いてくれる人たちに平等の愛を届けたくて、という感じですかね。
なるべく変わらない
──スカートはメジャー進出以降も、自分たちの音楽のスタイルを貫いているイメージがあります。ここまでブレずに活動できた理由はご自身で分析できています?
いやあ、できないっすよ(笑)。
──例えば「スカートとはなんぞや」と聞かれたとしたら?
僕はずっとポップミュージックだと言っているんですけど、そう言うと誤解が生じるみたい(笑)。でも単純に「自分の中のポップミュージックを突き詰めて、やるだけやってみてる」という姿勢が評価されてメジャーに行けたのかなとは思います。自分でもよくやってるなって。普通は飽きてほかのことするんですよ(笑)。
──全然飽きないですか?
飽きるというより、やるしかないって気持ちになってますね。僕の好きな先代のアーティストたちはみんなアルバムごとに表情を変えてるんですよ。例えばYMOやムーンライダーズ、Sparksもそうですし。でも、だったら自分は違うことをやるべきなんじゃないかという思いがあって。僕はなるべく変わらないってことに挑戦してみようと決めたんです。その姿勢は「ストーリー」(2011年12月発売の1stミニアルバム)をリリースして以降、特に顕著に見えると思うんですけど、気持ち的には「エス・オー・エス」(2010年12月発売の1stアルバム)の頃から変わってないです。
──でも今後アプローチを変えてみても面白そうですよね。
そうそう。次のオリジナルアルバムはそういう方向に行ってもいいんだろうなって気はしています。このスタイルを10年続けてきたからこそ、周年にかこつけて方法論を変えてもいいんじゃないかって。それこそ優勝もそうですけど、楽しくやれたらなと思っています(笑)。
──スカートのリスナーには、スカートの音楽からさらに掘り下げていろんな音楽を楽しむ、音楽的な知的探究心を持ってる人が多い印象があります。お客さんの反応を見ていて、そう思うことはありませんか?
ラジオをやってるとそういう反応も多いですね。リスナーの多くは東京らしく、radikoでの聴取率が異様にいいみたい(笑)。ラジオをきっかけにお気に入りのアーティストを見つけたとか、知らなかったジャンルにハマったとか、そういう話を聞くとうれしいですね。僕よりも若い世代からの反響だとなおうれしい。僕も先輩たちが聴いてる音楽を調べたりして今の自分があるので。「こういう音楽を聴いてきて、こういう作品ができていくんだよ」というのは見せられたらいいなと。
──4月には10周年を記念した初のホールワンマン「スカート10周年記念公演 “真説・月光密造の夜”」が開催されます。どんな1日にしたいですか?
ホールでのワンマンは初めてですし、スカートには座ってゆったりしながら聴ける曲がたくさんあるので、そういう曲を織り交ぜたステージにできたらいいなと思います。