ナタリー PowerPush - SISTER JET
夢見てガムシャラに生きるみんなに贈る「YOUNG BLUE」
楽しいことばかりに逃げて、ずっと夢を見て安心してた
──この変化のきっかけは何だったんでしょうか?
ワタルS 「LONELY PLANET BOY」のツアーが東日本大震災の直後にスタートして、そのツアーのテンションが夏まで高いまま持続してたんですよ。でも、8月に「ロックンロール発電所」ってシングルを出して、夏イベントとかライブをやって、それが終わって9月くらいからアルバムを録り始めようとしたら、なんか気持ちがガクンって落ち込んじゃったんだよね。今回のアルバムは、そのときに見えた景色を歌ってるんだと思う。
──そういえば、震災直後の4月1日に仙台の勾当台公園でフリーライブをやってましたよね。
ワタルS 東京から行ったバンドはまだいなかったから多分一番乗りだと思う。だってまだ、行ったら余計迷惑なんじゃないのって、自粛したほうがいいんじゃねえかみたいなタイミングだったからね。
──そうでしたね。
ワタルS アコギだけ持って完全に生音で、集まった人たちで「ドレミのうた」とか歌ってたら、どんどんみんなの表情が変わってきて、会場の空気がすごいハッピーになって。やっぱり声を出して歌うことはすごくパワーがあるんだなって再確認しました。本当はそのフリーライブはツアーの仙台公演の日だったんだけど、5月の振替公演のときに何か思い出を作ろうって、ライブ中に「デイ・ドリーム・ビリーバー」(タイマーズのカバー)をみんなで歌って録音しておいたの。あくまで思い出としてやったことでリリースするつもりはなかったんだけど、「しろくま」をシングルで出すときに改めて聴いたらすごく良くて。俺が入れたいって言ってシングルのカップリングにすることにしたんです。
──どうして合唱する曲に「デイ・ドリーム・ビリーバー」を選んだんですか?
ワタルS なんと言っても「ずっと夢を見て安心してた」っていう清志郎さんの歌詞に普遍的なパワーがあって。震災以降のみんなもそうだし、このアルバム作ってた自分自身もそうだけど、楽しいことばかりに逃げて安心してた過去に気付かされるんですよね。
やっぱバンドはケンカしなくなったらダメですね
──このアルバムはサウンド面で今までと違う部分はありますか?
サカベ アレンジにこだわりました。音色はプロデューサーの吉田仁(サロンミュージック)さんに相談しながら決めました。
ワタルS 仁さんとはもう何年も付き合ってて4人目のSISTER JETみたいになってるんですけど、俺たちの知らない音が勝手に入ってる!っていうことがよくあって(笑)。今回はもう、ほぼ全曲にそういう音入ってるんじゃないかな?
ケンスケ 僕はシンセとかの音を上乗せするのが結構好きなんですけど、今回はそういう、ライブでやったときに3人以外で鳴らさなきゃいけないような音を入れても却下されなかったので(笑)、それを残したのは今までと違う試みかなと。
ワタルS 「ヘヴン」には生のコンガを入れてたんですけど、それが「いなたい」ってことになって、デジタルのシーケンスで同じリズムを入れ直したんです。「Young Pretender」にはリバースシンバルが勝手に入ってたり。結構、仁さんもSISTER JETと音楽作るのが楽しいみたい(笑)。
──SISTER JETはおしゃれなバンドというイメージがあるんですけど、元々のデモの段階ではいなたいんですか?
ワタルS 俺が最初に作るデモは結構いなたいですよ!あんまり時代感とか意識しなくて、いい音楽はいい音楽、嫌いな音楽は嫌いな音楽としてしか聴けないから。ほかのメンバーが「それちょっといなたすぎるよ」「そのリフはないっしょ」「今流行んないと思うよ」みたいなことを言って調整してくれるんですよ。
ケンスケ そうだね、多少そういう部分はあるかな。
ワタルS 「Dear My Friends」なんて、ほぼサカベがエディットしてくれたし。すごいボテっとした曲だったのに「こっちのほうが今っぽいよ」って言ってビシっと整えてくれて。そうやって作ることはよくあるよね。
サカベ 2人の自由奔放なアイデアを、しっかりした1本のイメージでつなぐことは意識してます。
──メンバー全員がそれぞれプロデューサー的な視点を持ってるんですね。
ワタルS だからケンカがすごいですね。みんなが良いものを作ろうとして起こるケンカなんだけど。気まずくなったりすることもあって、それを仁さんがまとめるっていう。大変な役割ですよ。
──でもそれって、1人だけでは作れないものが作れる、バンドの醍醐味でもありますよね。
ワタルS やっぱケンカしなくなったらダメですね。これ作ってるときもすごい揉めてた。
サカベ ケンスケくんの曲、アレンジしだすとケンカになるので大変でしたけど、いい思い出です(笑)。
ケンスケ いやいや、そうはいってもそんなに揉めてないですよ(笑)。
ケツが青い17歳の頃から変わらないことは多いと思う
──「17(SEVENTEEN)」のビデオクリップを作るために、ファンの17歳の頃の写真を募集したというのは自分たちのアイデアなんですか?
ワタルS そうですね。まず、これに30歳の自分たちが出るのはNGだと思ってたの。リアルなことを表現したいから、俺らが制服着て17歳の役やってもキツいしね(笑)。17歳のモデルさんを使うという案もあったけど、もっとリアルな、みんなが輝いてるときの写真で作りたいなと思って。そしたら送ってくれた写真が思った以上にみんなキラキラしてて。
──すごく良かったです。
ワタルS ですよね! 予想以上にみんなそれぞれの17歳を楽しんでるし、はかない感じがあって、とても良いビデオになったなあと。
──自分たちが17歳だったときと比べてどうですか?
ワタルS 俺とケンスケが18歳のときにサカベが16歳で高校1年生だったから、17歳っていったらSISTER JETはもう始めてるけどサカベがいない頃だね。ライブとかも月イチでやったりして。
ケンスケ でも全然練習しなかったんですよ(笑)。
ワタルS 先に爆発しちゃうとライブが気持ちよくないって理由で、ライブまで練習しないで溜めとこうって。客席には5~6人しかいないけど、ステージに立つ快感をみんなに共感してもらおうって無邪気な気持ちで。ライブハウスの店長とかにすごく怒られるんだけど、そんなん知らねえよ!みたいな。
──うまくいくんですか? それで。
ワタルS うまくいってないよね多分(笑)。
ケンスケ まあね。もうライブというよりスポーツだったからね、当時は。
ワタルS スポーツっていうか、憂鬱を爆発させる場所だった。あんまり高校が好きじゃなくて、なんか嫌だなーって隅っこにいるタイプだったの。だからやっと自分のバンドができたのがうれしくて。高校ではバンドやってる奴としか口をきかないくらい感じで、お弁当は教室のみんなとは食べずにバンド仲間と一緒に食べて。ライブはすんごい爆音でやってた。ギターアンプ2台つないでフルボリュームで。多分あんまり歌とか聴こえなかったと思うよ(笑)。
──わはは(笑)。今回のアルバムにはその頃の感情が反映されてるかもしれないですね。
ワタルS うん。ケツが青いまま当時から変わんない、変われないところは多々あると思う。
CD収録曲
- Dear My Friends
- 17 (SEVENTEEN)
- I Wonder
- Young Pretender
- トーキョーミッドナイトブレイクダウン
- (Almost) Young Blue
- 「南風」
- しろくま
- ヘヴン
- ダーティ・プリティ・ドッグス
- JETCOASTER LAG
- 30
SISTER JET(しすたーじぇっと)
東京・福生界隈に住むワタルS(Vo, G)、ショウサカベ(B)、ケンスケアオキ(Dr)からなるロックバンド。老舗ロックパブ・福生uzuでバンドの基礎体力を養い、2005年頃から下北沢、渋谷のライブハウスに進出する。2006年には「FUJI ROCK FESTIVAL '06」のROOKIE A GO-GOステージに出演。知名度を着実に高め、2008年6月に1stミニアルバム「our first love EP」を発表する。ラブソングに徹底的にこだわり、思春期特有の普遍的な思いをポップでキャッチーなサウンド&メロディに乗せた楽曲が魅力。2009年5月には初のフルアルバム「三次元ダンスLP」を発表し、2012年には3枚目のフルアルバム「YOUNG BLUE」をリリースした。