「世界に通用するアーティスト」も「ボーダーレス」もいらない時代
──さっき音楽の中を泳いでいる感覚だと言っていた「SWIM」からはメッセージ性も強く感じます。この国の世情や文化をサバイブしている感じというか。
そうですね。最初に言ったこととつながるんですけど、この曲の歌詞には「音楽をただシンプルに楽しめばいい」という思いを込めました。音楽以外でもSNSなんかも、もともと遊びのツールなのにそれに人生を引っ張られてストレスになっているというムダな循環に陥ってる人が多いなと思うんですよ。
──遊びに踊らされ、殺されてどうするんだよ、というね。
本当にそうなんです。それは音楽のジャンルにも思うことで。「ジャンルに振り回されてどうすんの?」って。音楽なんて最高の遊びじゃないですか。だから1回ジャンルとかそういうものを全部取っ払って好きか嫌いかだけということに立ち返ってほしいという気持ちがずっと僕の中にあって。
──今の日本の音楽シーンはSIRUPにはどう映ってるんですか?
超いい時代になってきたなと思います。僕が作るような音楽がオーバーグラウンドになりつつあるのもそうだし、それこそ「SWIM」にも重なる話ですけど、ストリーミングが普及したおかげでジャンルとかそういうものがどうでもよくなる時代が近付いてると思うんですよね。音楽ストリーミングサービスは「あなた、この曲が好きならこれもきっと好きですよ」とジャンル関係なく薦めてくれるじゃないですか。「このロックシンガーが好きなら、このラッパーも好きなはず」という感じで。そういう体験を月々1000円くらいでできるなんて最高な時代ですよ。日本の音楽業界でよく聞く「世界に通用するアーティスト」という言葉自体がもう古くなってきたんじゃないかなと思います。日本の音楽には「ボーダーレス」という言葉ももういらないんじゃないかなって。
BIMとTENDRE、会話が生んだフィーチャリングナンバー
──その感覚は今作の客演にもきっと言えることですよね。ラッパーのBIMくんとマルチプレイヤーでシンガーソングライターでもあるTENDREを起用するという。
僕がInstagramのストーリーズにBIMくんの曲を上げたときにBIMくんから「今度メシ行こう!」というDMが来たんです。それで共通の友人がセッティングしてくれて、メシを食いながら「とにかく一緒に曲を作りたいね」という話になったんです。今回のアルバムでそれが実現して。
──彼もソロラッパーとしてここ1、2年ですごく飛躍しましたよね。
そう思います。僕はOTOGIBANASHI'Sから彼のラップを聴いていたんですけど、彼もソロをやり始めてからいろいろあったという話も聞いて。僕もいろんなことがあって今があるから、そういう話をこの「Slow Dance」という曲では歌いました。
──グッときますね、2人のリリック。
どちらかというと人生の話に寄ったヒップホップというか、「いろいろあっての今があるからこそ、焦らず行こう」ということを歌っていて。で、TENDREもお互い名義を変えて活動しだしたタイミングが一緒だったんですよ。TENDREともお互い気になっているという関係で、たまたま友だちのバンドのリリパで「やっと会えたね!」という話になって。で、メシを食いに行って一気に仲よくなったんです。2回目に会ったときに一緒に曲を作りました。TENDREとも人生の話をしながら。僕とTENDREは2人とも30代なので大人ならではの遊び心を取り入れたいなと思って曲を作りましたね。BIMとの曲は人生寄りだけど、TENDREとの「PLAY」は音楽的な遊び心をパッケージしているという感じです。
──「PLAY」はどこか牧歌的な歌メロとトラップ的なフロウがナチュラルに融合した会話劇みたいな曲ですよね。
そうそう。「音楽で遊んでんなあ」みたいな(笑)。
──このトラックのオリジナリティはなかなかすごいと思います。
僕もこの曲ができたときはミュージシャン人生の中でも指折りに入るくらい感動しました。
──洒落てるんだけど、ユーモアもあって。
で、エモさもあるという。そのうえで押し売りはしない感じ。リアルな会話を曲にすることができたと思います。
自然な流れで海外でも、ゆくゆくはコーチェラに
──今後、コラボレーションしたいアーティストはいますか?
たくさんいるんですけど、僕はずっとBrasstracksと一緒に曲を作りたいと言っていて。
──チャンスつながりでもありますしね。
そうなんですよ。共通の友達もいるし、なくはないんじゃないかなって……タイミングとバイブスが合えばLAで曲を作りたいですね。
──最後にSIRUPが近い将来に実現させたいと思ってることを教えてください。
目標としては、今回のBIMやTENDREみたいに自然な流れで海外でも仲間と出会って、ツアーを組むときに当たり前のように海外公演が5、6カ所入ってるみたいな状況を作りたいです。海外のアーティストはそうやって日本に来日するじゃないですか。その逆をSIRUPでやりたいです。もちろん地続きで。そして、ゆくゆくはコーチェラ(Coachella Valley Music and Arts Festival)に出たいですね。