音楽ナタリー Power Push - 佐藤竹善(SING LIKE TALKING)×atagi(Awesome City Club)×角舘健悟(Yogee New Waves)×高橋海(LUCKY TAPES)

佐藤竹善が新鋭“シティポップ”バンドに望むこと

同世代だったらすごく仲よくなれるような気がした

高橋 SING LIKE TALKINGは2018年でデビュー30周年なんですよね。そこまで長くバンドを続ける秘訣ってあるんですか?

佐藤 メンバーもそうですけど、周りのスタッフにも恵まれたからここまで活動を続けることができたと思います。出会いって運だけど、こちらにも選択権はあるわけで。この人とやりたい、この人とはやりたくないという選択権。自分がどういうタイプのミュージシャンなのか理解していれば、自分が求めるべきスタッフのタイプもわかるはず。

──SING LIKE TALKINGの音源を聴くと、どの時代も贅沢に音を作ってることがよくわかります。そのあたりもスタッフとの信頼関係が重要になってくると思うんですけど。

佐藤 制作には昔からしっかりお金をかけてますね。さっきのパトロンの話にもつながってくるんですけど、レコード会社と契約して3年間まったく売れない中、アルバム1枚作るのに2000万円くらいかけてたんですよ。でもセールスは1万枚にも満たないと。そんな状況の中でバンドを守ってくれたのが当時のプロデューサーで。そのプロデューサーが当時の僕らにとってパトロンだったわけです。

atagi なるほど。

佐藤 プロデューサーがレコード会社を操作してうまくお金を引っ張ってきてくれて(笑)。「こいつらは絶対に結果を出すから制作にちゃんと金を使わせてくれ」と。なぜ僕らがその人についていこうと思ったかというと、そのプロデューサーがオフコースやユーミンさん、チューリップを発掘して、やはり彼らもそういう育て方をしたんですよね。だから、僕らも彼と仕事がしたかった。だから、いかに自分たちに合うスタッフと出会えるかは活動を続ける上で大きなポイントだと思います。

atagi(Awesome City Club)

atagi 超タメになる。もっとここにいろんなバンドマンを呼んだほうがいいんじゃないですか(笑)。

角舘 30人くらいで竹善さんの講義を受けるみたいな(笑)。僕はSING LIKE TALKINGの音源を聴いてシンプルにいいなって思いました。その理由は今僕がリスナーとしてAORをよく聴いてるというのもあるんですけど。あとはどの曲の歌詞にもいい時代のポップスの空気感があるんですよね。最近の曲でもそう。こういう歌詞は自分には書けないなって思った。

佐藤 うれしいですね。

atagi その感想はすごくわかる。変に今風の歌詞じゃないんですよね。でも、僕らが聴いてもまったく古くない。そのあたりのバランスは意識的なのかなと思いました。

佐藤 いつ聴いても違和感を覚えないような歌詞を書くことは意識してますね。時代を感じさせるアイテムってあるじゃないですか。昔だったらポケベルだったり、今はスマホだったり。その時点では普通のアイテムでも、後々に聴くと照れくささを感じるような物や描写はなるべく排除してます。それはボイシングもそうだし、スネアの音色にしてもそう。ただ、時代性をストレートに出して、その懐かしさを楽しむのも音楽の1つの楽しみ方なので。そのうえで自分たちはいつの時代でも違和感を覚えない曲を作ろうとしてますね。

角舘 今聴いてもSING LIKE TALKINGの歌は新しいと思いますよ。僕らの世代にはこういう歌を書ける人はあまりいないと思うから。もし竹善さんがまだ20代で、僕らと同じような場所で音楽をやっていたらすごく仲よくなれるような気がしたんですよね。

佐藤 それはね、僕も思いました。

アレンジは時代との架け橋

──ニューシングル「Longing~雨のRegret~」もそうですが、SING LIKE TALKINGの曲にはラブソングが多いですよね。これはポップアーティストの宿命という側面もあると思うんですけど、ラブソングを書き続けるうえで意識していることはありますか?

佐藤 質問の答えになるかはわからないですけど、昔から常に意識してきたのが、ダブルミーニングを歌詞に盛り込むということ。一見シンプルなラブソングでも、実は違うことを歌ってるという。極端な例を出せば、R&Bの世界では「ジョイスティック」という単語を表面的にはゲームのコントローラーのように機能させて、実はアレのことを指してる曲があったりね(笑)。スティーヴィー・ワンダーやポール・サイモンの曲でも表面的には私小説的だったりシンプルなラブソングに聴こえるんだけど、メロディやアンサンブルと一緒になることで行間が見えてくるような曲がたくさんある。その行間に100人中3人でも気付けたら僕はいい曲だと思うんです。スティーヴィー・ワンダーが「Part-Time Lover」という曲をリリースして大ヒットしたときに「Part-Time Lover」=愛人の歌と受け取って「けしからん!」なんて言ってた人もいたんですけど、実はあの歌は一時しか相手を愛せない人間の深い心理やいつの間にか状況に飲み込まれてしまう人の悲哀について歌われていて。さらにあの曲が収録されている「In Square Circle」というアルバムを1枚通して聴くと楽曲の意味合いがまた変わってきたりもする。そうやって行間に何かを込めたいという思いは年齢を重ねるごとに増してくるんですけど、その一方で行間ばかり意識してると小難しい歌になってしまうので。そういう意味でもダブルミーニングのセンスは大事だなって思います。

角舘 ダブルミーニングに込めた真意をライブのMCで説明するのって野暮ですかね? 僕は弾き語りのライブではMCで「実は……」ってけっこう種明かしするんですよ。

佐藤 自分のキャラクターに合っていれば種明かししようがしまいがいいと思いますよ。Steely Danの「PEG」という曲はいまだに「Rolling Stone」誌なんかで「あの曲は何について歌ってるんだ?」って議論になったりするけど、彼らは絶対に真意を明かさない。そういうバンドもいれば、マイケル・ジャクソンのように歌のテーマを丁寧に説明する人もいたしね。

高橋海(LUCKY TAPES)

高橋 時代性を問わないアレンジのコツを聞いてみたいです。

佐藤 僕は、アレンジって時代との架け橋だと思ってるんですね。今この時代に生きてるという感覚をリスナーに伝える手段で。でも、あまりにも時代に寄り過ぎると人間って拒否反応を起こすことがあるし、マニアックな音作りをしすぎると一部のリスナーしか反応しなくなる。そこで重要なのは大衆と自分自身の間に何があるか考察する力で。それがポップセンスだと思うんですよ。ポップセンスって何も大衆に寄ることではないと僕は思ってます。スネアの音色1つとっても、例えば流行ってる音色と自分が鳴らしたいと思ってる音色が違っても、自分が鳴らしたいと思う音色を鳴らし続けたら、時代にフィットした音色と自分独自の音色の間が見えてきたりする。それに気付いたときの喜びは大きいですよね。

高橋 なるほど。

atagi 僕は超アレンジ大好き人間なんですけど、その感覚はわかるような気がします。SING LIKE TALKINGのニューシングルを聴いてもそういうことを感じました。

佐藤 ありがとうございます。僕も3バンドの音源を聴いて、心からみんな素晴らしいセンスだなと思いましたし、勉強になりました。

SING LIKE TALKING ニューシングル「Longing ~雨のRegret~」2015年10月7日発売 / UNIVERSAL MUSIC JAPAN
「Longing ~雨のRegret~」 / Amazon.co.jp
初回限定盤 [2CD] 2700円 / UPCH-7052~3 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 1296円 / UPCH-5858 / Amazon.co.jp
収録曲
  1. Longing ~雨のRegret~
  2. The Ruins ~未来へ~
  3. Waltz♯4
初回限定盤BONUS CD収録曲
  1. Openig(INTRODUCTION~WALTZ#3)
  2. Ordinary
  3. Hold On
  4. How High The Moon ~ Together
  5. 無名の王 -A Wanderer's Story-
  6. 離れずに暖めて
  7. 祈り
  8. リンゴ追分 ~ La La La
  9. I'll Be Over You
  10. My Desire ~冬を越えて
SING LIKE TALKING Premium Live 27/30 ~シング・ライク・ストリングス~
  • 大阪公演
    2015年10月11日(日)大阪府 オリックス劇場
    OPEN 16:45 / START 17:30
    【問い合わせ】SOGO OSAKA 06-6344-3326
  • 東京公演
    2015年10月12日(月・祝)東京都 昭和女子大学 人見記念講堂
    OPEN 16:45 / START 17:30
    【問い合わせ】SOGO TOKYO 03-3405-9999
SING LIKE TALKING ニューシングル発売記念 生出演スペシャルプログラム
SING LIKE TALKING(シングライクトーキング)

SING LIKE TALKING佐藤竹善(Vo, Key, G)を中心に藤田千章(Syn, Key)、西村智彦(G)の3人によって1982年に結成。同年プロデビューを目指して上京し、オーディションでのグランプリ受賞などを経て、1988年9月にシングル「Dancin' With Your Lies」でメジャーデビューを果たす。佐藤の透明感あふれる美しいハイトーンボイスとエバーグリーンで高品質な楽曲は、一般の音楽ファンだけでなく耳の肥えたリスナーも魅了。特に佐藤の圧倒的な歌唱力は同業者からも絶賛され、他アーティストのコーラスを務めたほか、小田和正や塩谷哲とはユニットも結成し活動を行った。2003年にアルバム「RENASCENCE」のリリースとそれに伴うツアーを行ってからは、バンド活動を休止。メンバーはそれぞれソロ活動や他アーティストのサポート、プロデューサーとして活躍してきた。2009年にイベントでひさしぶりにライブを行った後、再始動に向けて準備期間に突入。2011年3月にシングル「Dearest」、5月にアルバム「Empowerment」を立て続けにリリースし、本格復活を果たす。2015年10月にニューシングル「Longing ~雨のRegret~」をリリース。このシングルは2018年のデビュー30周年に向けたカウントアップライブ「Sing Like Talking Premium Live 27/30 –シング・ライク・ストリングス-」に向けて制作された、ストリングスをフィーチャーした作品となっている。

Awesome City Club(オーサムシティークラブ)

Awesome City Club「架空の街Awesome Cityのサウンドトラック」をテーマに、テン年代のシティポップを“RISOKYO”から“TOKYO”に向けて発信する男女混成5人組バンド。2013年春、それぞれ別のバンドで活動していたatagi(Vo, G)、モリシー(G, Syn)、マツザカタクミ(B, Syn, Rap)、ユキエ(Dr)により結成。2014年4月、サポートメンバーだったPORIN(Vo, Syn)が正式加入して現在のメンバーとなる。初期はCDを一切リリースせず、音源はすべてSoundcloudやYouTubeにアップし、早耳の音楽ファンの間で話題となる。ライブを中心に活動しており、海外アーティストのサポートアクトも多数。2015年、ビクターエンタテインメント内に設立された新レーベル・CONNECTONE(コネクトーン)の第1弾新人アーティストとしてデビュー。4月にmabanuaプロデュースの1stアルバム「Awesome City Tracks」、9月に2ndアルバム「Awesome City Tracks 2」をリリースした。

Yogee New Waves(ヨギーニューウェーブス)

Yogee New Waves2013年6月に結成された「都会におけるPOPの進化」をテーマに活動する音楽集団。現在はKengo Kakudate(G, Vo)、Naoki Yazawa(B)、Tetsushi Maeda(Dr)の3人にサポートギタリストを入れた形で活動している。2014年4月に4曲入りの「CLIMAX NIGHT e.p.」を全国流通させ、9月に1stアルバム「PARAISO」を発表した。アルバムのリリースツアーでは全国8カ所を周り、ツアーファイナルの東京・TSUTAYA O-nest公演はソールドアウト。12月にはNew Action!と共催で新宿の3会場を使ったサーキットイベントを開催し、こちらもソールドアウトを記録している。

LUCKY TAPES(ラッキーテープス)

LUCKY TAPES高橋海(Vo, Key)、田口恵人(B)、濱田翼(Dr)、高橋健介(G, Syn)からなる4人組。結成直後に発表した5曲入りの作品「Peace and Magic」はわずか3カ月で完売し、2015年4月にデビューシングル「Touch!」をリリース。8月には得能直也をエンジニアに迎え、デビューアルバム「The SHOW」を発表した。