10年ぶりに新シリーズがスタートし話題を呼んでいるテレビアニメ「黒執事」。最新シリーズ「寄宿学校編」のエンディングテーマとなっているのが、シドの最新曲「贖罪」だ。
2008年にシドのメジャーデビューシングル「モノクロのキス」がアニメ第1期のオープニングを飾って以降、シドと「黒執事」がタッグを組むのは4度目となる。さまざまなテイストの楽曲が作品世界を彩ってきたが、「贖罪」は「黒執事」の世界にさらに踏み込み、物語が進むにつれて印象が変わるドラマチックな1曲に仕上がっている。
シドは昨年結成20周年イヤーを駆け抜け、年末にはその集大成として日本武道館公演を大成功に収めた。並行してマオ(Vo)、明希(B)、ゆうや(Dr)はソロ、Shinji(G)はfuzzy knotで活躍するなど、バンド外でも精力的に活動。さまざまな場所で挑戦を続け、“20周年のその先”へと進もうとしている。
音楽ナタリーでは今回、「贖罪」の歌詞を手がけたマオと作曲を担当したゆうやに、楽曲に込めたものやアニメ「黒執事」への思い、シドのこれからについてじっくり語ってもらった。
取材・文 / 後藤寛子
「黒執事」ファンから寄せられる信頼を受けて
──10年ぶりにアニメ「黒執事」からテーマソングのオファーが来たときの心境から教えてください。
マオ(Vo) まずはうれしかったですね。シドをまた選んでいただいたこともそうですし、これまでの主題歌やテーマソングをきっかけに「黒執事」を好きになったシドのファンの子もいっぱいいたので、ひさしぶりのタッグに喜んでくれるんじゃないかなと思いました。
──シドがエンディングテーマを担当すると発表された際、ファンの皆さんはかなり盛り上がっていましたよね。
マオ シドファンもですけど、「黒執事」のファンも「シドでよかった」とか「安心」と言ってくれている方が多くて、すごく幸せなことだなと思いました。これまで何度もタッグを組んできたからこそだと思うので。
ゆうや(Dr) 僕は発表されるまでどんな反応があるか、けっこうドキドキしていましたね。10年ぶりですし、僕らが第1期の主題歌を担当してから15年以上経つので。当時からシドと「黒執事」が好きという方たちにはもちろん、今回新たに知ってもらった人にもいいなと思ってもらえるように、と身が引き締まる思いでした。
──「贖罪」は、「黒執事」とシドの相性のよさを再確認するとともに、10年を経ての円熟も感じられる1曲だと思いました。作曲はゆうやさんですが、作るにあたってどういうところから手をつけましたか?
ゆうや 僕らと「黒執事」の世界はマッチすると思っているので、その点ではシドらしさを前面的に押し出してもハマりがいいんだろうなと。さらに、これまで3回主題歌を作らせてもらっていて、今回が4ターン目であることも意識しながら作っていきました。今までの3曲と近すぎるのも違うし、シドの新曲であり「黒執事」の新曲でもある、という考え方をしました。
──ミドルテンポでバラードに近い雰囲気というのは、「黒執事」側からのリクエストですか?
ゆうや いや、それが特になくて。エンディングの映像はこういう雰囲気になります、みたいな説明が軽くあっただけですね。曲が使われる具体的なイメージも途中で伺ったので、すごく書きやすかったです。
──マオさんはどのように歌詞を書いていきましたか?
マオ デモを聴いたとき、すごくメロディがきれいで、「黒執事」の世界にハマりそうな曲だなと思いました。そこから原作を読んで歌詞を書いていったんですけど……これまではシエルやセバスチャンなど主人公側の気持ちを軸にしたり、引きで見た「黒執事」の世界観を書いてみたり、わりと大きい視点で書いていたんです。でも今回は4回目ということもあるし、「寄宿学校編」は後半の展開がすごいので。P4というストーリーの核になる4人のキャラクターの気持ちも織り交ぜながら書きました。
──歌詞自体にもストーリーを感じますよね。「結末に 立ち尽くしてる」と、物語のラストシーンから始まる表現が映画的で惹き込まれました。
マオ 最初にちらっと見せておいて、それがなんだったのかが最後に明らかになる……みたいなね。映画や小説でよく使われる手法ではあると思うんですけど、僕それがけっこう好きなんですよ。今回の物語にミステリー的な展開を感じたので、僕が好きな要素を織り交ぜながら書きました。あと、ちゃんと最終話のエンディングまで観ることで完結するような歌詞にしたくて。最後に「ああ、シドはこういうことを言いたかったんだな」と思ってもらいたいんです。
──まさに、最終話で印象が変わりそうです。言葉使いも、三日月ではなく「二日月」だったり、涙とは書かずに「枯れるまで流して」と表現するなど、想像力を刺激される言い回しになっているのがマオさんらしいなと思いました。
マオ 「二日月」という言葉には、三日月よりもより切ない、一瞬の美学みたいなものを感じるので。そういうものを表現したくて選びました。言葉だけを取ってみたら普通に使われている言葉だったりしますが、組み合わせることによってシドにしか表現できない歌詞になるようにがんばりました。
あんまり普段褒めてくれないので……
──ゆうやさんは歌詞を読んでどう感じましたか?
ゆうや もう秀逸すぎて、さすがだなと思いました。僕はソングライター気質なので、自分が持っていったメロに当てられる言葉に意識がいくんです。マオくんの詞は、メロディの中でも特においしいポイントにすごくいい言葉がハマっていたり、僕が推しているポイントをしっかり押さえてたりすることが多くて。僕らもだてに長くないなあと思いました(笑)。
──今のゆうやさんの感想を聞いていかがですか?
マオ うれしいっすね。普段はあんまり褒めてくれないので……。
ゆうや はははは!
マオ これだけ褒めてもらえると、がんばってよかったなと思います。
──(笑)。歌詞について、作曲者とマオさんの間でのやりとりはしないんですか?
マオ ほとんどないですね。
ゆうや うん。マオくんは言葉の引き出しがいっぱいあるから、歌詞について話し合いはしないです。マオくんの歌詞を読むと作家の先生が書いているような空気を感じるんですよね。ちょっと遠い存在に感じるというか、ずっと一緒にいるからこそ「あのマオくんが書いてるの!?」って思うところが逆に面白かったりします。ただ、俺はあんまり本を読まない人なので、何回も何回も読まないとなかなか歌詞を理解できないんですよ(笑)。今回は同時に「黒執事」の原作を読んでいたんですけど、さっき話していた、結末を知ってから「なるほどな!」と感じるところにたどり着くまでに時間がかかりました。
──その「なるほど」を、アニメを観ている方にも体感してほしいですよね。
ゆうや そうですね。アニメのエンディング映像ではサビ前の「ダダ、ダダ」のところで、P4がパッと散る演出にドキッとしたりね。
ミドルテンポはシドの得意技
──エンディング映像と言えば、アニメ版はイントロのギターがなく、ピアノだけで始まるアレンジになっていますよね。
ゆうや これはあえてAメロの後半から始まるアレンジにしていて。シングル版だとイントロのあとにバンドインするからAメロにフィードバックのギターの音が乗ってくるんだけど、アニメ版でそれだけが入ってきたら変だなと思って調整したんです。しっとりした雰囲気のまま進むようにしたくて、アニメ用のアレンジですね。
──シングル版のイントロは、Shinjiさんのギターがとてもエモーショナルで印象的です。このギターはゆうやさんが作ったデモにも入っていたんですか?
ゆうや 僕のデモの段階から、あの雰囲気はありましたね。「黒執事」のストーリーは静と動がくっきり分かれている印象があるので、セクションごとにそれを強く出したいと思ったんです。
──Shinjiさん、明希さんとは、どのようなやりとりをしてレコーディングを進めていったんですか?
ゆうや レコーディングに関しては、これまでと同じように各自が家で弾いたものをデータで送ってもらって、確認しながら進めていきました。デモからはみ出すぎていなければ、基本はお任せです。さっきも言っていた通り、メンバー内で「このフレーズいいよね!」とか褒め合ったりすることはなく(笑)。デモから感じ取ったものに、2人の色を足してもらった感じです。
──とは言え、お二人の色はしっかり濃く出てますよね。
ゆうや うん、そう思います。
──マオさんが歌うときに意識したことは?
マオ 技術的にはけっこう難しい歌なんですけど、難しいことをしているように聞こえてほしくはないな、という気持ちがあって。レコーディングもそうですし、河口湖ステラシアターでの「Star Forest」(今年5月に開催された2DAYSライブ「SID LIVE 2024 -Star Forest-」)で歌ったときも、なるべくがんばってる感を出さず、さらっと歌っている雰囲気にしたいと思っていました。
──熱唱するというより、どこか冷めたような温度感をまとわせるような?
マオ まさにそういうイメージです。
──前作「面影」もじっくり聴かせるミドル系で。こういう曲調は、キャリアを重ねた今のシドだからこその魅力を感じます。
マオ デビュー当時は、ミドルテンポの曲をシングルにして勝負しようという考えがあんまりなかったんですよね。もっと激しい曲や明るい曲をやりたがっていた気がする。あと、ロックバンドにとって、ミドルテンポの曲が増えて一番影響を受けるのはライブだと思うんですよ。ミドルテンポの曲が5、6曲続いても、演奏する側が耐えられるのかという。
ゆうや (笑)。
マオ 自分の場合は、ちゃんとお客さんが心を揺さぶられているか、しっかり観てくれているかがわかるんですけど。やっぱり目に見えるノリがないとダメだとか、静かな曲が続いちゃうと盛り下がっているように感じてしまう人もいると思うんですよね。それを感じさせないのが今のシドの強みでもあると思います。
ゆうや マオくんの言う通りだと思います。特に「贖罪」に関しては静と動がハッキリしているから、1曲の中での抑揚と浮き沈みで聴いている人を魅せられる部分があると思う。あと、僕は意外とミドルテンポの曲が好きなんですよ。たっぷり気持ちを入れられるので、表現しやすいですね。
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「黒執事」はシドにとってすごく大事な要素