結成20周年という活動の大きな節目となった2023年を怒涛の勢いで駆け抜け、年末には東京・日本武道館でアニバーサリーイヤーを締めくくるライブを開催したシド(参照:シドが“いちばん好きな場所”で見せた20周年集大成と第2章の幕開け)。その武道館公演で初披露され、アニメ「天官賜福 貮」のオープニング主題歌としてもオンエア中の新曲「面影」がCDシングルとしてリリースされた。
20周年を経てバンドとして新たなフェーズに突入した4人は、「面影」にどのような思いを込めたのか。メジャーデビュー以来、いくつものアニメ作品とタッグを組んできた彼らのアニソンとの向き合い方とは? 今回のインタビューでは武道館公演を終えての心境を皮切りに話を聞いた。
取材・文 / 真貝聡
「楽しかった」に尽きる20周年ファイナル
──去年はシド結成20周年イヤーということで、アニバーサリーボックス「SID 20th Anniversary BOX」や初のトリビュートアルバム「SID Tribute Album -Anime Songs-」のリリース、全国ツアーやファンミーティングツアーの開催など精力的な活動をされていました。その締めくくりとして、12月27日には日本武道館で「SID 20th Anniversary GRAND FINAL 『いちばん好きな場所』」が開催されました。
マオ(Vo) あの日の武道館公演は、ライブをやる前からいい意味でこれまでと気持ちが違いました。結成当初の「ステージに上がるのが楽しみだな」というワクワク感がよみがえってきて。喉に対する不安がまったくなくて、自然体のままステージに上がって歌を歌えたのが本当によかったなと思います。
──マオさんが「最後はうまいとか下手とか全部取っ払って気持ちで歌います」と言って、ラストに「いちばん好きな場所」を歌われたのが感動的でした。
マオ あのときも懐かしい感じがしましたね。全部を出し切ったあとの「ああ、終わっていくんだな」という喜びと寂しさが混ざり合ったような、独特な気持ちを純粋に楽しめました。あと、俺は昔からファンのみんなを見ながらライブをするのが好きなんですよ。シドって曲ごとにみんなが考えてくれたノリだったり、一緒に作り上げた振付だったりがあって、20年間で積み上げてきたものを1つずつ噛み締めるように歌いましたね。
Shinji(G) マオくんも言った通り「楽しかったな」というのが一番強くあって。時間が経ってみて、ふと思い出すと、その言葉しか出てこないんです。シドが4人集まったときのグルーヴをすごくいい感じに出せたライブだったと思います。
──Shinjiさんの中で、ハイライトを挙げるならどの場面が思い浮かびますか?
Shinji 1曲目の「紫陽花」ですね。おなじみの始まり方ではあるんですけど、その“おなじみ”をしばらくやっていなかったのもあって。多くの人が集まってくれている中で、「紫陽花」でライブを始めることによって「おお、シドのライブだ」と自分の中でも感じて、あの瞬間はゾクゾクしましたね。
明希(B) やっぱり僕も「楽しかった」というのが一番の感想で、準備は大変だったんですけど、みんなで一丸となって最高のシドを見せよう、そしてファンの子が一番楽しんでくれる1日にしようと意識していました。それは僕だけじゃなくて、スタッフさんも含めた全員がね。先ほども話に出ましたけど、「いちばん好きな場所」を最後にやったのもよかったですね。バンドイズムが濃く出ている曲で、歌詞には結成した当初の気持ちとか、つい忘れてしまいそうになる初心の思いも描かれているので、20周年を締めくくる曲としてぴったりで。初期衝動を思い出すことができて、エモい瞬間だったなと思います。
ゆうや(Dr) 僕はね、いろいろ考えて迎えた武道館だったんですよ。例えばファンのみんなは、シドがライブをやっていない間もライブ映像をすごく観てくれていた。しかも今回の武道館が20周年のファイナルということで、かなり期待値が高かった気がするんですね。みんなの期待以上のステージができたらと、いつも以上に考えて臨みました。「吉開学17歳 (無職)」をやらせてもらったんですけど、20年前からあった曲で20周年の本編ラストを飾るのがすごくいいなと思ったし、お客さんが沸いていたのが印象的でした。
──“お客さん”と言えば、先日の「SID×RADIO=」でゆうやさんが読まれたメールが素敵だなと思いました。高校生の頃、失恋をして落ち込んでいたときに「嘘」を聴いて号泣したのを機に、シドのファンになって。SNSを通してシドファンの女性と知り合い、初めてのライブデートは東京ドーム公演。その後、結婚して子供を授かったと。「武道館ライブの日は、子供をおじいちゃんおばあちゃんに預けて妻と一緒に行きます」という内容でした。
ゆうや うんうん!
──シドの音楽を好きになったことで、運命の出会いをして家族を築いた。そうやってシドと一緒に人生を歩んできた人が、あの会場にたくさんいたんだなと思ったら、胸にくるものがありました。
ゆうや いや、本当にね。しかもその方が「読んでもらってありがとうございます」とSNSでリプライしているのを見つけまして。そっかそっか、ラジオも聴いてくれたんだ、よかったなと思いました。やっぱり20年ってたいしたもんだなと思いますよね。
明希がアニメのテーマソングを作るときは
──そして結成21年目を迎えたシドにとって一発目の新曲「面影」が完成しました。2021年に放送されたテレビアニメ「天官賜福」のオープニング主題歌「慈雨のくちづけ」に続き、今回は続編である「天官賜福 貮」のオープニング主題歌を務められます。スケール感のあるバラードですが、明希さんはどのように作曲されたのでしょうか?
明希 「慈雨のくちづけ」のときはアニメ制作サイドからのオーダーがいろいろあったんですけど、今回は信頼関係もできてきたのか、前回よりも自由度がありましたね。「天官賜福 貮」のオープニング曲として外せないポイントはわかっていたので、そのへんを加味しながらアレンジやメロディを考えていきました。
──そのポイントというのは?
明希 アレンジもそうですけど、根本となるコードとメロディだけで、いかに「天官賜福 貮」の世界観を感じられるかを大事にしました。それがちゃんとあれば、作品の舞台でもある中国特有の楽器を乗せたときに、もっと楽曲の強度が増す。根本をしっかり作り上げることは、今回特に強く意識したポイントでしたね。
──メロディを考えるうえで「天官賜福 貮」の画だったり映像だったり、ヒントにされたものはありましたか?
明希 アニメのテーマソングを作るときは、作品のメインビジュアルを目のつきやすいところに貼ったり置いたりしながら音を考えるんです。今回もそういう感じで作りましたね。
──ところで、武道館公演で披露されたときに「この曲が2024年のシドの道標になってくれればいいと思います」と話されていましたね。
明希 うん、そうですね。20周年が終わって新しいことが始まろうとしていた矢先の曲なので、この曲から2024年のシドをスタートさせて、僕らの新しい“音楽の旅”を皆さんに期待してほしい、という意味で言いました。
シドとファンのみんなの関係性と重なるストーリー
──「面影」というタイトルには、どんな思いを込めたのでしょうか?
マオ 曲を聴いたときに浮かんだんです。で、アニメの資料などをもらって歌詞を書いていく中で、この漢字2文字の「面影」がハマると思って付けました。
──「慈雨のくちづけ」の際には、美しいと思う日本語を並べていきながら言葉を編んでいったと話されていましたが、今回はどのように歌詞を考えたんですか?
マオ 2度目のコラボだったので、前作よりもアニメの世界観やストーリー性をしっかりと表せる言葉はなんだろう、と考えながら書きましたね。
──主要キャラクターである謝憐と花城の関係を見事に捉えた歌詞ですよね。
マオ Dメロに「姿より 形より 深い場所で結ばれた 二人は」というフレーズがあるんですけど、ここが一番の肝になっていて。生まれ変わってまた違う世界で巡り合った2人は、姿だったり形だったり、そういうところではなく、もっと深い場所で永遠の愛で結ばれている。そのメッセージが俺の中で強く響いたし、「天官賜福」ならではの表現だと思ったので、そこを大事にして表現しました。
──惚れた腫れたの恋ではなくて、純愛の歌詞ですよね。「距離を超えただけ きつく結ぶから」というフレーズも好きです。
マオ 試練があったり会えない時間があったりとか、そういう障害がどんどん大事な人への愛を大きくしていくと思っていて。それはシドとファンのみんなの関係性とも重なる。いろんな試練を乗り越えて、世の中的なものだったりパーソナルな問題だったり、さまざまな障害を乗り越えて結ばれたその関係性がすごくリンクしているなと思います。
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明希が引き出したマオの新しい魅力