シド|心が乾いた時代に贈る、優しく美しい「慈雨のくちづけ」

シドがテレビアニメ「天官賜福」のオープニング主題歌として提供した新曲「慈雨のくちづけ」が配信リリースされた。

5月に約1年4カ月ぶりとなる有観客ライブ「SID LIVE 2021 -Star Forest-」を行い、ファンとの再会を果たした彼ら。「慈雨のくちづけ」は古代中国を舞台にしたファンタジックなアニメの世界に寄り添いつつも、ファンを大切にするシドの思いが込められた優しいバラードに仕上がっている。

かねてからファンへの愛を語ってきた彼らだが、ひさしぶりのライブを経て、何を感じ、何を受け取ったのか。「慈雨のくちづけ」の制作エピソードを交えながら語ってもらった。

取材·文 / 真貝聡

本当の意味で心がつながった「Star Forest」

──5月15日と16日に山梨·河口湖ステラシアターで単独公演「SID LIVE 2021 -Star Forest-」(参照:シド、1年越しの「Star Forest」でファンに愛を伝える)を開催しましたが、1年4カ月ぶりの有観客ライブはどうでしたか?

ゆうや(Dr) ステージに立ててすごくうれしかったんですよね、単純に。僕らもファンのみんなもお互いに会いたい気持ちが強かった分、本当の意味で心がつながったし、その喜びがすごくあふれたライブでした。

──メンバー4人とも、普段のライブとは違った表情を浮かべていましたね。

ゆうや 改めて感じたことは、やっぱり僕らはお客さんに観てもらうために音楽をやっているんだなって。それに、今回は4曲(「ほうき星」「siren」「声色」「Star Forest」)を初披露したんですよね。僕らは昔からそうなんですけど、自分たちが自信を持って作った曲にお客さんがどんな反応をしてくれるのかなとか、そういうことを想像しながら曲を作ることが多くて。お客さんの前で演奏したときに初めて答え合わせができるんですよ。「ライブで曲が育っていく」というのは、そういうことで。お客さんの反応を見ながら足りなかったところを、どんどんライブで足していって完成させる。ひさしぶりにライブをしてみて、アーティストはそれがないと成立しないんだろうなって感じました。

──コロナの影響でシドに限らず舞台に立つ方たちは、どうしても無観客という形式を選択せざるを得なかったわけですが、いざ有観客でライブをすると「ライブってお客さんとアーティストのキャッチボールで成り立つものだったんだ」と再認識しますよね。

ゆうや うん、間違いないですね! 声が出せなくても自由に動けなくても、会場にお客さんがいる光景が目の前に広がっているだけで、ドラムを叩く感触が全然違いました。

明希(B)

明希(B) ゆうやも言いましたけど「Star Forest」を会場でやれたことで、新しいシドをちゃんと提示できた。新曲だけじゃなくて、例えば楽器隊のソロコーナーとか、自分たちのチャレンジする姿勢と新しい一面というのをライブの中に込められたので、そういう意味では未来を感じてもらえる内容になったと思います。何より、ライブは一番自分らしくいられる場所だなって再認識しましたね。

マオ(Vo) 配信ライブのときは、目の前にファンのみんながいないので「早く会いたい」という気持ちで歌っていて。実際にみんなが集まってくれた河口湖のライブは「本当に会いたかったよ」という気持ちで歌えたので、同じ曲をやったとしても全然違うんですよね。「会いたい」と願う気持ちが叶った。やっぱり「会いたかった」と伝えるほうが俺は好きで。俺はこの気持ちを感じたくてミュージシャンになったし、シドを組んだ。こうやってまたステージに戻ってきて、そこを確認できたライブでしたね。

──ステージから見たお客さんの表情はどう映りましたか?

Shinji(G) お客さんはあまり反応ができないんだけど、目のあたりを見ているだけでもうれしそうな表情が見て取れました。それだけで僕もテンションが上がってしまい、自然と身体が動いて。本当に今までで一番じゃないかってくらい、気持ちよく2日間のライブができましたね。

──先日のライブでは「シドに救われた」という感想を多く見かけたんです。「救われた」というのは、「楽しい」とか「スカッとした」とか、それよりもっと奥にある感情じゃないですか。シドのライブは、なぜ観た人の心を刺せるんだと思いますか?

マオ 日々の生活を送るだけでも今の時代なんて大変じゃないですか。それがシドのライブに来たことで救われた気持ちになったのであれば、そのときは俺たち4人も同じように救われているんですね。個人的なことを言うと、自分の気持ちが落ちているときに救ってくれたファンの言葉だったり、いつかのライブで一緒に盛り上がってくれたことだったり、そういう思い出の1つひとつを抱きしめてステージに上がったんです。アーティスト側がみんなを救っているだけじゃない。あの日のライブを観て救われたと思ってくれた方がいるのであれば、俺らを含めてみんなが一緒に救われたんです。

──ライブを終えて気付いたことはありますか?

マオ 歌うことの楽しさを思い出しました。あのライブのあと、レコーディング前に仮歌を録ったときだったかな? 不意にShinjiが「マオくん、今日のボーカルすごくいいね」と言ってくれて。仮歌だから「ラララ」と歌っているだけなんですけど、俺の中でもすごく吹っ切れていたんですよね。これはなんだろうと考えたら、ライブが終わったことで肩の力が全部抜けたような感じがして、それが歌にも表れているんだろうなって。「歌うのって楽しい」という感覚にもう一度帰れた感じがしました。

Shinji マオくんが話していたことは僕も覚えています。朝も早いしタイトなスケジュールの中にもかかわらず、マオくんの声が最初からすごく太くて疲れている感じじゃなかった。それで思わずブースでマイクのボタンを押して、「いいね!」と言っちゃいました。なんか……今回のライブは僕たちにいろんなことを教えてくれた、大事なステージでしたね。

中国らしいサウンドって?

──7月18日にはアニメ「天官賜福」のオープニング曲「慈雨のくちづけ」をリリースしました。まずはこのアニメに対して、どのような印象を持ちましたか?

ゆうや 中国発の作品なので、すごく独特ですよね。温故知新というか、昔からある中国のテイストを大事に守っている印象を受けました。

ゆうや(Dr)

──確かに「古代中国ってこうだよね」と昔からあるイメージを体現したビジュアルですよね。

ゆうや そうそう! もう、ど真ん中ですよね。パッと見は親しみやすさがあって、いざ作品を観るとすごく濃い世界観に圧倒されると思います。

Shinji ゆうやが言った通り、僕も自分の中で思い描いていた中国の印象でした。恐らく中国の方って深衣の格好をしているわけじゃないと思うんですよ。でも、これぐらい雰囲気がハッキリしている作品は、楽曲を作るうえでもイメージをつかみやすかったですね。

──今作は明希さんが作曲をされていますが、とっかかりはなんでしたか?

明希 まずはキービジュアルと物語の設定から楽曲のインスピレーションをつかんで、そこからイメージを広げていきましたね。あとは、なぜ中国の音楽に中国らしさを感じるのかを考えて、それをヒントにサウンドを構築していきました。

──「慈雨のくちづけ」を聴いて、まさに中国っぽさを感じたんですけど、何が要因なんですかね。

明希 ドレミファソラシドの第4音(ファ)と第7音(シ)を抜いた「ヨナ抜き」という音階があるんですよ。それを多用したことで、中国特有の響き方を表現しました。特に、出だしのメロディは中国っぽさを感じる音階だったり雰囲気を意識しましたね。