シドが5月15、16日に山梨・河口湖ステラシアターで開催する単独公演「SID LIVE 2021 -Star Forest-」に向けて、そのテーマソングとなる「Star Forest」をリリースした。
本来であれば河口湖ステラシアター公演は昨年の同時期に行われる予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期に。1年の時を経て、シドにとってひさしぶりの有観客ライブとしてついに開催の日を迎える。
今回のインタビューでは、シド初の配信ライブとなった今年1月の「SID LIVE 2021 〜結成記念日配信ライブ〜」のエピソード、「Star Forest」に込められたメッセージ、そしてライブやファンへの思いを4人にじっくりと語ってもらった。
取材・文 / 真貝聡
「ファンのため」だった結成記念日配信ライブ
──今年1月に開催した「SID LIVE 2021 〜結成記念日配信ライブ〜」はシドにとって初の無観客配信ライブでしたが、やってみてどうでしたか?
明希(B) 去年5月に河口湖ステラシアターで開催するはずだった「SID LIVE 2020 -Star Forest-」の延期が決まり、ずっとライブができない状況が続いていて。ファンからは「シドのライブをいつ観れるのか?」という不安の声もあったし、僕らとしても配信でもいいから「自分たちの今を伝えるべきだ」と結成日に無観客ライブの配信を決めました。バンドにとって新しい挑戦になったし、何よりもファンの方が喜んでくれたことがうれしかったですね。
──印象に残っている場面はありますか?
明希 ライブって、目の前にファンの方がいて初めて印象に残るんです。なので去年リリースした新曲を演奏したのが新鮮だったっていう、ざっくりした感想しか言えなくて。あとからSNSなどで「ライブを観て、こんなふうに感じたよ」と皆さんの反応を知ることが多かったのは、配信ならではの感触でしたね。
──今までのライブはお客さんを喜ばせると同時に、客席の声援や反応を受け取ってアーティスト自身も充実感を得るキャッチボールが成り立ってましたよね。しかし無観客ライブの場合は「とにかくお客さんを楽しませたい」という一心で向き合っているように見えました。
明希 そうなんですよ。これまではみんなの反応を直で見て、楽曲が届いてる感触を得られていた。今回はゴールがない中で、ライブを完成させていかなくちゃいけなかった。しかも生ではなくて収録だったので、演奏するテンションをどこまで高めていけるのかが大きな課題でした。おっしゃる通り、自分たちのためにステージに立ったというよりは「ファンのため」。それだけでライブをやりました。
──顔が見えないファンに演奏を届けるうえで、どんなことを意識されたんでしょうか。
ゆうや(Dr) ライブの臨場感や生のゾクゾク感みたいなものを、どこまで伝えられるのか考えました。いつもだったらお客さんがいることありきで、さらにカメラが回ってる。カメラだけを意識していると、こっち(客席)が置いてけぼりになっちゃうから成立しないライブになるんです。だけど今回は逆で、カメラだけを意識しないといけなかった。そういう意味でも、本当にやったことのない取り組みでした。この時代だからできる新しいライブのやり方・見せ方を模索してましたね。明希も言ってましたけど、今回は事前収録だったので僕らもお客さんと同じタイミングで配信を観ていたんですよ。同時にお客さんのコメントも読めたので、自分たちのライブをリアルタイムで評価されるのは、ある意味面白かったです。
──ステージ上での立ち振る舞いも、有観客と無観客で違ったり?
Shinji(G) 違いましたね。やる前は普通のライブと同じ心意気だったんですけど、それでは伝えきれなかった。例えば「循環」という曲では、僕がステージ上を走り回ったりするんですけど、お客さんが会場にいたなら僕がカメラに見切れている姿も面白いと思ってもらえるんです。だけど、今回はカメラからフレームアウトすると、ただいなくなった人になっちゃうんですよ(笑)。そういうのも含めて、やっぱり普通のライブとは違いますし、配信ライブに関してはまだまだ勉強の余地があるなって。
──配信はカメラに映る映像がすべてですからね。
Shinji そうですね。“自分大好き”くらいカメラを思いっきり見ないといけない。あとで「カメラ目線が少なかったな」と反省点も見つかったので、立ち回りについては勉強になりましたね。
シドを帰る場所に
──マオさんはいかがでしたか?
マオ(Vo) 4人で音を出すこと自体がひさしぶりだったので、それが何よりも楽しかったかな。ライブはあっという間に終わった感覚で、あとはお客さんがどういうふうに感じたのかは配信してみないとなという感じでしたね。
──公演中にマオさんが「ときには逃げる場所も必要で、その場所がシドだったらいいな」と言ってましたけど、あの言葉の真意はなんだったのでしょう?
マオ 昔はファンとアーティストをつなぐツールがファンレターしかなかったけど、今はSNSなどで随時みんなの声が届くじゃないですか。そこで感じたのは、コロナで本当にみんな精神的にやられている。もちろん立場だったり年齢だったり、人それぞれ生活環境は違っても、みんなの心が参っている印象を受けたんですよ。だからこそ「どうしてもダメなときは1人で抱え込まないで、ウチに帰ってきてね」って。そのひと言があるだけでも、きっと救われる子はいるだろうし、それを糧に生きていけると思ったんです。
──SOSを出したいときには、シドが受け皿になると。
マオ そうそう。大袈裟じゃなくて、うちのファンは俺らのメッセージを真摯に受け止めてくれる。そういう子たちの心に刺さるようなメッセージを届けたくて、あの言葉を言いましたね。
──お客さんの反応を見てても、マオさんの言葉に救われた人は多かったと思いますよ。
マオ それはよかったです。ちゃんと届いたんだな。
──「前を向こう」とか「負けちゃダメだ」みたいな、背筋を正すような言葉を投げかける人が多い中「しんどくなってもしょうがないよ」という。弱っている人の心に寄り添って、肯定してあげたのがマオさんだったような気がして。
マオ みんなの状況や精神状態も含めて目に見えないですからね。無理矢理に背中を押されて、変な方向へ行っちゃう場合もある。俺は背中をひたすら押せばいいわけじゃないと思っているんですよ。それはシドの歌詞もそう。背中を押す曲もあれば、包み込む曲もあれば、見守る曲もあるし、気持ちを聞いてあげるだけの曲もある。特に、今は背中を思いっきり押すよりは、見守ってあげたい気持ちなんです。あとは「Dear Tokyo」でついつい「早く会いたいぞ」と言ったんですけど、あれにもみんながすごく反応してくれて……ついついというか、あふれ出した言葉だったんですね。そこにもライブ感があったし、ファンのみんなにも伝わったのがよかったです。
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2021年5月15日更新