今の自分を“確かめる日”に
──2日間にわたるイベントは、参加アーティストもものすごく豪華です。まさに「石若駿はこれまで何を成し遂げてきたのか?を刻む2日間」になると思います。
石若 おっしゃるように、“確かめる日”になるのかなと思います。自分が今までやってきたことが1日の中で同時に起こるというか。今までやってきたことをちゃんと体感しながら、この20年間にあったいろんなことを思い出したり、「今の俺、大丈夫か?」って確認したり、そういう日になると思います。そういうことって、普通に過ごしているとできないわけで。いろんなやらなきゃいけない、やるべきことが日々ある中で、そういう日を設けるというのは、1人の音楽家として大事なことだと思っています。まあ、そういうのは「なくてもいい」という方もいるかもしれないけど、自分の性格的に、振り返ったり立ち戻ったりするのってけっこう好きなんです。
佐藤 へえ、そうなんだ。
石若 例えばInstagramのストーリーズで「何年前の今日」っていうのを見られる機能があるんですけど、それを朝起きてまず見るくらいめっちゃ好きなんですよ(笑)。「5年前の今日は、この人に会ってこういうことをやっていたな」とか、「去年の年末は作曲していたな」みたいなことを確認して、「じゃあ、今日の俺は?」と思うんです。そういう意味で、「ワッツアップ祭り」は自分を祝うというより、今までやってきたことを噛み締める感じかもしれない。これまで自分の人生に、何度か節目みたいなものがあって、それが今回は20周年という形でやってきたという感覚がありますね。
佐藤 そうなったらもう、くるりは若さんの好きな曲だけのセットリストでやりたいね(笑)。
石若 これは僕が勝手に企んでいることなんですけど、くるりのライブに関しては「こうなったら最高だな」というビジョンがあって。
佐藤 それはここで言っちゃアカンのちゃうん?(笑)
──話せる範囲で教えてもらえるとうれしいです(笑)。
石若 じゃあ、1つアイデアとして、冗談めかしく間接的な言い方をすると、普段絶対やらない“みんなで飲みながらの演奏”をしてほしい。
佐藤 あははは! 普段、くるりはライブ前には絶対飲んだりしないけど、やってみたい気持ちもありますね。
石若 いや、別に本当に飲まなくてもいいんですけど(笑)、いつものくるりのライブでの構築美とは違うような、“くるり参上”という自分の人生の刻みをしたいなと、今回は思っていますね。
佐藤 とにかく、こんなすごいラインナップの中にくるりを混ぜてくれてありがとうという気持ちです。いわゆるメインストリームで活躍しているような、有名なアーティストをたくさん招くというよりは、本当に若さんの音楽性のコアの部分を共有し合っている仲間たちが中心なわけだし。若さんの音源はもちろん聴かせてもらっているけど、実はくるり以外で実際に叩いているところはまだ観たことがなくて。そういう意味では全組楽しみです。……いや違う、一度ブルーノートでAnswer to Rememberは観てました(笑)。そのとき初めてマーティ(・ホロベック)と挨拶させてもらってました。そういえば今回、ギターの西田修大くんも出ますか?
石若 はい、西田はSongbook trioと君島大空 合奏形態で出ますね。あと、ermhoi with the Attention PleaseではTaikimen(くるりのライブにもパーカッショニストとして出演)も一緒に演奏します。
佐藤 そうなんだ。俄然楽しみになってきました。
作品ができるプロセスに関わり続けたい
──個人的には君島大空 合奏形態が気になります。というのも「リズム&ドラム・マガジン」のインタビューで、「ジャズをバックボーンに持つミュージシャンが現代音楽というフィールドで何ができるのか?」に挑んでいるのがこの君島大空 合奏形態だとおっしゃっていたし、今後の石若駿さんの動向が垣間見えるパフォーマンスになるのではないか?と。
石若 ライブをやるうえで新しい要素が毎回必ずあって、しかもそれが最も多いのが君島大空 合奏形態なんですよね。この間も「シモンズ叩いて」とか「鍵盤弾いて」とか言われて。ギターを弾いたこともあるし、ライブごとにやることが毎回違っていて。常に音の響きを考えていて、曲をどう演奏するのか?みたいなこととはまた違うアプローチをしているんですよね。お客さんが体感するその場の震え、空気の伝わり方のようなものをどう考えるか?みたいな。それって現代音楽に近いなと思うんです。
──ちなみにAnswer to Rememberは新作を携えて2日とも出演するんですよね。
石若 そうなんです。今日は8月にリリースするアルバム「Answer to Remember II」の中から1曲、「SKA ATR No.1 (feat. Tomoki Sanders & Takafumi Nikaido)」を佐藤さんに聴いてもらおうと思っていて。
佐藤 えー聴きたいです。ぜひ。
石若 この曲は僕の好きなスカグルーヴで曲を作ってみようと思って、できたものです。これまであまりやったことがなかったから、スカという音楽へ携わるこちらからのアプローチの第一歩のような。
佐藤 (音源を聴きながら)僕もスカの歴史とかそういうのは全然知らないですけど、この曲は普通にめちゃくちゃカッコいい。しかもファンシーっていう(笑)。スカのようで、スカっぽくない音楽にも聞こえますね。ちょっと笑っちゃう感じもあって。でも、クラシック音楽とかなんのジャンルでも、笑える音楽ってあるじゃないですか。その笑いのツボは人によって違うから、万人が絶対笑うようなものじゃないとは思うんですけど。自分にとって今聴かせていただいた曲は、めっちゃ笑える。
石若 うれしい感想です(笑)。
佐藤 ところで若さんは、プロデューサーという形でアーティストと関わるとか、そういうことをやりたいと思ったことはありませんか?
石若 今まであまりなかったですね。藤原さくらさんとこの間作ったアルバム「wood mood」は僕がサウンドプロデュースという形で参加しまして、とても光栄だったし素晴らしい経験をしました。サウンドプロデューサーとして、もちろん演奏もしていますし。なんていうか、世の中にプロデュースっていろんな形があると思うんですけど、例えば自分の肩書きが「石若駿(ドラマー / プロデューサー)」みたいに固定されていったら、ちょっと立ち止まって一瞬考えるかもしれない。「プロデューサーはどんな音楽家であるべきだろう?」って、“プロデュースする”ということが自分に対してもまだまだ具体的にわからない部分がたくさんあるのかもしれません。
佐藤 なるほどね。でも今の若いプレイヤーやボーカリストに出会って、「この人のこういう演奏、こういう声、こういう才能を、世の中に届けたい!」と思えたときに、それをできる人やと思うし、なんかそういうのも聴いてみたいなって今ちょっと思いました。
石若 そうですね。ライブももちろん好きですけど、音楽を作るのはやっぱり好きなので、作品ができるプロセスにはずっと関わり続けたいと思っていますし、そのためのチャンスはこれからも大事にしていきたいですね。