ドラマー石若駿の活動20周年を記念したライブイベント「ライブナタリー 石若駿20周年ワッツアップ祭り ~そのとき私は、11歳でした~」が9月2日と3日に東京・恵比寿ザ・ガーデンホールで開催される。
ジャズドラマーとして頭角を現し、近年は星野源や米津玄師、椎名林檎、絢香、常田大希(King Gnu)率いるMILLENNIUM PARADEなど、メインストリームで活躍する数多くのアーティストの作品やライブにも参加している石若。日本のポップミュージックシーンに欠かせない存在となっている彼の活動20周年を記念した「ワッツアップ祭り」には、ホストバンド・Answer to Rememberのほか、君島大空 合奏形態やCRCK/LCKS、KID FRESINOなど、石若と縁の深いアーティストが一堂に会する。
音楽ナタリーでは、「ワッツアップ祭り」への出演が決定したくるりのベーシスト・佐藤征史と石若による対談を実施。石若の音楽人生のターニングポイントの1つだったというくるりとの出会いから、イベントの注目アクトまで、自由気ままに語り合ってもらった。
また特集の後半では、常田大希、中村佳穂、日野皓正らゆかりのアーティストによる20周年お祝いメッセージを紹介する。
取材・文 / 黒田隆憲撮影 / 大城為喜
公演情報
ライブナタリー 石若駿20周年ワッツアップ祭り ~そのとき私は、11歳でした~
- 2024年9月2日(月)東京都 恵比寿ザ・ガーデンホール
<出演者>
石若駿 / 君島大空 合奏形態 / Answer to Remember / CRCK/LCKS / SMTK / Songbook trio - 2024年9月3日(火)東京都 恵比寿ザ・ガーデンホール
<出演者>
石若駿 / くるり / Answer to Remember / ermhoi with the Attention Please / HIMI / Jua / KID FRESINO
ホストバンド(両日)
Answer to Remember
メンバー:石若駿(Dr) / MELRAW(Sax) / 佐瀬悠輔(Tp) / 中島朱葉(Sax) / 馬場智章(Sax) / 海堀弘太(Key) / 若井優也(Key) / マーティ・ホロベック(B) / Taikimen(Per)
※石若駿は全アーティストのステージに参加
共通点は“ヒネくれた要素”
──雑誌「リズム&ドラム・マガジン」のインタビューで石若さんは、くるりとの出会いが音楽人生のターニングポイントの1つだったと語っていました。そもそも石若さんは、リスナーとしてどのようにくるりと出会われたんですか?
石若駿 僕が高校生の頃にYouTubeが流行り始め、いろんなライブ映像が気軽に観られるようになったんです。僕も「おすすめ機能」で上がってきた映像の中で興味を持ったものは、なるべく観るようにしていて。2008年か2009年頃、おすすめにくるりのライブ映像が上がってきたんです。当時の僕は「SCHOOL OF LOCK!」というラジオ番組が好きでよく聴いていたんですけど、そこでもくるりの話題が出ていて、ちょうど気になっていたタイミングだったんですよね。映像は確か武道館公演で、岸田(繁)さん、佐藤さん、BOBOさんという編成だったはず。それをきっかけにいろいろ聴き始めて、「ばらの花」と「さよならリグレット」を聴いたときに「これは俺の好きな感じだな」と思ったのを強烈に覚えています。
佐藤征史(くるり) 若さん……って僕は石若さんのことを呼んでいるんですけど。若さんは東京に出てきてからは、もう学校ではクラシックとかを専攻していたんですよね? 僕らのような、いわゆるJ-POPと呼ばれるシーンの音楽も普通に聴いていたということですか?
石若 憧れがあったんです。ジャズのライブって、当時はお客さんの数が3人とか、下手したらゼロのときもあったりして。でもJ-POPやロックのアーティストって、すごく大きな会場で、たくさんのお客さんの前で大規模なライブをやっているじゃないですか。僕らがやっている音楽もそうありたいという、うらやましさと憧れが混ざり合った気持ちがありました。
佐藤 なるほど。
石若 そのうち自分自身の活動も広がっていき、ちょこちょこインタビューを受ける機会が出てきて。ことあるごとに「くるりが好き」と言っていたら、それがくるりのマネージャーさんに伝わったみたいで。声をかけてもらったのが、大学を卒業した2017年、23歳の頃でした。
──いわゆるジャズシーンに身を置いていた石若さんは、くるりのどんなところに惹かれたのですか?
石若 それが自分でもちゃんとわかっていなかったんですけど、そのへんの謎は、一緒にやっているうちにだんだん解けていきました(笑)。まず、3ピースで奏でている和音の広がり方が好きなんだなと。大学時代に同じマンションに住んでいた仲のいい友人の影響でロードバイクにハマり、よく荒川沿いを一緒に走っていたんです。舞浜あたりまで足を伸ばしたこともあったんですけど、くるりを聴くとそのときの風景を思い出すんですよね。ずっと景色が変わらなくて、だけど走り続けているうちにどんどんその景色の中に没入していく感じ……うまく言えないですけど。
佐藤 なるほどね。僕らも、例えば若さんのやっているSONGBOOK PROJECTとかを聴いていると、同じような感覚を持っている人だなって思うんです。メインソングライターである(岸田)繁くんが持つヒネくれた要素というか(笑)、1つの音楽スタイルではくくりきれない部分は僕も好きなところだし、そういう共通点みたいなものは最初からあったのかもしれません。
石若 「リズム&ドラム・マガジン」で、ブライアン・ブレイドの「ママ・ローザ」が持つ「フォークロアな部分と新しさが共存した感覚」に共通するものをくるりに感じた、という話をしたんですよ。ギターの開放弦がずっと持続して鳴っているけど、周りのハーモニーがちょっとずつ変わっていく感じとか、「ママ・ローザ」とくるりの共通した要素かもしれないと思って。例えば岸田さんがずっと同じコードを弾いていても、佐藤さんがルートの音を少しずつ変えていくみたいな。
佐藤 うんうん、確かに。あと繁くんは変則チューニングをよく使っていて、コードが変わってもずーっと同じ音が持続して鳴っていたりするんだけど、そういう感覚とかが近いのかもしれない。
「音楽の正解は1つだけじゃない」と示してくれた
──石若さんにとって、くるりとの初仕事は「だいじなこと」(2018年リリースの楽曲)のレコーディングだったとか。その頃から佐藤さんは、石若さんのことをご存知だったんですか?
佐藤 いや、失礼ながら全然知りませんでした。でも、さっき話したマネージャーをはじめ、周りにジャズ好きの人が多かったので、そのうち「石若駿というすごいドラマーがくるりを好きらしい」という話をよく聞くようになって。若さんと出会ったばかりの頃のことで、個人的にものすごく印象に残っているエピソードがあるんですよ。
石若 え、なんですか?(笑)
佐藤 「だいじなこと」のレコーディングのすぐあとに初めて一緒にライブをやったときに名言を言い放ったんです。確か旭川の小さなライブハウスで、それは朝倉真司さんのトラ(代打)だったと思うんですけど、もうバカスカ叩いてはって(笑)。ライブ後に「もうちょっとダイナミクスを付けて叩いてみようか」と提案したら、「え、ロックって全部フルショットでいくもんだと思ってました」と返ってきて。
一同 (笑)。
石若 そのときはまだめちゃめちゃ緊張していたし、気負いもあったんですよ。くるりではそれこそ森(信行)さん、あらきゆうこさん、BOBOさん、クリフ・アーモンドしかり、歴代の素晴らしいドラマーが叩いてきたわけじゃないですか。だからライブにせよレコーディングにせよ、ずっと「これで大丈夫かな」と不安だったわけです。
佐藤 でも、その頃から「ワッツアップ?」って言ってましたよね?
石若 そうでしたね(笑)。でもその頃はドラマーとしても人間としてもホントにガキでした。
佐藤 いやいや、そんなことないから。そこらへんの同年代の人よりよほどしっかりしてる人やなと思ってましたよ。
石若 本当ですか? ちょうどそのあたりから、モノンクルにしてもCRCK/LCKSにしてもそうだけど、ジャズをベースに活動しつつポップフィールドというか、歌モノをやる人たちが同年代でも増えてきた印象がありますね。彼らも一様に「くるりが好き」と言っていたし。ドラムという楽器は音量がデカいし、曲のテンポ感に与える影響が大きいので、くるりと一緒に演奏することで「ドラマーとしてどういう音を提供したら、その曲にいい影響を与えられるか?」をすごく教えてもらったと思います。
佐藤 若さんの音楽に臨む姿勢はものすごくピュアで、ライブのたびに感銘を受けるんです。ツアーを一緒に回っていると、そのうち絶対に誰かがいつもとはちょっと違うことをやり始めて、若さんはそこに絶対に乗っかって、面白く膨らましていく。それが本当に……なんて言うんだろう、「音楽の正解は1つだけじゃない」ということをものすごくわかりやすく提示してくれているなと思います。
本当にいいバンドになってきた
──その後、石若さんは、椎名林檎さんや米津玄師さん、星野源さん、絢香さんなどメインストリームで活躍するアーティストの作品に携わっていきますが、くるりと一緒に演奏することでご自身の音楽への向き合い方はどう変わりましたか?
石若 うーん……自分の中では“ジャズ”とか“ポップス”とか、意識してモードを変えてるつもりはさほどないんですよね。ただ、ジャズはアドリブの連続なので、その一瞬一瞬がすごく重要。一方でポップスはあらかじめ曲の構成が決まっていて、未来を予測しながらどんな演奏を乗せていくかを考えることがすごく楽しいんですよね。
佐藤 最初こそフルショットで叩いていた若さんですけど(笑)、一緒にやっていくうちに抑揚の付け方だったり、リズムテンポの持っていき方だったり、ものすごくシームレスにしてくれるのが本当すごいなって。そういうドラマーと、今まで自分はやったことがなかったなと。なのでほかのドラマーさんとやるときも、「若さんはその曲、こんなふうにやってたよ」と言って参考にしてもらうことすらあります(笑)。
石若 この7年間でツアーにもたくさん参加させていただいたし、制作でもけっこう同じ時間を共有させてもらってますもんね。時間の濃さみたいなものをすごく感じます。なんかバカみたいなことを言うと、もっともっと長く一緒にいるような気がする。本当に濃厚な時間を過ごしているなといつも思います。
佐藤 つい先日も繁くんが「このバンド、ええなあ」とポロッと言っていて。ここ3年くらいでくるりは本当にいいバンドになってきたなと僕も思っているんですよね。これまでいろんなドラマーと一緒にやってきたけど、ここ最近はだいたいあらきゆうこさんか若さんのどちらかで、ツアーのメンバーはわりと長いこと固定してるんです。くるり自体はいわゆるバンド編成ではなくなってしまってからけっこう経つけど、ようやく安心感や信頼感を持つことのできるバンドメンバーに巡り会えたなと思います。
石若 うれしいし、光栄です。
小6でもらった初めてのおひねり
──そんな石若さんの活動の集大成として「ライブナタリー 石若駿20周年ワッツアップ祭り ~そのとき私は、11歳でした~」が開催され、そこにくるりも出演することが決定しました。
佐藤 そもそもこの「ワッツアップ祭り」は、どういう流れで開催されることになったんですか?
石若 以前、新宿MARZで働いていたスタッフが、今ナタリーにいるんですよ。そいつとは同郷で同い年で、以前から「いつか何かやろうね」みたいなことを話していて。その人と、自分のWikipediaをなんともなしに読んでいたら、今年で活動20周年ということが判明して(笑)。「だったらイベントやろうよ」ということで企画してくれたのが発端ですね。
佐藤 すごく基本的なことを聞きますが、若さんの活動ってどこから数えて20周年になるんですか?
石若 日野皓正クインテットのライブにゲスト出演という形で東京に呼ばれてライブをしたときですね。それが20年前です。
佐藤 ってことは、中学生くらいということ?
石若 いや、小6なんです(笑)。当時、札幌のジャズスクールに所属していたんですけど、そこのワークショップに日野(皓正)さんたちが遊びに来たことがあったんです。教えてもらう前に、「ちょっと演奏聴かせてごらん」とおっしゃってくださって。恐れ多くも演奏したら、めちゃくちゃ反応してくださったんですよね。その3カ月後の5月初頭から、日野さんの実弟である日野元彦さんの七回忌のイベント「日野元彦メモリアルウィーク」があり、そこに呼ばれて六本木アルフィーという場所で演奏したのが最初です。そのときにお客さんの1人からおひねりをもらったので、一応“お金”が発生した演奏ということになりますね(笑)。
佐藤 なるほど。納得しました(笑)。
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