音楽ナタリー PowerPush - 終焉ノ栞プロジェクト
150P&スズムによる終焉ノ栞プロジェクト解説
終焉ノ栞プロジェクトは“会社”
──終焉ノ栞プロジェクトって面白いバランスの上に成り立ってるメディアミックスプロジェクトですよね。実は小説がCDのおまけ。曲で歌われてることを小説で補完しているわけでもないし、音楽が小説のBGMというわけではない。主従関係になってるわけではなく、それぞれ独立したコンテンツとして楽しめるし、でも両方を見聞きすれば作品世界への理解がより深まる。
スズム それぞれ作ってる“主役”が違うからじゃないですかね。小説は僕が主役、音楽は彼が主役っていう関係になるのかなって。あとクレジットが、「Story」はスズムなんですけど、「主犯」と「作曲」が150Pなんです。コミックのほうは、僕が別のことをやりたいってガンガン言ってて、結城あみの先生から「プロットどうします?」って聞かれたときに、僕すぐに「オリジナルやりましょ」って言うんです。
150P 最高だよね!
──誰かがイニシアチブをとって、「終焉ノ栞」はかくあるべしっていうフレームをガッチリは固めてはいないんですね。
スズム ないです、ないです。終焉ノ栞プロジェクトって1つの会社だと考えてほしいんですよ。社員って全部社長のいいなりになるわけじゃないし。みんなが手足となって、会社をよくしようって動きますよね。それを、寛大に受け止めるのが社長だと思うんですよ。終焉ノ栞でいうと、結果的に出す作品が面白くなればいいんです。
──ちなみに、「これは終焉ノ栞らしい」「これは終焉ノ栞ではない」って言ってるときの終焉ノ栞って言語化できます?
スズム 言語化するとしたらどうだろうなあ。会社に例えると、主犯である社長の立場の150P=終焉ノ栞ではないんですよ。かと言って、大衆の心理によって変わるんだったらこんなへそ曲がりの作品にはなってない。僕らの意思だけだったらこんなに、広い作品にはなってないし、もっと狭い作品になってるだろうし。
150P そうですね。まあ結成したばかりのバンドに近いでしょうね。バンドの始まりのきっかけもバンドのコンセプトがあって綿密に話があって始めることってあんまりないと思うんですよ。たいていスタジオ行ったらメンバー募集の紙が貼ってあって、なんか気になったら連絡してみてなんとなく始めるみたいなそういうのがほとんどだと思うんですよ。そういう感覚でやってるんです。
スズム 終焉ノ栞って常に“描きかけの地図”のような状態なんですよね。「終焉ノ栞ってこうじゃん」っていう言葉っていうのをメンバーの誰も認識してないんです。何かの答えだったりコンセプトを明確に定めてない。
「好きじゃない」「じゃあ、やめよう!」
──今回のアルバムのサウンドなんですけども、ホントに最新型のロックとか、フェスのでっかいステージで鳴ってたら気持ちがいいだろうっていうサウンドも多くて。
150P そうですね。あとEDM調の曲もあって。
スズム 彼の場合、そのときに聴いてる音楽が曲に反映されるんですよね。しかも今回なんてギリギリになって全部のアレンジが変わったんですよ。トラックダウンのときに「えっ?」ってなるという(笑)。「こういう曲ちゃうかったやん!」みたいなのがあって。例えばSEKAI NO OWARIの「Dragon Night」を聴いてて、エレクトロみたいなことやりたいと思ったらしくて。
──でもそればっかりじゃなくて、中南米っぽい曲だったり、スカっぽいリズムにトライバルな上モノが乗っかってる曲があったり。やりたい放題感がサウンドにも出てますよね。
150P ホントそうですね。ルーツミュージックをけっこう聴いてきたんで、それを取り入れることがあるんですけど、それだけでは面白みに欠けるから時代の空気感を入れたりして。
──そこなんですよね。確実にアップトゥデイトなロックをやってますよね。ボカロPの人には珍しいタイプだと思うんですよ。
150P かもしれないですね。
──ちゃんとシーン全体を見て、最新トレンドも過去の音楽もリファレンスしながら自分の音に落としこむっていう。
150P 自分の中に“音楽の図書館”みたいなのがあって、そこにはいろんな音楽のジャンルのサウンドだったり歴史だったりっていうのが陳列されてるイメージなんですね。それで、作るときに無意識にいろんなジャンルを入れようとしてしまうところはあるんでしょうね。
──無意識とはいえ“音楽の図書館”もただ世の中に集まってる音楽を集めましたじゃなくて、琴線に引っ掛かった面白いと思ってるものを並べた感じですよね。
150P そうですね。
スズム いやいやいや! 彼はきれいに言ってるだけですよ(笑)。結局はただ単純に作りたい曲を作ってるだけだし。
150P まあそれはそうだね(笑)。
──プロジェクトの作品ではあるけど、「150Pさんのソロアルバムです」って言われて、素直に聴ける感じはありますよね。
150P そこは作ってるときにすごい考えたことで、プロジェクトの作品とはいえ、音楽だけ聴く人もかなりいると思うんですよ。そういう人も絶対満足するものにはしたいっていう思いはあったので、音楽だけで成り立つような作品になるよう意識しましたね。
──スズムさんの中での収録曲のジャッジ基準ってどうなんですか?
スズム 「終焉ノ栞」のストーリー的に「これはさすがに入らんわ」みたいなのとか、曲が好きじゃないって思ったら「好きじゃない」って言いますね。そうすると150Pは「じゃあ、やめよう!」って。
150P そういうの全然ありっす!
──プロジェクトのものとはいえ、150Pの名前がシグネチャーされてる作品なら、人の意見なんかどうでもいいじゃんって思うんですけど……。
スズム それがないんですよね。メンバーみんな、身近な人にも手に取ったときに満足してほしいっていう考えなんで。身近でよくないって言われたら、ほかもよくないだろうっていう考えなんです。まあ、たまに無理してねじ込むことありますけど。今回で言えば1曲目の「-反攻声明-」は、150Pが納期ギリギリにもう修正できない状態で出してきたから入れないわけにいかなくて。で、「なんで1曲目EDMなんだよー」ってツッコミを受けるという。
150P あはははは(笑)。
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- 150P ニューアルバム「終焉-Re:mind-」 / 2015年3月25日発売 / Victor Entertainment
- 初回限定盤 [CD+グッズ] 2700円 / VIZL-672
- 通常盤 [CD] 2376円 / VICL-64162
収録曲
- 「-反攻声明-」(instrumental)
- 報復リヴァイバル
- 欠落-Re:code-
- 結末ユメロディ
- 「-拝啓、舞台裏より-」(instrumental)
- ファイティングガール
- ノスタルジージャンクフード
- ゲームアンドガールズ
- 「-微炭酸レトロ-」(instrumental)
- やさしいお化け話
- 四丁目の秘密屋さん
- ぼくたちデイズ
- 「-笑顔サミット-」(instrumental)
- テレーゼの溜息
- ハイカラコーポパーク
- リピートラジディー
- 「-十年後より-」(instrumental)
- シュレディンガーの猫
- 「-病室1713号-」(instrumental)
終焉ノ栞プロジェクト(シュウエンノシオリプロジェクト)
VOCALOIDプロデューサーの150Pとスズムを中心に、さいね、こみね、ぎぶそんらが所属するクリエイター集団の総称。150PによるVOCALOIDオリジナル曲や、楽曲を軸にしたメディアミックス作品についても指す。2012年4月にメンバーが出会ったことをきっかけに始動し、同年夏にCD「Re:放課後-終焉ゲーム」を発売する。本作が好評を博したことを機に小説やマンガなどのメディアミックスがスタート。2013年3月にはビクターエンタテインメントより150P名義でアルバム「終焉-Re:write」が発表された。2014年3月にはメジャー2ndアルバム「終焉-Re:mind-」がリリースされた。