湘南乃風インタビュー|これが俺たちの20年!ベストアルバムに詰め込まれた反骨と反逆のレゲエ

湘南乃風がメジャーデビュー20周年を記念したベストアルバム「湘南乃風 ~20th Anniversary BEST~」をリリースした。

本作は「湘南 ~134号線~ 編」「新橋 ~ガード下~ 編」「新宿 ~歌舞伎町~ 編」と題された3枚のCDからなり、その地名のイメージに沿った楽曲がたっぷりと収録されている。さらに各ディスクに1曲ずつ新曲も収録。湘南乃風のこれまでの軌跡と最新の姿を感じられる内容となっている。

音楽ナタリーでは約1年ぶりにメンバー全員にインタビュー。20年の活動の振り返りと、ベスト盤にまつわる話題、そして20周年イヤーの集大成として8月12日に神奈川・横浜スタジアムで開催されるワンマンライブへの意気込みを語ってもらった。

取材・文 / もりひでゆき撮影 / 須田卓馬

空き時間に「メシ行く?」みたいな

──音楽ナタリーでのインタビューは、昨年7月にEP「2022~Time to Shine~」がリリースされたとき以来になります(参照:湘南乃風20周年イヤーへのカウントダウンが始まる新作EP「2022 ~Time to Shine~」堂々完成)。あの作品で20周年イヤーの幕を開けて以降、昨夏はさまざまな夏フェスへの出演があり、今年1月にはキャリア初の日本武道館単独公演「新・春・狂・乱」が開催されました。その後、4月には全国ツアー「風伝説 20周年記念TOUR2023 祭りの方法教えてやろう 野郎ども声だせYo!わっしょい!」もスタート。湘南乃風は猛烈な勢いで突き進んでいますね。

RED RICE 今ちょうどツアーが折り返したところなんですけど(取材は5月上旬に実施)、コロナ禍での制限から解放されたことで湘南乃風らしいライブが戻って来たと感じていて。みんなで声を出したり肩を組み合ったりしながらお祭り騒ぎができているので、20周年に向けていい流れになってきている実感はありますね。メンバー同士もかなり密にコミュニケーションが取れていて、ツアー中にみんなでメシ食いに行ったりとかも自然にできています。

RED RICE

RED RICE

──メンバーだけで食事をする機会もあるんですか?

RED RICE そうですね。空き時間に「メシ行く?」みたいな。バックDJ(The BK Sound)を含めた5人だけで、カウンターで寿司を食ったこともありましたよ。そういう場ではライブの反省会をすることもあれば、「最近どう?」みたいな他愛のない話をすることもあって。そういう時間もめちゃくちゃ楽しいですね。

SHOCK EYE 立ち向かうべきものが目の前にあるツアー中は、気持ちがすごく安定してるしね。ライブはもちろん、それにまつわるすべてのことをシンプルに楽しむのみっていう。「これこれ、こういう感じが好きなんだよね」って素直に思えるし、ツアーがずっと続けばいいなって気持ちにもなっちゃいますね。

HAN-KUN うん。本当にいい状況だと思う。20周年に向けて気合いはもちろん入ってるんだけど、この20年で一番リラックスしながら回れてるツアーだよね。

若旦那 メンバー同士、いい意味で干渉し合っていないのがいいのかもしんないですね。そのうえで、いい距離感を保ちながらちゃんとそれぞれを肯定し、支え合えているし。それがリラックスしたムードにつながってるんだと思う。

若旦那

若旦那

絆のマイレージ

──そんな好状況の中、目前に20周年という大きな節目が迫ってきています。そこへのお気持ちを改めて聞かせてください。

RED RICE 俺はその瞬間が楽しみすぎて、なんなら来ないでほしいと思ってます(笑)。20周年に向けて一丸となっている今のいい状況が一生続けばいいなっていう。ただ、一方では横浜スタジアムでの景色を早く見てえなっていう気持ちもあって。そこで見た景色はきっと、その先のストーリーを想像させてくれるものになるはずだから。ゴールではなく、1つの通過点として20周年は本当に楽しみでしかないです。

──活動を20年続けて来られたことに対しての感慨もあるんじゃないですか?

SHOCK EYE それはもちろんありますよ。いい意味で湘南乃風の4人はそれぞれが個性的だし、考え方にも多様性がある。逆に言えば、なかなかまとまりにくい部分もあるんですよ(笑)。だからこそ僕らは10年、15年、20年といった周年を1つの目印にすることで、湘南乃風として活動する意味とか、チームにおける自分の役目とか、応援してくれる人への感謝とか、忘れちゃいけないことをしっかり確認するようにしてきたんですよね。そこでしっかりメンバー同士の絆のマイレージを貯めてきたからこそ20年続けることができた。同時に人間としていろんなことを学ばせてもらえた20年でもあったと思いますね。

SHOCK EYE

SHOCK EYE

──前回のインタビューで、2013年リリースのアルバムに「湘南乃風~2023~」というタイトルを付けたことについての思いはお話ししてくださいましたが、そこからの10年はどんな時間だったと思いますか?

若旦那 この10年は……ひと言じゃ言い表せないくらい、もがき苦しんだ時間でもありました。そういう時間を経たことで、湘南乃風というグループに依存しすぎない4人組になれたことが、今のいい状況につながった要因だと思います。それぞれが自立できたというかね。

──自立ですか。

若旦那 この10年はたぶん、全員がグループ内での自分のポジションや、どう湘南乃風に携わっていくべきなのかっていうこと、要は自分と湘南乃風の距離に対して悩んできたと思うんですよ。で、その答えを誰に頼るでもなく、それぞれが自分で導き出していった。だからこそ今こうやってお互いを認め合えるようになったし、フランクにごはんを食べに行くこともできるっていう。逃げずにちゃんと乗り越えられたのが本当によかったなと思いますね。そうじゃなければ自我と自我のぶつかり合いになって、どんどんみんな疲弊していったと思う。

──15周年を迎えた2018年から約2年にわたる充電期間を設けたことも、グループにとって大事なことだったんでしょうね。

SHOCK EYE そうですね。言語化はできないんだけど、「なんなんだろう、この感じは?」ってモヤモヤする気持ちは活動を続けていく中でずっとあったんですよ。そういう状態に敏感な(若)旦那がことあるごとに警鐘を鳴らしてくれてたのも、今となればわかるけど、当時は気付くことができなかった。鈍感だからこそ活動を続けられちゃってた部分もあったと思うし。その中で、湘南乃風との距離感をそれぞれが自覚しなきゃいけないことを突き付けられたのが、あの充電期間だったんですよね。

湘南乃風

湘南乃風

──そこでそれぞれが導き出した答えは、メンバー間で擦り合わせてはいないと以前おっしゃっていましたよね。

SHOCK EYE うん。みんなの中で答えが出てるかどうかもわかんないですし、そこを擦り合わせることで、「あれ、俺が思ってたのと違うな」みたいな感じで、変な軋轢が生まれてしまう可能性もあるわけじゃないですか(笑)。そこはさっき旦那が言ったように、いい意味で干渉し合わない、いい距離感を保つというかね。ただ、今こうしてツアーをみんなで楽しく回れているし、20周年を最高の形で迎えようとしているわけじゃないですか。それこそが明確な答えなんじゃないかなって僕は思ってますよ。

レゲエの精神

──また、湘南乃風はレゲエという音楽ジャンルをJ-POPシーンに浸透させた立役者でもあると思うんですよ。そこへの自負はいかがですか?

HAN-KUN そこもすっげえ難しいかもしれない。この20年で俺たちは何をしてこられたんだろうって、いまだにわかんない部分はある。もちろんね、最初はレゲエ好きなメンバーが集まって、レゲエという音楽を日本に広めていきたい気持ちで湘南乃風を始めたのは間違いないんですよ。微力であっても、何かができればいいなっていう。ただ、ある時期からはレゲエを広めることよりも、湘南乃風の音楽をいかに理解してもらえるかっていう思いにシフトしていったような気がしていて。自分たちの音楽でいかに人の心を豊かにできるかっていう方向にベクトルが向き始めたんですよね。

HAN-KUN

HAN-KUN

──確かに湘南乃風の音楽性は、活動を重ねる中でどんどん広くなっている印象がありますよね。サウンドだけで言えば、レゲエという枠にとらわれない楽曲もありますし。

HAN-KUN うん。たぶん今の湘南乃風にとってのレゲエは精神性に移行されたんだと思うんですよ。聴いた感じ、触れた感じはレゲエでなくても、根底にはレゲエの精神が込められている。そもそもレゲエは反骨や反逆をメッセージするレベルミュージックだし、生きるためのアティチュードを鼓舞する音楽なんですよね。そういった意味では、湘南乃風の音楽は間違いなくレゲエだと思います。旦那が「明日もがんばって生きようぜ!」って叫ぶのも、SHOCK(EYE)が「毎日は当たり前じゃねえんだ。日々をありがたく感じよう」って言うのも、RED(RICE)が「俺はいろいろうまくいかなくてさ」って弱さをさらけ出せることも、すべてがレゲエだと俺は思ってる。って考えると、俺たちは20年間、湘南乃風としてのレゲエをしっかり届け続けてきたっていう自負につながるところはありますね。

SHOCK EYE 「レゲエとはこうあるべき」みたいな考えは、音楽としての可能性を潰してしまうことになりますからね。どんな形であれ、俺らなりのレゲエをキャッチしてもらって、そこにある感動をたくさんの人と共有できたら、それが一番の幸せだなって思います。本場のレゲエに食らった俺らが作る、俺らなりのレゲエに共鳴してくれた人はきっと、本場のレゲエにも感動してくれると思うし。そういう循環が生まれてくれたらいいなっていう思いもありますね。

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