しゅーずが5thアルバム「CONNECT」を3月15日にリリースした。
ここ数年は“夜”をテーマにした落ち着いた作風のアルバムを発表していたしゅーずだが、約2年ぶりにリリースされる今作ではこれまでの落ち着いた作風を一新。「つながる」をコンセプトに弾けるように明るいポップソングを含む13曲を収録したアルバムが完成した。しゅーずの作風を変えたことには、コロナ禍で生まれたとある“出会い”がきっかけだったという。彼の内面を変えた出会いや、アルバム収録曲の制作背景などの話題を通じて、しゅーずというアーティストの“今”のモードを探る。
取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / 星野耕作
コロナ禍で始めた“推し活”が活動の源に
──ここ数年のしゅーずさんのアルバムは「Velvet Night」「DEEPEST」と暗い色使いの大人びたイメージの作品が続いていましたが、今作「CONNECT」は非常に明るい雰囲気で驚きました。しゅーずさん自身の心境の変化にも通じていますか?
言われてみたら「確かに」って感じですね(笑)。全然意識はしていませんでしたが、思い返してみると今回のアルバムはいつもより前のめりに作った記憶があって。これまでだったらスタッフさんに「そろそろアルバム作りましょう」と言われて、ようやく重い腰が上がる感覚だったんですが、今回は「アルバム作る?」と聞かれたときに「ぜひやりましょう」と返していたくらいで。
──なぜアルバム制作に前のめりになったのですか?
コロナ禍で“推し活”を始めたのが大きいかもしれませんね。これまで何かにのめり込むという経験があまりなかった中、コロナ禍でK-POPにどっぷりハマってしまいまして。仕事もアーティスト活動もあるから時間がものすごくあるわけではありませんでしたが、外出が減ってYouTubeを観る時間が増えたときに、TWICEの動画を観始めたんです。
──K-POPのどんなところに惹かれましたか?
もともとK-POPに対してそこまで興味がなくて、TWICEが日本ですごく盛り上がった「TT」(2016年10月リリースの楽曲)の頃には、むしろ意図的に避けていたくらいで。僕らネットのミュージシャンにとって、アイドルの活動とかは対極にあるもののように捉えていたので、その頃はまだよさに気付けなかったんですよ。僕がTWICEに惹かれたのは「Feel Special」(2019年発売のミニアルバムの表題曲)で、何かのきっかけで聴いたときに「めっちゃいいな……。誰だ?」と思って調べたらTWICEの曲でした。気付いたらミュージックビデオを繰り返し観ていましたね。曲がいいのはもちろんですが、僕が惹かれたのはパフォーマンスなのかな。ビジュアルのよさと圧倒的なパフォーマンスの完成度に、完全に負けた感じがしました。
──「負けた」と感じるんですね。
はい(笑)。それはアーティストとしてとも言えますし、ステージに立つ身として自分が何かに夢中になることはないと思い込んでいたからかな。まさか自分がガッツリ推し活をすることになるなんて数年前までは考えられなかったので。
──何かに夢中になることで、しゅーずさん自身の音楽活動にどのような影響が?
去年の4月にTWICEの東京ドーム公演に足を運んで、“本物のアイドルのキラキラ”を全身に浴びて、過剰摂取してしまったんですよね。プロのアイドルなので立ち居振る舞いが完璧で。「こういうことをしたらうれしいよね?」ということをしてくれるし、ファンの側はそれに対して精一杯のリアクションで返す。このWIN-WINの関係を自分ができていたのかをすごく考えました。もちろんすべての要素をすぐに自分のライブに取り入れることはできないけど、観る側の視点を徹底的に叩き込まれた数年間だったので、ライブに大きな変化はあると思います。
──これまでの取材では、本業とのかけ持ちで音楽活動自体を続けるかどうか、といった話をされていたと思います。でも今ではライブをすることを前提に、自分がどう立ち居振る舞えばいいかを考えているわけですよね。それは大きな変化だと思います。
そうですね。それこそ前回のアルバムまでは「もうこれでアーティスト活動を辞めます」と言いかねないような、ネガティブな思考に陥っていました。でも自分が推し活をすることですごく幸せな気持ちを味わえたし、これを自分を推してくれている人たちに還元しなきゃいけないなと気付いて。「自分のライブを観に来てくれた人が幸せな気持ちで帰ってもらえるようにするにはどうしたらいいんだろう」みたいなことはすごく考えるようになりました。
──ご自身の意識の変化はアルバムタイトルの「CONNECT」にも表れている?
ファンとの関係性を表したいという思いはタイトルに出ていると思います。でも「つながり」という言葉に込めたのはファンとの関係性だけではなくて、僕の活動に携わってくれたボカロPさんのこと、僕がカバーした昔のボカロ曲のことも含めている。普通にアルバムを作ると書き下ろし曲と最近の楽曲のカバーを組み合わせた作品になるところを、今回は昔よく配信で歌っていたボカロ曲のカバーを織り交ぜるような工夫をしてみて。昔から僕の歌を聴いてくれている人には「懐かしい!」と思ってもらいたいですし、最近僕のことを知ってくれた人には「こんないい曲があるんだよ」と紹介したい。僕らの活動はボカロPさんや絵師さんなくしては成立しなかったから、僕をきっかけにいろんな“つながり”を広めたくて、タイトルを「CONNECT」にしてみました。
みきとさんが好きなように、しゅーずを料理してください
──アルバムに参加した作家さんたちの人選はどのように決めたんですか?
基本的にはつながりがある人たちにお願いしようと考えていましたが、まずアルバムを作るに当たって、いくつか外せない要素があって。その中でも特に重要なのが、みきとPさんに書き下ろしをお願いしたいということでした。
──みきとPさんにはこれまでも書き下ろし曲を依頼していて、前作「Velvet Night」でしゅーずさんとみきとPさんによる“2番目の女”シリーズの3部作が完結したはずですよね(参照:しゅーず「Velvet Night」インタビュー)。
はい。前作までのオーダーは「あの曲の続きを」というものでしたが、今回は土台となるストーリーがないから「みきとさんが好きなように、しゅーずを料理してください」とオーダーさせていただきました。みきとさんが書き下ろし曲を書いてくれるならアルバムを出します、くらいの気持ちでお願いしました。
──その結果生み出された書き下ろし曲「デッドソング」を聴いたときの感想は?
初めて聴いたときに「あ、みきとさんの曲だ!」と一発でわかるイントロで。ほかの曲で言うと、「夕立のりぼん」に近いのかな。ボカロ界隈で一斉を風靡した“MIKIROCK”の流れを汲んだ曲ですよね。これまでみきとさんはシティポップ寄りのおしゃれな曲を書いてくれていたから、ロック調の曲が来たのがうれしくて。でもみきとさん自らが歌うデモがよすぎて、それを超えられるかすごく不安でした(笑)。
──みきとPさんの書きたい楽曲が、みきとPさんのボーカルで届いたわけですよね。
みきとさんが濃縮還元されたデモでした(笑)。デモの段階でみんなに聴いてもらいたいくらい。歌うのが難しい曲でもあったので、すごくプレッシャーを感じながら歌入れさせてもらいました。
──ほかにもベテランのボカロPで言うと、halyosyさん提供の「崩壊ホークアイ」が収録されています。数あるボカロPの中でもhalyosyさんに書き下ろしを依頼した理由は?
以前halyosyさんに書いてもらった「マンティス▽クライシス」がライブで必ず盛り上がる、「こんなのみんな好きでしょ!」ってツボを押さえた楽曲なんですよね。再びhalyosyさんに書き下ろしていただけるなら、ライブで盛り上がれる曲を書いてほしいなという気持ちがまずあって。ただhalyosyさんがものすごく忙しいことはわかっていたので、かなり早めにオファーしました。それこそ、去年の3月くらいだったかな。ダメ元でお願いしたら「時間がかかるかもしれないけど大丈夫です」とお返事をいただいて。
──新曲「崩壊ホークアイ」は、声出しOKのライブでファンと一緒に盛り上がれそうな楽曲ですね。
ファンの皆さんには「崩壊!」ってコールしてもらうことになりますが、すごい言葉ですよね。「崩壊!」「崩壊!」って、歓声を上げてもらうわけですから(笑)。でもどこか僕らしいというか、しゅーずのファンが求めていることがhalyosyさんもよくわかってるんだろうな、と思いました。ツアーを開催する頃には声出しがOKになっているはずなので、ファンの皆さんと一緒に盛り上がりたいですね。
「U」に対しての「哀」
──奏音69さん提供の新曲「哀」は歌詞をよく読むと、過去の楽曲との関連性が浮かび上がってくる仕掛けの楽曲ですね。
そうです。「U」(2017年5月発売の2ndシングル「Shoose Case」の収録曲)に対しての「哀」。「U」で描かれていたことへのアンサーソングとして新曲を書いてもらいました。
──なぜ、今になって「U」のアンサーソングが生まれたんでしょうか?
そもそも「U」という曲が各所で非常に好評で。luzくんがワンマンで歌ってくれたこともあるし、僕の手を離れて育っていった名曲だと捉えていて。ライブ制作のスタッフさんが「『U』は絶対にセットリストに入れたほうがいい」と薦めてくれたこともあるし、だったら奏音69さんに書き下ろしをお願いするときに、「U」の視点を変えた楽曲がいいんじゃないかと思い付いたんです。奏音69さんに話してみたら、この話に乗ってくれまして。
──「U」が女性視点の楽曲なのに対して、「哀」は男性視点の楽曲に変化しています。「U」でも書かれていた表現を用いつつも、違った視点で“別れ”を描いた楽曲になっていますね。
最初に歌詞を読んだとき、歌の歌詞っぽくなくて驚いんたんですよ。どちらかと言うと、読み物に近いというか。あまり繰り返しがないし、説明っぽい感じが強くないかな?と感じていましたが、歌を入れてみたらすごくハマりがよくて。「U」のときから歌詞を読みながら楽曲を聴いてくれたファンなら気付けるポイントがいくつもあるので、ぜひ読み比べながらどちらの楽曲も楽しんでもらいたいですね。
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ここ数年で変わった“ネット発”