しゅーず|迷いながらもたどり着いた、アーティストとしての新境地

しゅーず|迷いながらもたどり着いた、アーティストとしての新境地

“2番目の女”の完結編を

──しゅーずさんのアルバムで欠かさず楽曲提供してきたみきとPさんが、今回は「暴露」という新曲を書き下ろしています。

おっしゃる通り、みきとさんは僕のアルバムに欠かせない存在なので、そもそもアルバムのお話をレーベルの方からいただいたときに「みきとさんに曲を書いてもらえるんだったらアルバム作ります」と返事をしたくらいなんです。我ながら無理を言ったな(笑)。

──ただ、みきとさんだったらきっと曲を書いてくれるだろうという確信もあったと思います。

そうですね。「時間さえあれば必ず書いてくれる」と思っていましたが、みきとさんはいろんな方に曲を書いていてお忙しい方なので、今回はなんとかタイミングを見つけて書いてもらいました。これまでみきとさんには「セカンド・キス」「Highway Lover」の2曲を書いてもらったんですが、今回はこれらの楽曲の“完結編”のようなものを書いてもらいたくて。これまで描かれてきた“2番目の女”の物語が終着する楽曲として「暴露」を書いてもらいました。

──楽曲を作るうえで、みきとさんとはどんな話をしましたか?

これまで通り女性目線の曲というのはお互いの共通認識として持っていたんですが、“完結編”となったときに、幸せで終わるのか、不幸せで終わるのか、結末をハッキリ明示するのか、ぼかすのか、そもそもどんな世界観で描くか、みたいなところはけっこう議論の余地があって。ガッツリ攻めた不倫の話をいろいろ出し合いました(笑)。ただ、話し合いの段階では明確にゴールが見えたわけじゃなくて、どうなるのか楽しみにしていたところに「暴露」という曲が届いたんです。

──「暴露」はちょっと語り口が特殊な曲ですよね。タイトルの通り、2人の関係性の“暴露”が手紙をしたためるようなニュアンスでたんたんと書かれている。

僕もこういう語り口の曲は初めてだったんですが、最初に聴いたとき「あ、これだ!」って確信したんですよね。僕のイメージや思いを全部吸い出してもらって、みきとさんのフィルターでろ過してこの曲を生み出してもらった、みたいな。もうドンピシャで完結編にふさわしい曲でした。

──曲中、「あなたのほうよ」というセリフが読まれる部分では、明確に声色を変えてますよね。これまでしゅーずさんの曲でこういう表現がなかったので、驚きました。

この部分、けっこう紆余曲折あったんですよ。女性のセリフだし、女性の方にここだけ歌ってもらう案もあったんですが、その場合誰にお願いするのかがけっこう難しくて。悩んでいたらみきとさんに「うまく声を加工すれば女の人の声になるよ」と教えてもらったんですが、やってみたら思いのほか女性っぽくならなくて(笑)。だったらとボイスチェンジャー的な加工をしてみたら、それはそれでしっくりこなくて……。結局自分でかなり意識をして女性の声色で歌ったのを、エンジニアのmadamxxさんにうまく調整していただきました。

──「暴露」に限らずしゅーずさんは女性目線の曲、もっと言うと“女の情念”を歌うことが多いですよね。しゅーずさん自身は“女の情念”を歌うということに対してどう思っているんでしょうか?

実を言うとあまり意識はしていないんです。ただどの曲をカバーするか悩んでいるときに、なんとなく選んだ曲が女性目線の曲であることは多いですね。もともと僕が得意とするジャンルはロックとかではないので、男性目線でオラオラした感じの曲を歌ってこなかったのもあって。女性目線の曲を歌うほうが楽に感じる部分が強いのかもしれないです。ただそれすらも最初は意識していなくて、再生数が伸びるとか、リクエストの多い曲が女性目線のものが多くて「あ、こういうのが求められているんだな」と自分であとから自覚した感覚ですね。

──イメージが定着していき、気付けば提供曲も女性目線の曲が多くなっていったわけですね。

そうですね。たまに「女性目線の曲を歌うことに抵抗はありますか?」みたいに聞かれることがあるんですが、一切ないんですよ。もうそういう色に染まっちゃったのかもしれないですね(笑)。

しゅーずが歌うなら、やっぱり“2番手の女”

──今作の表題曲「Velvet Night」は、しゅーずさんが初めて作詞作曲を手がけた楽曲です。アルバムに自作の曲を入れることになった背景を教えてください。

そもそも全曲オリジナルのアルバム制作が決まったとき、スタッフさんに「自分の曲を入れてみたらどう?」と提案いただいたんです。ただ作曲の経験も作詞の経験もないから「そんなことできません!」と断っていたんですが、そのときはまだ発売まで時間があったから、完成するかどうかはわからないけど、挑戦だけはしてみようと思って。それで作り始めるわけなんですが、普通に仕事がある中で未経験の作詞や作曲に取りかかることが全然できなかったんです。一度は「自作の曲を入れるのはやめよう」という話になって、実はアルバムの最初の情報出しのときは、僕の自作曲が入るとは書かれていないんです(笑)。

──確かに、全曲書き下ろしとはありますが、しゅーずさんの自作曲が入るとはアナウンスされていませんでした(参照:しゅーずの4thアルバムにみきとP、Ayase、梅とら、湊貴大らの書き下ろし曲)。

情報解禁をしたとき、アルバムの概要を語る配信をしたんですが、そのときに話しながら「このアルバム、自作の曲が入っていたほうが絶対にいいな」と思いを改めて……配信が終わったらすぐスタッフさんに「やっぱり作ろうと思います」と連絡したんです。

──アルバムの情報解禁が昨年の12月25日ですから、かなり時間のない状態での再挑戦となったわけですね。

はい。気持ちはあっても、いきなり作詞作曲ができるようになるわけじゃないから、そこを突破するのは大変でした。ちょうど年末年始の時期でもあるから、なるべく集中できる時間をまとめて作るようにして、拙いながらもメロディやコード進行をいくつか考えて、今回手伝ってくれたK.F.Jさんに編曲をお願いしたんです。K.F.Jさんは「XYZ TOUR」でもご一緒していたし、僕のイメージもちゃんと汲み取ってくれる方で、ものすごく助けられました。

──しゅーずさんのアーティスト像は、リスナーや周囲のクリエイターの期待に応えることで形成されてきた部分があるように感じていて。だからこそ、しゅーずさん自身が作詞作曲を手がけた曲がどんなものになるかは非常に気になっていました。

最初はあまり深く考えずに、自分の愛犬と出会ってすごく幸せになったという、ハッピーな曲を書こうと思っていたんですよ。ただそれが全然しっくりこなくて、曲作りが全然進まなくて……改めて自分の歌いたいもの、歌うべきものを考えようと思って過去の曲を振り返っていたら「U」という曲に行き着いて。「U」はリスナーさんがよく「リコアソング」と言って大事にしてくれている曲で、僕にとっても思い入れの強い楽曲なんですよね。「U」で歌った世界観をもとに「Velvet Night」という自作の曲が完成しました。「しゅーずが歌うなら、やっぱり“2番手の女”だな」という結論に僕自身もたどり着くことになったという(笑)。

ストバブの“遺作”

──作家さんの中でひときわ目を引くのがザ・ストロングバブルシティでした。しゅーずさんがボカロP以外から提供された曲を歌うのは珍しいですよね。

湊さんやみきとさんのように、僕のアルバムに欠かさず参加してくださる方々へのオファーはすぐ決まったんですが、新しい要素も入れたいという欲が出て。どんな方にお願いしようかと悩んでいたら、スタッフさんがストバブさんを薦めてくれたんです。彼らの音楽、ちょっとチルなイメージとどことなく香る都会感がすごく僕のイメージに合って、ぜひ曲を書いていただきたい!と。不安だったのは僕のようなボーカリストに曲を書いてくれるかな、ということだったんですが、連絡したら快く受け入れていただいて、今回「シークレットブーツ」という新曲を収録することができました。

──しかし、残念ながらストバブさんはすでに解散を発表していて……。

そうなんですよ。僕も解散することは全然知らなくて、年始にTwitterで解散の知らせを目にして驚きました。どうやら「シークレットブーツ」がストバブさんにとって最後の作品のようで。ある意味「遺作」のような大事な作品を僕が受け取って大丈夫なんだろうか……と思っちゃいました。

──提供曲を歌い続けていくのはボーカリストなので、ある意味大事なものを背負ったんだと思います。

そうですよね。大事な曲をいただいてしまったなあ。こういうのが増えていくと簡単に「辞める」とか言えなくなっていきますね(笑)。

──Ayaseさんやくじらさんといった新しい世代のボカロPによる楽曲も収録されてます。こういった人選はしゅーずさん自身が選んでいるんですか?

僕も新しいボカロPはチェックするようにしていますし、僕が気付けないところはスタッフさんに見つけてもらったりして。Ayaseさんに関してはYOASOBIがヒットするもっと前にオファーをしていたんですよ。けっこう最初のほうに声をかけていた方で、OKのお返事をいただいていたんですが、その後YOASOBIがめちゃくちゃヒットして。メディアにもたくさん登場するようになって忙しそうだったので「もしかしたら提供曲なんて手が付かない状態かもしれないな」と半ばあきらめかけていたら、ちゃんと楽曲を書いてくださって。仮歌が初音ミクで入っていたんですが、それがもう“Ayaseミク”という感じのガッツリケロケロした音で。それを聴けただけですごく得した気分になりました(笑)。

──くじらさんの提供曲「アネモネ」に関しては?

もともとくじらさんの「ねむるまち」をカバーするかどうか考えていた時期があって、くじらさんの作る楽曲と僕のイメージ、もっと言えば「夜」というアルバムのイメージがものすごくピッタリだったんですよね。それで書き下ろしをお願いしてみたら、どうやら僕のことを知っていてくれたみたいで、すぐデモを送ってくれたんです。そのデモ、めちゃくちゃよかったんですが、何度かやり取りをしていたらまったく違う曲を送ってきてくれて。それが今回収録されている「アネモネ」なんです。「アネモネ」を送ってくださる際に、「コーラスワークに関してはしゅーずさんのほうが作るのが得意だと思いますので任せます」と言っていただいて、任せてもらったことはもちろん、僕のことをよく知ってくれているというのがうれしかったですね。

職場で自分の曲が流れ……

──総括すると、しゅーずさんにとって「Velvet Night」というアルバムはどんな作品になりましたか?

世の中的にも不安な時期での制作で、僕自身、働きながらアルバムを作ることがものすごく大変で、弱気になった時期もあったんですが、アルバムの完成が近付くにつれて、ものすごくいいものを作れている自覚が芽生えたんですよね。全曲書き下ろしのアルバムなんて、めちゃくちゃ贅沢なことだと思うし、もしかしたら生きているうちにもう二度と同じような作品は作れないかもしれない。そう思い始めたら、自然とアルバムという作品への思い入れが強くなったというか、腐ってばかりもいられないなと思ったんです。言い方は悪いかもしれませんが、今までの僕は働きながらアーティスト活動をやっていたから、どこかで「妥協してもいい」みたいな逃げ場を作っていた気がして。でも今回は全曲書き下ろしで自分にしか作れない、今の自分が出せるベストを出し切ったことで、専業だろうが兼業だろうが関係なく、周りのアーティストと胸を張って勝負ができる1枚が作れたと自負しています。

──コロナ禍でも変わらず働きながらアルバムを完成させたという背景も含めて、今の自信につながっていると思います。

そうかもしれないですね。仮にコロナ禍で時間ができたからアルバムを作っていたとしたら、今のような自信にはつながっていないと思います。

──10周年という節目の年を経て、新たなアルバムを完成させたわけですが、今後のしゅーずさんの活動はどうなっていきますか?

まだふわふわしているんですよね(笑)。「アーティスト活動1本でやっていきます」とまだ言い切れない自分はいます。ただ、状況は確かに変わり始めていて、先日職場のスピーカーから僕の「アネモネ」が流れていたんですよ。これ、誰かがわざとやったわけじゃなくて、単純に社内BGMとして流しているサブスク公式のプレイリストに僕の曲が入っていたみたいなんです。職場で自分の曲なんてかかったことなかったからビックリして、そのときは仕事に手が付かなかったんですよ。あのときは頭の中に退職もチラつきました(笑)。

──アルバム収録曲の「EXPLORER」はテレビのタイアップを獲得していますし、しゅーずさんのアーティスト活動は間違いなく規模を大きくしていますよね。

必ずしも僕だけの力ではないと思うんですよね。ネット発のアーティストたちみんなががんばって、その名を広めていったからこそ、僕の音楽にもスポットが当たるようになったというか。数年前だったらネット発の音楽が職場でかかるなんて考えられなかったですから。そういう意味ではアーティスト活動に味をしめ始めているのかもしれません(笑)。なので、いきなりしゅーずとしての活動が終わることはないだろうな。

──本来であれば去年ライブの開催を予定していたとのことですが、今年ライブの開催は叶いそうでしょうか?

開催できるならやりたいですね。こればっかりは世の中の状況次第なので、現時点でハッキリしたことは言えないんですが、ステージに立たないとなかなかチヤホヤされないので(笑)。もし機会があれば皆さんにお顔を見せたいなとは考えています。