音楽ナタリー PowerPush - テレビアニメ「少年ハリウッド -HOLLY STAGE FOR 49-」Blu-ray / DVD発売記念特集 林哲司インタビュー
“歌謡曲”を塗り替えたパステルカラーの音楽
ももクロ玉井「涙目のアリス」と80年代の王道ポップス
──林さんをはじめとする同時代の先鋭的な作家やアーティストがメインストリームの中で作り上げてヒットさせた曲が、今振り返ると「1980年代の王道ポップス」になっていますよね。
ああ、そうですね。
──林さんが2012年にももいろクローバーZの玉井詩織さんに書いたソロ曲「涙目のアリス」は、その「80年代の王道ポップス」を踏襲した曲でしたよね(参照:しげるもデュークも指原も!ももクロ横アリ初日てんこ盛り)。それを現在のメインストリームに立つももクロのメンバーが歌うという構図はすごく面白かったです。
ああ、初披露のときは僕も会場で観てましたよ。
──アーバンな夜景をバックに当時のアイドルみたいな衣装で歌う演出で、場内ざわめいてましたよね(笑)。
でもあの曲はね、僕の中には正直とまどいがあって(笑)。宮本(純乃介。ももいろクローバーZらが現在所属するEVIL LINE RECORDS代表)さんの狙いとして80年代のオマージュをやりたいというのがあったと思うからそこは曲げられないんだけど、あの当時の感覚で書く気持ちにはなれなかったんです。ちょっとした反抗心じゃないけど、オメガや菊池桃子がこの曲をやるならギターのイントロのところから始まるだろうけど、その前にちょっとくっ付けたりとか(笑)、ささやかな抵抗はしました。自分の中でもただの思い出だけでやりたくないというのはあったし、「少年ハリウッド」の楽曲でも、別のアレンジャーを立てたらメロディがまた違って聞こえるのかな?とか、そういう冒険はやっていきたいと思うんですよね。
──「少ハリ」の音楽もある意味「男子アイドルの王道とは何か?」みたいなものが見えてくる楽曲で興味深いなと思ったんですよ。物語、空想の中で存在する男子アイドルのための楽曲という。
これもいわゆる男子アイドル像を意識しつつも、どの曲にも必ずそれだけでは終わらない何かを加えてるんですよ。若いアレンジャーと組んでいることもそうだし、「このコード進行は当時やってなかったな」みたいな企みは、ひそかに忍ばせてあります(笑)。それはアニメの視聴者に伝わらなくても全然オッケーなところなんですけどね。
いくつものフレーズをを捨てた上で完成した「ハロー世界」
──「少ハリ」楽曲の制作過程はどのように?
まずは「ぜんハリ」(ZEN THE HOLLYWOOD。「少年ハリウッド」プロジェクトの楽曲を公式にパフォーマンスするアイドルユニットとして2013年4月より活動している)の曲を書いて、次にアニメ用の楽曲制作に取りかかったんですけど、オープニングテーマの「ハロー世界」はなかなかできなかった。最終形にたどり着くまで、いくつフレーズを捨てたことか(笑)。
──そんなに悩むことってこれまでにもあったんですか?
ありますよ。シングル曲というか、“代表曲”を作るというプレッシャーはどんなアーティストに対しても必ず。自分が担当したアーティストの数字は落とせないというプロ意識があるから。昔はもっと数字というものがシビアに出ていたから、例えば10万枚売れているアーティストが次に出した作品が9万枚だったら、それは自分自身が許せない。11万枚にするのが自分の責務だと思うし、例え9万枚売れたとしても負けなんですよ。制作過程でそれをどう判断するかというと……小説家でも誰でもプロと呼ばれる人はみんなそうなんだけど、自分が作るものは自己判断できますから、それを上回っているかどうか。他人の判断はどうあれ自分の中で「これはいい」というのはわかるんですよ。時間が経った頃に「あの判断は間違ってたな」ということもありますけど(笑)、少なくとも書いた瞬間にある基準を超えたかどうかは、長くやっていると感覚的にわかるんです。
──でも基準を超えなかったフレーズは“捨てる”んですね。もったいない!と思っちゃいますけど。
作り始めたらわかるんです。このフレーズはつなげていける、完成までいけるかどうかというのは。増幅する自分の感情が次のメロディを生み出す、そういう相乗効果が自分の中で発酵してくる瞬間というのがあるんだけど、今回はそれがなかなか出てこなかった。そのトンネルを抜け出たのが「ハロー世界」。締め切りという期限があるところで修羅場を踏んできたから、最終的に必ず答えが出るとは思ってるんですけど、やっぱり苦しむんですよね。シングル曲、代表曲を作るのは、サッカーで言うところの代表戦決勝のような感じがあって、同じ1試合でもほかの試合とは疲れ方が全然違う。必ずしも苦しんだほうが正解ということはなくて、リラックスしたほうがいい結果を生むことももちろんあるんだけどね。
──若いクリエイターとの曲作りはいかがでしたか?
面白いですね。向こうも何かつかむものはあるかもしれないけど、僕はしっかりもらってますよ。もちろん先輩として「この人はここをちょっと勉強すれば、もっと素晴らしい音楽家になるな」と気付くところはあって、喉元までは出てくるんだけど言わない(笑)。昔の僕がそうだったように、セオリーの上に乗っからないほうがいい面白さを持っているから。面白いなと感じた部分を自分の作品に反映してみると、なるほどなって気付くところもあるんです。具体的に言うと、みんな音数が多い。これで成立してるじゃん、って思うところの上に音がいくつも乗っかっていたり。これは機材の進化が大きいと思うんだけど、トラックは数限りなく使える。この功罪はあると思いますね。
──レコーディング環境が音楽そのものを変化させている。
うん。僕らはスコアに書くところから始まってるでしょ。スコアは最大限で18段ぐらいだから、つまり最大18トラックで足りるわけ。でも、そのテクノロジーを最大限に駆使して作っている様子を垣間見ていると、少しは自分の中にも流用できるなと感じるところもあるんです。
最新リーダー作は“洋楽”アルバム
──アニメの音楽を作るのはほかと違った難しさもありますか?
これまでアニメの主題歌をやったことはあったけど、劇中音楽までやるのは初めてなんですよ。映画の劇伴もやったしロールプレイングゲームもやったけど、アニメは初めて。
──各キャラクターに当てた楽曲もありますし、1話まるまる1つの音楽番組として放送されて大きな波紋を呼んだ第10話「ときめきミュージックルーム」では、ベテラン演歌歌手の曲まで書き下ろしで(笑)。
あはははは(笑)。
──同じく歌番組のゲストとして出ていた高杉ちえりの「チェリーチャンス」は、玉井さんの「涙目のアリス」以上に完全な80年代アイドルのパロディになっていましたよね。
高杉ちえりはもうハッキリと「80年代アイドルをやってくれ」というオーダーがあったので、僕の中では完全に松田聖子ですよ(笑)。このへんは楽しんでやりましたね。
──今回はアニメの世界観ありきの音楽でしたが、もし今、なんの制約もない中でご自身のリーダーアルバムを作るとしたら、どんな作品になると思いますか?
……実はね、ちょうど今リーダーアルバムを作ってるんですよ。
──おおー!
それはソロアルバムでも、今まで作ったことのない形で。なんで今までこんなアルバムを作らなかったんだろうなっていう……。ひとことで言うとクインシー(・ジョーンズ)みたいなアルバム。ソロアルバムというと、ついつい自分が歌うものだと考えてしまっていたけど、今作っているのは全編英語で、シンガーも向こうの人。
──「林哲司による洋楽アルバム」ということですね。
そうですね。僕の中にルーツとしてある洋楽をそのまま出してみたらどうなるのかなって。本当に近々、来年の早いうちには出したいなと思っていますね。今回の仕事があったから予定より少し先延ばしになっていたけど、近いうちに報告できるんじゃないかと思います。
- Blu-ray / DVD「少年ハリウッド -HOLLY STAGE FOR 49- vol.1」2014年10月8日発売 / スターチャイルド
- 「少年ハリウッド -HOLLY STAGE FOR 49- vol.1」
- Blu-ray+CD / 6480円 / KIZX-153~4 / Amazon.co.jp
- DVD+CD / 6480円 / KIZB-161~2 / Amazon.co.jp
収録内容
収録話数:テレビ放送第1~2話
音声&映像特典
- 各話ノンクレジットエンディング
- アニメ「少年ハリウッド」最初で最後の製作発表会!~ハリウッド東京に神光臨マヂカ~【前編】
(出演:蒼井翔太(富井大樹役)/ 小野賢章(舞山春役)/ 阪口大助(富井実役)/ 鈴木裕斗(大咲香役)/ 保志総一朗(広澤大地役)
特典CD収録内容
- 第1話エンディングテーマ「ハリウッドルール1・2・5」風見颯(CV:逢坂良太)、甘木生馬(CV:柿原徹也)、佐伯希星(CV:山下大輝)、富井大樹(CV:蒼井翔太)、舞山春(CV:小野賢章)
- 第2話エンディングテーマ「子鹿のくつ」風見颯(CV:逢坂良太)
封入特典
- 各話エンディング主題歌ポストカード
- ブックレット
初回プレス分 封入特典
- 特別バッジ
- オフィシャルバッジ応募券
- vol.1~3連動イベント参加抽選券
収録曲
- ハロー世界
- 永遠never ever
- ハロー世界 off vocal ver.
- 永遠never ever off vocal ver.
歌:少年ハリウッド[風見颯(CV:逢坂良太)、甘木生馬(CV:柿原徹也)、佐伯希星(CV:山下大輝)、富井大樹(CV:蒼井翔太)、舞山春(CV:小野賢章)]
林哲司(ハヤシテツジ)
1972年チリ音楽祭をきっかけに、翌1973年にシンガーソングライターとしてデビュー。以後作曲家としての活動を中心に作品を発表し、洋楽的なポップスセンスはいち早く海外でも高い評価を集める。1977年にはイギリスのバンドJigsawに提供した「If I Have To Go Away」はアメリカやヨーロッパでヒットを記録した。1970年代後半からは日本のアーティストに数多くの楽曲を提供し、竹内まりや「セプテンバー」、上田正樹「悲しい色やね」、杏里「悲しみがとまらない」、杉山清貴&オメガトライブ「ふたりの夏物語」などヒットを連発。洗練されたメロディとサウンドでヒットチャートや音楽番組に新たな風を吹かせた。そのほか映画「ハチ公物語」「遠き落日」「釣りバカ日誌13」やテレビドラマ「人生は上々だ」「ブランド」などの劇伴も多数手がけ、Jリーグ・清水エスパルスの公式応援歌や国民体育大会「NEW!! わかふじ国体」などのテーマ音楽も担当。2000年代からはチープ広石、吉田朋代とのユニット・GRUNION(グルニオン)でも活動し、2011年4月には杉山清貴とのコラボレーションアルバム「KIYOTAKA SUGIYAMA MEETS TETSUJI HAYASHI REUNITED」を発表した。2014年7月より放送されたテレビアニメ「少年ハリウッド -HOLLY STAGE FOR 49-」ではキャリア初のアニメ劇伴を手がけ、オープニングテーマ「ハロー世界」ほか多くの楽曲を提供した。
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