音楽ナタリー PowerPush - テレビアニメ「少年ハリウッド -HOLLY STAGE FOR 49-」Blu-ray / DVD発売記念特集 林哲司インタビュー
“歌謡曲”を塗り替えたパステルカラーの音楽
パステルカラーな林哲司メロディの源流
──林さんがこれまでに手がけた楽曲をまとめて聴いていると、ある種の匂いが立ち上ってくる感じがするんです。今日はその匂いの正体を突き止められたらなと、過去の作品をいくつか持ってきました。全ディスコグラフィを上げると膨大な数になりますが、ご本人ではどのぐらい覚えているものなんですか?
(レコードを手にしながら)いろいろあるなあ。これ、本当に僕が作ったものですか?(笑)
──シングルを数枚出しただけの歌手で、それもB面のみという曲は、それこそデータを探すのも困難かもしれないですね。
だいたい覚えているものなんですけど、中にはまったく忘れているものもあるなあ。このアーティストは覚えてますね。「ひーみつしたいナ」って(黒沢ひろみ「秘密したいナ」を口ずさみながら)。このシングル(木村恵子「ダイヤモンドの月」を再生しながら)はすっかり忘れてたけど……聴いてみるとメロディは確かに自分のものですね。同じ頃、CMでバート・バカラックの未発表曲をアレンジする仕事があって、そのときに歌ってもらったのがこのアーティストです。自分の作った曲の中ではちょっと異色な感じもしますけど。
──異色な中にも感じる、林さんの楽曲ならではの匂いがこの曲にもあると思うんです。懐かしいレコードを聴いていて「アレッ?」と思ってクレジットを見ると「作曲:林哲司」と書いてあった、という体験が何度もあって。その匂いの正体は、ご本人の中に理論として説明できるものがあるのでしょうか。
自分のメロディの特長って、自分の中に染み付いちゃっているものだから、どんな曲にもどこか自分というものが出ていると思うんですよ。メロディ運びを見たときに「なんでこの音に上がったんだろう」というのは、メロディのうねりの中で自分が行きたいところが必ずあるんです。その波長が合う音楽を人は好きになるんでしょうね。どんな作曲家さんにもいろんなカラーがあると思うんですけど、僕がよく言われるのはハーフトーンというか、パステルカラーみたいな感じ。淡いブルーとかね。
──パステルカラーはまさに!というイメージですね。
自分が普段聴く音楽も、どぎつい原色よりはパステルカラーのほうが多いし、それが個性になっているのかなとは思いますね。
──個性の元になっているルーツミュージックはどういうものですか?
さっき言ってくれた「アレッ?」と思ってクレジットを調べたらこの人だった、というのは僕にもあって。小さな頃はFEN(アメリカ軍基地向けのラジオ局)のヒットチャートをよく聴いていて、全米トップ40なんかを聴いて「これいいな」と思ったものはだいたいバート・バカラックだったり。今で言う“ソフトロック”と呼ばれるものは、数あるポップスの中でも波長の合う音楽でした。ロックも好きだけど、自分が中心に集めていたものはソフトなポップスが多かった。そうやって蓄積されたものが自分の中にあると、吐き出すものもそうなっていくのかなと思いますね。
──やはりメロディと和音、ハーモニーを軸にした音楽というか。
メロディとリズムと和音……それはどの音楽にもあるものですけど、たぶん自分にとって一番の軸になるのはメロディで、そこに寄り添う和音で色を出して。リズムを強調して押し出すタイプではないですね。だから同じロックの中でも、メロディやハーモニーがはっきりとしたソフトロックに惹かれたんだと思います。
配信音楽の“ジャンル分け”が生んだ時代の締めくくり
──林さんの楽曲で特徴的だなと感じるのは、マイナーコード、短調をベースにした曲の中にほんのワンフレーズ長調が差し込まれてある種の爽快感を感じる瞬間です。海面から一瞬顔を出して空気を吸う瞬間みたいな。その短調1色ではない感じがパステルな色合いを生んでいるのかなあと考えていたのですが。
ああ、それは当たってますね(笑)。でもそれは、あえてそういう技を入れているというよりも、自分の性格や聴いてきた音楽の影響が自然に出てしまうんだと思います。例えば映画でも、いかにも「ここで泣いてください!」みたいな“泣かせる映画”は好きじゃない。どちらかというと淡々とした中に泣ける要素を感じさせてくれる映画のほうが好みなんですよね。映画音楽をやるときは1本の映画で30~40曲作るんですけど、その中でも「ここは直球で行かなきゃ」というところ以外は、にじませるぐらいの感じでいい。
──その美意識は、林さん自身のソロ作品にも感じます。
業界の中で自分のスタイルが定着したのは、おそらくオメガ(杉山清貴&オメガトライブ)なんですよ。僕がオメガの曲を書いてた頃は、日本の音楽シーン自体まだ歌謡曲がメインだったけど、少しずつ変化していた時期で。オメガが当たり始めた頃に少しずつ自分の趣味を反映させていって、あえて少し複雑なコードを乗せてみたり、これをリスナーがどう受け止めてくれるかな?というのは意識してましたね。それまでの大衆的な音楽にはマイナー7thまではOKだったけど、9th、11thまで大丈夫かな?って探りつつ入れてみたら、案外受け入れてもらえた。理論ではわからなくとも、今まで聴いていたものとは違う新鮮な響きとして受け取ってもらえたんです。それでようやくジャストミートできた実感がありましたね。
──当時小学生だった僕ぐらいの世代だと、その微妙なニュアンスの変化を歌番組などで無意識に刷り込まれてるんですよ。
ヒットやブームって面白いなと思うのが、その10年前に同じことをやったとしても時期尚早で、おそらく感じ取ってもらえないと思うんです。あの時期にオメガとかがヒットしたのは、僕がやりたい音楽とリスナーが求めた新しい刺激が合致したからなんですよね。筒美京平さんはどの時代も求められているものを生み出すプロフェッショナルな作曲家ですけど、僕はどちらかというとそういうタイプじゃなくて。時代が自分を求めていたんだと思うんです。自分でも不思議なんだけど「これも当たっちゃうの?」みたいな感覚はありましたよ。
──これが受け入れられるなら、もっと踏み込んでもいいかな?とか。
そういうこともありましたよ。カテゴリ分けって本当に不思議で、iTunesの時代が来たときに……iTunes Storeではジャンルが表示されるでしょ。あそこでオメガのジャンルは「歌謡曲」なんですよ。あれを見たときは一瞬ショックだったのね(笑)。アルバムの中には、今リリースしたとしてもこれを歌謡曲と呼ぶかい?みたいな曲もあって。iTunes Storeで曲を買う層には「歌謡曲」のほうが単純にわかりやすいからという分け方なのかなと思うんだけど、それは僕にとって時代の締めくくりを感じた出来事だったんですよね。
──なるほど。
今、「林哲司&半田健人 昭和音楽堂」(静岡放送)というラジオ番組をやっていて、昭和30年代の歌謡曲までいろいろと振り返ってるんだけど、改めてすごさを感じたのは中村八大さん。浜口庫之助さんやいずみたくさんもそうだけど、あの時代にジャズ的なコードを取り入れながら歌謡曲として表現しているのは、本当にすごいことだなと。八大さんが書いた坂本九さんの「上を向いて歩こう」なんて、メロディはシンプルに聞こえるけど、当てているコードはものすごく複雑に展開しているんですよね。それも今は「歌謡曲」を代表する1曲になっている。
──チャート上位だけを眺めてもこれだけ多種多様になってしまうと、例えばテレビで観られる、お茶の間に流れる音楽はすべて「歌謡曲」として収められるかもしれないですよね。
“王道”がなくなってしまった、ということなんでしょうね。EXILEが将来「歌謡曲」と呼ばれるようになるかわかりませんけど(笑)、時代が経って想像も付かないような音楽が生まれたとき、もしかしたらユーミン(松任谷由実)の曲でさえ「歌謡曲」になる時代が来るのかもしれない。これだけ雑多になると、王道がどこにあるのかわからないですよね。80年代は歌謡曲というメインストリームがある中で僕らのような音楽家が出てきたわけだけど、それでも主流のメロディみたいなロジックはあって、あくまでその中でやってたと思うんですよ。
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- Blu-ray / DVD「少年ハリウッド -HOLLY STAGE FOR 49- vol.1」2014年10月8日発売 / スターチャイルド
- 「少年ハリウッド -HOLLY STAGE FOR 49- vol.1」
- Blu-ray+CD / 6480円 / KIZX-153~4 / Amazon.co.jp
- DVD+CD / 6480円 / KIZB-161~2 / Amazon.co.jp
収録内容
収録話数:テレビ放送第1~2話
音声&映像特典
- 各話ノンクレジットエンディング
- アニメ「少年ハリウッド」最初で最後の製作発表会!~ハリウッド東京に神光臨マヂカ~【前編】
(出演:蒼井翔太(富井大樹役)/ 小野賢章(舞山春役)/ 阪口大助(富井実役)/ 鈴木裕斗(大咲香役)/ 保志総一朗(広澤大地役)
特典CD収録内容
- 第1話エンディングテーマ「ハリウッドルール1・2・5」風見颯(CV:逢坂良太)、甘木生馬(CV:柿原徹也)、佐伯希星(CV:山下大輝)、富井大樹(CV:蒼井翔太)、舞山春(CV:小野賢章)
- 第2話エンディングテーマ「子鹿のくつ」風見颯(CV:逢坂良太)
封入特典
- 各話エンディング主題歌ポストカード
- ブックレット
初回プレス分 封入特典
- 特別バッジ
- オフィシャルバッジ応募券
- vol.1~3連動イベント参加抽選券
収録曲
- ハロー世界
- 永遠never ever
- ハロー世界 off vocal ver.
- 永遠never ever off vocal ver.
歌:少年ハリウッド[風見颯(CV:逢坂良太)、甘木生馬(CV:柿原徹也)、佐伯希星(CV:山下大輝)、富井大樹(CV:蒼井翔太)、舞山春(CV:小野賢章)]
林哲司(ハヤシテツジ)
1972年チリ音楽祭をきっかけに、翌1973年にシンガーソングライターとしてデビュー。以後作曲家としての活動を中心に作品を発表し、洋楽的なポップスセンスはいち早く海外でも高い評価を集める。1977年にはイギリスのバンドJigsawに提供した「If I Have To Go Away」はアメリカやヨーロッパでヒットを記録した。1970年代後半からは日本のアーティストに数多くの楽曲を提供し、竹内まりや「セプテンバー」、上田正樹「悲しい色やね」、杏里「悲しみがとまらない」、杉山清貴&オメガトライブ「ふたりの夏物語」などヒットを連発。洗練されたメロディとサウンドでヒットチャートや音楽番組に新たな風を吹かせた。そのほか映画「ハチ公物語」「遠き落日」「釣りバカ日誌13」やテレビドラマ「人生は上々だ」「ブランド」などの劇伴も多数手がけ、Jリーグ・清水エスパルスの公式応援歌や国民体育大会「NEW!! わかふじ国体」などのテーマ音楽も担当。2000年代からはチープ広石、吉田朋代とのユニット・GRUNION(グルニオン)でも活動し、2011年4月には杉山清貴とのコラボレーションアルバム「KIYOTAKA SUGIYAMA MEETS TETSUJI HAYASHI REUNITED」を発表した。2014年7月より放送されたテレビアニメ「少年ハリウッド -HOLLY STAGE FOR 49-」ではキャリア初のアニメ劇伴を手がけ、オープニングテーマ「ハロー世界」ほか多くの楽曲を提供した。
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