衣服を知らずに育った人種
──では1stアルバム「卒業」についてお話を伺います。ここには、先輩が後輩にするような恋のアドバイスをテーマにした曲や、社会に羽ばたいていく学生たちに送るメッセージソングなど一風変わった学園ソングが並んでいますが、ときおり登場する社会人として七転八倒しながら生きる男の嘆き歌がアクセントになっていますね。これら准教授が書いた歌詞は、デシベルくんにはどう映ってますか?
デシベル まだ学生なのでそこは未知の部分なんですが、そういった表現ってある意味で表面的な部分とも言えるわけで、直接的には言えない大事な何かがその奥にあるんじゃないかってことをどこか感じたりもします。それが大人なのかなって気がしていて。
──その言葉にはできない本質的な部分は、准教授と音楽を作っていくうえでいろいろと見えてきている?
デシベル ミュージシャンにはいろんなタイプがいると思うんですが、僕から見た准教授のミュージシャン像って、味とかそういったもので誤魔化せるものじゃない何かを持った人だという気がします。特に飾りもしないし味付けもしないでそのままだからこそ、歌詞の言葉1つとってもほかの人とは違う響きがあるのかなって気がしていて。
──確かに、裸のポップミュージックって感じはあるかも。
デシベル 衣服を知らずに育った人種、みたいな(笑)。
──ジェネレーションギャップもアルバムの重要なコンセプトになってますね。
准教授 それは音作りの面でもそう。ギャップはどうしても生じるけど、最初からどっちかに偏ることはないだろうとも思えたし、「どういうふうに混ざり合うんだろう?」って興味が常にあった。反発させるのではなく、どうしたら融合させられるか。どのバランスがどういうふうに働いているのか正直、今でもつかめていないんだよね。計算してやってないので。でもアルバム12曲、すべて結果に満足しています。僕が作るメロディラインには1980年代のニューミュージックや歌謡曲のエッセンスがどうしても出てきちゃうんだけど、それをデシベルが持っている今っぽい感じと狙って融合させるのは、計算ではなかなかできないんだよね。これだけ年齢が離れていると。
──親子ほどの差がありますからね。
准教授 うん。ただし、お互い無理して音楽性をすり合わせながらやっているわけでもない。人間的な部分はさておき(笑)、音の選び方におけるセンスとか、「ここにこれぐらいの音を入れたい」とかいうさじ加減が似ていたりするんだよね。最近よく思うんだけど、ものの考え方や価値観とか、合う合わないってことが世代の違いによってたくさんある。それってなんでかなと思うと、こちらはこちらで「若い奴らは……」って思っていて、向こうは向こうで「おっさんたちは……」って思っている。ズレるのは当たり前で、喧嘩するのも当たり前。目の前にある違いばかりに気をとられて、成功するという向こう側のことを置き去りにしてしまっているんじゃないか。そういうギャップを埋めるきっかけを与えるヒントを、師弟TUNEの音楽から感じ取ってもらえたらって思うんだ。
「こいつと一緒にやりたいんだからしょうがないじゃん」
──1stシングル「恋のQ&A」をはじめ、すでに数本のミュージックビデオが制作されていますが、大学の学生やほかの教授を巻き込んで撮影しているのが面白いですね。それも師弟TUNEの活動コンセプトの1つなのでしょうか?
准教授 うん、アルバムジャケットなども含めて、師弟という関係を広げていろいろ巻き込んでいけたら面白いなと思って。それが結果的に素人臭くなったとしても、それでいいじゃないかっていう。
──師として大きな気持ちで受け止めようと。なんかゼミの発表みたいな感じなんですかね。
准教授 そうそう、それに近い。でも「こんだけできるんだぜ!」ってところを観てもらいたい。
──准教授さんのアーティスト活動に学校全体を巻き込んじゃう。そんなことが許されるのもすごいですよね。
准教授 実は今でもドキドキしていることなんだけど、なんとかできちゃってる。ひょっとしたら「この活動は学校の宣伝のためにやってるんじゃないか」と思われるかもしれないけど、全然そんなことはないんだよね。それに、デシベルとつるんで活動していることって、ある意味でえこひいきしていることにもなっちゃうから、ちょっと冷ややかな目で見られている可能性もあるけど、「こいつと一緒にやりたいんだからしょうがないじゃん」ってもう開き直ってる(笑)。
──そんな准教授からの熱いひと言をいただいてどうですか?
デシベル ま、しょうがないですよね(笑)。誰に何を言われようが、そうするしかないですから。
准教授 デシベルは覚えているかどうかわかんないけど、ある教授から「なんでこんなことをやってるの?」って質問されたんですよ。そしたらデシベルが俺を指して「この人を成功させるために僕はやってるんです」ってきっぱり言い放ったんだよ。常日頃から「『ミュージックステーション』に出たい」とか言ってるからね(笑)。
別れがあるからこそ、関係が永遠になる
──アルバムは「卒業」というタイトルで、実際のところ“卒業”というフィナーレに向かって突き進むように疾走していくわけですが、何度か聴きながら、この2人の関係にはあらかじめ別れというものが運命付けられている、だからこそ今という時間を燃焼させなければ、と言うような切迫感が生まれていて、それがスピード感あふれるサウンドを引き出している気がしました。
准教授 それは言う通りで、もうすぐ実際に大学を卒業するデシベルと僕は、准教授と学生という関係も終わるわけです。次の作品を作る場合には“准教授+学生”というキャッチフレーズはもう使えなくなるわけで、だから今この時点でもう僕らは卒業なんですよ。デシベルは就職もすでに決まっているし、僕は僕で准教授を続けていく。そういう中で僕ら2人がどういう音楽を作り出せるのか。だからこの関係性における師弟TUNEは卒業なんだけど、その先には新たな関係の師弟TUNEがまた待っている。この4月からね。
──師弟TUNE第1章の総括がこのアルバムだと捉えていいわけですね?
准教授 そうですね。でも別れがあるからこそ、その人との関係が永遠になるような気もするんですよね。例えばデシベルぐらい深い付き合いをしたならば、もし離れ離れになったとしても、心は死ぬまでずっとつながっているような気がするんだよね。だからそんな悲しいことじゃない。
デシベル 別れってそもそも自然なことだと思います。今深い付き合いをしていたとしても、それが永遠に続くってことはあり得ない話だし。例え別れたとしてもあっけなく終わる、ってことはないと思うし。
──さよならだけが人生だ。でも師弟愛は永遠に消えることはない。素敵ですね。ところで、新しい扉の向こうにある第2章はもう2人に見えてるんですか?
准教授 それは第1章と同じく新しいダンスミュージックの形を模索していくだろうということだけは言えます。さらに言うと、新しいダンスミュージックでありながらポップであること。そこにブレはないですね。
──それって新たなアプローチに着手して、音楽性がガラリと変わる可能性も孕んでいる?
デシベル そうなるかもしれないですね。でもわかんないですね。
准教授 これ以上詮索してほしくないですね。
──(笑)。では戦略として考えていることなどあれば。
准教授 もっとクラブフィールドに足を踏み入れたいですね。デシベルはもともとDJ志望でもあるし。
──ダンスミュージックとは言え、師弟TUNEの曲は夜更けに1人ヘッドフォンで聴くのも似合うタイプですよね。大声を張り上げて大人数に聴かせたい、と言うよりは1人ひとりにそっと手渡したい、という気持ちが透けて見えてくる音楽でもある。
デシベル そもそもバカ騒ぎするための音楽には興味がなくて。落ち着いて聴くことができて、なおかつ考える余白を与えることができたらなって思いはありますね。
──最後の質問ですが、「師弟TUNEにとっての音楽とはなんぞや?」ってことをお聞きしたいです。
准教授 最近よく考えるんだけど、恋人や親友のようにいつも近い場所にいるはずなのに、どうしても手が届かなくって、いつだって認めてほしいという気持ちで追いかけている、そういう存在かな。向き合っているときはすごく充実感があって、落ち着きが得られるんだけど、その一方で「いつかまた離れていってしまうんじゃないか?」とか思っちゃうんだよね。
デシベル 僕にとって音楽は生き甲斐です……なんて言うつもりはまったくないですけど(笑)。と言うか、あまりに当たり前な存在すぎて大袈裟に言うことができない。どうしようにも、止められないもの。食事と言うより、排泄物に近い。特別なものとして分けることすらできないですね。
──今回師弟TUNEの作品ができあがって、こうして世に問われるわけじゃないですか。そういう経験を経てもなお、音楽との関係性はなんら変わらないですか?
デシベル いやあ、変わんないですねえ。
- 師弟TUNE「卒業」
- 2018年2月21日発売 / NICO MUSIC
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[CD]
2700円 / NICO-6
- 収録曲
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- 内向的ガール
- Hideaway
- 教訓
- hold me tight
- Lady Blue
- 恋のQ&A
- 就活
- moonlight
- Rave you,Review
- 輪廻転生七転八起
- 恋 was Lie
- 卒業
- 師弟TUNE(シテイチューン)
- 愛知・名古屋の私立大学で働く准教授(Vo)ことシンガーソングライターの柴山一幸が、学生であるデシベル(G, Programming)と組んだ“リアル師弟”音楽ユニット。「迷える学生達にエールを! 迷えるオヤジ達にエールを!」をスローガンに楽曲制作を進め、2017年11月の「レコードの日」に合わせて1stシングル「恋のQ&A」を発表した。2018年2月に1stフルアルバム「卒業」をリリース。