師弟TUNE|ロックな准教授と引きこもり学生の“リアル師弟”タッグ

“引きこもり少年”デシベルと音楽

──デシベルさんの音楽遍歴を教えてもらえますか?

師弟TUNE

デシベル 幼い頃は音楽にまったく興味がなくて、周りに話を合わせるためにヒット曲をチェックするぐらいでした。音楽が好きだと言えるようになるのは中学2年の頃。きっかけはYouTubeです。素人が投稿する“弾いてみた”っていう動画を知って、そのなかにマキシマム ザ ホルモンの曲をコピーしている動画があり、初めてベースギターの存在を知るわけです。指で弦を弾いているのを初めて目にして、自分の意思でやってみたいと思ったんです。富山の楽器屋さんでベースを買ってもらってからのめり込みましたね。でも結局ベースは挫折したんです。意味がわかんなかったから(笑)。

──(笑)。

デシベル そこからいろんなライブDVDを観るようになって、ライブ本編よりもオマケで付いているバックステージを映したドキュメンタリーと言うか、ツアームービーばかり何十回と観てました。

──それはなぜ?

デシベル 完成されたライブステージよりも、ミュージシャンの人間的な部分が見えてくるオフショットに惹かれたんです。

──それはもともと人間臭いものに興味を抱きがちな少年だったってこと?

デシベル そうですね。その人の本質が見えてこないものはあまり好きじゃない。別に人間観察が趣味ってわけじゃないんですが、昔から自然とそうしちゃっているところがありまして。理由の1つに、自分がやっていることが正しいと思えないところがあり、例えば人が飲んだり食べたりする際、みんなどういうふうにやっているんだろう?ってことをまず分析する。そうやって僕のスタイルが一般的なのかどうかを確かめていた。

──かなり変わった少年だったんだろうなってことはよくわかりました。中学のときはどんなふうに音楽と関わっていたんですか?

デシベル まあ、寝て、起きて、パソコン触って、楽器持って。で、寝て、起きて……の繰り返しでしたね。

──えっと、学校生活は?

デシベル はい、行ってないです(笑)。

──中学校に行かなくなった理由を聞いても大丈夫ですか? 言いづらかったらけっこうですが。

デシベル

デシベル 特に大きな理由があったわけじゃないんですよ。遡ってお話しすると、育ったのは飛騨高山ですが、生まれは名古屋なんです。実を言うと、僕の両親は実の親じゃなくて、僕が0歳のときに養子で家族になったという。当然物心つく前から今の両親なのでなんら違和感はなかったし、言葉がわかるようになった頃にはその事実を聞かされていたんで、別に不思議にも思わなかった。ただ周りとはちょっと違うんだな、って感覚がありました。で、小学校は楽しくやれてたんですが、思春期にいろいろと考えるようになり、自分は周りに溶け込めているのだろうか、ってことが気になり始めた。そこから人付き合いってことがよくわからなくなりだしたんです。勉強もスポーツも真面目にやってたし、「親に迷惑をかけないように」と思ってたんですが、それって人の顔色を伺っていたような感じで、自分で自分の首を絞めていたところがあった。あと中学に入ったときの健康診断で検査に引っかかって、大きな病院へ行って見てもらったところ、日本人にはあまりいない難病だったことが判明して。僕の場合は軽度だったのでよかったんですが、そういう病気を抱えながら生きてきたってことを知ったのもショックで。そこで人とは違うって要素がまた1つ増えたような気になっちゃったんです。

──そうだったんですね。

デシベル そういうことから人間関係も含めて何かよくわからなくなってきて、入学後すぐにフェイドアウト。そこから2年近く引きこもり生活が続きました。

音楽で自分の居場所を見つけた同志

──外に出なきゃって気持ちが芽生えたのは、やはり音楽という存在の後押しが大きかったから?

デシベル はい。YouTubeだけじゃなく、ラジオとか音楽雑誌のインタビュー記事に触れるようになって、そこに出てくる名前をチェックしながら気になるものをリストアップして、CDを買ったりするようになるんです。もっと外に出ていかなきゃいけないなって背中を押してくれた音楽としては、ELLEGARDENが大きいですね。ボーカルの細美武士さんのインタビューは何度も繰り返し読みました。

──人間臭いものが好きなのに、どうしても距離を置きながら観察してしまう。その両方が共存している性格ってなかなか面白いですね。

師弟TUNE

デシベル 本質を見極めたいって思いが常にあるんですよね。ただ、実際に自分が目で見ているもの、現実に対してあまり心が開けてないと言うか。

准教授 本質的は情に脆いと言うか人間として熱いんだけど、相手の懐に入り込みたいけど基本的に人を信用していないから「うまくいかないんじゃないか?」って不安が頭をもたげてしまう。失敗を犯さないために自分が熱くなければいいと言うか、行きすぎないようにセーブしているのかもね。

──その辺は准教授も共感できるんですか?

准教授 僕は思いっきり突進していって何かと失敗しちゃうタイプ。デシベルは観察するところで留まれるじゃん。でも僕はいつも感情のままに流されちゃうんだよな。人間臭いところが好きだってところは似ているんだけど。

──目指すべき部分は同じながらもタイプとしては真逆、そこも影響していい関係性が築けているかもしれないですね。

准教授 かもしれないね。これはなぜデシベルと組んだかって理由につながってくるんだけど……僕は、誰かが自分を認めてくれている実感が得られたこと、ここが自分の居場所だって思えたことが一度もなかったし、今でもない。だからそれを他人に求めちゃうところがあって。承認欲求と言うのかな。デシベルもそういう部分があるように感じたの。そこは決して自分の中で好きな部分じゃないんだけど、それがあったからこそ音楽を得てこの世界に自分の居場所を見つけることができたところは、こいつ一緒だなと思ったんですよ。付き合いをしていくにつれて見えてきたかな。年齢は違うけど同志と言うかね。

デシベル こんなに年の差があって、こんだけ考え方も違うし、こんだけやれていることも奇跡かもしれませんが、見据えているものが同じだという感覚だけは常にあるんですよ。

准教授 言葉にしにくいんだけど、音楽に対して抱いている切なさって言うか……僕、いつも「音楽に依存する」って表現をよく使うんですけど、彼にも似たような匂いを感じた。「趣味で音楽をやってます」というのとは違った、もっと切迫した気持ちを持っている、そんな気がしたのかな。

手本にしようとは一切思わないですね

──ところでデシベルさんにとって准教授との年齢の違いはどう感じていますか? 今のデシベルさんにとって准教授は大人代表と言っても過言ではない存在だと思うのですが。

准教授 一応先生だしね(笑)。

デシベル ガッツあるし、パワフルだし、無茶するし……そういうところは僕ら世代の人間にはなかなか見られないものだったりする。どうしてもいろいろ考えちゃって「勇気出して行ってみよう!」とはならないんですよ、僕らだと。

──無茶、ってところは確かに人より抜きん出ているかもしれないですね。准教授がやってる音楽って王道ポップスだけど、ライブを観るといつも「イギー・ポップか!」というぐらい暴れ回ってるし。

准教授 この際、正直に言おうか。見習うべきところが1カ所でもあるのかどうか。

デシベル 手本にしようとは一切思わないですね。

──その辺はきっぱりと線を引いているわけですね(笑)。ところで、師弟TUNEには決まった制作スタイルってあるんですか?

師弟TUNE

准教授 まずすべて詞は僕が書く。アレンジはデシベルが担当しているんだけど、初期によくやっていたのは、例えば「Phoenixのあのアルバムのあの曲とか手本とするものを見つけて、あの感じでオケ作ってみようか」というような作り方。そして「お次はこちらから、こういうBメロはどう?」って新たな要素を出してみたりして、往復書簡のような形でどんどん作っていく。

──昨年秋の初ライブを拝見しましたが、デシベルさんはそれまで一度も人前で演奏したことがなかったんですよね?

デシベル はい、一度も。でも、緊張はまったくしなかったです。と言うのも、人前に立ったことはなかったけど、パソコンの前でずっと練習してきてましたから。

──なるほど。映像の中のミュージシャンに成り切って、バーチャルなライブ体験を味わっていたと(笑)。

デシベル 中学の頃からなんで、準備期間は長いです(笑)。自分の中だと、人前でやる準備はすでに整いすぎていたぐらいで。

准教授 あれだろ、「今日はジョニー・マーになろう」とか決めてYouTubeを観てたんだろ? 何年にどの会場で行われたライブなのか、その日はどんなエフェクターを使っていたとかどんなアクションをするだとか、すべての情報をインプットして自分だけのライブをやってたんだよな。

師弟TUNE「卒業」
2018年2月21日発売 / NICO MUSIC
師弟TUNE「卒業」

[CD]
2700円 / NICO-6

Amazon.co.jp

収録曲
  1. 内向的ガール
  2. Hideaway
  3. 教訓
  4. hold me tight
  5. Lady Blue
  6. 恋のQ&A
  7. 就活
  8. moonlight
  9. Rave you,Review
  10. 輪廻転生七転八起
  11. 恋 was Lie
  12. 卒業
師弟TUNE(シテイチューン)
師弟TUNE
愛知・名古屋の私立大学で働く准教授(Vo)ことシンガーソングライターの柴山一幸が、学生であるデシベル(G, Programming)と組んだ“リアル師弟”音楽ユニット。「迷える学生達にエールを! 迷えるオヤジ達にエールを!」をスローガンに楽曲制作を進め、2017年11月の「レコードの日」に合わせて1stシングル「恋のQ&A」を発表した。2018年2月に1stフルアルバム「卒業」をリリース。