師弟TUNE|ロックな准教授と引きこもり学生の“リアル師弟”タッグ

私立大学の准教授と大学生によるユニット・師弟TUNEが1stアルバム「卒業」を発表した。

文字通り師弟関係であり、歳も大きく離れた2人。大学で教鞭を振るいながらシンガーソングライターとして活動している柴山一幸は、なぜ“准教授”を名乗り、元引きこもりの学生デシベル(G, Programming)を相棒に迎えたのか。インタビューではその異例のユニット結成の経緯と、2人が音楽にかける情熱を紐解いた。

取材・文 / 桑原シロー 撮影 / 臼杵成晃
取材協力:高級喫茶 古城(東京都台東区東上野3丁目39-10 光和ビル)

准教授と学生

──まずは2人の出会いについて教えてください。

師弟TUNE

准教授(Vo) デシベルが僕のライブを観に来たのが最初かな。

──准教授は学校で有名人だったんですか?

デシベル(G, Programming) 上級生たちの間で知られていたと思います。僕が先輩から誘われてライブに行ったのは2年生のとき。准教授の講義が受けられるのは3、4年生になってからでした。

──最初に観たライブの印象はどうでした?

デシベル 講義があってライブには遅れて行ったんです。会場に着くと、先生はRickenbackerのコピーモデルを掻き鳴らしながら、叫ぶように歌ってました。1弦を切りながら。なんの予備知識もなかったんで、かなり衝撃を受けましたね。僕、魂を感じる音楽と言うか「これぞロック!」というものが好きだったし、「こういうのが観たかった!」って思いましたね。

──そこから会話を交わすようになるのは?

准教授 確かな記憶はないんですが、とにかく彼が講義を受講し始めてからですね。ギターを弾いたりして目立ってたんですよ。講義のあと、いろんな学生と「どんな音楽が好きなの?」とか雑談するじゃないですか。たいていはボカロ系とかアニソンとかなんだけど、デシベルだけは古いロックミュージシャンの名前とか出してきて。よくよく聞けばルーツは1990年代のギターポップで、今のクラブミュージックへの関心もある。当然1960年代、70年代の音楽への理解もあるから会話が成立した。そんな子はまずいないですもん。

──しかしそこから一緒に音楽をやろうと思ったのがすごいと言うか。

准教授

准教授 うん、これは僕のソロ活動の話になるんだけど、昔1回デビューをした後に演奏活動を封印し、40を過ぎてから復活して今に至るわけです。ほかの人と比べて作品を残してこなかったから相当がんばらないといけない。そう思って復活後は10年で10枚作ると目標を立てて、それに向かってやってきたわけです。そして今のところ4枚のオリジナルアルバムと1枚のライブアルバムを発表しました。で、次に何をやるべきかと考えたとき、これまでと同じメンバーと同じようなバンドサウンドでやるというイメージが湧かなかったと言うか。何か新しいものを模索してたんだけど、周りを見渡してもパートナーとなってくれる存在が見当たらない。そんな中、デシベルが3年生のときだったかな、夏休み明けに1枚のCD-Rをくれてね。そこには彼がアレンジした作品が入ってた。まずこういうことをやる生徒がいないんです。これは珍しい奴だなって。そのとき想像したのは、こいつたぶん友達いなくて、夏休み中部屋に籠りっきりだったんだろうな、先生や音楽仲間に聴いてもらおうと一生懸命音楽作りに専念したんだろうな、って。ま、当たってたよな(笑)。

デシベル 休みにすることが特になかったし、1カ月でどれだけ曲作れるかって自分を追い詰めてみたかったんです。

──そこには自分がクリエイトした音楽を世に届けたいという気持ちがあったと思うんですが、ミュージシャンになりたいという気持ちもどこかにありました?

デシベル うーん、それはなかったですね。そもそも准教授に渡したのは、ミュージシャンからの意見を聞いてみたいっていうのがあったからだし。

ユニット結成は事後報告

──そのCD-Rの内容はどうだったんですか?

准教授 外国人が歌っているボーカルのフリー素材をアレンジしているものだったんですけど、正直その時点ではいいとも悪いとも判断できなかった。まあセンスがいいってことはわかったし、相当の音楽好きだってことも見えたんで、「一度僕の曲のアレンジをやってみないか?」って誘ったんです。共同作業は最初からスムーズにいったわけじゃなくて、かなりダメ出ししましたよ。でもへこたれずに、けっこうハイスピードでやってくるんですよ。それが「これはちょっと見込みあるかも」と思えたところで。本格的に曲作りを始めたのは、2017年の春から。そうそう、そう言えば、一緒にユニットをやるって話はあらかじめしてないよね。そういうことになったから、って勝手に決めちゃってたんで(笑)。

──え、事後報告?

師弟TUNE

デシベル 事後報告です(笑)。

准教授 いきなり「『師弟JAM』ってどうだろ?」って彼に話してみたの。で、そしたら「えっ?」とはならなくて、「ジャムってのは今だとちょっと古い感じがする。だったら『師弟TUNE』がいいんじゃないですか?」って逆にデシベルから提案されてさ。

──グループ名はてっきり准教授の命名なのかと。

准教授 いやいや、彼の発案だよ。自分で名前付けちゃってるんだもん(笑)。

──そりゃ、やる気満々だと思っちゃいますよね。

准教授 思いますよね(笑)。で、彼が「ダサい」と指摘してくれたこと。そこが僕は一番気にしていたことなの。これから新しい音楽を作るぞ、若いリスナーに受け入れてもらうぞ、ってことを第一に考えていたからね。あのね、僕らの間で“D”って合言葉があるんだけど、これは“ダサい”の“D”なんですよ。例えば曲作りでやりとりしているとき「このパートはちょっとDですかねえ……」みたいな感じで使うんです。彼が臆することなく、きちんと指摘してくれるところはありがたい。

師弟TUNE「卒業」
2018年2月21日発売 / NICO MUSIC
師弟TUNE「卒業」

[CD]
2700円 / NICO-6

Amazon.co.jp

収録曲
  1. 内向的ガール
  2. Hideaway
  3. 教訓
  4. hold me tight
  5. Lady Blue
  6. 恋のQ&A
  7. 就活
  8. moonlight
  9. Rave you,Review
  10. 輪廻転生七転八起
  11. 恋 was Lie
  12. 卒業
師弟TUNE(シテイチューン)
師弟TUNE
愛知・名古屋の私立大学で働く准教授(Vo)ことシンガーソングライターの柴山一幸が、学生であるデシベル(G, Programming)と組んだ“リアル師弟”音楽ユニット。「迷える学生達にエールを! 迷えるオヤジ達にエールを!」をスローガンに楽曲制作を進め、2017年11月の「レコードの日」に合わせて1stシングル「恋のQ&A」を発表した。2018年2月に1stフルアルバム「卒業」をリリース。