失恋にも種類がある
──そして、「好き100%の片思いをしているあなたへ」や「恋人同士なのに不安なあなたへ」といった、SHISHAMOの恋愛ソングを7つに分類したプレイリストも作られていて。そのプレイリストのテーマを見ると、一見「恋人が好きでたまらないあなたへ」というテーマだと幸せな曲が集まっているように見えるんですが、その中の例えば「フェイバリットボーイ」や「君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!」は、痛みや別れを感じさせる曲にもなっています。
宮崎 歌詞を書くときの私の癖な気がします。そういうネガティブな要素も描くことによって幸せな時間が引き立つというか。
──例えば、「君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!」は、相手を好きな気持ちが大いに盛り上がってる状態がどうなっていくんだろうと思ったら、最後の別れを予感させるフレーズによって一気に現実に引き戻されました(笑)。
宮崎 あの部分がないと、もうアホの子みたいな曲になっちゃうんで(笑)。このバランスは自分の中で大事にしている部分ですね。
──それは宮崎さんの聴き手に対する目配りなのか、作家として自分を表現するためなのか、どういう意図なんでしょう?
宮崎 どっちもですね。これがないと作ってても、聴いててもつまんないなっていう。例えば、恋愛じゃない曲を書いてても、恋愛の要素を少し入れたり、そういうバランスは曲を書き始めた高校生の頃からこだわってます。
──例えば怒りだけとか、感情が1種類の状態のほうが日常において少なかったりするので、いろんな思いをないまぜにしている点がSHISHAMOの曲のリアルさであり、多くの人に支持されている理由の1つなんだと思います。吉川さんと松岡さんは、改めて宮崎さんの書く曲に対してどんなことを思っていますか?
吉川 やっぱり、“うれしい”とか“楽しい”とか“悲しい”とか“しんどい”とか、単純にひと言では説明がつかない曲が多くて。それはアルバムの収録曲やプレイリストのセレクトをしているときにすごく思いました。「この曲はどういうテーマですか?」と聞かれて、「悲しい失恋の曲です」とひと言で説明できる曲もあるんですが、複雑な感情を歌ってる曲が多いなあっていう。それこそが魅力なんだなと改めて気付きましたね。
宮崎 だからプレイリストが7つに分けられたんだろうね。
吉川 本当にそう。
──そうですよね。そして、7つには分けられてはいますが、同じプレイリストの曲でもそれぞれ細かくシチュエーションは違いますよね。
吉川 そうですよね。
松岡 “失恋”というテーマ1つとっても、「ひとつの恋が終わってしまったあなたへ」と「あの日の恋が刺さったままのあなたへ」っていうプレイリストに分けられたり。でも、分類した中にも本当にいろんな状態のときの痛みがある。だから、たくさんの人に「私の曲だ」と共感してもらえてるのかなって。これだけいろんなバリエーションがあるのがSHISHAMOの強みなんだろうなって思ってます。
──曲ごとに書かれた時期も歌詞のシチュエーションも違うのに、普遍性や汎用性が高い曲が多いのがまたすごいなと思うんですが、「特定のある人にだけ当てはまるものにする」みたいな狙いはあったりするんですか?
宮崎 曲によって違うかもしれないですね。「この曲はこういう人にだけわかればいいよ」と思って書いている場合もあるし、「こういうことを書きたいけど、当てはまらない人にも伝わってほしいな」と願って書くときもあります。でもきっと、1人の人間だとしても長く恋愛をしていく中で状況は変わっていくので、「この曲が今の私にはぴったり」と思っていても、「今はこれだな」と変化する。ただ、1人でSHISHAMOの恋愛ソングのシチュエーションを全部経験することは難しいとは思います(笑)。
吉川 けっこう波乱万丈な恋愛をしないとだよね(笑)。
松岡 うん。いろんな恋愛していかなきゃいけない(笑)。
宮崎 (笑)。でも、そういうふうに自分の恋愛遍歴と照らし合わせながら聴いてもらうのも面白いかなと思います。
つらいときにはSHISHAMOを頼って
──先ほどおっしゃっていた、「SHISHAMOが力を入れているのは痛みのほう」というご発言に対してはどういう思いがあったんでしょうか。
宮崎 つらいときのほうが音楽に頼ることが多いんじゃないかなとずっと思っていて。すごく幸せな状況にいる人間って音楽を聴くのかな?っていうちょっとひねくれた考えがあります。もう落ちて落ちて、泣きたいときに一緒にそばにいてくれるような曲のほうがその人の心に残ると思うし、つらい思いをしている人にとって支えになるような曲であってほしいという願いがあって。だから、すごく力を入れて書いてるのかなって思いますね。
──それは聴き手のことを最優先に考えたうえで、ですか?
宮崎 そうでもありますし、私自身も、楽しいときよりつらいときに音楽を聴く人間なので、落ち込んでいるときにSHISHAMOを頼ってくれたらうれしいなと思います。
──改めて、恋愛ソングをこれだけ異なるシチュエーションで10年近くも書き続けているのはすごいなと思いました。例えばご結婚とか、環境の変化が歌詞に影響することもあるんでしょうか。
宮崎 うーん。ないですね。自分のことを書いていれば変化があるのかもしれないですが、自分の恋愛からヒントを得ることはあっても、それをガッツリは書かずに、ほかに題材となる主人公がいてその子の恋愛を書くというやり方なので、あまり反映されてないと思います。
──自分のことを書かないというのは、そのほうが書きやすいからですか?
宮崎 自分のことは考えなくてもスラスラ書けちゃう気がするんで、かえってつまらないのかなと。「この子は何を考えてるんだろう?」とか、自分が書いた歌詞に対して「こう言ってるけど、本当はこう思ってないんじゃないか」とか、頭の中で主人公に取材するような気持ちで想像しながら書くのが楽しいですね。
──SHISHAMOの曲って、切羽詰まっている感情でも、スリルのあるエンタメとして楽しめる曲もあるのが面白いですよね。
宮崎 曲を書く中で、ちょっとデフォルメすることも大事にしてますね。「こんなことありえないだろう」みたいなことも書いちゃう。普通レスポール投げたりしない(「君の大事にしてるもの」の歌詞「じゃあそのレスポール、ベランダから投げてもいい?」)じゃないですか(笑)。でも、その主人公はしちゃう。あり得ない、かわいい、切ない!みたいな部分を物語として楽しんでいただきたいなと思ってます。
──恋愛の曲のほうが書きやすいというのもずっと変わらずですか?
宮崎 逆にほかのことだと、自分の思想を書くことになってきちゃうので、ちょっと難しい。小さい頃から少女マンガを読んでいて、こういうことを音楽にしたら面白いなと思ってて。同じマンガでも、例えば「ONE PIECE」みたいな物語を題材にして曲にするのは難しいです。やっぱり恋愛が一番書きやすいですね。
──例えば「人間」という、人としての根源的な部分を掘り下げた曲もありますが、それは稀ということですね。
宮崎 ああいう曲を書くとなると、やっぱり物語を考えるというより自分が普段思っていることを表現することになっちゃいますね。
SHISHAMOとして一番いい終わりがくるまで
──昨年の対バンツアー(「SHISHAMO NO OMANEKI TOUR!!! ~開国 2022~」)では長い活動歴のバンドと対バンして、続けていく素晴らしさを感じたそうですね(参照:SHISHAMO対バンツアーにスカパラ、ピーズ、the pillows、トライセラ、フジファブ、レンジ、フラフラ)。
吉川 私はより強く、SHISHAMOを続けたいと思うようになりました。10周年イヤーに突入してうれしいんですけど、私たち以上にずっとSHISHAMOを好きでいてくださっているお客さんがすごく喜んでくれていて。例えば、SHISHAMOを知ったときは中学生だったのに今は社会人になった方とか、自分たちの歴史だけじゃなく、SHISHAMOに出会った1人ひとりの歴史みたいなものを知るたびに、「長く続けるってすごくいいな」と感じてます。「もう10年」って思うけど、「まだ10年だな」とも思いますし。
松岡 対バンツアーのときには、「演奏する側としてバンドを続けることはすごくいいな」「私たちも続けていけばこうなれるのかな」と感じて、今はそういう気持ちが増しています。SHISHAMOの記念日を一緒に喜んでくれる人やお祝いしてくれる人がいることで、より続けることの素晴らしさを感じるようになりました。
宮崎 ここまで続けてきてよかったなっていうことは間違いなく思うんですけど、長くやりたいっていう気持ちは……2人が今話した手前、言いづらいんですけど(笑)。
吉川・松岡 (笑)。
──最初から、「続けたい」という気持ちも「続けられる」という気持ちもなかったんですもんね。
宮崎 そうですね。やっぱり、長くやることが目的になっちゃうと違うと思うんです。
吉川 そうだよね。
宮崎 となると、1年後なのか、5年後なのか、20年後なのか、どこかにSHISHAMOとして一番いい終わりが絶対にあるはずなので、そこまでできたらいいなと思います。SHISHAMOがSHISHAMOらしくいい感じで続けられるまでやるのがSHISHAMOなのかなっていう。SHISHAMOっていうバンドはもう自分たちだけのものじゃないと思っているので、それは私たちの気持ちというよりもSHISHAMOに関わるみんなが決めることなのかなって。バンドは生き物ですし、SHISHAMOがどうなっていくのか自分でもわからないままここまできたという感覚なので、それはこの先も変わらないのかなと思います。
──武道館のライブから、バンドがすごくいい状態なんだなと思いました。
宮崎 ここまで続けてきたから、私たちもあんなにいいライブを体験できたんだなと思いますね。
ライブ情報
SHISHAMO NO OSAKA-JO HALL!!! ~10YEARS THANK YOU~
2023年3月4日(土)大阪府 大阪城ホール
プロフィール
SHISHAMO(シシャモ)
宮崎朝子(G, Vo)、松岡彩(B)、吉川美冴貴(Dr)からなる3ピースロックバンド。神奈川県川崎市で結成され、高校卒業と同時に本格的にバンド活動を開始する。2013年11月にデビューアルバム「SHISHAMO」をリリース。2017年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場。2018年にCDデビュー5周年を迎え、2019年6月に初のベストアルバム「SHISHAMO BEST」をリリースした。CDデビュー10周年イヤーにあたる2023年の1月に東京・日本武道館にて「SHISHAMO NO BUDOKAN!!! ~10YEARS THANK YOU~」を開催。2月にはコンセプトアルバム「恋を知っているすべてのあなたへ」をリリースし、3月には大阪・大阪城ホールで単独公演「SHISHAMO NO OSAKA-JO HALL!!! ~10YEARS THANK YOU~」を行う。
SHISHAMO 10th|SHISHAMO Official Website
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