SHISHAMOの楽曲「君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!」と、マンガ家・安斎かりんが「花とゆめ」で連載中のマンガ「顔だけじゃ好きになりません」のコラボムービーがYouTubeにて公開された。
「君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!」は昨年2月に配信リリースされた、SHISHAMO史上最長となるタイトル25文字の楽曲。「顔好き」は周囲から「お前は顔だけだ」と言われ続けてきた先輩・奏人と面食いの後輩・才南の関係を描いたラブコメディで、両作品で描かれるテーマは驚くほどマッチしている。
音楽ナタリーではコラボムービーの公開を記念し、マンガ好きで「顔好き」も読んでいたSHISHAMO、彼女たちのファンを公言する安斎の2組にインタビュー。コラボのきっかけや互いの作品に共通するものを語ってもらった。最終ページでは安斎が選んだSHISHAMOのプレイリストを掲載。安斎は自身がセレクトした4曲の魅力を本人たちの前で熱弁し、SHISHAMOは楽曲の制作裏話を明かした。
取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 堀内彩香
読みながら「早く付き合っちゃえよー!」
──安斎先生はもともとSHISHAMOの大ファンだったそうですね。
安斎かりん そうなんです。私は演劇を観るのが好きで、大学生の頃に梅棒さんの「ピカイチ!」という演目を観に行ったら「明日も」が使われていて。そのときSHISHAMOさんの曲を初めて聴いて「すごくいい曲だな」と思ったので、掘り下げてほかの曲も聴くようになりました。
──今回のコラボは安斎先生からの「自分の作品とSHISHAMOの楽曲でコラボした映像を制作したい」というオファーをきっかけに実現したそうですが、一方、SHISHAMOの皆さんも「顔だけじゃ好きになりません」を以前から知っていたんですよね。
宮崎朝子(G, Vo / SHISHAMO) はい。SNSの広告で最初の数ページを試し読みできるようなものがあるじゃないですか。それをきっかけに知って、「面白そう、続きが読みたい!」と思ったので単行本を購入しました。絵がすごく好きだなと思いましたし、イケメンをすごくイケメンに描いているのが素敵ですよね。
──「顔好き」は清々しいまでに面食いな女子高生・才南と、顔がよすぎるゆえに性格をこじらせている先輩・奏人の恋模様を描いたラブコメディです。インフルエンサーの奏人は単位が足りず退学寸前。退学処分を免れる条件として校長から提示されたのは、高校のSNSアカウントのフォロワー数を10万人に増やすことでした。才南は奏人を救うためSNSの“中の人”を引き受け、2人は交流を深めていきます。松岡さん、吉川さんはこの作品のどんなところに惹かれましたか?
松岡彩(B / SHISHAMO) 才南ちゃんと奏人先輩って、読み手からしたらどう考えても両思いですよね。ずっと両思いなのになかなかくっつかないから、「早く付き合っちゃえよー!」という気持ちで私たちも楽しめるのがいいなと思いました。
吉川美冴貴(Dr / SHISHAMO) SNSがテーマになっているのも新しいよね。私が今まで読んできた少女マンガにはそういう物語はあんまりなかったから、今の若い人たちにとってはすごく親しみを持てる作品なんじゃないかと思います。
安斎 ありがとうございます! 「顔好き」を連載中の「花とゆめ」の読者層は中高生がメインなんですよ。なので、「今の中高生にとって身近なものはなんだろう?」「どんなストーリーだったら奏人を身近に感じてもらえるのかな」と考えていったんです。芸能人だとちょっと離れすぎてしまうから、誰でもなれる可能性のあるインフルエンサーだったらいいのかなと。
──奏人もそうですが、「顔好き」に登場するキャラクターはみんな個性的ですよね。例えば主人公の才南は、私服の奏人を見たときに「すっっっっっっっきだが?」と悶絶したり、奏人のスタイルのよさを目の当たりにして「縮尺ーッ!」と叫んだりと語彙がとてもユニークです。
安斎 私の場合、友達をモデルにキャラクターを考えることが多いんですよ。
SHISHAMO へえー!
安斎 周りにいる子に対して「この人のこういうところが面白いな」と思ったら、その部分を誇張して描いてみたりしています。才南は好きなものを前にすると、気持ちが爆発してワイワイ語り出しますけど、私の周りにはそういう友達が多いんです。
宮崎 確かに才南みたいな子って現実にもいますよね。恋愛とはまた違うところで、きれいな花を見てうっとりするような感覚で「顔がいい人が好き」という情熱のある人というか。今は“推し文化”が浸透しているので、才南のようなキャラクターはすごく身近に感じられます。
何が違う?推しと好きな人
──ちなみに、“推し”と“好きな人”の違いってなんだと思いますか?
安斎 難しい話ですよね。
吉川 推しとは恋愛関係にならないイメージがあるような……。
宮崎 「これは恋じゃないです、推しです」ってみんな言うしね。
安斎 よく聞きますよね。「推しがいる部屋の壁になって見守っていたい」とか。
宮崎 推しは美しい造形物であって、この世に存在している概念として見ている場合が多い気がします。だけどそれが人間だと思えたときに恋愛に発展していく。才南なんてまさにそうで、推しでもあり恋人の奏人といい関係を築いていますよね。
安斎 そうですね。奏斗に出会う前の才南は彼の造形に惹かれているので、ある意味彼のことを人間としては見ていないんだと思います。だけどコンテンツとしてのイケメンじゃなくて、そこからいかにして人として好きになっていくかという。正直私自身は推しに対して「きれいなままでいてほしい」「汚いところは見せないでほしい」と思ってしまうところもあるんですけど、やっぱりなんらかのコミュニケーションが発生しないと恋愛は成立しないだろうし、ちょっと嫌な部分を知っても受け入れられるかどうかというのが“推し”と“好きな人”の大きな違いだと思います。
──才南は第1話の時点で奏人に「こんなにきれいな顔の裏側がぐちゃぐちゃなんてずるいじゃないですか」と伝えていますよね。汚いところも含めてあなたが素敵だと思っていると。
安斎 そう。だから彼女は最初から受け入れ態勢なんですよね。
宮崎 才南も気付かないうちに“推し”から“好きな人”に変わっていったのかもしれないですね。
──推しに対してはまっすぐに愛情を表現できる才南ですが、奏人への恋を自覚して、どんどん欲張りになって、今度は好きと伝えるのが怖くなるという繊細な変化も描写されています。
安斎 主人公があまりにも前向きすぎると、「いや、自分はこうはなれない」と読者の方に引かれてしまうんじゃないかと。下心のようなものも持ち合わせている1人の女の子として描きたいなと気を付けています。
吉川 それは読んでいてもすごく感じました。言い方が難しいんですけど、白々しさがないんですよね。
宮崎 主人公すぎないよね。
吉川 そうそう。私も才南ちゃんのことはすごく身近に感じているし、とても素敵な女の子だなと思っています。
安斎 そう言っていただけてうれしいです。
──皆さんには“推し”はいますか?
宮崎 私の推しは、メルセデスのルイス・ハミルトン選手ですね。F1にハマっておりまして。
安斎 私はヨルシカのn-bunaさんです。ファンクラブのコラムを読んで思ったんですけど、性格が奏人先輩に似ているというか……少しこじらせている気がするんですよね。「すごい! マンガのキャラみたい!」と思って以来、推していますね。
──安斎先生の作品と同様、SHISHAMOの楽曲も女性からの共感を集めていますよね。宮崎さんの書く恋愛ソングは少女マンガの世界観に近い印象があります。
宮崎 SHISHAMOは恋愛の曲が多いですし、少女マンガの読み切りを読むような気持ちで1曲1曲を楽しんでもらえたらという気持ちはありますね。音楽と恋愛は結び付きが強いと思っていて。恋愛をしているときってたくさん音楽を聴くし、さらに言うと、幸せなときよりも落ち込んでいるときのほうがよく聴く。泣きたいときに一緒に泣いてくれる曲や、落ち込んでいるときに寄り添ってくれる曲があると、恋愛するときの活力になると思うんです。それもあって、SHISHAMOは失恋ソングをたくさん作っています。その人の恋愛の状況に合わせてSHISHAMOの曲を選んで聴いてもらえたらうれしいですね。
──恋愛中、SHISHAMOの曲に励まされたリスナーはきっとたくさんいるんじゃないかと思います。
安斎 私もそう思います!
宮崎 でも安斎先生の作品も、読んでいると恋愛したくなると思いますよ?
安斎 え、本当ですか?
宮崎 恋愛に縁がなかった人も恋に憧れを持つだろうし、実際にそういう気持ちで読んでいる子はたくさんいるんだろうなと思います。
安斎 そう言っていただけてすごくうれしいです。私はどちらかというと、もともと恋愛できないタイプだったんですよ。恋愛してみたい気持ちはあるのに、なかなか好きな人ができなかった。だから昔は“恋愛=憧れ”で手の届かないイメージだったんですけど、あの頃の自分が思っていたものだけでなく、日常に溶け込むような幸せな恋愛もあると歳を重ねるにつれてわかって。読者の中には、昔の私のように恋愛を経験したことのない子もきっといると思うんです。私はそういう子に対して「恋愛は楽しいものだよ」と伝えたい。今は「面倒くさいことはそれなりで」という時代だし、「恋愛しなくても生きていけるよね」という風潮があると思うんですけど、だからこそ「人間同士でしか絶対に得られない感情があるんだよ」と伝えていきたいなと思っています。
どう考えても「顔好き」にマッチしている
──今回「顔好き」とコラボした「君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!」はSHISHAMOが2021年2月に発表した曲です。宮崎さん、この曲はどのようなことを考えながら書いた曲だったんでしょうか?
宮崎 SHISHAMOには失恋の曲が多いのですが、これは前向きな、聴いていてハッピーになれるような曲を作りたいと思いながら書いた曲でしたね。
吉川 「好き!」ってエネルギーがかつてないほど詰まっている曲で、私は初めてデモをもらったとき、「わあ、すごい曲だ!」とまず思いました。
松岡 私もすごくエネルギーのある曲だなと思いました。歌詞がストレートだし、スピードも速くて展開も多いから、パーっと通り過ぎるような感じで。
安斎 ミュージックビデオのインパクトも強いですしね。
──それに、テーマソングとして書き下ろしたんじゃないかと思ってしまうほど「顔好き」にぴったりです。
安斎 本当ですよね! どう考えてもマッチしている(笑)。コラボムービーを作ることが決まって、いくつか曲の候補を出させていただいていたんですけど、私としてはこの曲が一番合うだろうなと思っていたんですよ。
宮崎 「もしかしたら新しい曲を書き下ろすかも」という話も出たんですけど、私たちは「顔好き」の読者でもあるので「いや、書き下ろすよりもぴったりな曲がある」と思って。そしたら安斎先生も私たちと同じように、この曲をイメージしてくださっていたんです。
安斎 完成した映像を観たとき、勢いとエネルギーが画面からあふれんばかりに伝わってきて、「もしかして私の作品のために曲を書いてくれたんじゃないか」と錯覚してしまいました。緩急のある曲で、マンガの中のすべての場面にマッチしていて。本当に素敵なコラボをさせていただけたなと感じています。
吉川 とてもいいものができたので、私たちもうれしく思っていて。先生がおっしゃるように「こんなにもぴったり合うんだ!」という驚きがあったし感動しましたね。「顔好き」はもちろんマンガ単体で素晴らしい作品なんですけど、自分たちの楽曲と合わさることでお互いがお互いの魅力を引き出しているというか。
松岡 世界観がすごく合っているから、曲もマンガも生きていて、お互い高め合っている感じですごくいいコラボムービーになったなと思いました。
宮崎 それに、映像の中の才南や奏人を観ていると、「いろいろあったけど本当によかったね……!」という気持ちになるんですよ(笑)。
松岡・吉川 確かに!(笑)
宮崎 これまでのストーリーがこのコラボムービーの中にギュッと詰まっているので、「顔好き」を読んだことがある人は振り返りながら楽しんでいただけると思いますし、これから読む人にも「気になるし読んでみたいな」と興味を持ってもらえるような映像になったと思います。そして、2人の恋の続きも気になりますね。
──「君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!」の主人公は自己肯定感が高い人ですよね。「私が選んだ恋人が たった一人選んだ恋人が私 そんな自分を誇りに思って 今日も今日とて君が好き!!!」という歌詞もありますが、才南と奏人はまだここまで自分のことを肯定してあげられていないのかなと。
安斎 確かにそうですね。でも、才南はそろそろできてきてもいいのかな?と私は思っていて。
宮崎 奏人先輩といることが自分の自信にもなっているような、そういう兆しを感じますよね。
──従来の少女マンガでは、「私は平凡だけど彼はすごくカッコいい」「果たして自分は恋人にふさわしいんだろうか」と悩んでしまう主人公も少なくなかったように思います。だけど才南と奏人ならばそういう不安も乗り越えていけるんじゃないかと、いち読者として期待したいところです。
安斎 そうですね。才南にはマンガの主人公にありがちな傾向を取っ払って、幸せをつかんでほしいなと私も思います。いい意味で深刻に考えすぎない子なのかなと思いますしね。