音楽ナタリー Power Push - SHISHAMO
11曲全部がシングル級の自信作
「これは私の歌だ」と思ってもらえるような曲を書きたい
──「恋」はピアノやグロッケンシュピールなどを使ったアレンジが印象的な曲ですね。「歌を伝える」という意味では同じですが、アンサンブルの雰囲気はまったく違いますね。
ギターの代わりに鍵盤を使ってるイメージです。鍵盤も自分で弾いてるから、ギター、ベース、ドラムの編成のときと感覚はそんなに変わらないというか。ロックバンドのアルバムって、1曲だけ全然違う雰囲気の曲が入ってたりするじゃないですか。そういう曲を聴いて「余裕があってカッコいいな」って憧れていたし、自分でもやってみたくて。そういうことを考えられるようになったということは、もしかしたら私たちにもちょっと余裕が生まれてるのかもしれないですね。この曲は音数が少ないからコーラスをたくさん重ねているんです。「スケール感を大きくするためにはコーラスだな」と思ってどんどん入れていったんですけど、コーラスを重ねていくうちに「ここにも入れたい」「下のパートも入れたい」ってキリがなかったです。
──NHK「みんなのうた」でオンエアされている「音楽室は秘密基地」にもピアノが取り入れられていますね。転校生と音楽の先生の交流を描いた曲ですが、これは架空のストーリーなんですか?
そうです。私、転校したことないので(笑)。この曲は「みんなのうた」のほうから「学校」というキーワードをもらって作ったんですよ。「みんなのうた」は小さい頃から観ていて、ストーリーがある曲が記憶に残っていて。だから私も「『みんなのうた』の歌に曲を書き下ろすんだったら、絶対に物語がある曲にしたい」と思って。「音楽室は秘密基地」は大人になった女性が子供の頃を思い出している歌なので、子供たちだけじゃなくて大人が聴いても感じるものがあったらいいなと思っています。
──「メトロ」もSHISHAMOの音楽性の高さと宮崎さんのストーリーテラーとしてのセンス、誰もがすんなり楽しめる大衆性のバランスがすごくいい曲ですよね。「SHISHAMO 4」を象徴する楽曲の1つだと思います。
この曲も好きですね、私も。これはもう完全に失恋の歌です。
──「メトロに乗っても 君をもう探さないから」「どこかで 笑ってて お元気で」っていう歌詞だけでストーリーが浮かんできます。失恋というテーマなのは、物語が作りやすいですか?
そうですね。SHISHAMOにはもともと幸せな感じの曲が少ないんですけど、それは「失恋のほうが作りやすい」というのもあるし、恋に悩んだり、片思いしている人のほうが恋愛ソングを求めてる気がするからなんですよ。なるべくたくさんの人に当てはまったり、「これは私の歌だ」と思ってもらえるような曲を書きたいと思っているので……まあ私自身が幸せで明るい曲がそんなに好きじゃないっていう好みの話でもありますけど(笑)。
──「メトロ」はイントロのホーン印象的でした。宮崎さんの作るメロディにはブラックミュージックのテイストも含んでいるのと思うので、ホーンが似合いますね。
この曲のイントロはメロディフレーズが最初にあったんですよ。それを何の楽器で鳴らそうかなって考えて、ホーンにしたんです。基本的には鼻歌でメロディを作ってるので、それがこういう形になるのは楽しいですね。
かわいくなろうとがんばってる女の子が好き
──「タウンワーク」のテレビCMで使用されている「魔法のように」はかわいくなりたいと願っている女の子の歌ですね。
“お化粧とか洋服が好きな女の子”を題材にした曲を作りたいなってずっと思ってたんです。「彼女の日曜日」も同じようなテーマで作った曲だったんですけど、「なんでこんなに必死におしゃれしてるんだろう? やっぱり好きな人のためだよね」って、結局は恋愛の曲になっちゃったんです(笑)。「魔法のように」はそれのリベンジです。
──どうして女子の歌を作りたかったんですか?
女子ってつらいことがたくさんあると思うんですよ。きっとすっぴんでもかわいいのに濃い化粧をしてる子とかをよく見るんです。でも第三者からしたらそう見えるけど、その子にしてみたらそういう化粧をしないと家から一歩も出られないのかもしれない。男の人はブサイクでもすっぴんでいるじゃないですか。でも女の子はブサイクじゃダメなんです。顔で判断されることが多いから、見た目の部分で自分を追いつめちゃってる子もいるんじゃないかなって思っていて。それは結局他人の視線を気にしすぎているからだし、自分自身を「かわいい」と思えていれば誰に何を言われても大丈夫なんですよね。でもそのことになかなか気付けないっていう……私、かわいくなろうとがんばってる女の子が好きなんですよ。だから「鏡の中の私は きっと誰よりもかわいい / そう思えますように」って歌ってるんです。
──本当に女の子が好きですよね、宮崎さん。
好きですね(笑)。「こういう女の子がいたらかわいい」ということが曲の題材になるので。この曲、20歳くらいの専門学生の女の子30人くらいにコーラスしてもらってるんですよ。ライブでもみんなで合唱できたらいいなと思っています。
──そしてアルバムは「明日も」で締めくくられます。これは応援歌になるんでしょうか?
はい。個人的には応援歌みたいな曲はあまり好きじゃないんですよ。でもいい曲ができちゃったから(笑)。私たちは地元・川崎のサッカーチーム、川崎フロンターレを応援していて。去年初めて試合を観に行ったときに、サッカーの試合自体よりもサポーターの存在が気になったんです。サポーターっていう存在がいることを知らなくて、「この人たちは1週間、どうやって過ごしているんだろうな」と考えているうちにサポーターの歌を作ろうと思って。週末を楽しみにしながら、月曜日から金曜日までがんばって、試合のときは思い切り応援して。サポーターの方たちって熱いですよね。
──しかも「明日も」はNTTドコモ「ドコモの学割『ししゃも?』篇」のCMソングとしてもオンエアされていて、すごく注目を集めてますよね。
綾野剛さんが何回も“ししゃも”って言ってくれてますからね。私のいとこがたまたまテレビでCMを見て「“ししゃも”って言ったら朝子ちゃんだよねって思ってたら、ホントに出てきたからビックリした」って言ってました(笑)。
──ファンからのリアクションもすごいんじゃないですか? 自分たちがCMに出演していることについてはどう思ってますか?
あまり実感はないですね。曲だけじゃなくて自分たち自身が出演しているから、ファンの人たちは喜んでくれてると思うけど、知らない人がどう思うかはわからないし。ライブのシーンもあるから、SHISHAMOのよさが伝わってくれればいいなって思ってます。お客さんのエキストラはファンの子たちなんですけど、けっこう大変な撮影だったので参加してくれたみんなには感謝ですね。
次のページ » 今の自分たちのことを気に入ってる
- ニューアルバム「SHISHAMO 4」 / 2017年2月22日発売 / 2700円 / UPCM-1404 / GOOD CREATORS RECORDS / UNIVERSAL SIGMA
- 「SHISHAMO 4」
収録曲
- 好き好き!
- すれちがいのデート
- 恋に落ちる音が聞こえたら
- 終わり
- 恋
- 音楽室は秘密基地
- きっとあの漫画のせい
- メトロ
- 夏の恋人
- 魔法のように
- 明日も
SHISHAMO(シシャモ)
宮崎朝子(G, Vo)、松岡彩(B)、吉川美冴貴(Dr)からなるロックバンド。神奈川・川崎総合科学高等学校デザイン科 軽音楽部にて結成し、3人組バンド「柳葉魚(ししゃも)」として活動を開始する。2012年春にSHISHAMOに改名。2013年1月に高校時代の楽曲をまとめたアルバム「卒業制作」をリリースし、3月には全国11カ所を巡る対バンツアー「卒業旅行」を実施した。同年11月にデビューアルバム「SHISHAMO」を発表。2014年には初のワンマンツアー「彼女ができたバンドマンに恋する休日」を開催し、追加公演を含む全10公演をソールドアウトさせる。7月に代表曲の1つとなったシングル「君と夏フェス」をリリース。9月に松岡が加入し、現体制初シングル「量産型彼氏」を10月に発売した。2015年3月にアルバム「SHISHAMO 2」を発表。6月に東京・日比谷野外大音楽堂、7月に大阪・大阪城野外音楽堂、そして2016年1月には東京・日本武道館での単独公演を開催した。同年3月にアルバム「SHISHAMO 3」をリリース。6月には関西エリア初のアリーナ単独公演「SHISHAMO NO OSAKA-JOHALL!!!」を成功に収める。11月から12月にかけて行った全国のZeppを含む9都市13公演のワンマンツアー「夏の恋人はもういないのに、恋に落ちる音が聞こえたのはきっとあの漫画のせい」では約2万3000人を動員。このツアーで2017年2月にニューアルバム「SHISHAMO 4」をリリースすることを発表した。アルバムを携えて3月から6月にかけて行うツアー「明日メトロですれ違うのは、魔法のような恋」ではキャリア2度目となる日本武道館での公演を含む、19公演を行う。