音楽ナタリー Power Push - SHISHAMO

11曲全部がシングル級の自信作

SHISHAMOがニューアルバム「SHISHAMO 4」を完成させた。昨年9月に発売されたシングルの表題曲「夏の恋人」、NHK「みんなのうた」でオンエア中の「音楽室は秘密基地」、NTTドコモ「ドコモの学割『ししゃも?』篇」のCMソング「明日も」など、話題曲を多数収録した本作は宮崎朝子(G, Vo)が「全部シングルカットできる曲にしたかったんです」と語る通り、質の高いポップチューンがたっぷり楽しめる1枚に仕上がった。

今回音楽ナタリーでは宮崎にインタビューを実施。曲作りのハードルを上げたという「SHISHAMO 4」の制作、知名度をさらに上げているバンドの現状などについて語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 塚原孝顕

収録曲は全部シングルカットできる曲にしたかった

──「SHISHAMO 4」はSHISHAMOのポップな側面が全面に押し出された素晴らしい作品だと思いますが、どんなスタンスで制作に入ったんですか?

宮崎朝子(G, Vo)

「SHISHAMO 3」(2016年3月発売のアルバム)をリリースしたあと「次はこんなアルバムにしたい」っていうのがなんとなく見えてきて。これまでの3作は“シングル曲”“リード曲”“アルバム曲”で構成されていたんですけど、4作目の収録曲は全部シングルカットできる曲にしたいなって思ったんです。1曲1曲にしっかり存在感があるアルバムというか。普通に曲を書くときと「シングルにしよう」と思ってるときではなんとなく作り方が違うんですよね、自分の中で。

──「全曲シングルにできるようなアルバムにしたい」と思った理由はなんだったんですか?

「SHISHAMO 3」が私的に「いいものになったな」っていう手応えがあったからかな。「こういう作り方はここまで」と思ったというか。ずっと同じことをやってもしょうがないというのもあったし。

──知名度が上がってリスナーが増えたことで、よりポップな方向に向かったというところもありますか?

それはあまり関係ないかな(笑)。ただSHISHAMOは自分たちのためだけにやってるわけではないですからね。お客さんに聴いてもらわないと意味がないし、そのことを優先しているので。曲作りにしても、自分が好きな曲というよりも、たくさんの人に「聴きたい」と思ってもらえる曲にしたいんですよ。“シングル曲”だけでアルバム1枚分の曲数が必要だったから、今回は制作がすごく大変だったんです。10月にレコーディングしたんですけど、それまでに作っていた曲をほとんどボツにしたんですよね。だから9月の時点で曲が全然なかったんです。そこから「『SHISHAMO 4』に入れる」というハードルを越えるような曲を書かなくちゃいけなかったので……けっこうギリギリだったんですけど、無事に完成してよかったです。

──ハードルを自分で上げたわけですね。

そうですね。書き貯めていた曲は「いい曲だし、私も好きだけど、『SHISHAMO 4』には入れられない」と思って。もともと追い詰められないと書けないほうなので、むしろいい状況だったのかもしれないです。こういうスケジュールが組まれているということは、周りのみんなからも信用してもらえてるんだろうなと思ったし。途中は「間に合わない。できるわけない」って思ってたんだけど、意外とやれちゃうもんですね(笑)。

大事にしているのは聴いている人に歌をしっかり届けること

──曲を書くのはもちろんですけど、レコーディングするにはアレンジをして、3人で演奏しないといけないじゃないですか。

松岡彩(B)

そうなんですよ(笑)。夜中に曲を書いて、吉川(美冴貴 / Dr)と松岡(彩 / B)にデモを送って、次の日にスタジオに入って練習して……っていう繰り返しでした。2人はどれくらい曲ができているのかわからなかったと思うし、不安だったかもしれないですね。まあ、2人はそこまで深刻に考えてないと思いますけど(笑)。

──メンバーの演奏に対する信頼感も上がってるから、デモを前の日の夜に渡して翌日スタジオで合わせてっていうスピード感で制作することができたんでしょうね。

制作に関しては「絶対やってきてくれるだろうな」と思ってます。やってこなかったら私が怒りますし(笑)。今回は曲が出そろってなかったからみんな「このままではアルバムがリリースできない」ってわかってたし、3人が同じ方向を向いて作れたと思います。そうじゃなかったら、間に合ってなかっただろうし……実は10月のレコーディングに間に合わなかった曲もあるんですけどね。

──どの曲ですか?

1曲目の「好き好き!」です。この曲はツアー中(11月から12月にかけて開催された「ワンマンツアー2016秋『夏の恋人はもういないのに、恋に落ちる音が聞こえたのはきっとあの漫画のせい』」)に作ったんですよ。熊本公演のときにホテルで書いて、広島公演の日に現地のスタジオで練習して、東京に戻ってレコーディングして……進行的にギリギリでした。

──「好き好き!」は「SHISHAMO 4」の中でも際立ってポップなナンバーですね。そんな追い詰められた状況で作った曲だとは思えなかったです。

よかった(笑)。この曲はけっこうサラッとできた曲なんです。普段はスマホで歌詞を書いて、それに曲を付けるんですけど、今回はツアー中にスマホをなくしてしまって、それができないから歌詞とメロディを同時進行で作ったんですよ。パッと出てきた言葉にその場で曲を付けるのもたまにはいいなって思いました。

──歌詞もストレートですからね。「好き好き好き好き好き好き好きだって伝えたいんだ!」っていう。

「僕に彼女ができたんだ」みたいな曲を作りたいと思って書いた曲なんです。あの曲は作詞が吉川なんですけど、ライブでもしっかり聴いてもらえている感じがするし、MVのYouTube再生回数もほかの曲と比べて格段に多くて。私はああいうシンプルな歌詞がなかなか書けないんですよ。歌詞を先に書くせいもあると思うんですけど、奥の奥の気持ちまで描こうとするので、もっと凝ったものになりがちで。「好き好き!」の場合は歌詞と曲を同時に作ったからか、すごくシンプルで誰にでもわかりやすい歌になったと思うし、ポップなギターで始まるところも気に入っています。

──こういう少女マンガみたいなシチュエーションのポップソングは間違いなくSHISHAMOらしさの1つですよね。

そうですね。SHISHAMOのお客さんは若い子も多いから、こういう曲が好きだと思うし。

──「好き好き!」と好対照なのが「終わり」ですよね。こういうエッジの効いたロックンロールも得意ですよね。

吉川美冴貴(Dr)

私自身はこの曲が一番好きかもしれないです。今回のアルバムはホーンやストリングスが入ってる曲もあるんですけど、「終わり」は3人の鳴らす音だけで存在感がある曲にしたくて。この曲は歌っていても気持ちいいし、ギターを弾いていても楽しいですね。歌詞の書き方もちょっと違うんですよ。ほかの曲は主人公がいて、ストーリーが展開していくんですけど「終わり」はそうじゃなくて、気持ち自体が主役になっていて。絶望という感情が主役というか。

──恋が終わった瞬間の気持ちを叩きつけるような歌詞ですよね。

そのときの感情をバーッとぶつけてるんですよね、演奏も歌も。そこはほかの曲とは違うなって思います。ボーカルもエッジが立ってますからね。

──歌詞の内容についてだったり、曲のイメージはもちろんメンバーと共有してるんですよね?

「終わり」のときはそんなに話してないかな。演奏していて「解釈が違うな」と思ったときは話しますけどね。例えば「この曲は穏やかな感じでやりたい」と思っているときに吉川がガシガシ叩いていたら「そうじゃないんだよね」って話したり。

──それを積み重ねることで、バンド全体の表現力も上がっていると。

SHISHAMOは“演奏がうまくなくちゃいけないバンド”だとは思ってなくて、「聴いている人に歌をしっかり届ける」ことを一番に意識しているんですよね。そのための演奏に対して努力しているというか。歌詞を引き立てるための演奏というのは、3人の共通の意識になっていると思います。

ニューアルバム「SHISHAMO 4」 / 2017年2月22日発売 / 2700円 / UPCM-1404 / GOOD CREATORS RECORDS / UNIVERSAL SIGMA
「SHISHAMO 4」
収録曲
  1. 好き好き!
  2. すれちがいのデート
  3. 恋に落ちる音が聞こえたら
  4. 終わり
  5. 音楽室は秘密基地
  6. きっとあの漫画のせい
  7. メトロ
  8. 夏の恋人
  9. 魔法のように
  10. 明日も
SHISHAMO(シシャモ)
SHISHAMO

宮崎朝子(G, Vo)、松岡彩(B)、吉川美冴貴(Dr)からなるロックバンド。神奈川・川崎総合科学高等学校デザイン科 軽音楽部にて結成し、3人組バンド「柳葉魚(ししゃも)」として活動を開始する。2012年春にSHISHAMOに改名。2013年1月に高校時代の楽曲をまとめたアルバム「卒業制作」をリリースし、3月には全国11カ所を巡る対バンツアー「卒業旅行」を実施した。同年11月にデビューアルバム「SHISHAMO」を発表。2014年には初のワンマンツアー「彼女ができたバンドマンに恋する休日」を開催し、追加公演を含む全10公演をソールドアウトさせる。7月に代表曲の1つとなったシングル「君と夏フェス」をリリース。9月に松岡が加入し、現体制初シングル「量産型彼氏」を10月に発売した。2015年3月にアルバム「SHISHAMO 2」を発表。6月に東京・日比谷野外大音楽堂、7月に大阪・大阪城野外音楽堂、そして2016年1月には東京・日本武道館での単独公演を開催した。同年3月にアルバム「SHISHAMO 3」をリリース。6月には関西エリア初のアリーナ単独公演「SHISHAMO NO OSAKA-JOHALL!!!」を成功に収める。11月から12月にかけて行った全国のZeppを含む9都市13公演のワンマンツアー「夏の恋人はもういないのに、恋に落ちる音が聞こえたのはきっとあの漫画のせい」では約2万3000人を動員。このツアーで2017年2月にニューアルバム「SHISHAMO 4」をリリースすることを発表した。アルバムを携えて3月から6月にかけて行うツアー「明日メトロですれ違うのは、魔法のような恋」ではキャリア2度目となる日本武道館での公演を含む、19公演を行う。