音楽ナタリー Power Push - SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん
夢、苦悩、挫折……そして“ジャキーン”!? 新境地ロックマンガの魅力に迫る
生形さんに“ジャキーン”されたい
町田 僕も生形さんに質問してもいいですか? 今マンガでは作曲という展開に入ったんですが、生形さんはどうやって楽曲を作っていくんですか?
生形 いろんなパターンがあるんですけど、半分くらいは俺がデモを持っていって、みんなに聴いてもらいますね。ほかのメンバーがたまたま弾いてたフレーズでアイデアが思い付くこともあるんですけど、なかなか元となるネタができないことが多くて、10曲作ったのを全部ボツにすることもあるし。でも最後の最後にできた曲は人気が出たり、パッとできた曲が全然ダメなこともあったり。そういうところは面白いですね。
町田 デモの段階ではどのくらい音が入っているんですか?
生形 ベース以外は打ち込みで入れますね。でも完成版は全然違うものになります。
町田 なるほど。僕たちの場合もネームからガラッと変わることがほとんどなので、近いものがありますね。
生形 デモをメンバーのみんなと一緒に聴いたときって、直後の反応でよしあしがだいたいわかるんですよ。そこで説明しながら変えるべきところを互いに話してからスタジオに入ります。
町田 持ち帰るわけではないんですね。
生形 長田さんと町田さんも一緒にやるとき悩むと思うんですけど、やっぱり誰とやるのかが一番大事ですよね。
長田 確かにそうですね。僕たちは担当編集さんと一緒に3人で打ち合わせするんですけど、たまにケンカになったりしますよ。
生形 でもそれがないといいものはできないですし、楽なだけじゃダメなんだなって感じます。
町田 歌詞の制作はどのタイミングで?
生形 7割くらいはボーカルが書いてるんですけど、いつも最後に着手しますね。曲ができてるほうがイメージも浮かぶんですよ。
町田 えーと……あとは……休みの日は何してますか?(笑)
生形 俺休むのは嫌いなんですよ。だからほぼスタジオに行ってます。もちろん義務とか「これやっててすごいだろ」というわけじゃなくて、ホントに落ち着かなくて。休みの日に何もしてないと「もったいなかったな、なんかやっておけばよかったな」ってちょっと思っちゃうんですよね。
町田 曲が浮かぶ瞬間は?
生形 今はそういうことがほとんどないんですよね。俺らはほぼ1年に1枚アルバムを出そうって決めてて、結成して7年目で7枚アルバムを出したんですけど、正直言うともう浮かぶことはなくて、スタジオに行ってとにかく弾かないと出てこない。Foo Fightersのデイヴ・グロールも、あれだけ売れてるのにインタビューで「来年はもしかしたらバンドがなくなるんじゃないかいつも不安だ」って言ってたんですよ。
町田 ええっ!
生形 俺たちにもそういう不安はあります。
長田 誰でもそうなんですね……。マンガ家も描き続けないといけないし。
生形 アイデアが出てこなくなっちゃったらそれで終わりだから。
町田 じゃあ、「今回でもう何も出ないんじゃないか」っていう不安は……。
生形 毎回その連続ですね。でもなんでもない曲をパッと聴かせたらメンバーのみんなが気に入ってくれたっていうこともあるし、それがバンドの面白さかな。
町田 ギターは弾いていて楽しいって思いますか?
生形 嫌いって思ったことはないですけど、20代の後半とか、バンドがあまりにも忙しくなりすぎちゃって、キツいなって思ったこともあった。でも疲れるなって時期は通り越したかもしれないですね。つらさがあっての喜びがあるわけだし、今はすべて含め楽しいです。
町田 ELLEGARDENのときはすごかったですもんね。高校生の軽音コンテストでも、今だにコピーしてる子もいますよ。
生形 大変な思い出もいっぱいありますね。でも、今の子たちもコピーしてくれるのはやっぱりうれしい。
長田 今の高校生たちは生形さんに“ジャキーン”(※作品中、ジミヘンが紫織に憑依するときの行為)されたいのかもしれないですね(笑)。
町田 それにしても、第一線で活動されている方に読んでもらえるのはうれしいです。
長田 マンガ家って読者とは遠い存在なんですよね。お芝居やバンドとは違って、お客さんの目の前で何かやるものではないので。
町田 だから反響のない怖さはあります。コミックス派の人が多いから、雑誌掲載から間が空くんですよね。
生形 でも、きっと音楽好きの間にもファンはいっぱいいると思いますよ。「ギタマガ」の人もこの作品を読んでたからこそ番外編の連載をオファーしたんだろうし。
長田 あっ、「ギタマガ」は担当の方が……たまたま行きつけの飲み屋の常連同士だったので(笑)。
- 長田悠幸×町田一八「SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん(6)」/ 2016年4月25日発売 / 627円 / スクウェア・エニックス
- 長田悠幸×町田一八「SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん(6)」
“ジミ”だけどギターが大好きなアラサー高校教師・本田紫織。ある日アフロヘアの“ヘン”なおじさんに取り憑かれ、27歳を終えるまでに伝説を作らないと死んでしまう契約を交わすことに。学生たちとバンドを結成し活動を進めていくが……。果たして紫織は伝説を作ることができるのか?
- Nothing's Carved In Stone ニューシングル「In Future」/ 2016年4月6日発売 / 1296円 / Dynamord / GUDY-1002
- 「In Future」
収録曲
- In Future
- Ignorance
- YOUTH City(Live at Okayama CRAZYMAMA KINGDOM 2015.10.23)
- Perfect Sound(Live at Okayama CRAZYMAMA KINGDOM 2015.10.23)
長田悠幸×町田一八(オサダユウコウ×マチダカズヤ)
長田が作画、町田が原作を担当。2012年に大喜利をテーマにした「キッドアイラック!」を共作し、「ヤングガンガン」にて約1年間にわたり発表した。現在は「月刊ビッグガンガン」で「SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん」を連載している。
Nothing's Carved In Stone (ナッシングズカーブドインストーン)
2008年に生形真一(G)が在籍するELLEGARDENの活動休止を機に、日向秀和(B)、大喜多崇規(Dr)、村松拓(Vo, G)と結成。2009年2月に初ライブを行い、5月に1stフルアルバム「PARALLEL LIVES」をリリースした。同年夏には「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」「SUMMER SONIC」などの大型ロックフェスに出演。毎年オリジナルアルバムを1枚リリースするなどコンスタントに作品を発表し、2015年8月に初のライブアルバム「円環-ENCORE-」、同年9月に7作目となるアルバム「MAZE」をリリースする。2016年4月にはニューシングル「In Future」を発売した。