音楽ナタリー Power Push - SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん
夢、苦悩、挫折……そして“ジャキーン”!? 新境地ロックマンガの魅力に迫る
ドンピシャでこんな経験、ありました
──ライブで挫折したあと、もう一度みんなが練習する展開になるのですが、その中でも台場初範くんのドラム練習シーンが実践的でした。
町田 あれは教則本とか動画を参考にしつつ、面白そうなネタをピックアップしてきて作ったんです。
長田 ちょうど映画の「セッション」公開と同時期で、そういう影響もありました。
町田 そういえば、5巻は全体的に「『セッション』に負けるな!」っていうテンションでした(笑)。ジミヘンがもう「ファッキンテンポファッキンテンポ」言って……。
生形 あの練習シーンもすごくリアルで、バンド内で亀裂が入ってきて、各々で練習することになるっていう、誰もが経験するような展開だからこそ共感できるんですよね。バンドもののマンガって、現実離れしすぎて「それはないだろ!」って思うことがあって、それだけで冷めちゃったりするんです。
長田 天才系の主人公が多いですもんね。最初からすごい演奏がうまかったり。
生形 天才系の主人公だと描きやすいっていうのもあるだろうし、やっぱり主人公がカッコいいほうが映えますからね。でも「SHIORI EXPERIENCE」はジミヘンが乗り移るっていう設定はあるけど、高校生活やバンド活動での出来事がすごくリアル。楽器を持ち始めるところからスタートしてて。
町田 一度バンドを辞めた人が出てきたりもしますしね。
生形 対バンで出てきた人たちがすごいうまいのに、実は大会で予選落ちしてたり。10代のときドンピシャでこんな経験ありましたよ(笑)。初めて出たライブハウスの出演者がみんなうまく聞こえて、そこですごく落ち込んたり。そんなことよくあったな。
長田 あのシーン、読んでてつらいっていう人いっぱいいましたよ。
生形 思い出すんだろうね。もう1回あそこからやり直すことになっても絶対できないだろうな。
町田 リアルに描こうというよりはマンガ的に面白い方向を目指しているんですけど、そんな中でリアルに感じてもらえるのは意外だし、うれしいですね。
長田 どっちかと言うと「SHIORI EXPERIENCE」はド根性ものですもんね。
町田 「ジミヘンが乗り移って伝説を作らないと死ぬ」っていう設定でも、ジミヘンの力を借りっぱなしだと簡単になってしまうじゃないですか。そうなると読者も「当たり前じゃん、楽勝じゃん」って思っちゃうし、感情移入もできなくなってしまう。紫織が「力は使いません」っていうキャラクターじゃないと作品としての魅力が出ないだろうなって思いましたね。紫織と対照的なキャラクターとして、カートの力を存分に使ってのし上がろうとするフォードが出てきたので、今後は彼をどう絡ませるかですね。
こんなにセッションがドラマチックになるんだ
──伝説のギタリストが登場する内容に関連して、生形さんが実際に見てみたいと思うギタリストは?
生形 やっぱりジミヘンは1回見てみたかったですね。マイルス・デイヴィスも何回も彼をメンバーに誘っていたみたいだし、俺の好きなThe Policeのスティングも、一番よかったライブに挙げていたし。相当すごかったんだろうなって思って。カート・コバーンも見たかった。1回だけ日本にも来てるんですよね。
町田 そうでしたね。中野サンプラザホールでライブをやってました。
生形 俺が13歳か14歳ぐらいのときか。まだ当時は知らなかった。
町田 一緒にやってみたいギタリストはいます?
生形 どうなんだろう……。できるものならジミヘンとかともやってみたかったですけどね。強烈な刺激になりそうだし。ストーリーとか絵の力が大きいと思うんですけれど、こんなにジミヘンとカートのセッションがドラマチックになるんだって思いましたし。
長田 作中に「ギターを通して会話する」っていうシーンがあるんですけど、実際にそんなふうに感じることってあるんですか?
生形 会話とまではいかないんですけど、人によって全然違いますね。一緒にやりやすい人とやりづらい人っていますし、バンドでもそういう相性は出てきます。本当に不思議で。たまにセッションをやることがあるんですけど、相性がいいと何も決めてなくても曲が出来るし、時間もあっという間に過ぎますよ。
──劇中でのセッションで今後どんな相手が登場するか、気になるところですね。
町田 それはちょっと言えないですけどね(笑)。
長田 本当にちゃんと考えてる!?
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- 長田悠幸×町田一八「SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん(6)」/ 2016年4月25日発売 / 627円 / スクウェア・エニックス
- 長田悠幸×町田一八「SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん(6)」
“ジミ”だけどギターが大好きなアラサー高校教師・本田紫織。ある日アフロヘアの“ヘン”なおじさんに取り憑かれ、27歳を終えるまでに伝説を作らないと死んでしまう契約を交わすことに。学生たちとバンドを結成し活動を進めていくが……。果たして紫織は伝説を作ることができるのか?
- Nothing's Carved In Stone ニューシングル「In Future」/ 2016年4月6日発売 / 1296円 / Dynamord / GUDY-1002
- 「In Future」
収録曲
- In Future
- Ignorance
- YOUTH City(Live at Okayama CRAZYMAMA KINGDOM 2015.10.23)
- Perfect Sound(Live at Okayama CRAZYMAMA KINGDOM 2015.10.23)
長田悠幸×町田一八(オサダユウコウ×マチダカズヤ)
長田が作画、町田が原作を担当。2012年に大喜利をテーマにした「キッドアイラック!」を共作し、「ヤングガンガン」にて約1年間にわたり発表した。現在は「月刊ビッグガンガン」で「SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん」を連載している。
Nothing's Carved In Stone (ナッシングズカーブドインストーン)
2008年に生形真一(G)が在籍するELLEGARDENの活動休止を機に、日向秀和(B)、大喜多崇規(Dr)、村松拓(Vo, G)と結成。2009年2月に初ライブを行い、5月に1stフルアルバム「PARALLEL LIVES」をリリースした。同年夏には「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」「SUMMER SONIC」などの大型ロックフェスに出演。毎年オリジナルアルバムを1枚リリースするなどコンスタントに作品を発表し、2015年8月に初のライブアルバム「円環-ENCORE-」、同年9月に7作目となるアルバム「MAZE」をリリースする。2016年4月にはニューシングル「In Future」を発売した。