音楽ナタリー Power Push - SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん
夢、苦悩、挫折……そして“ジャキーン”!? 新境地ロックマンガの魅力に迫る
「あのシーンが痛くて痛くて……」
──「SHIORI EXPERIENCE」は教師である主人公、紫織が高校生たちとバンドを組み、そこでの喜びや挫折を描いた物語となっています。
町田 「自信満々でやってみたら全然ダメで……」みたいな。そこはもうドキュメンタリー的に描いてます。ほかの職業でも似たようなことはありそうですよね。
生形 町田さんはバンドはやってなかったんですか?
町田 やってた時期もありましたけど、ここまで極端な体験はありませんでしたね。マンガ家としてだったら何回かありましたけど。
──初ライブで誰も相手にしてくれなかった……というシーンなど、かなり生々しい場面もありますよね。
生形 バンドをやってる人なら、誰もが経験することになる一幕ですよね。
町田 演劇とか、お笑いをやってる人からも「あのシーンが痛くて痛くて……」って感想をいただきましたよ。
生形 みんな共通するもんなんですね。毎回印象に残るところはあるんだけど、各巻ともテンポがいいから読むペースがどんどん早くなっていって、一気に読み終えちゃいますね。
長田 コミックス1冊の中でも、全体の流れは意識してます。
──ラジオでも「Aメロ、Bメロみたいに流れを作っていきたい」とお話されていましたが、コミックスはアルバムみたいですね。
生形 それも音楽と似てるんですよね。1曲ごとにちゃんとドラマがあるんだけど、アルバムという形にまとめられることで、さらに1つの作品になってるみたいな。
ちょっとファンタジーすぎだろ!
──最新話ではカートの苦悩について触れられているのですが、観客の顔が全員豚になったりと、彼の心情を端的に表すような描写もありました。
生形 あれもすごいよね。ジミヘンとカートが一緒に「Smells Like Teen Spirit」を弾くっていうシーンもあったんだけど、なんだかグッときたんですよね。不思議だったな。
──絶対に共演するはずがなかった2人が共演してて。
生形 ちょっとファンタジーすぎだろ!って最初は思ったよ(笑)。でも読んでみると、すごい惹き込まれちゃって。
長田 ジミヘンとカートが並んでいる絵を描いたとき、「2人のセッションシーンを描けるんじゃないかな」って思ったんですよね。
町田 それで今回は「やるんだったら徹底的にやってみよう」ってことになったんです。このシーンは「ありえないだろ」って思う人もいるだろうし、読者のリアクションが気になるところですね。
──この展開は連載初期から決めていたんですか?
町田 カートが出るのは決めてました。でも「The 27 Club」っていう、27歳で亡くなったミュージシャンを集めたドリームバンドを出すアイデアは考えてなかったかな? それはカートが登場してから思い浮かんだはずです。
長田 予定だと、カートの登場はもうちょっとあとでしたよね。意外と早めに出すことになって。
ジミヘンをここまで描き続けるマンガなんてないよ
──演奏シーンの描写は音符や擬音だけでなく、洪水が発生したり体育館が爆発したりとさまざまな方法で描かれています。
長田 これはもう常に試行錯誤してます。ジミヘンのギターだったらきれいな音だから擬音もきれいに描いているけど、カートの音はちょっと荒っぽいからギザギザにしてみたり。体育館が爆発したり洪水が起きるっていうのはライブの盛り上がりを表現する際に使ってます。でも町田さんのネームの時点ではあんまりちゃんと書いていないんですよね。「客ずぶ濡れ」とか文字で書いてるだけだったり。
町田 ライブを観に行って実際に感じるようなインパクトを表現したいっていうのはありますね。
長田 ジミヘンが出てきたりして、作風がもうファンタジーじゃないですか。だからそういう派手な表現もやっちゃってもいいかなって。現代劇的なバンドマンガだったら、現実離れすぎてあんまりできないですもんね。
町田 擬音に関しては長田さんがすごくこだわっていて。擬音をあまり描かずに表現するバンドマンガってけっこう多いんですけど、長田さんの場合はとにかく細かく描くタイプで、それが独特の勢いになっているんでしょうね。
生形 (「月刊ビッグガンガンVol.04」掲載回の冒頭を指差し)この「ギョッギャッ」っていうところ、「Purple Haze」のイントロですよね?
長田 そうそう!(笑) わかる人にはわかるんですね。あとは1回矢印を描いてみたりもしたんですよ。
町田 2巻のラストでしたっけ?
長田 (該当ページを見せつつ)ここだとカタカナと矢印を組み合わせて、音の高低を表現してます。
町田 あとはドラムの擬音の配置も変わってますよね。
長田 これも「ドコドコドコドコ」って流れるように叩いてる様子を表してます。あとは吹奏楽部の演奏シーンだと、1つの擬音を2種類の形状にして重ねてみて、いろんな音が混じってるのを表してみたり。やってて楽しいんですよね。
生形 そんなに細かいんだ!
町田 言われないとわかんないですよね(笑)。
──巻数を重ねるほどいろんなパターンが登場していて、それを探すのも面白いですね。
生形 ジミヘンの顔もだいぶ変わりましたよね。
長田 1巻と比べたらすごく変わりましたよ! だいぶ慣れてきました。
町田 だんだん長田さんのキャラクター、って感じになってきましたね。
長田 ジミヘンをここまで描き続けるマンガなんてないですよね(笑)。
──メインキャラクター以外にもジェームス・ブラウンそっくりな黒鉄先生、プリンス君といった脇役も個性的ですよね。
長田 JB(ジュンコブラック)先生ですね。これって町田さんが考えたんでしたっけ?
町田 プリンスもJBも最初長田さんが考えたんですよ。
生形 彼らが出てくるとなんかホッとします。
町田 このキャラ、長田さんが作画を担当するって決まる前から描いてきてくれたんですよ。
長田 あれっそうだっけ?
町田 キャラ表みたいなやつに載ってましたよ。
生形 プリンス君も元ネタと同じく、ドラムだったりベースだったりいろんな楽器を演奏してるところがいいですよね。
町田 彼、1回登場しなくなったんですけど、どのタイミングで再登場させるか悩みました(笑)。
生形 こうやって実在のアーティストをモチーフにしたら、いろんな登場人物を考えられますよね。
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- 長田悠幸×町田一八「SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん(6)」/ 2016年4月25日発売 / 627円 / スクウェア・エニックス
- 長田悠幸×町田一八「SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん(6)」
“ジミ”だけどギターが大好きなアラサー高校教師・本田紫織。ある日アフロヘアの“ヘン”なおじさんに取り憑かれ、27歳を終えるまでに伝説を作らないと死んでしまう契約を交わすことに。学生たちとバンドを結成し活動を進めていくが……。果たして紫織は伝説を作ることができるのか?
- Nothing's Carved In Stone ニューシングル「In Future」/ 2016年4月6日発売 / 1296円 / Dynamord / GUDY-1002
- 「In Future」
収録曲
- In Future
- Ignorance
- YOUTH City(Live at Okayama CRAZYMAMA KINGDOM 2015.10.23)
- Perfect Sound(Live at Okayama CRAZYMAMA KINGDOM 2015.10.23)
長田悠幸×町田一八(オサダユウコウ×マチダカズヤ)
長田が作画、町田が原作を担当。2012年に大喜利をテーマにした「キッドアイラック!」を共作し、「ヤングガンガン」にて約1年間にわたり発表した。現在は「月刊ビッグガンガン」で「SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん」を連載している。
Nothing's Carved In Stone (ナッシングズカーブドインストーン)
2008年に生形真一(G)が在籍するELLEGARDENの活動休止を機に、日向秀和(B)、大喜多崇規(Dr)、村松拓(Vo, G)と結成。2009年2月に初ライブを行い、5月に1stフルアルバム「PARALLEL LIVES」をリリースした。同年夏には「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」「SUMMER SONIC」などの大型ロックフェスに出演。毎年オリジナルアルバムを1枚リリースするなどコンスタントに作品を発表し、2015年8月に初のライブアルバム「円環-ENCORE-」、同年9月に7作目となるアルバム「MAZE」をリリースする。2016年4月にはニューシングル「In Future」を発売した。