新東京EP「新東京 #5」インタビュー|4人が生み出す“メタ”の世界へ (2/2)

「CDを鏡面にする」というアプローチ

──そして「Mirror」は鍵盤、ドラム、ベースの絡み合いがめちゃくちゃ気持ちいいですね。これは田中さんが作詞を担当しています。

田中 今回の制作を通して考えたことの、一番深いところを表現している曲だと思います。創作物であるはずのものが、観察者の存在する世界をそのまま映し出していることは、1つの次元超越と言えるんじゃないかなと。そこから“Mirror”を次元超越のメタファーにしようと考えて。ワンマンライブ「NEOVERSE」のフライヤーとEPのジャケット、そして「Mirror」の3つで、帰納法になるよう歌詞を書きました。VRの外側を見た牛、ジャケットの中で観察者に気が付く僕、創作物でありながら現実世界を映し出す鏡。その延長線上に僕たちが表現したかった世界があります。それに付随してZepp Shinjukuのライブのグッズとして、ジャケットが鏡面に加工されたEPのCDを販売しようと思っていて。歌詞の中で何度も登場する「Mirror」は、鏡面のジャケットについてであり、この楽曲そのものについてでもあります。最後のサビでMirrorに“”が付いているのはそういった理由からですね。

新東京

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杉田 普段俺たちの創作物を鑑賞している人たちがCDを手に取ると、そこに自分の顔が写っているという。鏡のCDに関してはだいぶ激論があったし、もしかしたら賛否両論あるかもしれないけど、すごく示唆的なギミックなんじゃないかなと。

大蔵 「Mirror」はサビでスラップをやっていて、それが気持ちいいですね。あとはドラムソロが熱い。

保田 音源でドラムソロを叩くのは初ですね。フレーズに関しては、田中に「まずはこの動画を観て」と言われて。

大蔵 リファレンスがあったんだ。

保田 韓国のバンドの動画だったんだけど、それはBPM100くらいのシャッフルの曲だったんですよ。「Mirror」は120くらいだから……。

杉田 何を観せられたんだ?って(笑)。

田中 フレーズそのものはまったく参考にできないけど、全体の流れや最小単位での起承転結的なものが素晴らしくて、それを参考にしてほしかったんです。

左から保田優真(Dr)、田中利幸(Key)。

左から保田優真(Dr)、田中利幸(Key)。

お前ら、自分を見失うなよ

──EP「新東京 #5」の最後を締めくくるのは「n+1」。多彩なグルーヴが絡み合うアレンジの斬新さ、「次元の境界線はあやふやになる」というフレーズを含めて、新東京の新たな到達点と呼ぶべき楽曲だと思います。杉田さんが手がけた歌詞も、メタをテーマにした本作の1つの結論なのかなと。

杉田 そうかもしれないですね。みんな、日々さまざまな決断や判断を繰り返しているじゃないですか。聴く音楽についてもそうだし「何を食べようか」「旅行、どこに行こうか」とか。そういう無数の決断は、その人にとっての「これが好き」だったり「自分の感性ではこれがいい」ということを基準にしているんだろうし、そうやって自分を形成しているつもりでいるけど、それは結局、上位存在に仕向けられたものなんじゃないかなと。この歌詞は「お前ら、自分を見失うなよ」みたいなことを書いているんですよ。

──自分で自由に行動しているつもりでも、実は“決めさせられている”と。

杉田 そうですね。1つひとつの判断は小さいものかもしれないけど、それを積み重ねていく中で、気付けば人生が大きくズレていることもあるのかなと。もう1つは、N=現実にいる自分たちをN-1が覗き込んできたり、N+1が干渉してくるということもテーマになっていて。聴いてる人をハッと思わせるような仕掛けが欲しいなと思って、いろいろ考えた結果「お聴きいただきありがとうございます。『新東京 #5』のテーマは無事伝わりましたでしょうか」という問いかけを入れたんです。いきなり話しかけられたらびっくりするだろうし、それを受けて「……ああ、突然話しかけてしまいすみません。お詫びといってはなんですが、ベースソロを」というセリフにつながるという。このセリフは録ってみると意外と難しかったんですけどね(笑)。

田中 いくつかパターンを試したんですよ。大蔵がセリフを言うバージョンもあって。

大蔵 自分でしゃべって「じゃあベースソロ弾きます」というパターンもあったんですけど、ボツになりました。

左から杉田春音(Vo)、大倉倫太郎(B)。

左から杉田春音(Vo)、大倉倫太郎(B)。

杉田 曲全体を考えたときに、セリフを入れるか省くかは五分五分だったんですけど、形にしてもらえてうれしいです。

田中 うまくいかなかったら機械にしゃべらせようかと思ってたんですけど、録ってみたら「これで全然いいな」と。やっぱり曲を奏でている、作り手の俺らがやらないと意味ないと思ったので。

──メンバーに話しかけられるからこそ、リスナーは“メタ”を感じられるわけですからね。

杉田 壮大なテーマにリスナーを引きずり込みたいわけではなくて、このテーマは誰しも当事者だと思うんです。意識を少し変えるだけで、見えてくるものがたくさんあるはずなので。

──自分自身をメタ的な視線で捉えるきっかけになるかもしれないですね。「n+1」はグルーヴも気持ちいいので、ライブで聴けるのも楽しみです。

保田 Aメロで四つ打ちの16ビートを叩いてるんですけど、ここまで余分なものを削ぎ落した四つ打ちを新東京でやるのは初めてだと思うし、「やっとやったな!」と。

田中 最初はちょっと不安がってたよね。「本当にやる? 大丈夫?」って。

保田 カッコよくて気持ちいいんで、今となっては大賛成です(笑)。

──もちろんベースソロも聴きどころです。

大蔵 デモ音源にベースが2本入っていたんですよ。それすごくカッコよかったし、人間離れしている感じが“メタ”というテーマにも合っている気がしたので「このままやったほうがいいな」と。なので音源では、あえて2本重ねてエグいフレーズを表現しています。

──音源でしか実現できないフレーズを意図的に入れたと。ライブではどうするんですか?

大蔵 いやあ、困った(笑)。ライブでどう弾くかは、ぜひその目で見届けてください。

田中 指が増えてるかもしれない。

──Zepp Shinjukuでのワンマンも、新東京にとって新しいトライだと思います。

杉田 「新東京 #5」の内容とリンクした演出をやろうと思っていて、メンバーそれぞれ頭を使っていろいろ考えています。みんなでアイデアを出しつつ、DIYで実際に手を動かして。

田中 あるモノを作ってます。

杉田 それがかなり巨大なんですよ。トシはそういうのを作るのも得意で。

保田 というか、田中の家に置いてあるんですよ。半分は自分の部屋にあるんで、ライブまでに合体させる予定です(笑)。

新東京

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公演情報

新東京「NEOVERSE」

  • 2024年11月22日(金)東京都 Zepp Shinjuku(TOKYO)

プロフィール

新東京(シントウキョウ)

杉田春音(Vo)、田中利幸(Key)、保田優真(Dr)、大蔵倫太郎(B)からなる4人組バンド。2021年4月の結成後、6月にEggsが主催する23歳以下限定の音楽コンテスト・TOKYO MUSIC RISEにてグランプリを獲得。8月に東放学園主催のイベント「コンサートのつくりかた」にて、東京・Zepp Tokyoで初ライブを行い、その後デビューシングル「Cynical City」を配信リリースした。2022年2月には自ら運営する新東京合同会社を設立し、8月には「SUMMER SONIC」に出演。同年12月に初のワンマンツアー「NEOPHILIA」を東名阪で行った。2023年7月に「FUJI ROCK FESTIVAL」に初出演を果たし、その後韓国や台湾など海外のフェスにも出演。2024年2月に1stフルアルバム「NEO TOKYO METRO」、10月にEP「新東京 #5」をリリース。11月に東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)にて「NEOVERSE」と題したワンマンライブを行う。

※記事初出時、一部誤記がありました。お詫びして訂正いたします。

2024年11月14日更新