新東京のEP「新東京 #5」がリリースされた。
「新東京 #5」は“メタ”をテーマに制作された4曲入りのEP。1つの主題をもとに制作されたコンセプチュアルなリリックが、より複雑さを増したアレンジの曲に乗せられた、新たなフェーズへの進出を感じさせる意欲作だ。本作のリリースを受けて音楽ナタリーは4人にインタビュー。“メタ”をテーマに1枚の作品を作ることとなったきっかけや、本作を通して彼らが伝えたいメッセージなど、さまざまな角度から「新東京 #5」を掘り下げていった。
取材・文 / 森朋之撮影 / kokoro
みんなでメタについて考えてみよう
──今年は2月に初のフルアルバム「NEO TOKYO METRO」をリリースし、その後全国6都市を回るワンマンツアーを行いました。アルバムの反響やツアーの手応えについて、どのように感じていますか?
杉田春音(Vo) めちゃくちゃ自信を持てるアルバムができたと思っているし、今でもけっこう聴き返しますね。「NEO TOKYO METRO」で表現したこと、あのときの“イケイケドンドン”な感じは僕の中で今も継続していて。テーマは違えど今回のEPの制作にも、テンション的につながっているのかなと。
田中利幸(Key) アルバムのコンセプトが「表現することを厭わない、僕たちの理想郷」みたいなものだったんですけど、今後もそれは新東京の芯になっていくんだろうなと感じています。自分の根底にある考え方の1つだし、それは今回のEPにも通じている部分だと思うので。
保田優真(Dr) 「NEO TOKYO METRO」の収録曲はライブでもけっこう演奏してるんですけど、特に「NTM」と「Escape」は定番曲みたいになっているんですよ。新東京にもともとあった鋭角なところがさらに鋭くなっているし、それが自分たちのライブの強みにもなってきたのかなと。
大蔵倫太郎(B) バンドのコンセプトもそうだし、ライブの雰囲気に関しても、アルバムを起点にして“新東京感”みたいなものを定義付けられたと思います。
──新作EP「新東京 #5」は、アルバム「NEO TOKYO METORO」をサウンド、コンセプトの両面でさらに発展させた作品だと思います。まずはEP全体のテーマについて教えてもらえますか?
田中 11月にZepp Shinjukuでワンマンライブをやるんですけど、そこに向けてEPを制作することになって。その段階で大まかなテーマはなんとなく決まっていたんです。Zepp Shinjukuには近未来的なイメージがあるし、EPもこれまでよりハイテクなものにしたかった。
──「新東京 #5」に関するステートメントで田中さんは「約3年前、トルコの酪農家が牛にVRヘッドセットを装着して広大な草原を見せることでストレスを軽減させ、牛乳の生産量を増やしたというニュースを目にしました」というエピソードを書いていますね。そのときに感じた違和感が、今の世界をメタ的に捉え直すきっかけになったと。
田中 そうですね。そのニュースを見たときはポジティブなこともネガティブなことも感じたんですけど、その後もずっと自分の中に残っていたし、だんだんと「曲にして昇華できたらいいな」と思うようになって。
杉田 ライブの遠征の車中とかで、物理学の話をよくしていたんですよ。その中で「次のEPのテーマ、メタにしたら面白いんじゃね?」ってトシ(田中)が言い出して。
大蔵 車内で「EPのテーマにするにあたって、みんなでメタについて考えてみよう」という時間もありましたね(笑)。
田中 すごい深いところまでいったよね。
保田 普段そういうことを考えることはないんだけど(笑)、そのときは「面白いな」と思って聞いてました。
杉田 めちゃくちゃ面白いんだけど、メタというテーマで4曲分の歌詞を書くのは大変だなと思って。普通の文章でも理解するのが難しいのに、言葉数が制約されている歌詞で表現するのは大変だろうし、あまり説明的になりすぎるのもどうなのかなと。
──確かにハードルが高いテーマですよね。“メタ”は一般的に“高い次元の”“超越した”という意味で使われますが、田中さんにとってはどんなイメージの言葉なんですか?
田中 定義としては“上位存在”みたいなことなのかなと。自分を俯瞰して見る、もしくは俯瞰して見ることができる場所というイメージですね。それを楽曲に取り込むときに、今まで思いつきもしなかったアイデアだとか、考えたことすらなかったモノの見方を加えたくて。「これまでの自分たちをメタ的に捉え直して、一歩踏み出す」というのがテーマでした。
リミッターがだんだんおかしくなってきた
──1曲目の「New Dimension」はタイトル通り、“新しい次元”を描いた楽曲ですね。
田中 はい。EPの中で最初に配信した曲で、「新しい次元に行くんだ」というテーマをかなりシンプルに表現しています。EP全体を象徴する楽曲かなと。
杉田 1曲目にふさわしい曲ですよね。今回は4曲中2曲をトシが作詞してくれて。そのうちの1つが「New Dimension」なんですが、自分で歌詞を書くときの手がかりにもなるなと思いました。こうやってメタという概念を歌詞にするんだなと。
──アレンジの精度、演奏の難易度も今までと比べてかなり上がってますよね。
大蔵 デモが上がってきたときに、イントロのベースのタッピング(奏法)を聴いて、気を失いました。
田中 1回ね(笑)。
大蔵 そこからむくりと起き上がって、がんばってレコーディングして(笑)。時間はかかったけど、なんとかOKをもらいました。
──田中さんがデモを作るときは、もちろんライブで演奏することを想定しているだろうし、人間が演奏できないようなフレーズは入れてないんですよね……?
田中 そうですね。ほかの人には弾けなくても、大蔵なら弾けるので。
大蔵 だいぶ険しかったけどね。
保田 僕も同じく「これ、ライブでやるんだよね。険しい道だな」と思いました。今ライブに向けて練習しているところで。
田中 今回のEPでは、今まで聴いたことがないような音源を作りたかったんです。
──「これ以上演奏の難易度を上げるとリスナーも楽しめなくなるかも」と遠慮することはないんですか?
田中 ありますけど、そのリミッターがだんだんおかしくなってきたというか。今までは“サビのわかりやすさ”みたいなものを意識することがあったんですよ。例えばあからさまに音程を高くしたり、アウフタクト(弱拍から始まるメロディ)を使ったりしていたけど、今回のEPはそれをあんまりやってないんです。音数も増やさないようにしたし、「n+1」とかは拍がズレているように聴こえるところもあって。「サビで大衆の心を射抜く」という感じではないかも。
──J-POP的なクリシェをあまり使っていないというか。
田中 そうですね。ただ、クリシェが持つ美しさみたいなものも感じてはいて。音楽には美しいクリシェが無数にあるし、それをいいなと思うことも多い。今回のEPではあまり使ってないほうかもしれませんが、様式美を追い求めた作り方もしてみたいです。
次元が1つ上がったような感覚
──2曲目「This Reality」のアレンジはジャズの成分が多めなのかなと。歌詞は杉田さんが担当されていますね。
杉田 そうですね。メタをテーマにEPを作ることになってから、樹形図を膨大に広げるようにいろいろな方向に話が進んで。「This Reality」の歌詞もいろんな想像をしながら書いたんですが、その中で“自分が自分を値踏みしている”というイメージが出てきたんですよね。自分を見限っているというか「自分にできるのはこれくらいだよな」と決めてしまっているという。具体的に言うと、僕が初めて歌詞を制作したときのことを書いてるんですよ。もともと「自分は表現なんてする人間ではない」みたいな考え方があったけど、1stシングルの「Cynical City」の歌詞を書いたことを起点に、自分の中の次元が1つ上がったような感覚があって。明確に、それまでの自分を俯瞰して見ることができるようになったというか。そのときのことを思い出しながら歌詞を書きました。あとは啓蒙的な要素も盛り込んでいます。何か表現しようとしている人に対して「ポエマー」みたいなことを言って揶揄する人や、「いや、自分は表現なんてできない」と思っている人もいるだろうけど、自由にいろいろやっていいと思うので。「あきらめんなよ!」というメッセージも込めています。
──他者に「お前には無理」と決められるのも嫌ですよね。
杉田 そうですね。俺も歌詞なんて書いたことなかったけど、こうやってがんばって形にしようとしていて。「最初から限界を決めるなよ」という気持ちもあるし、みんながもっと気軽に表現を楽しめればいいなって。
──なるほど。演奏に関してはどうですか?
大蔵 ベースについて言えば、新東京では初めてパームミュート(弦を手のひらでミュートする方法)っぽいやり方で弾いていて。独特のアタック感を出したかったし、音色にもこだわりました。
保田 これも新東京では珍しく、2番のBメロでツインペダルを使っているところがあるんですよ。これまではあまりプレイに取り入れてこなかったから、この曲をきっかけに練習しました。
──こういうジャズテイストの曲でツインペダルを“ドコドコドコ”って踏んでるのが面白いですよね。
大蔵 そうですよね。デモ音源が送られてきたとき、田中に「2番のBメロにフックが欲しいから、フレーズ考えて」と頼まれたんですけど、その後「ツインペダルでドコドコやることにしたから大丈夫」って言われました(笑)。
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「CDを鏡面にする」というアプローチ