音楽ナタリー Power Push - 神聖かまってちゃん×テレビアニメ「『進撃の巨人』Season 2」

の子と諫山創の「弱い人対談」

「なんだか僕は感受性ってやつが薄れている」

──先ほど諫山先生は「ネットの向こう側でマンガを描いてる感覚」と言っていましたが、「進撃の巨人」がこれだけヒットしても、“売れっ子作家”のような気持ちにはなれないんですかね。

諫山 そうですね。

の子 僕なんかはけっこう、行ったり来たりできちゃうんです。普段はニートの頃と一緒で、千葉ニュータウンの実家のソファに寝っ転がって、酒飲みながら100円ポップコーン食ってぼーっとスマホを見てるだけ。でも気分が上がってるときは、きらびやかな世界にポーンっと身を投げることもできる。

──それはたぶん、配信を長く続けているからなんじゃないかなという気がします。ステージではロックスター然とした雰囲気をまとっているけど、配信では目線の高さがファンと一緒なんですよね。リスナーと立場が対等などころか、時にはナメられたりバカにされたりもしてて。そんなふうに簡単にポジションを切り替えられるところが、どちらにも行ける理由なんじゃないかと。

の子(Vo, G / 神聖かまってちゃん)

の子 ああ、ネットで「ハゲ」とか言われたりしますね。人からバカにされるツールが現代にあってよかったっす。そういうのがなかったらたぶん、プレッシャーが自分の中で重くなりすぎちゃって、今生きてられたかどうかわかんないです。「おまえはオワコンだ」って言われて早5年ですけど、そういうコメントを見るたびに「なにくそ!」って思うんですよね。僕はそれに救われてきた気がします。

諫山 うん。叩かれないとダメです。マンガが売れ始めた頃、「僕は人と違うんじゃないか? もしかしてスターなんじゃないか?」って気分になったことがあって。ちょうどその極致だったときに吉田豪さんにインタビューしてもらったら、今じゃ信じられないようなことを言ってるんですよ(笑)。「豪さんの取材だからいいこと言わなきゃいけない」みたいなのもあったんだと思うけど。でもその後、いろいろしくじりがあったりして、叩かれたりもして。「あ、俺ロックスターじゃねえんだ」って思ったとき、気持ちがすっごい楽になったんです。なんかうれしかったって言うか。

の子 30代になって「大人になったな」って周りから言われたりもして、実際に大人になった部分はあると思うんですけど、子供の頃から変われなかったところは、もうこの先も変われないんだなって思って。

諫山 子供の自分が失われることが恐かったりしません?

の子 しますね。ネットでは「俺は変化を恐れない! お前らも変化を受け入れろ!」とか言って強がってるんですけど、本当はやっぱ恐いっす。

諫山 「26才の夏休み」の「なんだか僕は感受性ってやつが薄れている」っていう歌詞が胸に刺さったんです。僕も子供の頃はあんなにいろんなことに感動していたのに、どんどん感動しなくなってきてる。

の子 うん。それは26歳のときの僕が書いた歌詞なんで、きっとこれからもっと感受性は薄くなっていくんだろうな。

──でもお二人共、自分の中から湧いてくる表現は全然止まってないわけですよね?

の子 そうですね。現状では。でも「いつか尽きてしまうかも」っていう気持ちはありますよ。

諫山創

諫山 僕は今連載しているものは、あらかじめ考えてたものを描いている状態なので、既定路線に乗った商品を淡々と出荷しているような感じです。でも最近ちょっと、今までの人気に頼らない内容で、新連載のような形でマンガを描き始めたんです。それがものすごく恐かった。「これは十中八九、今までのファンは望んでないだろう」と思って。

の子 ああ、作り手もそういうことは先にわかってるんですよね。

諫山 でもマンガを描いててこんなに楽しいことはないってぐらい、そのマンガを描くのが楽しかった。苦しかったけど、それと同時にすごく。

の子 僕も、それまでネガティブなことばっかり歌ってたのに、いきなりすごいポジティブな曲を書いたとき、「叩かれるだろうなー」って思ったら案の定「やっぱオワコンだよ」「終わったなお前」ってめちゃくちゃ言われまくって(笑)。そういうことは10回ぐらい経験してますね。

──今「そういうことは先にわかってる」と言っていましたが、ファンから叩かれることが予想できていても、それは止められないんですね。

の子 止められないっていうか、当然なんですけどそのときの自分の表現なんで。気分が上がってるときは上がってる曲、下がってるときは下がってる曲になって当然なんだから、媚びる必要なんかないじゃないですか。そんなことをしたら嘘になっちゃう。

諫山 気分が乱高下してて、上がってる曲と下がってる曲が同時に存在するのが、の子さんらしさですしね。

今後どうなっても創作は続けてもらいたい

の子 俺、「進撃の巨人」を読んで学校を連想してたんですよ。でっかい壁に囲まれた窮屈な感じっていうか。

諫山 たぶん巨人が普通の人たちで、自分は巨人に殺される弱くて小さい人たちのほう。そういう社会の中で、小さい人たちが「くそーっ!」て言ってるのが「進撃の巨人」なのかもなって気がします。

の子 その社会において俺や諫山さんは、弱さを武器にして巨人と闘う兵団みたいなものでしょうね。

諫山 マンガを描くことって、もともと弱者の武器みたいなところがあると思うんです。でも音楽って、ある程度は“ロックスター”でなきゃ務まらないですよね。大衆音楽であればよりそれが顕著な気がします。そんな中でかまってちゃんは、みんなにとって身近なインターネットから生まれた新しいタイプのヒーローに見えたんです。

──今は2人共、そういう“弱い人たち”の成功例というか、夢を与える存在になったのではないかと思います。

左からの子(Vo, G / 神聖かまってちゃん)、諫山創。

の子 それは言われたりしますね。諫山さんなんかはもっともっと言われてるんじゃないですか? 実際僕も、今10代だったら諫山さんに憧れてただろうし、2ちゃんの「進撃の巨人」考察スレとか、マジでめっちゃくちゃ読みまくってると思う(笑)。

──最後に、お互いにファン目線で「これからこうなってほしい」という思いを語っていただければと。

の子 うーん……「こうなってほしい」はないかな。別に今のままで全然いいと思いますよ。あえて言うなら「今後どうなっても創作は続けてもらいたい」みたいな感じですかね。

諫山 マンガに限らず、何かを作る喜びみたいなのを、人生を通してずっと感じてたいとは思ってます。

の子 そういうことですね。俺はそれに尽きると思うんです。諫山さんにはアーティストでいてもらいたい。別に押し付けるわけじゃないですけど(笑)。

諫山 僕はもう、欲をそのまま漏らせば、望むのはやっぱり「神聖かまってちゃんの信者を増やしたい」ってことです。かまってちゃんに放送事故のイメージしか持っていない、よくない印象がある人たちが改心して、みんながひれ伏すようになるのを希望します(笑)。

の子 あ、じゃあ僕が諫山さんに望むのは、「神聖かまってちゃんをこれからもたまに使ってほしい」です。よろしくお願いいたします(笑)。

テレビアニメ「『進撃の巨人』Season 2」 / 2017年4月1日(土)より、TOKYO MXほかで放送
テレビアニメ「『進撃の巨人』Season 2」
スタッフ
  • 原作:諫山創(別冊少年マガジン連載 / 講談社)
  • 総監督:荒木哲郎
  • 監督:肥塚正史
  • シリーズ構成:小林靖子
  • キャラクターデザイン:浅野恭司
  • 総作画監督:浅野恭司、門脇聡、山田歩
  • 音楽:澤野弘之
  • オープニング主題歌:Linked Horizon
  • エンディング主題歌:神聖かまってちゃん
  • アニメーション制作:WIT STUDIO
神聖かまってちゃん ニューシングル「夕暮れの鳥 / 光の言葉」 / 2017年5月24日発売 / 1620円 / ポニーキャニオン / PCCA-04531
「夕暮れの鳥 / 光の言葉」
収録曲
  1. 夕暮れの鳥
  2. 光の言葉
  3. 男はロマンだぜ!たけだ君っ(2017新録音ver.)
  4. コンクリートの向こう側へ(2017 最新リマスター)

神聖かまってちゃん「東!名!阪!ワンマンツアー(仮)」

  • 2017年6月23日(金)大阪府 umeda AKASO
  • 2017年6月29日(木)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2017年7月2日(日)東京都 東京キネマ倶楽部
神聖かまってちゃん(シンセイカマッテチャン)
神聖かまってちゃん

の子(Vo, G)、mono(Key)、ちばぎん(B)、みさこ(Dr)の4人からなる“インターネットポップロックバンド”。の子による2ちゃんねるバンド板での宣伝書き込み活動を経て、自宅でのトークや路上ゲリラライブなどの生中継、自作ビデオクリップの公開といったインターネットでの動画配信で注目を集める。2010年3月に初のCD作品となるミニアルバム「友だちを殺してまで。」を発表したのち、ワーナーミュージック・ジャパン内のレーベル・unBORDEと契約してメジャーデビュー。子供の頃の暗い記憶やニートの抱える不安な感情などを美しいメロディに乗せた楽曲、予測のできない破滅的なライブパフォーマンスでファンを増やした。2016年7月にミニアルバム「夏.インストール」をリリース。2017年5月にはシングル「夕暮れの鳥 / 光の言葉」の発売が決定しており、「夕暮れの鳥」はテレビアニメ「『進撃の巨人』Season 2」のエンディングテーマとしてオンエアされている。

諫山創(イサヤマハジメ)

1986年大分県出身。2006年に「週刊少年マガジン」のMGP(マガジングランプリ)にて「進撃の巨人」で佳作受賞。2008年、同誌の新人マンガ賞にて「orz」で入選し、デビューを果たす。2009年に「別冊少年マガジン」にて「進撃の巨人」の連載を開始。同作は2011年に第35回講談社漫画賞少年部門を受賞した。なお「進撃の巨人」は2013年4月にテレビアニメ化され、2015年夏には三浦春馬の主演で実写映画化された。2017年4月からはテレビアニメ「『進撃の巨人』Season 2」が放送されている。


2017年4月7日更新