Shing02×SPIN MASTER A-1|“アメリカ文化を吸収した侍”たちが考える「日本人らしさとは何か」

いわば「八百屋お七」のストーリーをサンプリングしたもの

──今回の「死狂い」という曲はたぶん「八百屋お七」がモチーフになってると思うんですが、これが次の「三途」という曲につながっていって、ストーリーが展開していきます。こういうストーリーはどういうふうに考えていくわけですか。

Shing02

Shing02 それ、非常にディープな質問ですね。今回は「八百屋お七」のストーリーを、いわばサンプリングしてるわけですよ。

──ああ、なるほど!

Shing02 「死狂い」という曲の中では、お七が火をつけたんじゃなくて……。

──庄之助が。

Shing02 ええ。でも実際に彼が火をつけたのかどうかは濁してるんです。なぜ彼が犯人として捕まったのかってことを考えていくと、寺小姓がどういう社会的な地位だったのか、なぜお寺でそういう身分で、なぜそういうドラマが起きるようなシチュエーションに遭ったのか、いろいろ調べていくと、本当に面白いんです。なぜお寺の寺小姓には美男子が多かったのか、美男子に一目惚れする女性がなぜ多かったのか、なぜそこから火をつけるような燃えさかる恋をしてしまったのか。そういった中で、庄之助はいろんなプレッシャーを感じながら生きていたと思うんですよ。ストーリーをサンプリングしながら、そこをいろいろ投影していったんですよね。

──「死狂い」では庄之助がつかまって、その次の「三途」では庄之助が処刑されて三途の川を渡る描写が続き、最後に寺で目覚めて「夢だった」と気付く。

Shing02 そうですね。

──どこまでが現実でどこからが夢で、そういう入り組んだ構造が面白いと思いました

Shing02 いわゆるそういう「夢オチ」って一番安易なエンディングなんですけど、そこはあえて。日本人は仏教のいろんなストーリーを大陸からサンプリングして、閻魔様に出会うまでの物語をどんどん膨らませていったわけじゃないですか。7日ごとにいろんな地獄を巡っていろんな神様に会って審判を受けて。7×7の四十九日が一番大事な審判なんだぞと。現世に残ってる人たちがお祈りして応援しないと、審判が下されるときに不利になる。だからみんなで応援しなきゃいけない、っていう四十九日の「風習」だけは今でも残ってるじゃないですか。実際そんな話はみんな気にしてないと思うけど、風習は残っている。そういうのが面白いと思いながら、いろいろストーリーを組み立てていったんです。ヒップホップ的な感覚でA-1くんのビートにこれだけ入り組んだストーリーを乗せたら面白いんじゃないかと。それに尽きますね。自分たちが面白いと思えるものを作れたらいい。自分でカッコいいと思えるものを作れたから、今作は日本のリスナーの人にも面白いと言ってもらえるだろうし、海外のリスナーにも興味持ってもらえたらうれしいですね。要はコアなことをしても一瞬で「カッコいい」と思ってほしいんですよ。

──ここで鳴らされている日本の伝統楽器や、伝統音楽、江戸時代の言葉遣いや八百屋お七の物語に、普段の我々はそれほど親しんでいるわけではない。そういうストーリーは今現在の我々の生活や生活実感と、どんなふうにつながっていくわけですか。

Shing02 そこはA-1くんの話にもあったように、自分らの意識に原子レベルで眠っている部分、代々受け継がれてきてる記憶、美的感覚があると思うんですよ。言葉にも音にも。実生活とはかけ離れているかもしれないけど、自分の中で眠っているものを喚起させたいんですよね。音楽じゃなくても、食べ物だったりファッションだったり建築だったり、いろんなジャンルに対して同じことが言えると思うんです。たまたま我々は音楽、ヒップホップという手段を使ったというだけで。

日本人としての感覚は大事だけど、それは出発点に過ぎない

──ヒップホップなど海外の文化に憧れて、それに近付きたいという気持ちがあった自分と、そうではない自分というもののせめぎ合い、関係性みたいなものは、常に意識されてきたんでしょうか。

A-1 関係性については微妙ですね。強く感じることもあれば、自然に馴染む場合もある。ヒップホップは世界のどこに行ってもあると思うんですよ。手法は違えど、若い人たちが使うツールであり、親しんでいる音楽として。その中で自分のルーツとの違いを意識すると、もともと自分に備わってる感覚やルーツを出したくなりますよね。

──誰も知らないネタを引っ張ってこようとか、誰も聴いたことのない音を作ってやろうって考えるのはアーティストとしてある意味自然なことだと思うんですが、そういう考え方を突き詰めていって、こういう日本の伝統音楽や、浄瑠璃のような語り文化に行き着いたという面もあるんでしょうか?

SPIN MASTER A-1

A-1 「誰も聴いたことのないような音を出してやろう」とはあまり意識してなかったんですが、作ってみたら意外と、ほかの洋楽とかをサンプルして作るよりもしっくりくるんですよ。

Shing02 ネタの選び方だったり、題材の取り上げ方だったり、結局材料の部分はあくまでも出発点なんで、料理で言えば食材の部分なんです。でも音楽の良さ、ヒップホップのカッコよさ、ヤバさが出てくるのは、材料をどうやって料理していくかってことだと思うんです。同じ題材、同じサンプリングネタを10人にやらせても、同じ曲は出てこない。その中で自分に一番適した料理の仕方は何か考えるのがアーティストの仕事だと思うんですね。この隠し味があるから美味しいので、みんなも美味しいと思ってほしいなと、マニアックなコミュニケーションだと思いますけどね。

──聴き手として、そこを汲み取れるかどうか。

Shing02 僕としては、たまたま和モノのアルバムを作ったし、たまたま自分の中でこういうストーリーものを選んだっていうのはあるんです。でもそれはあくまでも出発点であって、そこからどれだけ満足のいくストーリーができるか、満足いくテンションを録音できるか、どれだけ歌い込んでカッコよく歌えるか、そこのチャレンジが大事なんですよ。アーティストの仕事としては。もちろんストーリーやコンセプト、日本人としての感覚は大事なんですけど、それは出発点に過ぎないと思うんです。

──なるほど。これは今後どんな形で発展していきそうですか。

Shing02 最初に配信で出した音源をマスタリングし直してLP化、ボーナストラックを加えてCD化したんですけど、そこからまたいろんなやり方で、このコンセプトで出し続けたいと話していて。トラックも、あと2、3枚はアルバムが作れるんじゃないかってぐらいあるんですよ。配信を聴いて熱い反応をくれた人たちもたくさんいるので、そういう人たちに定期的にボーナス曲を送りつけたり、それがまとまったら2枚目のアルバムを出してみたりとか、常に配信先行で仕掛けていきたいなってA-1くんと話してます。

A-1 自分はライブでの技術の緻密さとか安定感をもう少し付けて、もっとミュージシャン寄りの方向性で、DJの機材を使って何ができるか突き詰めていきたいと思ってます。その成果の1つの例が今回のアルバムだったりするんで、そのまま引き続き皆さんに応援してもらえればうれしいですね。

──楽しみですね。

Shing02 僕らはもう40代になって、年齢的にはベテランの域になってると思うんですけど、バンドメンバーやリスナーに若い子が多いので、いつも刺激を受けていますね。気持ち的にはいつもフレッシュでいたいと思うので、停滞しないようにしていきたいです。同じことを続けても意味がないし、常に新しい刺激を求めてやっていかないと、ライブに来る人にもレコード買う人にも、何も伝わらないと思うので。