音楽ナタリー Power Push - SHINee

なぜSHINeeは輝き続けるのか? 最新シングル「Winter Wonderland」までの道程をたどる

SHINeeがニューシングル「Winter Wonderland」をリリースした。

シングルの表題曲は5人の歌声が光るウインターバラード。「冬があたたかいって思った」という歌詞が印象的な1曲だ。音楽ナタリーでは今作の発売を記念して、SHINeeというグループについて改めて掘り下げる特集を掲載する。フジテレビ系音楽番組「2016FNS歌謡祭」に出演したり、12月9~11日には日本初上陸となるワールドツアーの一環として神奈川・横浜アリーナで単独公演を実施したりと、韓国のみならず日本でも絶大な支持を得るSHINeeが、「Winter Wonderland」にたどり着くまでの道程を振り返る。

文 / 宮崎敬太

次はどんな新しいダンスを見せてくれるのか?

2016年12月14日、SHINeeはフジテレビ系の音楽番組「2016FNS歌謡祭 第2夜」に生出演を果たした。演目はSHINeeの代表曲「Everybody」。SHINeeの人気を名実共に決定付けた1曲である。この曲のダンスで5人は、倒れている5体のアンドロイドに扮する。そのうち1体が突如起き出したのち、残りの4体のスイッチを入れて、さまざまな冒険をするという内容だ。発表当時その独創性と難易度の高さ、運動量が大きな話題になった。

SHINeeは特に3rdシングル「LUCIFER」以降、複雑で緻密なダンスを新曲と共に披露してきた。YouTubeで公開されている「LUCIFER」の練習動画は、日本デビュー前の2010年のものだが、動きのキレ、振り付けの独特さ、ダンスのテクニック、そのすべてがあまりにもクオリティが高いのでファンがSHINeeのダンスについて話すとき、未だに話題にする映像だ。

彼らのダンスは「LUCIFER」以降、加速度的に難易度が高くなる。続く4thシングル「Sherlock」では5人の動きを曲の世界観に合わせてドラマチックに連動させた。そして腕を組んで舞台を大股で闊歩するという、それまで誰も観たことがない踊りでファンを驚かせた。

「5人は次の曲でどんな新しいダンスを見せてくれるのだろう?」 それがファンの共通認識となった。日本5枚目のシングル「Dazzling Girl」でSHINeeはファンキーなハウスビートの上で、歌詞と完全に連動した「Sherlock」ダンスの進化版を実現させる。もちろん歌詞との連動と言っても、ちょっとした振りではなく、ミュージカルのように舞台いっぱいを動き回り、複数のフォーメーションを組み替えながらそれを行うのだ。しかも「Dazzling Girl」は明るいラブソング。それまでシリアスなトーンのダンス曲が多かったSHINeeが「笑顔でこれまで以上にハードなダンスを踊る」という姿には、韓国をはじめ海外のファンからも大きな反響があった。

だがハードなダンスをすればするほど、メンバーたちのスタミナの消耗は激しくなる。2013年に行われたアリーナツアー「JAPAN ARENA TOUR SHINee WORLD 2013 ~Boys Meet U~」で彼らが「Sherlock」や「Dazzling Girl」を披露したあと、ヘッドセットマイクは荒い息づかいを拾っていた。パフォーマンスしたあとのMCは息が上がって話すことすらおぼつかなかった。観客はそれを見聞きして彼らがどれだけハードなステージをこなしているのか、改めて知ることとなったのだ。

ディティールですら手を抜かない

SHINee「SHINee WORLD V」日本公演の様子。(Photo by HAJIME KAMIIISAKA)

SHINeeは2012年以降、韓国と日本に加え、中国、東南アジア、ヨーロッパ、南米をライブで飛び回るジェットセッター生活を続ける。TwitterなどのSNSには、ファンが各国の空港で撮ったSHINeeの私服写真が次々と投稿された。ファンはもちろん写真を観てSHINeeの素顔や私服を楽しんでいたのだが、それ以上にライブの翌日の早朝には移動のため空港にいる彼らの生活に驚いていた。

SHINeeの実力を飛躍的に向上させたのは、まさにこの2012~4年の異常なスケジュールだった。世界各国でライブをすることで、歌唱力、ダンスパフォーマンス、スタミナ、コミュニケーション能力といったライブパフォーマンスに必要な能力が高くなった。スタミナやコミュニケーション能力の向上は、ファンからすると非常に見えにくい部分だ。だがSHINeeはそういう地味なディティールのクオリティにもこだわった。2012年の初ツアーでは韓国語混じりだったMCも、気が付けば今は日本語となっている。

日本活動のターニングポイントとなった「Everybody」

SHINee「SHINee WORLD V」日本公演の様子。(Photo by HAJIME KAMIIISAKA)

一歩一歩交流を深めていったSHINeeとファンの思いが表れた瞬間がある。それは2014年10月に東京・味の素スタジアムで行われた、彼らが所属する芸能事務所・S.M.ENTERTAINMENT主催のライブイベント「SMTOWN LIVE WORLD TOUR IV in TOKYO」だ。この日は台風の影響からあいにくの雨模様。しかも野外スタジアムだったため、出演アーティストの多くは本来のパフォーマンスを披露できずに苦労していた。

イベント後半、SHINeeは土砂降りの中で出番を迎える。ステージにはたくさんの水たまりができていた。彼らがそこに寝転んでSHINee史上最も複雑で緻密なダンス曲である「Everybody」のスタートポジションにつくと、会場にざわめきが起こる。

SHINee「SHINee WORLD V」日本公演の様子。(Photo by HAJIME KAMIIISAKA)

降り続く豪雨と寒さに観客も疲弊していた。だが「Everybody」のイントロが流れるとまずSHINeeファンが歓声を上げる。この曲を足元の悪い状況でパフォーマンスすることがどれほど難しいかわかっているからだ。SHINeeはそんな悪条件をものともせずに「Everybody」を歌い出す。ダンスの最初のパートで寝そべっていたテミンを放り投げる危険なアクションを完璧にこなすと、疲れ切った観客たちもSHINeeの力強さに触発されて「Everybody」を合唱し始めた。そして5人が合体して飛行機のポーズを作る楽曲のハイライトでは、この日一番の歓声が巻き起こっていた。

SHINeeは日本デビューしてからも東方神起や少女時代の弟分として見られていたが、このパフォーマンスをきっかけに一目置かれる存在となった。今回の「FNS歌謡祭」で「Everybody」を歌ったことでも、さらにSHINeeの存在が広がるかもしれない。

成長を続ける5人の実力を堪能できる「Winter Wonderland」

SHINee「SHINee WORLD V」日本公演の様子。(Photo by HAJIME KAMIIISAKA)

SHINeeは12月21日にニューシングル「Winter Wonderland」をリリースした。本稿前半ではダンスについて言及したが、不断の努力を続けている彼らはボーカルグループとしても高い能力を持っている。中でもわかりやすく成長しているのがテミンだ。彼は厳しい現場を毎日のように何年もこなし、ボーカリストとしての訓練を重ねた結果、日韓でソロデビューを果たした。それは、決して容姿端麗だからだけではない。1人で活動してもSHINeeブランドを傷付けない実力を身に付けたからなのだ。

「Winter Wonderland」をしっかり聴くと、ハーモニー部分で5人それぞれがまったく違う旋律を歌っていることがわかるだろう。ミンホはこれまでラップパートの多いメンバーだったが、最近では歌パートが増えている。男性的で抱擁力のあるその歌声は、すでにハーモニーを構成する上で欠かすことのできない特徴の1つとなっている。

SHINee「SHINee WORLD V」日本公演の様子。(Photo by HAJIME KAMIIISAKA)

グループの中でもっとも繊細な感性を持っているのはリーダーのオンユ。彼のようなボーカリストは、声に儚さを纏うことが多いが、オンユの場合は持って生まれた声の力がそのステレオタイプを振り払う。図太いのにか細い。歌詞の世界観を理解して、SHINee楽曲の感情表現を自在に行う。カップリング曲「Melody」では細やかな気持ちの揺れをダイナミックに歌唱するなど、独特の存在感を放っている。

キーは非常に頭がいい。グループの中で足りない部分をその都度見つけて、補完する能力に長けている。日本で活動を始めた当初、最初に日本語を流暢に話したのは彼だった。曲の中でラップが必要なら彼なりのフロウでアクセントを加える。通常こういったアーティストは器用貧乏で特徴がなくなりがちだがキーは違う。埋没せずに自分の声の性質を把握し、バランスを取りながらほかの4人が表現できない音をハーモニーに加える。

SHINee「SHINee WORLD V」日本公演の様子。(Photo by HAJIME KAMIIISAKA)

シンガーソングライターとしての才能を開花させたジョンヒョンは、現在曲のハイライトとなる部分を歌うのではなく、バックに回ってほかのメンバーを生かすようなボーカルを披露している。これによりSHINeeを1つ上のステージに引き上げた。韓国でのソロ活動が彼にこれまでとは別の景色を見せたことは間違いない。今回収録された2曲でも彼はチームプレーヤーに徹しつつ、サビやブリッジでパンチのある歌唱を聴かせてくれた。

今回の「Winter Wonderland」「Melody」で5人の個性豊かなボーカル表現を隅々まで味わって、グループとして円熟期に差し掛かっているSHINeeの充実ぶりを堪能してもらいたい。1月28日からは22公演に及ぶアリーナツアー「SHINee WORLD 2017(仮)」も開催される。彼らがこのツアーでどのようなパフォーマンスを届けてくれるか楽しみにしておこう。