清水翔太「Insomnia」インタビュー|「不眠症だからできた」自信作で“清水翔太”というジャンルを確立 (2/3)

もう第何章っていうのはやめます

──「HOPE」のインタビューのときに、「ここから第3章の始まり。これからは自分の原点にあるものを、培ったスキルで創意工夫していく」ということを話していました(参照:清水翔太「HOPE」インタビュー)。その意識やモードはまだ続いていますか?

えっとね、もう第何章っていうのはやめます(笑)。

──「HOPE」1作品で第3章は終了ですか(笑)。

それで言うと今回は第4章みたいなことになっちゃってるんで(笑)。もう意識が全然違いますね。今は、「PROUD」(2016年発表の6thアルバム)とか「FLY」(2017年発表の7thアルバム)とか、あのへんのモードになっちゃっていて、もうノリで作ってるから。自分の原点を工夫して……とか全然考えてない(笑)。「もう知~らね。バンバン好きなことやってやろ~」みたいなノリに近いので、「HOPE」とはだいぶ違いますね。

清水翔太

──だからこそ、気分が乗って全曲早く作れたのかも。

うん。今回思ったのは、それこそデビューアルバムのときに「誰かの傘になりたい」と言ってましたけど、そういう優しい音楽、優しい切り取り方の自分と、「もう知らん」「好きなこと言うだけだから」「ついて来れる人だけついてくれば」っていうモードが交互に来るんですよ、僕は。

──アルバム10枚を作って気付いた(笑)。

そう。それを第何章とか区切ってたらもう大変な数になっちゃうから(笑)。そもそも「HOPE」が章じゃなかったんですよ。「HOPE」で第3章に切り替わったわけじゃなくて、あれは特殊だった。コロナ禍という時代背景がああいう作品にさせたんだと思います。

シンプルなトラックを生かした「Fallin」

──リードシングルの「Fallin」はトラップ系ビートとアコースティックR&Bをミックスさせたような楽曲ですね。

これ、トラックがけっこうシンプルなんですよ。ドラムパターンだけ先に作って、その上でピアノをいろいろコード弾きしていく中でできた1つ。とりあえずその上で歌ってみたら、「Fallin love, Fallin love, Fallin love」っていうキャッチーなメロがすぐ出てきて。「これ絶対、録っておこう」とキープしてたんです。そのフレーズから恋に落ちる曲にしようと思ったんですけど、普通に恋に落ちる曲はさんざん書いてきたし、今、切り取りたい場面はなんだろう?と考えたときに、クズ男を書こうと。大恋愛をして、まだ未練もあるし、もうほかの恋なんてしないと思っていたのに、わりとすぐ好きな人ができた。そのことに対して、なんじゃこりゃ?って感じにしようと。

──自分に対して「なんじゃこりゃ?」と言ってる感じ?

そう。その切り取り方はこれまであまりなかったなと思って。

──この曲のコーラスに當山みれいさんを迎えた理由は?

この曲はメロが強いから、あまりアレンジを派手にしたくなくて。超シンプルなトラックがカッコいいわけだから、これがシングルでいいんじゃない?って話してたんです。でもスタッフから「もうちょっと派手になりませんか?」みたいな要望が出てきて「これは派手にしちゃうとダサくなる。シンプルなトラックでメロだけが強いからいいんよ」っていう話をしていたんだけど、確かにシングルだったらもうちょっと派手にしたいなという気持ちもあって。じゃあ、トラックをいじらずに派手にするにはどうするか。わかった! 女性に歌ってもらおうと。それで、みれいにお願いしました。「使うかどうかわからないけど1回歌ってみて」とやってもらったら、すげえいい感じになったから「これ、これ」って。

──ささやかなコーラスだけど、透き通っていて存在感があるんですよね。

R&Bって異性のコーラスが絶対的にいいから。いろんなアーティストが大昔からこういうパターンはやるし、そこにR&Bイズムがありますよね。「Damage」(「PROUD」収録)もみれいがサビを一緒に歌ってるし、メロが強いとこういうパターンをやりたくなるんです。

──あと、この曲のリリックでBAD HOPの「Asian Doll」の一部をサンプリングした理由は?

もちろん「Asian Doll」は好きなんですけど、めちゃくちゃ深い理由があるわけじゃなくて。この曲を書いてるときに口を突いて出てきたんです。で、これをサンプリングしたら歌詞の流れにも合うし、面白そうっていう。この曲を書いてるときは解散するなんて知らなかったし(参照:BAD HOPが解散を発表、ラストライブの会場は)、たまたま時期が重なっただけなんです。

清水翔太

孤独と戦う「東京ライフ」

──本作にはKANの「東京ライフ」のカバーも収録されています。

ずっと好きなんです、この曲は。デビュー前から好きな曲。

──リアルタイムで聴かれたわけじゃないですよね。いつ、この曲に出会ったんですか?

最初のきっかけは覚えてなくて。たぶん誰かがカラオケとかで歌ったのを聴いたのかも。それで超いい曲じゃんと思って好きになって。デビューしてすぐくらいのときに、自分のファンクラブサイトで「今日の1曲」という感じでオススメ曲を紹介していたんですけど、そのときも挙げているんです。

──じゃあ、デビュー期からのファンは翔太さんがこの曲を好きなことを知ってるんですね。

そう。

──それを今、なぜカバーすることに?

それはもうひらめき。アルバムを作っている途中で、この作品に「東京ライフ」を入れたいと思って。

──今回のアルバム制作は大阪に帰ったことが起点になっているから、東京に対する思いを歌いたくなったのかも。

確かにね。「東京ライフ」に限らず、このアルバムは全体的に孤独との戦いを描いているので。「東京ライフ」もそういう曲だし、すごく合いそうという思いはありました。