椎名慶治インタビュー|念願叶って書き下ろしたゲーム音楽は、歌詞もサウンドも“椎名節”全開 (2/2)

僕にバフはかからないですから

──あとはやはり歌詞なんですけど、“椎名節”が全開でニヤニヤしちゃいました(笑)。いきなりデバフ(一時的な状態異常を表すゲーム用語)を食らうところから始まるのがいかにも椎名さんだなと。

やっぱり、僕にバフ(一時的な強化状態を表すゲーム用語)はかからないですから(笑)。今の若い子たちってけっこう「バフ」「デバフ」という言葉を日常語として普通に使うんですよ。ゲームの用語という感覚ではなくなってきている。伝わる言葉か伝わらない言葉かを自分の中でジャッジして、例えば「ナーフ(弱体化)」はゲーマーにしか伝わらないけど「デバフ」は一般にも伝わるだろうと。じゃあもう一発目はいきなり「デバフ」でいいかっていう、歌詞はそんなスタートでしたね。

──ほかにもゲームっぽいワードが随所に出てきます。とくにAメロには満載ですね。

「魔法障壁」という言葉も出てきますけど、これなんかは本当にゲームの中でしか使わない言葉なので、2番にそっと置いとく形にしています。これを1番から使っちゃうと、ゲームをやらない人を本当に置いて行ってしまうので……ちなみに、これは「HIT : The World」の用語でもあるんですが、「ファイナルファンタジー」シリーズにも出てくるんですよ。なので僕の中ではすごく馴染み深い言葉ではあるんです。

椎名慶治

──その一方で、Bメロとサビに関してはもう少し広い書き方がされています。

もちろんMMORPGの醍醐味であるところの人とのつながり、絆を歌ってはいるんですが、おっしゃる通りBメロとサビに関してはもっと広い意味での絆としても捉えられるように書きました。やっぱり楽曲そのものは広くたくさんの方に聴いてもらいたいですから、その思いが込められたんじゃないかと自分では思っています。

──サビの終わりに「Let's HIT : The World」とゲームのタイトルがそのまま使われているのも印象的でした。ちょっと往年のアニソン的な美学も感じられるというか。

それは狙いました。いつの頃からか、作品タイトルをそのまま歌う曲ってすっかり減りましたよね。だからこそ逆に新しさがあると思うし、言い方は悪いですけどダサくていいなと思ったんですよ(笑)。自分で書いといてなんですけど、「これ好き!」と思いましたね。

──ダサさに価値を見いだせるのも椎名さん特有の感覚だなと感じます。

僕はそういうの好きです、はい。あと、HITの開発元は韓国なので、日本語がわからない人にも伝わる部分を盛り込みたかったというのもあります。外国の方が聴いても「あ、『HIT : The World』って言ってる」ってことだけはわかるじゃないですか(笑)。その意味でもゲームタイトルをビシッと入れるのは大事だなと。

──それに加えて「HIT : The World」という言葉自体がかなり一般語ではあるので、歌詞の中に自然に馴染ませやすい言葉だったのもよかったんでしょうね。

そうですね。これが例えば「Final Fantasy」とかだったら、もうちょっと特殊な意味合いが乗っちゃいますから。「let's hit」という表現自体も「行こうぜ」という意味になるんで、ゲームをやっていない人にも普通に言える言葉だから使いやすかったです。

いろんな意味で忘れられないイベント

──レコーディングのお話も伺いたいんですが、やはりまずは「HIT : The World」ユーザーを集めて行われたコーラス録音について聞かせてください。やってみてどうでしたか?

80人ぐらいのユーザーさんに参加してもらったんですけど、その人数を普段僕が使っているレコーディングスタジオに入れるのはさすがに無理なので、ライブハウスを借りるしかなかろうと。その費用もネクソンさんが負担してくださるということだったんで(笑)、六本木に新しくできたGT LIVE TOKYOというライブハウスを使わせてもらいました。通常のライブと同じように、みんなにはフロアに立ってもらってコーラスパートを合唱してもらったんですけど、すげえうまいんですよ。あんまりうまいんで、あっという間にOKテイクが録れちゃって。イベントが10分くらいで終わりそうになるっていう(笑)。

──ありがたいような困るようなお話ですね(笑)。

「どうしよう?」って逆に困るくらいうまくて、すごく助かりました。うまいだけじゃなくてちゃんと熱量も乗っかってて、ゲームをプレイする人をすごく鼓舞してくれる素敵なコーラスが録れたのでよかったなと思ってます。正直、「HIT : The World」のユーザーを集めたといっても僕のファンが多くて、顔なじみもけっこういたんですよ。そのみんなが真剣な表情で歌っているところを初めて見たので、それにもちょっと感動しましたね。「こんな顔するんだな」みたいな。

椎名慶治

──ハプニングなどもなく、つつがなく進行したんですね。

ハプニングで言うと……エバンジェリストと呼ばれる、「HIT : The World」ユーザーの代表みたいなやつがいまして。いちプレイヤーに過ぎないんですけど、ユーザーの間では有名人で。そいつが最近ギターを始めたっていうんで、あらかじめ「Let's HIT」のコード進行を教えておいて、そのイベントのときに一緒にギターを弾いてもらったんですよ。それがすごくうまくいって、興奮した彼が思わず両手を挙げて「うおー!」ってバンザイしたら、もともと傷めていた左肩の腱かなんかを切ってしまったらしく、今日手術です。

──今日!

本人はずっと元気で、そのイベント後もオフ会で楽しくみんなとしゃべってましたけどね。いろんな意味で忘れられないイベントになりました。

──どうぞお大事にとお伝えください。椎名さんご自身のボーカル録りや楽器隊のレコーディングなどはどうでしたか?

ものすごくスムーズでした。これといって語れるエピソードもないくらい(笑)。レフティ(宮田‘レフティ’リョウ)が多忙すぎてなかなか時間が合わず、ベースのレコーディングが朝の9時スタートになったことくらいかなあ……しかも、それも午前11時には終わってましたし。

──でも、そのお話にも納得です。いわゆるタイアップ曲らしからぬ、ものすごく椎名さん色の強い楽曲ですもんね。皆さんお手のものなんだろうなと。

ですね。作品に寄せる作業がさほど必要なかったのは助かりました。やっぱり不得意なことを求められるタイアップが一番怖いんですよ。「この言葉は歌詞に使わないでください」とかのNG項目が多かったりして、がんじがらめになることもタイアップではけっこうありがちなんで。「女性の匂いを感じさせちゃダメ」とかね。「“匂い”すらダメなの!?」みたいな……今回はそういう縛りもなかったですし、非常にやりやすかったです。

──でも実際のところ、そういう縛りを増やせば増やすほど“その人に頼む意味”がどんどんなくなっていきがちではありますよね。別にその人じゃなくても作れる曲になりやすいというか。

今回の曲をネクソン側がどう思ってるかはわからないですけどね。「しょうがないよな、上がってきちゃったからこの曲でいくしかないか」とか思ってたら嫌だなと思いますけど……。

──僕がクライアントだったら、この1行目の時点で「椎名さんに頼んでよかった」と思いますけどね。

ホントですか(笑)。そうだとうれしいですね……!

オープニングって誰も見ないんで

──完成音源がゲームから流れてきたときは、どんな思いがありましたか?

いや、違和感がすごかったです(笑)。何万人とプレイしているゲームのオープニングで流れる曲が俺の曲って……ゲームの曲をやっているほかのアーティストもこんな気持ちなのかなと思いました。実はアプリに曲が実装される前から、自分でMP3音源を流しながらプレイするのを試してはいたんですよ。「本当に合うのかなあ?」と思って。

──仮想的に。

そうですそうです。それもあったので、今実際にアプリから自分の曲が流れてきても「これもまだ自分でかけてるMP3なのでは……?」という違和感がずっとありましたね。

──それは興味深いエピソードです(笑)。ちなみにゲーム内で「Let's HIT」が聴けるのはオープニングだけなんですよね?

今はオープニングだけなんですけど、例えばインストゥルメンタルバージョンをゲーム内で使ったりしても喜んでもらえるんじゃないかと思ってるんですよね。「ゲームの中でも聴きたい」という声もけっこう届いているので。そのへんはネクソンとも話し合っていきたいです。BGMを変更できたりしたら楽しいだろうし。

──いろいろな使われ方をしたほうがうれしいですよね。

オープニングって、誰も見ないんで(笑)。だって、アプリを立ち上げたら一刻も早くプレイに入りたいじゃないですか。だからたぶん「Let's HIT」が流れてる時間って、せいぜい5秒くらいなんですよ。イントロのコーラス「うぉ」ぐらいまでですよ。

椎名慶治

──(笑)。でも確かに、「ドラゴンクエスト」とかでもそうですよね。あのオープニング曲はみんな大好きだけど、実際プレイするときにゆっくり聴くかっていうと聴かないんで。

でしょ? みんなすぐスキップしちゃうんで、そこらへんは考えてほしいなと思います。

──椎名さんファンの皆さんはすでに「HIT : The World」をプレイされている方も多いと思うんですが、ライトなファンの場合は「え、椎名くんそんな仕事してたの?」とあとから気付く方もいると思うんですね。

いるでしょうね(笑)。

──そういう方々にこのゲームを薦めるとしたら、どんなポイントを推しますか?

そうだなあ……日々を過ごす中で、何か物足りなさを感じている方にはぜひプレイしていただきたいですね。今すでに充実した毎日を送っている人たちにはプレイする隙間はないと思います。

──そんな身も蓋もない(笑)。

なので少しでも隙間のある方とか、単なる暇潰しでなんの目的もなくやっているゲームがあるような方には「HIT : The World」をオススメします。

──惰性でパズルゲームをやり続けている人とか。

そうそう(笑)。惰性でパズルゲームやるくらいだったら、ぜひ「HIT : The World」でオンラインRPGの楽しさに触れてもらいたいですね。今までだとMMORPGって据え置き機やパソコンじゃないと遊べないイメージも強かったと思うんですけど、これはスマホだけで気軽に遊べますし。できれば僕のギルドに参加してもらいたいですね。僕は「アニカ1」というサーバーにおりますので、ぜひ遊びに来てください。

ライブ / イベント情報

Yoshiharu Shiina Requested Songs Live「FACE TO FACE #7」

  • 2024年11月9日(土)東京都 SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
  • 2024年11月10日(日)東京都 SHIBUYA PLEASURE PLEASURE

Yoshiharu Shiina「Special Minus One」

2024年11月24日(日)東京都 GT LIVE TOKYO ※昼夜2公演
OPEN 14:30 / START 15:00
OPEN 18:30 / START 19:00


Yoshiharu Shiina「PLUS ONE」

2024年11月28日(木)東京都 下北沢440


Yoshiharu Shiina 49th Birthday Live「9999」

2024年12月30日(月)東京都 SHIBUYA PLEASURE PLEASURE ※昼夜2公演
OPEN 14:30 / START 15:00
OPEN 18:30 / START 19:00


プロフィール

椎名慶治(シイナヨシハル)

1975年12月30日生まれのシンガー。1998年に永谷喬夫との音楽ユニット・SURFACEのシングル「それじゃあバイバイ」でメジャーデビューした。同グループではドラマ「ショムニ」「お水の花道」やアニメ「まもって守護月天!」「D.Gray-man」「NARUTO」など、数多くの作品にテーマソングを提供。2010年6月のSURFACE解散後、同年11月にミニアルバム「I」でソロデビューを果たす。2011年にフルアルバム「RABBIT-MAN」を発表した。2018年にはSURFACEを再始動し、現在はソロと並行して活動を展開。2023年12月に6thアルバム「RABBIT-MAN II」を、2024年9月にPCおよびモバイル向けMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)「HIT : The World」のテーマ曲「Let's HIT」を配信リリースした。また高橋まこと率いるバンド・JET SET BOYSのボーカルとしても活動している。