ナタリー PowerPush - 凛として時雨
3人が目指す“完璧”とは? 5thアルバム「i'mperfect」
アルバム完成までに2年半かかった理由
──今回は曲によってエンジニアを変えていますが、それぞれどういうイメージをもって依頼したんですか?
TK ドラムの音色だったり、歌の処理が人によってまったく違うんですよね。僕はエンジニアによって一番ドラムの音が変わると思ってて。あんまり音を意識してない人からしたら、たいした違いではないのかもしれないんですけど。
──でも曲によって質感は違いますよね。例えば1曲目の「Beautiful Circus」はすごく洗練された印象だし、ラストの「Missing ling」はアレンジもありますが非常にザラッとした音色になってるし。
TK 僕が究極に主観的に作っているものが凛として時雨ではあるんですが、今まではミックスもレコーディングも基本的に自分でやってたんで、主観的になりすぎていた部分があったかもしれないんですよね。でも今回は自分がやることで見落としていたことを、プロに任せることによって見つめ直すことができたというか。自分の手法を確認する意味で、プロのエンジニアの方に試してもらったというのは大きかったですね。
ピエール中野 やっぱり時雨はTKがキーなんですよね。で、時雨とソロでは音や作り方とは違うわけですよね。その違いが時雨らしさなんじゃないかなと思いますけど。
TK ソロのほうが楽器の制約がないし、音も足せるし、弾き語りもできるし、特に何かを意識しない状態で作れますね。それに対して時雨に関しては、あくまで3人の楽器が一番カッコよく鳴るポイントを探ることが必要で。その中でスイートスポットみたいなものがあるんですけど、それがすごく狭いんですよ。だからその部分を探すのに時間がかかる。これ以上足せないし、引けないという究極の形を求めている。そこに関しては異常に神経を使うので、ソロより単純に時間がかかるんですよね。時雨らしさって言葉にしたり具体的に示すことはできないんですけど、自分がこの方法で音を描いていければ、間違いなく時雨の音になると思う。ただそこに至るまでに消したり足したり何度もするからなかなか完成しない。それが2年半くらいアルバムが出ない理由の1つだったりもするかも。
──かといってアルバムのレコーディングに2年半費やしているわけではないですよね。
TK 部分的なフレーズだったり、弾き語りみたいなパーツっていうのは常日頃から集めていて、今回も溜まっているものから使ったりしましたね。そもそも僕は“アルバムを作り始める”という姿勢自体がおかしいと思ってて。できあがったものをまとめていくのが本来自然なんじゃないかと。そのわりにはラストスパートがすごいですけど(笑)。
──タイミングにあわせてリリースの形を決めていくのであって、例えばアルバムだったりシングルだったり形にあわせて音楽を作っているわけではないと。
TK そうですね。そのスタンスは変わらないです。
──ところで時雨のアルバムって、だいたい曲数が9曲~10曲、40分前後なんですけど、それは計算してるんですか?
TK いやぜんぜん。マスタリングの日に知りますね。
──それが時雨の最適なアルバムサイズなんでしょうか?
TK 黄金比とかですか? そんなこと考えるわけないじゃないですか(笑)。削ることも足したこともなくて。タイアップ曲は別ですけど、自由な枠が与えられている場合はまったく意識しませんね。ただあまり曲数が多い作品は好きじゃないかもしれません。長いと集中力が切れちゃうので。それを意識して曲数を詰め込むことはしないようにしてます。
ハードルは上がり続ける
──今作は5枚目のアルバムとなりますが、作品を重ねるごとにハードルが上がってる感じはありますか?
TK うーん。上がってますね。でもそれは聴いてる人が増えてるとかっていうところではなくて。それより自分も追いつかないようなところに自分のハードルがあるというか。人にどう求められているかよりは、自分が何を求めているのかわからなくなることが怖いんです。とにかく自分の音楽を極限まで追求していく作業が毎回続くので、そうすると自然にハードルが上がっていくというか。それゆえの2年半です!
ピエール中野&345 はははははは(笑)。
──完璧主義なんでしょうか?
TK でも時雨の音を聴いて完璧かと言われれば、そうではないと思うんですよ。それに隙のない完璧なものが、自分にとって魅力を持っているかといえばそうは思えないし。でも、当然自分の中の完璧というか理想は常に追い求めてますよ。だから自分にとっては完璧主義という言葉自体が不思議なんです。
──今回のタイトルは「i'mperfect」ですが、「I'm perfect(自分は完璧である)」と「imperfect(不完全)」のダブルミーニングですよね。TKさんの考えが反映されているんでしょうか?
TK インタビューの最初の話に戻るんですが、どれだけ自分が理想とするものを求めたとしても、曲になったときに自分の中で未完成なイメージがどうしてもつきまとってしまう。でもそれが人の手に渡ったときにまるで完成してるように見えたりして、それにすごく違和感を感じたんですよね。例えば書きかけの原稿を人が絶賛するような感じとか、完成していない絵を額縁に入れられて褒められる感じとか(笑)。「いい作品ですね」って言われるのはうれしいし、実際そうなのかもしれないけど、その違和感や溝の中で僕は到底同じ視点には立てないんだなって。
- ニューアルバム「i'mperfect」 / 2013年4月10日発売 / 3059円 / Sony Music Associated Records / AICL-2526
- ニューアルバム「i'mperfect」
収録曲
- Beautiful Circus
- abnormalize
- Metamorphose
- Filmsick Mystery
- Sitai miss me
- make up syndrome (album mix)
- MONSTER
- キミトオク
- Missing ling
凛として時雨(りんとしてしぐれ)
TK(Vo, G)、345(Vo, B)の男女ツインボーカルとピエール中野(Dr)からなる3ピースバンド。2002年に地元・埼玉で結成し、2005年に自身で立ち上げたレーベル「中野Records」よりアルバム「#4」をリリース。その後も順調にライブの動員を増やし続け、2008年12月に1曲入りシングル「moment A rhythm」でメジャー移籍を果たす。 狂気がにじむギターロックの地平を、USオルタナ~エモ直系の金属的な轟音で爆撃するサウンドは、多くのファンを魅了。2010年4月にはさいたまスーパーアリーナでのワンマンライブを成功に収めた。同年5月には初のイギリスツアーを敢行。9月にリリースした4枚目のフルアルバム「still a Sigure virgin?」はオリコン週間ランキング1位を記録した。2012年11月、約2年ぶりの新作音源となるシングル「abnormalize」をリリース。2013年4月に2年半ぶり、通算5枚目となるアルバム「i'mperfect」を発表する。