ナタリー PowerPush - 凛として時雨

TK「PSYCHO-PASS サイコパス」対談

音楽業界はそんなに腐った世界じゃない

山本 僕、ちょっと訊きたいことがあるんですけど、TKさんはただカッコいいものを作りたいというモチベーションで音楽をやっているのか、それとも「届けたい何かがある」っていうモチベーションなのか、大きく言うとどうなんですか? 今の音楽をやってる人の1人として。

TK うーん……多分音楽をやってる人たちの中には「カッコよくても伝わらない」って言う人はいると思うんですよ。言い方を変えれば「カッコよくても売れない」とか。でも僕の中では……やっぱ「カッコよかったら届くはず」っていうのはすごくあって。

山本 カッコいいですね。

TK 時雨を始めてからずっとそう信じてます。じゃないと多分僕たちの音楽が今こうやって存在することもないと思いますし、音楽業界が昔に比べて変わってきたとか、CDが売れなくなってきたとかっていう数値的な変化は多分あると思うんですけど、なんかそんなに腐った世界じゃないと僕は思ってるんです。

インタビュー写真

山本 素晴らしい。アーティスト然とした今の話と、あとあまりインプットしないって話と、でも89秒のハコに収めようっていうちょっと職人っぽく作る印象も受けたんですが、そういうのってありますか?

TK 最初にお会いしたときに、山本さんが時雨を知ってくれていて、ホントに拍子抜けするぐらいオーダーがなかったんですよ。さっき言った静寂と激しい部分があればっていうぐらいで。

山本 ハハハ(笑)。

TK そこは逆に知ってくれている人なんだなっていうのもありましたし、僕らに任せれば大丈夫って思ってくれたんだなと僕は思って。だからこそやるからには「僕たちはこうなんで、これで変えません」っていうやり方もできたと思うんですけど、僕としては任せてくれた人が「ここをもうちょっとこうしてほしい」っていうんであれば、そこは逆に変えたいというか、お互いが一番カッコいいと思えるカタチにしたかったんで、「何かあれば言ってください」とレーベルの人づてに伝えていて。結局修正はなかったですけど。そのことですよね?

山本 はい。アニメの場合も作家性と職人性を兼ね備えてる人が強くて、そういうものもTKさんに感じたんです。

TK そうですね。もう、89秒となると1秒も無駄にできないって感じで(笑)。

山本 なるほど。

TK 時雨自体、無音の状態から最後、曲が終わるまで全てを構築して1曲作るタイプなので、そういう部分は大きいかもしれないですね。情熱だけですべてを乗り切るタイプではないので。

山本 初めてかもしれないですね、89秒できっちり作ってきたアーティストさんは。

TK そうなんですか。僕は例えば3分で曲を作ったとして、それを89秒にコンバートしたものを作品にしたくなかったんですよね。どうしても89秒でアニメのオープニングとして完成させて、シングルとして出すときに自分たちの形にすればいいっていう感じだったので、当然のこととして89秒から作り始めたところはありますね。

従兄弟からメールが来て「テレビってすごいな」

──山本さんは今回のタッグで視聴者に投げかけたいものってなんですか?

山本 何が実現したいかというと、時雨と組むことで起こる「あー、キタ!」みたいな。基本的にそれぞれのファン層は重ならないと思うんですよ。今回もどっぷりアニメのファンは「時雨って何?」って人もいたし、時雨のファンからしたら「何? アニメやんの? ノイタミナって何?」って人も絶対、いっぱいいたと思います。でも、それが面白いんですよね、現象としては。それぐらいでないと、ちゃんとやってる良さが両方に伝わらないと思いますし。

──ちなみにTKさんのもとには感想は届いていますか?

TK 感想……従兄弟からメールが来ました(笑)。

一同 ハハハ!(笑)

TK そういう感じですよね、テレビって。「テレビってすごいな」って、そういうところで。

山本 (笑)。家にはテレビ、ないんですか?

TK いや、あるんですけど(笑)。あんまりつけないんですよ。

山本 僕もほとんど観ないんですよね。

TK いや、山本さんは観たほうがいいんじゃないですか?(笑)

凛として時雨 abnormalize(short ver.)

ニューシングル「abnormalize」/ 2012年11月14日発売 / Sony Music Associated Records

CD収録曲
  1. abnormalize
  2. make up syndrome
  3. abnormalize(TV edit)
    期間生産限定盤のみ収録
期間生産限定盤DVD収録内容
  1. abnormalize(music video)
  2. 「PSYCHO-PASS サイコパス」non-credit opening movie
凛として時雨(りんとしてしぐれ)

TK(Vo,G)、345(B,Vo)の男女ツインボーカルとピエール中野(Dr)からなる3ピースバンド。2002年に地元・埼玉で結成し、2005年に自身で立ち上げたレーベル「中野Records」よりアルバム「#4」をリリース。その後も順調にライブの動員を増やし続け、2008年12月に1曲入りシングル「moment A rhythm」でメジャー移籍を果たす。 狂気がにじむギターロックの地平を、USオルタナ~エモ直系の金属的な轟音で爆撃するサウンドは、多くのファンを魅了。2010年4月にはさいたまスーパーアリーナでのワンマンライブを成功に収めた。同年5月には初のイギリスツアーを敢行。9月にリリースした4枚目のフルアルバム「still a Sigure virgin?」はオリコンウィークリーチャート1位を記録した。2012年11月、約2年ぶりの新作音源となるシングル「abnormalize」をリリースする。