サブスク世代だからこその幅広さ
──2曲目の「Sun is coming up」は、「お手上げサイキクス」から一転して、メロウでソウルフルな1曲ですよね。この前半2曲の曲調の違いだけで、今のシギーの音楽的な振り幅の広さが見えてきます。
池田 曲によって歌うときの声を変えていて、中でも「Sun is coming up」はこれまでの自分とは違うアプローチで歌えた曲なんです。ライブでどう歌うかはまだわからないんですけど、音源としては、自分の声が素材として気持ちよく聴いてもらえたらいいなっていうところに重点を置いて歌った曲で。なので、この曲は発音や、声のテンション、ちょっとした語尾のタメ、そういう細かい部分を聴いてほしいですね。私は、この曲はヘッドホンで聴いてもらいたくて。近い距離で聴いてもらえると、より息遣いや表情を楽しめるんじゃないかなって思います。
原田 ロック的な曲があったり、1970年代ソウル的な曲があったりする作品全体のバランスを見て、「サウンド的にこういう曲が足りないな」って思って作ったんですよね。最近、Brasstracks周辺のアーティストを面白いなと思って聴いていたので、そういった要素を持ってきたりしながら。
──BrasstracksはChance the Rapperとのコラボレーションでも知られるユニットですよね。シギーにとって、現在の海外シーンの潮流というのは、曲作りをするうえでどのくらい意識するものですか?
原田 新しい音楽、聴きますよ。Spotifyみたいなサブスクリプションサービスで、誰の曲とかもわからない状態で垂れ流している感じですけどね。だから、曲作りをするうえで特別に意識したりするわけではないんですけど、めちゃくちゃ聴いてはいると思います。
──裏を返すと、シギーの音楽も今はサブスクでほかのいろんな音楽と混ざり合いながら聴かれている場面も絶対にあるわけですよね。そういったリスニング環境の変化って、曲作りをするうえで意識されたりしますか?
原田 そこも特別に意識しているわけではないんですけど、ただ曲作りをしていて、「自分はサブスク世代なんだなあ」って感じることはよくあります。たぶん昔は、好きな音楽ジャンルが1つあったとしたら、そのジャンルの音楽をどんどん掘っていく人が多かったと思うんですよ。インターネットがない時代だと、ある意味では自分の好きな音楽“しか”掘っていくことができなかった部分もあるだろうし。でも、今はインターネットがあって、サブスクがあるから、1つには絞れないんですよね。だから「ルーツを出す」と言っても、僕らは90年代的なJ-POPがあり、ロックがあり、モータウンがあり、ブルーアイドソウルがありという感じでこんなにジャンルがバラバラになる。
諸石和馬(Dr) 確かに、茂幸が作る音楽の幅の広さって、いろんな音楽を自由に聴ける環境があるからこそ生まれるんだろうなって思ったりするな。僕自身、Apple Musicを使って音楽を聴いたりするから、それはよくわかる。
森夏彦(B) このEPに入っている5曲はそれぞれジャンルがバラバラだけど、それを全部1人の人が作っているっていうのは、今の時代っぽいよね。ほかのバンドで、1人がここまでバラバラな曲を作るっていうことはあまりないと思うけど、だからこそ新しいし、この先、こういうアーティストは増えてくるんじゃないかなって思う。
──確かにそうですよね。バンドじゃないですけど、例えばジャスティン・ティンバーレイクやカミラ・カベロが今年リリースしたアルバムは、曲ごとにカラーが全然違うんだけど、それを表現しているのは“個人”なんだという部分がとても重要だった気がしていて。個人の中にある文化の複合性というのは、この先、とても重要なポイントになってくると思います。
池田 あと、サブスクに関して言うと、いろんな音楽と混じってシャッフル再生で聴かれたときに、ハッとなってもらえればいいねっていう話はよくするよね。
原田 うん。いろんなプレイリストに入れてもらえたらいいなって思う。
こんなに胸が切なくなる曲はひさしぶり
──今作は曲もさることながら歌詞が素晴らしいなと思っていて。3曲目の「ずっと君のもの」の歌詞もいいんですよね。本当に切ない歌詞で。
森 僕、この曲の歌詞めっちゃ好きなんですよね。この切なさって、今までのシギーにはない感じで、ちょっと怖さを感じるくらいなんですけど(笑)。
──そう、ちょっと怨念が入ってますよね(笑)。
森 歌詞の最後の「最近もう諦めてるの 奪われたハートはずっと君のもの」っていうくだりなんて、切なすぎて……なんかもう、拾ってあげたくなると言うか。
原田 ははははは(笑)。
池田 「僕のところにおいで」って?
森 うん、「僕がなんとかしたい!」って思っちゃう(笑)。こんなに胸が切なくなる曲はひさしぶりだなって思いました。もしかしたら、シギーの歌詞の中でも、この曲の切なさが一番好きかもしれない。
原田 ちなみにサウンドの話をすると、「ずっと君のもの」は70年代っぽい、Daryl Hall and John Oates的なものを目指しました。生っぽいサウンドが作りたくて、ビンテージ楽器も使ったんです。音もスカスカで、オーガニックな感じを出したくて。個人的には、この曲は最後がすごく好きなんですよ。演奏が終わったあとに、ガタッって録音が終わる瞬間の音も入っているので、そこも聴いてほしい(笑)。
池田 細かい(笑)。でも、そこがリアルなんだよね。
原田 そうそう、やっぱり全体的な生っぽさを出したかったから、最後の音が消える瞬間まで楽しんでほしい。
原田茂幸がつづる歌詞の変化
──4曲目の「Do you remember」も、「ずっと君のもの」に引き続き、切ない思いをにじませる歌詞が魅力的だなと思いました。しかも「Do you remember」は曲調がすごくファンキーだから、歌詞の切なさがよけいに際立つ。
原田 「Do you remember」は、80年代っぽいソウルと言うか、「ソウル・トレイン」(アメリカで放送されていたダンス音楽番組)的なものを意識した曲なんですよね。
諸石 この曲も、シンバルなどの金物類にビンテージ楽器を使ったりしたんです。ドラムから入るんですけど、目の前で大勢の外国人が踊っているイメージで叩きましたね。自然と体が動いてくれたらいいなって思いながら作った曲です。
──実際、この曲はめちゃくちゃ踊れますよね。でも、やっぱり歌詞が切ない。
原田 そう、なんでこんな歌詞になるんでしょうね?(笑) さっきの「ずっと君のもの」の歌詞もそうでしたけど、今回はそういう歌詞が多いんです。
──確かに。2曲目の「Sun is coming up」の歌詞も、前提には「別れ」があり、過去に思いを馳せるような切なさがありますからね。シギーの音楽にハッピーなものを感じる人は多くいると思うんですけど、その幸せの裏にある、悲しみや痛みの存在をより色濃く描くのも、今のシギーなのかなって思います。
原田 やっぱり、そういう部分でも大人になってきているのかなって思いますね。
──池田さんは歌い手として、原田さんの歌詞に変化を感じたりしますか?
池田 感じますね。本来、茂幸くんは歌詞と曲が同時に出てくるタイプなんですけど、ちょっと前までは、歌詞で悩んでいるときが多かったんですよね。レーベルが変わったりしたので、環境に対する慣れの部分も大きいと思うんですけど……。でも今回は、茂幸くんが変なストレスを感じずに、書きたいように、気持ちよく書けている歌詞が多いのかなって思います。私は茂幸くんのそういう歌詞に一番グッとくるし、やっぱり気持ちよく出てくる言葉は、リズムに対するハマり方がいいし、歌っていても気持ちいいんですよね。
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「これでよかったんだ」
- Shiggy Jr.「KICK UP!! E.P.」
- 2018年5月23日発売 / Victor Entertainment
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初回限定盤 [CD+DVD]
2484円 / VIZL-1384 -
通常盤 [CD]
1620円 / VICL-65009
- CD収録曲
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- お手上げサイキクス
- Sun is coming up
- ずっと君のもの
- Do you remember
- Beat goes on
- 初回限定盤DVD収録内容
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- お手上げサイキクス(Music Video)
- テレビアニメ「斉木楠雄のΨ難」第2期 第2クール・オープニング(ノンテロップVer.)
- Shiggy Jr. LIVE TOUR 2018
- Step by Step - summer ver. -
- 2018年7月7日(土)宮城県 SENDAI CLUB JUNK BOX
- 2018年7月14日(土)広島県 広島セカンド・クラッチ
- 2018年7月15日(日)福岡県 DRUM SON
- 2018年7月20日(金)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
- 2018年7月21日(土)愛知県 ElectricLadyLand
- 2018年7月28日(土)東京都 マイナビBLITZ赤坂
- Shiggy Jr.(シギージュニア)
- 池田智子(Vo)、原田茂幸(G, Vo)、森夏彦(B)、諸石和馬(Dr)からなるバンド。R&B、ブルーアイドソウル、ロックなどさまざまな音楽をルーツにしたキャッチーなポップサウンドを特長とする。2012年12月、池田と原田を中心に結成され、2013年11月にリリースした1stミニアルバム「Shiggy Jr. is not a child.」がWebを中心に話題となり注目を集める。2014年2月に森、諸石が加入して現体制となり、同年7月に2ndミニアルバム「LISTEN TO THE MUSIC」をリリース。2015年6月に1stシングル「サマータイムラブ」でメジャーデビューを果たす。2017年秋にビクターエンタテインメント移籍第1弾作品「SHUFFLE!! E.P.」を、2018年5月に5曲入りの新作「KICK UP!! E.P.」を発表した。2018年7月にライブツアー「Shiggy Jr. LIVE TOUR 2018 - Step by Step - summer ver.」を行う。