柴田淳が好きなように作ったらこうなった
──スタッフのリクエストから収録に至った曲もあるんですよね?
「魅せられて」「あずさ2号」「ラブ・イズ・オーヴァー」がそうかな。私のアルバムに入れるとなるとちょっとメジャーな感じはありますよね(笑)。でもね、改めて歌わせてもらうと、どれもホントに素晴らしい名曲で、これまで以上にリスペクトの気持ちが強くなりました。すごい曲たちだなーって。
──「魅せられて」は柴田さんのボーカルがすごく似合っているなと。
ありがとうございます! アレンジをするにあたって、アレンジャーの河野伸さんと一緒に曲を解剖するかのようにじっくり聴いたんですけど、オリジナルのクオリティがとんでもないんですよね。特にイントロ。どうやったら思い付くんだろうっていうくらいのインパクトがあるじゃないですか。自分も曲を作る立場だからこそ、オリジナルのすごさを痛感して鳥肌が立っちゃうというか。
──原曲を歌われていたジュディ・オングさんのように、サビでは大きく両手を広げて歌われたそうですが。
いやもう、お手上げの意味で両手を広げました(笑)。キーのレンジが広いから、とにかく歌うのが難しくって。出だしの「南に向いてる窓をあけ」の“け”で音がグッと低くなるんですよ。そこをうまく歌うために何度“け”を練習したことか(笑)。こういう素晴らしい楽曲に向き合うと、アーティストとしての気持ちが引き締まる感じがありますね。そこもまたカバーをする楽しさなんだろうなという気がしました。
──「あずさ2号」は1人デュエットともいえる仕上がりで。柴田さんの声がいくつも重なっているのが新鮮ですよね。
うん。「しばじゅんはなんでコーラスを入れないんですか?」ってファンの人によく聞かれるんですけど、私は生で表現できないことを楽曲に盛り込むのがあまり好きではないんですよ。CDでは私の声の3声で成立していたとしても、私は1人しかいないからライブでは再現できないじゃないですか。再現するなら誰かの声でしか不可能。だからコーラスを入れることはまずないんです。ただ、今回はカバーだし、この曲はコーラスがなかったら話にならないですから(笑)。矛盾してるかもしれないけど、今回は思い切りやりました。っていうかコーラスばっかりやってた気がする。「ここもコーラスですか? ここもですか? はい、やります!」みたいな(笑)。少しでもピッチがズレると気持ち悪い聞こえ方になるので、そこはこだわって何度も何度もやりましたね。改めて狩人のお二人のハーモニーと連携プレイのすごさを実感しつつ。
──今回の収録曲に関してファンからの反応って届いてます?
私のファンは老若男女、すごく幅広いんですけど、年齢が上の方々は特に楽しみにしてくれているようで。「お酒を飲みたくなるラインナップだ」って言われました(笑)。うちの母が近所のマダムに私が歌った「つぐない」を聴かせたら号泣しちゃって、その方もお酒飲み出したらしいし。あー、そういうアルバムになったんだなって(笑)。もちろんね、若い世代の方に名曲たちとの新たな出会いを楽しんでほしい気持ちも強いです。さっきも言いましたけど、日本にはこんなに素晴らしい曲があるんだよって紹介する意味合いもこのカバーアルバムにはあったりもするので。
──今回もすごくいい作品になっていると思います。
「COVER 70's」は自分としてもすごく聴きやすいアルバムだったと思うんですよ。統一感もあったし。でも今回はある意味、すごくアンバランスだなって思う。“おはこ”と言いつつ、どの曲にも歌う難しさがあったからシンガーとしては新たに課題が見えたところもありましたしね。とは言え、この多国籍感というか、バイキングのような内容もそれはそれでいいんじゃないかなと思ったりもしていて。
──柴田さんの歌声で調理されたいろんなタイプの料理が味わえますからね。
そうそう(笑)。「この曲を柴田淳が歌ったらどうなるんだ?」って想像が膨らむと思うけど、その味は食べてみなきゃわからないという。そういうところを楽しんでもらえたらなって。曲のラインナップにしても、“おはこ”に引っかけて箱に入ったジャケット写真にしても、ビクターさんはよくも悪くも私を野放しにしてくれるんで(笑)、本当にありがたいですね。柴田淳が好きなように作ったらこうなった、そんなアルバムです。
──カバーは今後も続けていきます?
例えば森昌子さんの「越冬つばめ」とかね、ファンの方からのリクエストも多く、私自身も歌ってみたいと思う曲はまだいくつかあったりはするんですよ。なので、リリースの間隔が短くならなければ、今後もシリーズとしてやっていくのもいいのかもなという思いはあります。願わくばカバーをきっかけに、私のオリジナルアルバムを聴いてくださる方がもっと増えるといいんですけどねえ(笑)。「カバーアルバムだけ持ってます」っていう方もけっこう多かったりするので。でも、私の歌だけに耳を傾けてくれる人が増えていくのも純粋にうれしいことではあるんです。私はもともと、ボーカリストとしていろんなオーディションを受けていたけどまったく引っかからなかったからやむなくシンガーソングライターになった経緯があるんですよ。そういう意味では当時の私の思いが報われていることにもなるので。今回のカバーアルバムもいろんな方に楽しんでもらえたらうれしいです。