手を出しちゃいけなかった“ちあきなおみ”に……
──前作と比べるとけっこう渋めな選曲ではありますよね。
他人と同じなのがイヤなんです。カバーするならこの曲は押さえておくべきだろうとか、これを入れれば売れるだろうとか、そういう考えで選曲するのは絶対イヤなんですよね。私は私、どう思われたっていいから好きな曲だけを入れるんだっていう。そんなんだから我が強いって言われちゃうんでしょうね(笑)。
──“おはこ”というコンセプトを決めた段階でパッと出てきたのはどの曲でしたか?
テレサ・テンさんの「つぐない」です。これはもう本当の意味での十八番。十八番中の十八番ですね(笑)。ホントに大好きな曲なんですよ。欲を言えば、テレサ・テンさんの曲だけでカバーアルバムを出したいくらい。この曲をきっかけに、作曲家の三木たかし先生のファンにもなったんです。三木先生にご挨拶することが叶わずカバーさせていただくことになってしまったのがホントに残念です。そういう意味では、思いをたっぷり込めてつぐなわせていただいた感覚もありますね。あと、「夢芝居」と「石狩挽歌」も最初からやるって決めてました。「今回は演歌も歌いたいんです!」と言ったときにビクターの方が苦笑いされたのが忘れられないんですけど(笑)、でも私としては絶対譲れなかったから、そっと紛れ込ませました。
──柴田さんが歌うという意味でインパクトのある2曲なので、アルバムの中では相当目立ってますけどね。
あははは。紛れ込んでない?(笑) 「石狩挽歌」は曲にグルーヴがあるんですよ。日本のソウルって言っていいのかわからないけど、本当に素敵な曲ですね。「夢芝居」はお風呂でしょっちゅう歌う曲で、小椋佳さんのメロディが素晴らしい。曲にも歌詞にもちゃんと起承転結があるから、まるでお芝居を観ているような感覚になるんですよね。メロディに沿って歌詞のボルテージが上がっていく感じにもシビれるし。惚れ惚れしちゃう。
──では歌に関してもお芝居を演じる気持ちで臨みましたか?
そうですね(笑)。「夢芝居」と「つぐない」に関しては歌い込んでいたので、その一発録り具合たるや! 厳密には一発で終わったわけではないけど、自信を持って歌うことができましたね。すごく気持ちよかったからOKが出ているのに歌い続けちゃって。エンジニアさんに「まだ歌うんですか?」って言われたりしました(笑)。
──今回は男性曲も多いですよね。
あー、確かにそうかもしれないですね。そこは全然意識してなかったんですけど、私は普段、男性ボーカルの音楽をよく聴いているからでしょうね。自分のCDラックを眺めてみても、女性の声よりも男性の声に惹かれがちな傾向が見えてくるというか。「COVER 70's」は母から教わった曲たちだったから、母の趣味である女性の曲が多くなったんだけど、今回はより自分の趣味が出ているところがありますね。収録曲で言うと……松山千春さんの「恋」はもう本当に大好き。聴いているだけで涙が出てきちゃう。でも、「つぐない」なんかと比べると、自分なりの解釈で自分なりの歌い方が完璧にできていると実感できていたわけではなかったので、レコーディングはかなり苦戦しましたね。これを十八番と言っていいのか、みたいな(笑)。
──いやいや、めちゃくちゃ染みる歌声だと思いますけどね。
そうですか? ならよかった!(笑) 「メモリーグラス」も今回絶対入れたかった曲の1つではありましたね。「COVER 70's」を作っているときに出会って、「なんてキャッチーでいい曲なんだ!」って感動したんですよ。でも、1981年の曲だから前回は収録することができなくて。いつか歌ってみたいと思っていたから、今回それが叶ってうれしかったです。
──年代で言うと、「遠くへ行きたい」が62年、「黄昏のビギン」が59年とかなり古い曲になっていますね。もちろん柴田さんはリアルタイムで聴いていたわけではないはずですけど。
うん、リアルタイムではないですね。ただ、「遠くへ行きたい」はテレビで流れているのを小さい頃からよく聴いていたので、今でも車の中で口ずさんだりすることがよくあって。改まって聴いたことはなかったけど、フルで全部歌えてしまうので、知らぬ間に自分の体に染みこんでいたんでしょうね。「黄昏のビギン」に関しては、ちあきなおみさんがカバーされていた印象がすごく強くて。原曲は水原弘さんが歌っていたものだと知ったときは衝撃でした。実はね、私の中では美空ひばりさんとちあきなおみさんの曲だけには手を出しちゃいけないっていう掟があったんですよ(笑)。
──一方を今回解禁しちゃったわけですね。
そう(笑)。お二方とも本当に歌がお上手すぎるから、私なんかが歌っていいはずはないと。まあでも「黄昏のビギン」は正確に言えばちあきなおみさん自身もカバーですし本当にいい曲なので、若い世代の方々も含め、まだこの曲を知らない方にぜひ紹介したいなという思いから歌わせていただくことにしました。大丈夫かなあ。どう受け取ってもらえるか不安だなー。ちなみに美空ひばりさんの曲は今後も手を出すつもりはないです(笑)。恐れ多すぎるので。
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柴田淳が好きなように作ったらこうなった