柴田淳|自分と向き合い、えぐり出した本音

私は私! どう思われようが知らない!

──今回収録されている楽曲群は、アレンジの効果も相まって、柴田さんのいろいろな表情を感じさせるラインナップになりました。

アレンジに関しては特に狙ってはいなかったんですけど、アレンジャーさんごとに「メロディに導かれるように」という感覚でいろいろやっていただけました。ホーンセクションが入ってる曲もいくつかあって。

──「嫌いな女」や「容疑者ギタリスト~拝啓、王子様☆第四話~」ですね。

「嫌いな女」のメロディにはちょっとレトロな歌謡曲っぽい雰囲気があったので、「そういうイメージで」ってリクエストをしたらホーンを入れていただけた感じでした。あと「誰にも言えない」という曲は自分的に演歌にしか聞こえなかったからちょっと恥ずかしかったんですけど、アレンジャーさんが「とことんその色を出していったほうがカッコいいと思う」って言ってくださって。まさにそういう雰囲気になっていたり。

──柴田さんの言う“恨み節”みたいな部分が「誰にも言えない」には一番込められているような印象が(笑)。それが演歌っぽさをより感じさせるんだと思います。

選曲をしていく段階で暗い曲が1つもなくなっちゃってたんですけど、「柴田淳にはそういうテイストの曲も絶対必要だ」っていう意見もあったので、この「誰にも言えない」は制作の途中で急遽作ったんですよ。

──柴田淳というアーティストの王道でもありますもんね。

かもしれないですね。そう言っていただけるとうれしいです。ありがとうございます。

柴田淳

──今回のアルバムに対して柴田さんは、「内容は今まで以上にストレートで、憎しみをそのまま表現しています。優しい歌はありません」というコメントを事前に発表されていて。だから僕は相当な覚悟を持って聴いたんです。そうしたら実際は、どっぷりダークな曲ばかりではないし、全然優しさも感じるけどなって思ったんですよね。

えー! そうですか? 今までの私はちょっといい子ぶりっこして、どこかに救いや希望を残していたりするところがあったと思うんですよ。でも、生きている中で甘えている人に対して厳しくなった自分もいるし、遠慮をするのもイヤになってきたから、今回は「私は私! どう思われようが知らない!」ってくらいの気持ちですべてを書ききった感じなんです。「轍」では「幸せになれなかった」って言うフレーズを使っちゃってるし、「嫌いな女」ってはっきり言っちゃってる曲もあるし、亭主関白っぽい男の人を心の中で笑う「手のひらサイズ」って曲もあるし、「私って超性格悪い!」みたいな(笑)。理性を失ってるわけではないんだけど、飾るのをやめた、我慢するのをやめたっていう状態なんですよね。赤ちゃんになっちゃった感じなのかも(笑)。

──そうやっていい子ちゃんをやめたような表現をするのは、きっとご自身にとって怖いことでもありますよね。

そうですね。例えば別れた相手に対してのドロドロした思いをさらけ出す場合はその相手が青ざめればいいだけなんだけど(笑)、今回は誰かに対してというよりは私自身の内面の黒い部分、負の部分をさらけ出しちゃってますから。「それでいいんだ」という思いの裏には、「ドン引きされちゃうかな」っていう不安もなくはない(笑)。

──そういう意味では、自分自身に対して“優しくない”アルバムになったってことなんじゃないかなって気もしたんですけど。

あー! そうかもしれない。今回は私自身、歌うのがツラいくらい自分の負を歌っちゃってる気がしますからね。

届くべき人にしっかり届いたらいいな

──1曲目の「理由」には「答えを探しても無意味」「生まれた意味がなかったらどうするの?」といった強烈なメッセージがつづられていますけど、それは誰かに対してではなく、まずはご自身に向けられたものじゃないかなと思ったんですよね。この曲はアーティスト・柴田淳であることの“理由”なんじゃないかなって。

柴田淳

うんうん。それはね、モロにそうです。人間って自分と似てる人を無意識に嫌うところがあると思うんですよ。「あの人のああいうところが嫌いだな」って思うと、自分もその嫌いなところを持っているっていう。私は、すぐ誰かのせいにしたり、言い訳するくせに「でもがんばってるもん!」って言っちゃうような人がすごくイヤで(笑)。でもそれは今までの自分だったんですよね。だからこの曲では、そのことを自分に対して歌ったところはすごくあったと思います。「甘えんなよ」って自分に向けて歌ったって言うか。

──で、自分への戒めとして書かれた曲であっても、それを通してリスナーが自分のダメなところに気付くことができれば、それはそれぞれの“救いの曲”になるだろうし、同時に柴田さんからの優しさを感じることもできると思うんです。“優しい歌”にもなりうるなと。

そっか。そうなったらいいですよね。確かに私自身、自分が書いた曲を通して自分と同じようなダメな部分を持っている人にちょっとでも気付いてほしいなって思うところがあったりはするので。もちろんね、認めない人は「自分は違う」と思って聴くと思うし、柴田淳初の“説教ソング”に聴こえる人もいるかなとは思いますけどね(笑)。「柴田淳も歳取ったな」みたいな。あははは(笑)。それでも全然いいんですけど、届くべき人にしっかり届いたらいいなっていう気持ちはいつも以上にあったりはします。

柴田淳「私は幸せ」
2017年9月20日発売 / Victor Entertainment
柴田淳「私は幸せ」初回限定盤

初回限定盤
[CD+フォトブック]
4320円 / VIZL-1208

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柴田淳「私は幸せ」通常盤

通常盤 [CD]
3240円 / VICL-64819

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収録曲
  1. 理由
  2. 両片想い
  3. 手のひらサイズ
  4. 嫌いな女
  5. 容疑者ギタリスト~拝啓、王子様☆第四話~
  6. 誰にも言わない
  7. いくじなし
  8. バースデー
  9. Present

ライブ情報

柴田淳ニューアルバム「私は幸せ」発売記念イベント「フリーライブ&特典お渡し会」

2017年9月24日(日)
東京都 ヴィーナスフォート 教会広場
START 15:00

柴田淳(シバタジュン)
柴田淳
1976年生まれ、東京都出身の女性シンガーソングライター。幼少期からピアノを習い、音楽に親しみながら育つ。2001年10月にシングル「ぼくの味方」でメジャーデビュー。2002年3月に1stアルバム「オールトの雲」を発表する。以降もコンスタントに作品を発表し続け、2008年9月には映画「おろち」のテーマソング「愛をする人」を書き下ろし、音楽ファン以外の注目も集めた。透明感のあるボーカルと、女性の情念を繊細に描いた詞世界が支持されている。CHEMISTRYや中島美嘉らへ楽曲提供を行うなど、作曲家としても活躍中。デビュー10周年を迎えた2012年10月に、初のカバーアルバム「COVER 70's」を発表し、ボーカリストとしても高い評価を得る。2013年3月に9枚目となるオリジナルアルバム「あなたと見た夢 君のいない朝」、2014年12月に10作目となるアルバム「バビルサの牙」を発表。2015年11月にデビュー15周年企画の一環でベストアルバム「All Time Request BEST ~しばづくし~」をリリースした。2017年9月に11枚目となるオリジナルアルバム「私は幸せ」を発表。