SHERBETSは終わらない、自然体で鳴らした25周年記念アルバム (2/2)

ベンジーとお坊さんの出会い

──「Midnight Chocolate」から人生の道標となるようなメッセージをたくさん受け取って、自分にとって特別な作品になりました。個人的な話で恐縮ですけど、僕は今年で35歳になるんですね。1999年にシングル「High School」やアルバム「SIBERIA」をリリースされた頃の浅井さんと同じ年齢に達するんです。この業界に入った22歳の頃は、目に見えるものすべてが新鮮で楽しくて、毎日何かに感動していた。だけど30代になると、それも1周しちゃって。新しい喜びみたいなものがなくなっている気がしていたんです。

浅井 うんうん。

──そんな中「知らない道」を聴いて、今の自分を肯定された気持ちになったんですよね。かつての新鮮な感動と引き換えに、心のポケットに新しい何かが入っているんじゃないかなって、そんな希望を感じました。ただ、年齢を重ねることに危機感がないわけでもなくて。ぜひ、今日のインタビューで「30代はどう生きるのが正解だと思いますか?」とお聞きしたいなと思っていました。

浅井 余計なことを考えなくていいと思うよ。人って、いつも一生懸命じゃん。それでいいんだと思う。ごちゃごちゃ考えとらずに、自分の目標を立てて、そこに向かって一生懸命進む。それが最も人間らしい生き方だね。こういうふうにしたらとか、30代はこうあるべきだとか、別にそんなこと考えなくていいんだよ。目標や小さな夢を作ってそこに一生懸命進む。その姿が最も人間らしくて美しいって、30代のときにお坊さんに言われた。

──そのお坊さんとは、どうやって出会ったんですか?

浅井 「音楽と人」という雑誌で、俺が話したい人と対談をするシリーズがあったんだわ。「じゃあ、なんでも知っとるお坊さんと話したい」と言ったんだわ。そしたら九州に有名なお坊さんがいるということで「そこに行きましょう」という話になって、会いに行った。「なんか聞きたいことがあるんか」みたいなことを言われたから「人間は死んだらどこに行くんですか?」と聞いたんだ。そしたら「そんなアホなことを考えるな。人間で死んで帰ってきたやつなんか1人もおらん」「『人間が死んだらどこに行くか』なんて誰も知らん」って言われて。お坊さんだったら知ってるのかなと思って聞いたんだけど、「そんなことを考えとるよりも、目標を見つけてそれに一生懸命突き進むのが最も……」って俺が今言ったことだよね。それを30代の頃に言われたの。本当にその通りだなと思った。

浅井健一(Vo, G)

浅井健一(Vo, G)

──なるほど。僕は、自分のやりたいことに対してひたむきに進みたいと思っていても、周りの情報が入ってきて、勝手に自分と比べちゃうことがあるんですね。そういうのは遮断したほうがいいんでしょうか?

浅井 まあ、そこはバランスよくやるべきだよね。周りのことを知りつつ「だけど自分はこれをやりたいんだ」という意志を持って生きるべきじゃない?

大切なのは楽しさを感じること

──福士さんは30代の頃と現在を比べて変わったと思うことはありますか?

福士 基本は全然変わってないですけど、ちょっとだけ変わったとしたら、前はステージに上がるたびにすごい緊張していて。緊張との戦いみたいなところがあったんですよ。で、あるときからライブの本番前は、ずっとステージにいることにしたんです。ステージを自分の家だと思えば、緊張しないと思って。だから毎回ライブが始まるギリギリまでステージにいます。もう出ていってくださいと言われるまで(笑)。

浅井 自分の家だと思おうとしてるんだ(笑)。

福士 うん、だんだん慣れてくるんだよ。逆に「特別なことをがんばるためにステージに出る」と考えると、緊張するのかなあと思って。だから適当に練習しながらステージの上で過ごして、ライブ寸前にステージに戻る。そうすると、だいぶ心持ちが変わるなって実感したの。

浅井 福士さん式緊張解消法なんだね。

福士 それを何十年もやっているけど、それでも緊張はするんですよ。でも最近の緊張は、以前のとはちょっと変わってきていて。練習の仕方も変わって、ちょっと楽しくなってきた。遅すぎるけど(笑)。やっぱり大切なのは楽しむこと。できるだけ余計なことは考えず、「この空間にずっといられたらいいな」と思うこと。そしたら、ちょっとだけ昔よりはマシになったんですよね。前よりも、「音楽の楽しさの中にいる」って感じることが増えた。それ以外は基本的に何も変わっていなくて、自分のことを「相変わらずアホだな」といつも思っちゃう。

浅井 俺も自分のことをアホだなって思う。

福士 まあ、それ以上にベンジーにはすごいところがあるけどね。たまにベンジーが「こうしたらいいよ」と言ってくれることとか、「そっか。それいいな」と思って試してみたりすることがあるし。ベンジーはベンジーなりにちゃんとできてるよ。

浅井 あと、もう1つ、30代で大きく変わったのは国家観だね。それまではどちらかと言うと、いわゆる反体制的な思想だったの。パンクってそうじゃん。でも、前野徹の「新 歴史の真実」を読んで気付かされた。国ってすごく大事だなと思ってね。

SHERBETS

SHERBETS

──それはどういう気付きだったんですか?

浅井 要するに、日本は戦争に負けてアメリカに領土を占領されたでしょ。それから、日本人ってものすごくうまい具合に操られてるというか。アメリカのGHQが入ってきて大変だったんだけど、日本って素晴らしい国だと俺は思っていて。昔から一部の白人たちは世界中を植民地にしてさ、とんでもないことをやってきたんだよね。そこらへんからの流れをちゃんと勉強したんだわ。そうすると、やっぱり自分の考え方がものすごく変わった。そもそも「新 歴史の真実」はJUDE(浅井が活動している3ピースバンド)の(渡辺)圭一からもらった本なんだけど、それを読んだことによって本当にいろんなことに気付かされて。音楽も大事なんだけど、それよりも、もっとでかい話なんだわ。だから30歳の頃はまだ未熟だったね。人間性は変わってないけど、勉強していろいろと学んだ。

──世の中の捉え方が広がった、みたいなことですか?

浅井 広がったというか、本当の流れを知ったね。今、ロシアが悪いっていう風潮があるけど、中国なんてもっといろいろあるしね。それこそ「なんでこんな立派なトレーナーが1000円なの?」とか思うじゃん。それはウイグル地区の人たちを収容して、強制労働させてるから安いんだなってわかるし。だから中国も怖いしロシアもヤバい。アメリカだってヤバい。そんな中で、日本の人たちは素直で優しい人が多い。一生懸命でずるさが少なくまっすぐな人が多い……中には悪いやつもおるけどね。「そんな中で、どうやってちゃんと立ち回っていくか?」とか、最近はそういうことを考えるかな。そもそも日本では音楽が商売になってるじゃん? それだって国がちゃんとしてないとできないわけだからさ。だから国のことを考えるのは、ものすごく大事だと俺は思ってる。そこらへんまで考えるようになったのが、昔と今の大きな違いだね。35歳だったら、そういうこともちゃんと勉強したほうがいいね。さっき言った本を読んでみればわかるわ。

──はい、読ませていただきます。

浅井 まあ、足がかりとしてね。20年近く前の本だけど、書かれている内容は全然古くなってないと思う。

一生懸命さがすべて

──SHERBETSの活動に話を戻すと、5月に「25th ANNIVERSARY TOUR『Midnight Chocolate』」が始まりますね。

浅井 今までで最高のツアーにしようと思う。「無事にやり遂げることを目指すのではなく、当たり前に過去最高のツアーにしよう」と、今日メンバーみんなに伝えました。秋のツアーからライブをやっていなくて、だいぶ体がたるんだから、今は軽く締め直してて。それがきつい(笑)。しかも、さっきパン食べちゃったし。

──食事制限もしているんですね。

浅井 ちょっと前まで今世紀最大に太っててさ。月曜日に体重計に乗ったらびびったね(笑)。

──いやいや、全然お変わりないですよ(笑)。福士さんはツアーについての意気込みはいかがですか?

福士 改めて「みんなで25年もがんばったんだな」という思いもあるし、あと自分がずっと音楽が大好きでがんばってきたからこそ、今までのツアーよりもいいものにしないと駄目だなと思っていて。最終日にみんなで「よかったね」と心から笑い合えるようなツアーにしたいので、すごく楽しみですね。最後に「よかった」と思えるかどうか、そこに挑戦したい気持ちです。この前、WBCを観たから気持ちはさらに燃えています(笑)。

SHERBETS

SHERBETS

──やはり鼓舞されますよね。

福士 大きな壁を乗り越えようとする必死な一生懸命さ、そういうのが大事というか、それがすべてだなって。人ってギリギリでがんばってる姿が一番素敵なんだなと思いましたね。だから自分が一生懸命やってる姿も、観ている人にいい感じに伝わったらいいな。ライブはいつも緊張するんですけど、緊張に負けないで、何も考えないぐらいの境地までいけたらなって。実際はなかなかそうもいかないけど、ベンジーが言うように、今まで生きてきた中で最高のライブができたらいいなと思います。“終わった人間”になるようじゃ、一生懸命やってきた意味がないから。

──福士さんがカート・コバーンの生き方に共感している理由も「一生懸命に生きた人だから」だと言ってましたよね。

福士 そう。やっぱり、私は一生懸命生きてる人が大好きで。どんなボロボロな姿でもいいから、一生懸命やることがすべてかな。人生は死ぬまでが勝負だし、音楽をやめなければ音楽の中での最高を突き詰められると思うので、とにかくそこは続けていきたいですね。

ライブ情報

SHERBETS 25th ANNIVERSARY TOUR「Midnight Chocolate」

  • 2023年5月18日(木)新潟県 CLUB RIVERST
  • 2023年5月19日(金)宮城県 仙台MACANA
  • 2023年5月21日(日)北海道 cube garden
  • 2023年5月26日(金)福岡県 DRUM Be-1
  • 2023年5月27日(土)岡山県 IMAGE
  • 2023年6月3日(土)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2023年6月4日(日)愛知県 THE BOTTOM LINE
  • 2023年6月8日(木)東京都 Zepp Shinjuku(TOKYO)
  • 2023年6月17日(土)沖縄県 Output

プロフィール

SHERBETS(シャーベッツ)

浅井健一(Vo, G)、福士久美子(Key, Cho)、仲田憲市(B)、外村公敏(Dr)からなるロックバンド。1996年に浅井のソロプロジェクト・SHERBETとして始動し、1998年にSHERBETSが結成された。1999年にシングル「High School」とアルバム「SIBERIA」を発表し、その後も精力的にリリースを重ねる。2002年から2005年まで一時活動を休止したが、2008年に結成10周年を記念したライブベストアルバム「SHERBETS GREATEST LIVE in TOKYO」、2018年10月に結成20周年を記念したベストアルバム「The Very Best of SHERBETS『8色目の虹』」を発表。2023年4月に結成25周年を記念したアルバム「Midnight Chocolate」をリリースした。5月からはアニバーサリーツアーを開催する。