SHERBETSが通算12枚目のアルバム「Midnight Chocolate」をリリースした。
「Midnight Chocolate」は、SHERBETSが今年でバンド結成25周年を迎えたことを記念してリリースされたアニバーサリーアルバム。昨年の全国ツアーを経て制作された、現在のSHERBETSのありのままの姿が詰め込まれた1枚だ。アルバムのリリースを受けて、音楽ナタリーは浅井健一(Vo, G)と福士久美子(Key, Cho)にインタビュー。結成25周年を迎え、ベテランの域に差しかかってもなお精力的に活動し続けるSHERBETSの、現在のモードを探った。
取材・文 / 真貝聡
ツアーで発見した、新しいSHERBETS
──昨年10月にシングル「UK」をリリースし、12月には結成25周年に向けての全国ツアー「24th→25th ANNIVERSARY TOUR “そして未来へ”」を完走されました。ツアーの手応えはどうでしたか?
浅井健一(Vo, G) 最高のツアーでした。ベースの仲田(憲市)先輩が体を壊しちゃって、一時はどうなるかと思ったんだけど、その代わりを務めてくれた(宇野)剛史がすごいよくて。新しいSHERBETSを発見できたと思うぐらい、とても楽しいツアーだったな。
福士久美子(Key, Cho) 私も同じ気持ちですね。仲田さんがライブに出られなくなったことで「なんとかしなくちゃ」という思いが芽生えたし、剛史くんも同じように「自分ががんばらなきゃ」みたいな感じで参加してくれて。蓋を開けたらすごく楽しかった。いい影響がたくさんあったし、いい体験もできて結果的によかったなって。
──僕はツアー最終日に伺ったんですけど、「UK」に収録されている「Smoothie Glider」で始まり、往年の名曲「Stealth」や「小さな花」も聴けたのが個人的にうれしかったです。お客さんの空気感も含めて素晴らしいステージでした。
福士 ありがとうございます。(浅井を見て)あの日のライブもよかったよね。
浅井 もう忘れてしまったなあ(笑)。そういえば、帰りにカールを買ったんかな。
福士 ふふふ、ベンジー(浅井)の好きなカールね。
──インスタに写真を載せていましたよね。
浅井 そうそう(笑)。関東ではカールって売ってないんだわ。それを大阪駅で買ってインスタに載せたんだよね。そしたらファンの人がカールを1箱分も送ってくれて。
──素晴らしいですね!
浅井 一昨日、最後の1袋を食べました。
自然に音を鳴らしてできたアルバム
──ツアーファイナルで浅井さんが「SHERBETSは来年25周年になるからアルバムを出す予定で、ツアーも回るので観に来てね」と言っていました。そして宣言通り、25周年のアニバーサリーアルバム「Midnight Chocolate」が完成したわけですが、制作はいつ頃始めたんですか?
浅井 去年のツアーが終わってすぐ制作に入って、レコーディングは今年の1月頭にやったね。
──今回のアルバムを聴かせていただいて、自分の人生にとって宝物のような1枚になりました。
福士 すごくうれしい。
浅井 それはうれしいなあ。どの曲がよかった?……って、俺がインタビューしてどうするんだっていうね(笑)。
──僕は「知らない道」にとにかく感動して。
浅井 うん、「知らない道」いいよね。
──まずは大枠の話をお聞きしたいんですけど、アルバムにはどんな思いを込めたんでしょうか?
浅井 そうやって改めて聞かれると、音楽に込めてる思いってなんなんだろうね? 気が付いたらバンドというものに出会って、それを子供のときにやろうと思ったんだよね。そしたら、なんでか知らんけど、バンド活動がちゃんと商業にもなっていってさ。いろんなバンドを経て、この3人と出会って。実はドラムの外村(公敏)くんがキーマンで、あの人ってえびす様みたいな存在なんだよね。
──ライブのMCでも言っていましたね。
浅井 なんかね、バンドってこんだけ長い年数やっていると、新しい発見がなかなかないものなんだけど、この前のツアーですごい発見があったんだよ。外村くんのグルーヴって、実はものすごいんだっていうことが新たにわかった。それは大きかったかな。ちょっと話がずれたけど、とにかく自分が感じてることをそのまま音楽にしたってことだね。普段自分が感じてることを。
──これまでもそうだし、今作もそうしたと。
浅井 うん、本当にそうだね。
福士 そういう意味では、今回の曲もベンジーの自然で素直なところがいっぱい出ていて……私が日頃そばにいて感じることも歌詞の中にいろいろと表れていて。だからこそ伝わってくるというか、グッとくるものがいっぱいあってすごくいいなと思う。まっすぐ自然に心に入ってきて、自分のことにも当てはめたりしながら“歌詞の心”に連動させて演奏したりして……。今回のアルバムは、この間のツアーで違うベーシストとやった経験もあって、長年一緒にいる相性のいいメンバーが集まって演奏してるからこそのあふれ出る自然な音だなあと改めて実感しました。長年活動していると、いつかアイデアとか、何かが尽きて終わるんじゃないかって、いろんなバンドの人は思うかもしれないけど、SHERBETSは終わらないなっていうことをやっぱり感じました。
SHERBETSはミラクルなんだわ
──今のお話は5曲目「Aurora Squash」の「そうやって一生懸命 何かに向かってやっていると 自然に出会うものさ 気の合う友 現れる それが物語の始まりだよ」という歌詞に重なりますね。3曲目「セダンとクーペ」もそうですけど、この2曲は出だしがとにかく美しくて。
浅井 美しいよね。こういうフレーズが偶然出てくるもんだから、SHERBETSはミラクルなんだわ。
──SHERBETSの楽曲制作では、そういったミラクルがたびたび起こるみたいですね。
浅井 そうそう。みんなの中から、すごいきれいなフレーズが出てくるんだよね。
──福士さんは、どんなことを意識して「セダンとクーペ」と「Aurora Squash」をアレンジされましたか?
浅井 考えるというより、自然に音が出てきたよね?
福士 そうだね。みんなで演奏していたら、自然とこういうアレンジになったというか。SHERBETSでは、わりといつもそんな感じですね。最初に4人で音を出すときは、自然な感じで音が出てきて、ダビングでは「こんな音が加わって、こういう展開になったらいいな」とか「こんなコーラスがあったら、歌詞がもっとよく聞こえてくるかな」と思いながら楽しんでやっています。
──本当に自然に音を出しているんですね。
福士 そうですね。「こんなに考えてなくていいのかな?」とか「たまにはもっと考えて、作戦を立てながらやるアレンジにしてもいいのかな?」と思ったりもするけど(笑)、SHERBETSはベンジーが自然体でやりたいほうだし、みんなも自然体で演奏できてるからいい。自然体でいるのって、バンドにとって本当は大変なことかもしれないけど、それを普通にやれていることが、SHERBETSのすごいところかもしれない。とにかく無になって楽しんでやってるし、気が付いたらこうなっていましたね。
──アルバムのラストを飾る「優雅に行こうぜ」も素晴らしいですよね。以前から浅井さんが言っていた「作品には希望がなくちゃいけない」という考えが反映されていますし、本当にユートピアみたいなサウンドと世界観で。
浅井 うん、そうだね。雰囲気的にアルバムの最後はこの曲かなって思った。ただ、仲田先輩は違う曲を推していたね。
──そうなんですか!
福士 仲田さんはラストに「Aurora Squash」を推していたんじゃなかったかな。それを聞いて、仲田さんっぽいなと思った気がする。
浅井 ああ、そうだったかもね。
福士 それはそれでアリかなと思ったけど、もうちょっと深く考えて曲順を並べようとしたときにベンジーが「『優雅に行こうぜ』で終わりたい」と言って。私も「あ、それがいいな!」と思ったんです。実際にアルバムができあがって、「これが正解だ!」と思いましたね。歌詞とかも含めると「優雅に行こうぜ」が、未来を見て終われるような気がしていいなって。
自分の心が優雅であれたら
──今回の収録曲の中で、特に思い入れの強い曲はどれでしょう?
浅井 「知らない道」「セダンとクーペ」「HAMMER HEAD BRUNCH」「愚か者」「こわれた大人」「優雅に行こうぜ」かな。
福士 私も「セダンとクーペ」はすごい好きだし、最近の気分的には「Aurora Squash」や「優雅に行こうぜ」も好き。「Fantastic」は思わず笑っちゃう感じですね。
浅井 「とっくにはまらないデニム」とかね。
──「本当に迷った時は 取っとく それが始まり 結局それをしてたら 何にも変われないかも」からの「物は捨てよう鉄則 強い意志だよ 全部捨てちまうのさ」という歌詞に、ユーモアと真理を感じます。
福士 この曲の歌詞に関しては、「すみません、それ私です」という気持ちになりますね(笑)。
浅井 みんなそうだよね。
福士 たぶん世の中に“断捨離しないといけない人”はいっぱいいると思うんです。だから、こんまり(近藤麻理恵)があれほどブレイクするんだろうし。同じように「Fantastic」を聴いた人は、みんなこの曲を素敵だと思うだろうなって。耳が痛いかもだけど(笑)。あと、どの曲の歌詞もそれぞれすごくいいけど……やっぱり「知らない道」はグッとくる。みんなでライブリハをしているときも、思わず気持ちが曲の中に入り込んでいくというか。
──福士さんの中で、特に刺さったフレーズはどれですか?
福士 「OK そっちにするわ OK そっちがいいよ」ですね。
──この曲の1番と2番では、大人になるつれて昔好きだったことが好きじゃなくなっていることに気付く。そして「何かを なくしたってゆうことか 何かを なくしちゃったってことか」と思うけど、ラストは「何かを なくしたってゆうことか それとも もっと はるかにあたたかな何かに 気づいたってゆうことか はるかに あたたかな何かに」と思い立って「OK そっちにするわ OK そっちがいいよ」と前を向くんですよね。
福士 自分が変わってしまったことに対していろいろ思うんだけど、最終的にエナジーがある方向を選んで向かって行こうとする。そういう考えも好きだし、「そっちにするわ そっちがいいよ」というデリケートな表現というか思いに自分も共感できて。そういうふうに生きていけたらいいな、という願いも込みで、この曲は好きですね。
──「優雅に行こうぜ」というフレーズの前にある「時間は限られている」という歌詞にもすごく背中を押されました。
浅井 時間は限られているからこそ、優雅に生きないといけないからね。
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ベンジーとお坊さんの出会い