生まれ続ける純粋な音、SHERBETSが求めた「音楽の喜び」とは (2/2)

俺たちの中から、純粋な音が生まれてくる

──お二人が推薦する「Smoothie Glider」は、どのようにして作られたんですか?

浅井 これは5、6年前からある曲だね。どうやって作ったかは忘れた。ギターを弾きながらいろいろ考えたのは覚えてる。いつか録音しようと思っていたんだけど、なかなか形にならなくて。

──どのようなイメージで作られたんでしょうか?

浅井 歌詞のままだよね。雨の日に街のブロック塀にもたれかかってる人がいて。彼は目を閉じてグライダーが飛んでいるのを思い描いてる……っていう、そういう状況かな。

──出だしの歌詞「今日はいい日Rain 冷たい雨」が面白いですよね。ストレートに考えれば、「いい日=晴れ」じゃないですか?

浅井 雨の日もたまにはいいじゃん。匂いとかさ。そういうことだね。

福士 この前、雨が降っているときに「Smoothie Glider」を聴きながら歩いたら、すごいよかった。私も「雨の日もいいな」って思っちゃった。

──この曲は福士さんのピアノが特に映えますよね。

福士 バンドメンバーと一緒に音を出したとき、いろんなメロディが降ってきましたね。

浅井 そういえばいいフレーズを弾いた瞬間、「それを絶対忘れないで」とか言ったね。

福士 うん。みんなで「なんか降りてきたな」と確信した瞬間があった。

浅井 福士さんが思い付いたメロディのおかげで、この曲の世界観が完成したと思う。そういう偶然が起きるからSHERBETSはすごいんだわ。メンバー全員のセンスが噛み合ってるっていうかね。それがうまく回り始めるといいものができるんだよ。

──4人のセンスがちゃんと渾然一体となっているんですね。確かに構築美というか、すごく美しい曲だなと思いました。

浅井 美しいよね。どのバンドも曲作りのときはいろんなメロディやフレーズを引用すると思うけど、俺たちの場合は純粋に、自分たちの中から音が生まれてくるからさ。もちろんSHERBETSと同じ姿勢の音楽家はいっぱいいると思うんだけど、世の中にはニセモノの音もいっぱいあふれているから。そんな状況でも、俺たちは純粋な音楽を作り続けている自信があるけどね。

仲田憲市(B)

仲田憲市(B)

外村公敏(Dr)

外村公敏(Dr)

「これ好きだな」って素直に感じるのが一番だよね

──「Marble」はどのように作られたんですか?

浅井 これも4年ぐらい前からあるかな。まず家でギターを弾きながら作って、ある程度固まったら福士さんと合わせてね。「Marble」もキーボードのメロディが決め手だよね。

──マーブル柄のロングボードを持った少年が、海から上がって仲間と一緒に出かけていく……という描写が本当にキラキラしていていいんですよね。

浅井 歌詞は相当悩んでさ。ほかのパターンも書いてみたんだけど、結局この歌詞になったんだよね。最後はトラックの荷台にみんなを乗っけて、温かい飲み物を買いに行くという、俺のよくやるストーリー展開になってるけど(笑)。結局それしかないんだわ、俺。

福士 ベンジーの願いなんじゃない?「みんなで行こうぜ」ってさ。

──「Marble」は聴いていて、難しく意味を考えるんじゃなく、シンプルに幸せな気持ちになれました。

浅井 ああ、それが大事じゃん! 「こういう理由でこの曲が好きなんだ」と思うよりもさ、「これ好きだな」って素直に感じるのが一番だよね。

福士 私も「Marble」は初めて聴いたときから「バンドアレンジだとさらによくなる」と感じていて。いざやってみたらバンドならではの深みとか不思議さがすごく出せたし、歌も歌詞もしっかり耳に残るなって思いました。世界観とサウンドが合っていて、一筋縄じゃないSHERBETSらしさもあって、よくできましたね。

──3曲とも作ったタイミングがバラバラだったとのことですが、収録曲を決めるうえで、どのような基準でピックアップされたんでしょうか?

浅井 去年の秋からアルバム「Same」のレコーディングを始めたんだけど、まずは数曲録って、一旦間隔を置いて今年の3月ぐらいに再開して、完成させたんだよ。ただ、いくつかアルバムからあふれた曲があって、その1つが「Marble」。この曲は大好きなんだけど、アルバムの中に似た感じの曲があったから取っておいた。そのあと夏に4曲ぐらいレコーディングして、その中からベストな3曲を選んだ感じだね。

浅井健一(Vo, G)

浅井健一(Vo, G)

昨日より今日がよくなっていないと、生きてる意味がない

──改めてシングル「UK」はどんな1枚になりましたか?

福士 派手じゃないかもしれないけど、SHERBETSの新曲としてのクオリティはすごく高い。私が第三者だとしたら「やっぱりSHERBETSは信頼できるブランドだな」と言える(笑)。3曲しかないけど、大事なものがちゃんと詰まってて、みんなよくがんばったなって思います。

──初回限定盤には、今年6月に行われたツアー「欲望の種類 TOUR」東京・LIQUIDROOM公演のライブ音源を収めたCDが付属しています。振り返ってみて、この日のライブはいかがでしたか?

浅井 すごいよかったね。みんな盛り上がって、達成感のあるライブだったと思うな。

福士 5月にツアーをスタートしたんですが、私はどの公演も口がきけないぐらい、とにかく必死だったんですよ。最初はたくさん本数があるように感じたんだけど、終盤に近付くにつれて「え? もう終わりなんだ」みたいな気持ちになって。1回1回自分なりに一生懸命やったから、ツアーファイナルのLIQUIDROOM公演は楽しかったですね。やっぱり東京は緊張したけど。

──このライブ音源の中で、印象に残っている曲はどれですか?

福士 最近特に好きなのは「ひょっとして」です。スケール感のある「ひょっとして」を演奏して歌うときは、ほかの曲に比べてより願いを込めて伝えようとしていたし、コロナ禍でみんな声が出せない状況でしたけど、聴いてくれる人もこの曲を受け止めてくれている気がして。あとは「小さな花」は演奏しながらとても感動する曲で、お客さんもその思いをすごく共有しているのを感じます。とにかく心が震えますね。

浅井 「Crashed Sedan Drive」は演奏しててすごい面白かったな。とはいえどの曲もいいけどね。自然に歌えたから大好きなライブアルバムだし、全体的に好きだわ。

──僕は「小さな花」と「Stealth」がすごく刺さりました。昔は音や楽曲の雰囲気が好きで聴いていたんですけど、個人的には年齢を重ねれば重ねるほど、メッセージが沁みるんですよね。

浅井 そうだね。まあ、長い間活動してきたから、たまにドすごい曲があるんだわ。そのドすごい曲が福士さんが話していた「小さな花」だったり、君が挙げてくれた「Stealth」だったり。一聴してちょっと悲しげなんだけど、ちゃんと光があるし、それが表れているライブ盤だと思うんだよね。だから今、みんなに聴いてほしいよ。

──現時点のSHERBETSの音が聴ける、という喜びもありました。

浅井 ありがとう。やっぱね、演奏のクオリティは上がってる。昔作った「グレープジュース」「Michelle」も、今のほうが絶対にいいんだよ。特に「グレープジュース」はサビにガンって入るところのパワー感とかね。それがこのライブアルバムに収められているから、すごくいいよ。

──それこそSHERBETSがこれまで発表してきた楽曲の中で、「グレープジュース」は個人的に一番聴いてきた1曲ですけど、このライブアルバムで印象が更新されました。

浅井 だからMCでも、この曲についてしゃべれるようになったんだよね。「ちゃんと表現できてるな」という自信があると、やっぱりMCにもつながるんだ。

SHERBETS

SHERBETS

──10月16日から全国ツアー「24th→25th ANNIVERSARY TOUR “そして未来へ”」が始まりますね(※取材は9月下旬に実施)。前回はアルバムのリリースツアーだったので「Same」の収録曲が中心でしたけど、今回はどうなんでしょう?

浅井 「Same」の楽曲は一気に減るから、改めてみんなの心に響くようなショーに仕上げないとね。だらけていた期間もあるんで、またジムで体も鍛え直して、ビシッてやらんと(笑)。ひと苦労なんだよ。

福士 やっぱり昨日より今日がよくなっていないと、生きてる意味がないなと思うんです。毎回進化するためには、ベンジーも言ったように体を整えないといけないし、準備も必要。あとは自分たちの思いがどれだけ自然に伝えられるかが大事なので、練習をたくさんして、自由に表現できたらいいなって。冒頭に話したように、最近ようやく気付いたこともいっぱいあるから、それも実践していきたいですね。SHERBETSはいい曲が多いから、前回のツアーとはまた違った魅力を体感してもらいたいです。

ツアー情報

SHERBETS「24th→25th ANNIVERSARY TOUR “そして未来へ”」

  • 2022年10月16日(日)東京都 Spotify O-EAST
  • 2022年10月29日(土)三重県 CLUB ROOTS
  • 2022年10月30日(日)山梨県 KAZOO HALL
  • 2022年11月5日(土)鹿児島県 CAPARVO HALL
  • 2022年11月6日(日)福岡県 DRUM Be-1
  • 2022年11月12日(土)宮城県 石巻BLUE RESISTANCE
  • 2022年11月13日(日)福島県 clubSONICiwaki
  • 2022年11月19日(土)兵庫県 神戸VARIT.
  • 2022年11月20日(日)広島県 広島セカンド・クラッチ
  • 2022年11月25日(金)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2022年11月27日(日)石川県 金沢GOLD CREEK
  • 2022年12月3日(土)大阪府 BananaHall

プロフィール

SHERBETS(シャーベッツ)

浅井健一(Vo, G)、福士久美子(Key, Cho)、仲田憲市(B)、外村公敏(Dr)からなるロックバンド。1996年に浅井のソロプロジェクト・SHERBETとして始動し、1998年にSHERBETSが結成された。1999年にシングル「High School」とアルバム「SIBERIA」を発表し、その後も精力的にリリースを重ねる。2002年から2005年まで一時活動を休止したが、2008年に結成10周年を記念したライブベストアルバム「SHERBETS GREATEST LIVE in TOKYO」、2018年10月に結成20周年を記念したベストアルバム「The Very Best of SHERBETS『8色目の虹』」を発表。2022年4月には約6年ぶりのオリジナルアルバム「Same」、同年10月にはニューシングル「UK」をリリースする。