今年4月におよそ6年ぶりのオリジナルアルバム「Same」を発表したSHERBETS。5月から6月にかけては全国10会場を巡るツアー「欲望の種類 TOUR」を開催したのち、7月には野外フェスティバル「FUJI ROCK FESTIVAL '22」への出演を果たすなど、彼らは精力的なライブ活動を展開してきた。この勢いに乗るように、10月26日にはニューシングル「UK」をリリース。音楽ナタリーではこのシングルの発売に合わせ、浅井健一(Vo, G)と福士久美子(Key, Cho)にアルバム「Same」発表後の活動やシングル「UK」各収録曲に込めた思い、結成25周年に向けて開催中の全国ツアー「24th→25th ANNIVERSARY TOUR “そして未来へ”」について語ってもらった。
取材・文 / 真貝聡
もう1度、制作の喜びがある毎日を送ってみたい
──今年4月に6年ぶりとなるフルアルバム「Same」をリリースして、5月からは全国ツアー「欲望の種類 TOUR」を開催。7月には「FUJI ROCK FESTIVAL '22」への出演と精力的に活動されていますね。こうして、ひさしぶりにSHERBETSが動き出すことになったきっかけはなんだったんですか?
浅井健一(Vo, G) 一昨年56歳になって、人生もだいぶ後半に差しかかってきてさ。自分のやってきた音楽を振り返ったときに、それぞれのバンドを一生懸命やってきたことはよかったなと思います。その中でSHERBETSはSHERBET(※SHERBETSの前身バンド。メンバーは浅井と福士久美子の2人編成)名義で「セキララ」というアルバムを作ったのが始まりになっていて、その次のアルバム「SIBERIA」を作ったとき、すごく新しくてうれしい気持ちになった記憶があって。その後も「AURORA」「VIETNAM 1964」と作り続けて、それぐらいの枚数のアルバムを出したら、ワンパターンっていうかレベルが落ちてくるのがバンドの常だと思うんだけど、そのあと完成した「Natural」ではさらにいい手応えがつかめたんだよね。そういった感覚を思い出したこともあったし、あとは「VIETNAM 1964」の頃からだったかな、みんなと泊まりがけで合宿レコーディングを毎回やっていて、毎日「こんな曲ができた!」みたいな制作するうれしさがあってさ。毎晩、その日の成果を朝まで喜び合っていた、ああだこうだ言って。あの体験ってなかなかできないことで、たぶんメンバー全員もそう感じていたはずなんだけど、その感動をもう1回味わってみたかった。「もう1度、同じような日々を送ってみたい」と思ったんだわ。それで一昨年の終わりぐらいに、俺から福士さんに「SHERBETをやろうか」って誘いました。
──最初は2人だけでやろうとしていたんですね。
浅井 去年の初めぐらいから2人でやっていたんだけど、だんだんベースとドラムも欲しくなって「じゃあ、SHERBETSをやろう」という話になって。そういう感じで、また4人で活動を始めたね。
──福士さんは浅井さんに声をかけられて、どんなお気持ちでしたか?
福士久美子(Key, Cho) コロナ禍に入ってすぐの頃は自分自身を見つめ直していて、「自分にとってほんとに必要なものはなんだろう」とか考えていたんです。それは持ち物だけじゃなく、どんなことに対しても「いらないものはもういらないし、本当にいるものだけでいい」みたいな感じで、音楽も含めて自分のすべての断捨離をしたいモードになっていました。ただ、音楽は小さい頃から好きすぎて、ずっとやり続けているような人間だから、そこは結局は変わらなかった。自分にとって音楽は宝物で、「私は音楽で宇宙とつながっている」と再認識したんです。それで1回気持ちをリセットして、「これからは頭で考えるんじゃなくて、本能に従って自然に生きてみよう」と考え直しました。そんなタイミングでベンジー(浅井)からSHERBETSを再びやらないかと誘われて。一緒にやっていて「やっぱり私って音楽が好きなんだな」とすごく思ったし、音も歌詞も以前より心に響くように聞こえるし。「やっぱり音楽は心から楽しいと思うこと以外ではやっちゃダメだな」ということを再確認しましたね。
──フジロックの特番(「Festival TV on KEENSTREAM」)に出演されたとき、最新アルバム「Same」を作った手応えを聞かれて、福士さんは「あまり考えずに作りました」とおっしゃっていましたよね。あの回答は本能に従って作ったからこそのコメントだったんですね。
福士 そうですね。なんというか、今までいっぱい勉強したし、失敗もしたし。考えすぎるクセもできた部分があったんだけど、ここから先はやっぱり原点に戻り本能でいこうと強く思ったんです。ただ鍵盤に手を置いたらジャーンって音が鳴る。音楽のアイデアはそうやって降りてくるから、それが一番だなって。
──浅井さんは「みんなで音楽を鳴らしていた喜びをもう一度味わいたくて、またSHERBETSを始めようと思った」と話していましたが、実際にアルバム制作やライブを行ってみて、いかがでしたか?
浅井 レコーディングは今と昔では環境がまったく違うんだよね。以前は2週間ぐらいでっかいスタジオを借り切って、「その期間に十数曲仕上げればいい」みたいな感じで、ごはんもお酒もバンバン出てきて。豪勢にやっていたんだけど、今はそうじゃないもんね。
福士 ベンジー、昔はすごい飲んでたもんね。「なんでそこまで飲まなきゃいけないの?」と思ってた(笑)。
浅井 思いっきり自由にレコーディングしていましたね。あの頃は。伸び伸びと。なんの制約もなかったので。インディーズだからこそできることですね。音楽でも絵でもそうだと思うけど、少し毒のような物が含まれているほうが魅力があったりすると思う。特にROCKは。万全な体ではない状態で歌ってたかな。とにかく今とは全然環境が違うんだ。最新アルバムの「Same」は合宿ではなく、福士さんのスタジオ(STUDIO HIPPO)で制作したんだけど、もう酒はいらなくて。やっぱり曲が完成したときの喜びが一番大事で、それを十分に味わってる。考え方も変わったと思う。ライブは今のほうがね、クオリティが高いと思う。
福士 今の自分は心のままに歌って演奏して、音楽の世界にダイレクトに行こうとしてて、「歌や歌詞をただ伝えたい」という感じなんですよね。まさに音楽を楽しんでいる状態で、音楽って素晴らしいなって感じで。
「このぐらいでいいんじゃないの?」じゃ衰退していくのかなと思うんだよね
──まっすぐ音楽を伝えることに重きを置いたことで、何か変化は感じますか?
福士 本当の自分に立ち返った気がしますね。洋服だったら流行のものとか、その時々でいろいろ着たりするんだけど、音楽は時代の流れとか、そんなのは関係なくて。まさに宇宙と自分、みたいな心持ちです。音楽が大好きで一生懸命やってきて、自分の中で悩みながら何回もトライして、今はまた原点に戻っている。これは長年音楽をやってきたからたどり着けたんです。
──思いのままに音楽を鳴らすことがスタートであり、ゴールでもあって。
福士 はい。だからこそ、音楽は楽しくないとダメかなって。その楽しさって「笑う」とかそういうことじゃなくて、ワクワクするというか……例えば愛って減らないから、いくらでもあふれてくるじゃないですか。音楽も同じで、いくらでもアイデアが出てくるんですよ。それを楽しんでいたら、聴いてくれる人にも楽しさが伝わるかなって。最近ようやく気付きました(笑)。
──どんなマインドで音楽と向き合っているのか、メンバーの皆さんで話し合うことはありますか?
浅井 いや、あんま細かいことは言わないね。
──長年一緒に音楽をやっている仲だからこそ、言葉にしなくても伝わる。
浅井 うん。ライブも終わったあと、よかったのか悪かったのかっていうのは、やっぱり自然にわかるんだわ。自分たちの演奏だし、お客さんの反応もあるしさ。だからこそ、すごくいいところを当たり前に目指してるね。以前は「まあ、このぐらいでいいんじゃないの?」みたいなところがあったんだけど、最近は「こうしたらもっとよくなるんじゃないのか」という振り返りを、サボらずにちゃんとやるのが絶対に大事だって、10年ぐらい前にようやくわかったんだよね。
──かなり大きな変化ですよね。
浅井 昔だったら「ロックンロールだから、ハートがあればそれがすべてだから」みたいな感じのほうがカッコよかったんだけど、それだとバンドは衰退していくのかなと思うんだよね。よっぽどすごい才能を持っとるバンド以外は、ちゃんと努力するっていうことかな。それが大事だって10年前にわかったわ。
──何かきっかけがあったんですか?
浅井 スカパラ(東京スカパラダイスオーケストラ)の欣ちゃん(茂木欣一 / Dr)や加藤ちゃん(加藤隆志 / G)とツアーを回ったときがあって、そこで気付いたね。その頃はライブが終わったら少し話して「じゃあ、お疲れ様」みたいな感じだったんだけど、スカパラは楽屋に戻ると「ここをこうしたらもっと盛り上がるんじゃないの?」とかを1、2時間はするんだって。しかも毎回だよ。だから加藤ちゃんたちは俺らがライブが終わったあと、すぐどこかに行っちゃうのを見て「これでいいの?」と思ってたらしくて(笑)。
──皆さんビックリされて(笑)。
浅井 そう(笑)。スカパラのライブはいつも「すごいな」と思うんだけど、それは努力と才能の賜物なんだなっていうのを気付かされました。
──バンドってライブが終わったら、真っ先に飲むイメージがありますね。
浅井 もちろん欣ちゃんたちも、ライブが終わったあとは飲むよ。でも飲む前に必ず話し合いをしててさ。褒めるのも大事かもしれんけど、ただ褒め合ってもしょうがないし、それだと全然成長しないんだわ。ダメなところをちゃんと言っていかないと。それがバンドの進展につながるから、言いにくいんだけど言うようになった。だからいい方向に向かっているんだと思うな。「まだ技術が追いついていないから、やっていかないかんよ」とかさ、そういうことも言っていかないかんのだよね。これから始まるツアーでもガンガン話し合っていかないと。
「日頃の行い」って言ってたの?
──10月26日には7年ぶりとなるシングル「UK」がリリースされます。今作はいつから制作していたんですか?
浅井 今年の8月に作り始めたね。この取材の前に出演してきたラジオ番組(「STEP ONE」)でも言ったんだけど、「UK」が表題曲になると思っとらんくて。俺は「Smoothie Glider」をリード曲にするつもりでずっと動いてたんだけど、最後の最後にひっくり返されて。
──ひっくり返されて(笑)。ご自身にとっては意外だったんですね。
浅井 うん。身内の調査で「『UK』のほうがいいぞ」って話になって、多数決で決まったね。ちなみに君はどの曲派?
──僕は「Marble」派です。
浅井 「UK」「Smoothie Glider」じゃなくて「Marble」派? ハハハハ、そっか!
福士 「Marble」もよくできてる曲だしね。
──浅井さんはたびたび「作品には希望がないといけない」というお話をされているじゃないですか。そういう意味で「Marble」は希望に満ちている感じがして。なんか光に吸い込まれるというか……幸福感に包まれる感覚になりましたね。
浅井 うんうん、そうだね。3曲の中では、「Marble」が一番光のある曲かも。
──ぜひ収録曲順に沿ってお話を聞いていきたいんですけど、「UK」はどういうきっかけで生まれたんですか?
浅井 「UK」はさらっとできたんだわ。最初は「録らなくてもいいかな」と思っていたんだけど、福士さんが冒頭で弾いてるキーボードのフレーズがあるじゃん。そこがポップだったことがレコーディングする決め手になったんだよね。歌詞は特に言い表したいこととか、あんまり考えてないんだ。だけどミュージックビデオの監督を担当したタジマックス(田島一成)には「この歌詞はすごいですね。『このまま 飛んでたい』って、ドラッグかなんかの歌ですか?」とか言われて(笑)。
──僕も「夢の中で 飛ぶ」「このまま 飛んでたい」という歌詞は、ドラッグか何かでトリップしている少年を表していると思っていました。
浅井 俺、そんなつもりないよ(笑)。このまま空を飛んでたいなっていうだけ。
──「UK」というタイトル案はどこから降ってきたんですか?
浅井 「サンデー UK」という歌詞があるように、UKのティーンエイジャーがベルベットソファに寝そべって、スプーンでアイスを食べている絵が浮かんだので、なんかポップでいいなと思って。その歌詞から取っただけなんだけどね。
福士 私はね、「日頃の行い」の部分が気に入ってて。コーラスを入れるまでどんな歌詞なのか、よく聴き取れていなかったんだけど。
浅井 「まさか、そう言っとったの?」みたいな。
福士 うん(笑)。初めてそのコーラスを録るときに歌いながら吹き出しちゃって。「なんか最高だな」と思ったんだよね。
浅井 日頃の行いだからね。
福士 そこから「UK」を聴くたびに、「日頃の行い」という歌詞が出てくるとクスッと笑ってしまうというか、「はい、その通りです」みたいな気持ちになっちゃって(笑)。「本当に『日頃の行い』なんだよな」と思って、すごく気に入ってるんです。
──アレンジに関しては、どんなことを意識されましたか?
福士 最初はあんまり深く考えないで演奏したんだけど、途中からダビングでもっと楽しい感じをキーボードで表すにはどうしようか考えてたら、さっきベンジーが挙げたイントロのフレーズが出てきて、そこから後半のメロディも思い浮かんできたので、こういう世界観の流れができてよかったです。ただリード曲になると思っていなくて。私も「Smoothie Glider」をすごい推していたんですよ。
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俺たちの中から、純粋な音が生まれてくる