楽曲に落とし込んだ好きな景色
──「WATER」というタイトルは先に決まっていたんですよね。なぜ今回のアルバムは「WATER」に?
フルアルバムには1stと2ndから2曲ずつ入れようと思っていたので、その4曲を内包できるような大きいテーマを設けたくて。タイトルもそのテーマに見合ったものにしたかったし、これまでにリリースしてきた作品のタイトルがどっちも長かったので、フルアルバムはワンワードにしようと決めていました。アルバムの制作期間中、気持ちいいと感じる瞬間にいつも“水”があったんですよね。それは雨だったり、シャワーの水だったり、植物に水をあげているときだったり、いろいろなんですけど。その体験の1つとして、今年の夏に初めて「FUJI ROCK FESTIVAL」に行って、雨に濡れながら音楽を浴びたら「歌って水みたいに潤いを与えてくれるものだな」って感じたんです。フジロックに行ってから、だんだん歌うという行為でも心が潤うような感覚になっていって、「WATER」という言葉がピッタリだなと思いました。このアルバムも聴いた人の心を潤せるようなものになったらいいなという思いも込めています。
──「WATER SLIDER」は「WATER」というタイトルありきで土器さんにオーダーした曲だと伺いました。
ずっと好きだった景色を音楽にしたいと思っていたんです。その景色っていうのは雨が降った日に乗るタクシーの窓から見える光景なんですけど、窓に付いた雨粒が風でサーッと後ろに流されていくのがとてもきれいで気持ちよさそうだなってずっと思っていて。それを土器さんに伝えました。リード曲には「WATER SLIDER」っていうタイトルを付けたいと最初から思っていたので、その言葉がマッチするような曲が来るといいなと思っていたらピッタリな曲が来てびっくりしました。曲を聴いて思い浮かんだことがたくさんあって、そこから生まれる言葉もあったので、歌詞を書くときの方法が1つ増えたなと思いました。景色のイメージからできあがった音に導かれるように歌詞ができていったのは新鮮な感覚でした。
渋谷系もSHE IS SUMMERの要素の1つ
──アルバムは「mirage」というインタールードから、代表曲の1つの「とびきりのおしゃれして別れ話を」に入っていきます。この流れ、ものすごくいいですよね。
うれしい。私は「日常生活でも視点を変えてみればドラマチックになる」っていうことを大事にしていて、この曲順はそういう考え方を象徴するかもと思って。「とびきりの~」は「LOVELY FRASTRATION E.P.」の最後に入っている曲なんですけど、新しいイントロを付けて1曲目として置いたことで違う印象になるなと思ってこういう曲順にしました。このアルバムで始めてSISの作品に初めて触れる人もいると思うので、代表曲をどうしても聴いてもらいたかったからという思いもあります。
──「私たちのワンピース」は「休日ランデヴー」というフリーマーケットイベントのために作った曲で、もともとはワンコーラスしかなかったんですよね。
そうなんです。でもお気に入りの曲だったのでフルアルバムにどうしても入れたくてフルバージョンを作りました。渋谷系っぽいサウンドで、ボーカルもウイスパーボイスをダブルで重ねています。
──MICOさんのルーツには渋谷系もあるんですよね。
はい。私は子供の頃、そんなに音楽が好きなタイプじゃなかったんですけど、小学生の頃に朝のテレビ番組で流れていた深田恭子さんの「キミノヒトミニコイシテル」という曲が大好きだったんです。なんてかわいい歌詞なんだろう!って感激したんですよね。そのあと小倉優子さんの「オンナのコ♡オトコのコ」という曲に出会って、この曲も大好きになって。バンドを始めてからこの2曲を手がけたのが小西康陽さんだって知って、そこからピチカート・ファイヴを聴くようになって、渋谷系にハマっていきました。バンド時代はエレクトロなことをやっていたから、渋谷系とは離れたところにいたように見えたと思うんですけど。「LOVELY FRASTRATION E.P.」収録の「あなたに電話しない夜」も渋谷系っぽくて、やっぱり渋谷系のサウンドはSHE IS SUMMERの持っている要素の1つだと思います。
──「NIGHT OUT」はエッジが効いたエレクトロなナンバーですね。
曲を作ってくれたORESAMAの小島英也さんと私はTuxedoが大好きなんです。そういうテイストが入ったダンサブルな1曲を作ってもらいました。いつも私は歌詞に意味を求めちゃって、こういうノリを重視したものは書けなかったんですけど、この曲では語感のよさを意識したり、韻を踏んだりすることに挑戦しています。音楽を作ること、聴くことが楽しいっていう気持ちを最大限に表現できたと思います。
時間が過ぎていくことはつらいことじゃない
──「ナイトブルー」を経て、木暮さんが作曲した「LAST DANCE」へと続きます。この曲は気持ちよく聴けるナンバーですね。
疾走感があってSHE IS SUMMERの曲の中では新鮮な感じの曲になりました。私は映画やミュージックビデオが好きでよく観るんですけど、この曲は映像から得たインスピレーションを落とし込みました。歌詞には私の自立したい気持ちが表れていて、今までの作品で表現してきた“女の子であること”とは違って、女の子である前に私は1人の人間だから、1人の人間として自立したうえで、女の子としての可憐さを持ちたいという気持ちを込めた曲です。
──「思い出はシャンプーの中に」はevening cinemaの原田夏樹さんらしい歌謡曲テイストなメロディが特徴ですね。
そうですね。アルバムでは、この曲からノリよりもメロディと歌詞を重視した1990年代っぽい曲が続いていきます。リフは最初に原田さんが付けてくれたものを生かして、Schroeder-Headzの渡辺シュンスケさんがアレンジしてくれました。シュンスケさんは私がリクエストした映像のイメージからいろいろ音を付け加えてくれましたね。ギターはNONA REEVESの奥田健介さんにお願いして、いい感じのカッティングが後ろで鳴っています。
──歌詞についてはどうですか?
前から歌詞にしたかったことを歌詞にできました。私は時間が過ぎていくことに対して、つらいという気持ちを抱くことばかりだったんですよ。時間が過ぎていくことには逆らえないのに。あるとき、ふと考え方を変えたら「“そこにいた2人”っていうのはそこに閉じ込めたまま永遠なんじゃないのかな」と気付いて。それからは時間が過ぎていくことをつらいとは思わなくなったんですよね。「いくつの恋と共に過ぎてく ふたりもこの街を彩れたのかな?」って歌っているように、2人が過ごした1つの街が今も同じようにそこにあるのは、いろんな出来事が重なっているからだなって。“そのときの2人”がいなかったら、お店の売上が上がらなくて、街が寂れていってしまったかもしれない。だからそれはそのときのものとして、ずっと思い出は残り続けるんだって。なくなったんじゃないって思えたんです。私は匂いフェチだから、それをシャンプーの匂いに閉じ込めようと思ってこういう歌詞になりました。その香りをかげばいつでもその思い出に触れることができるよねっていうお話です。
──「Swimming in the Love E.P.」の収録曲「あれからの話だけど」をはさんで、かせきさいだぁさんが作詞をした「冬の街とキミと永遠に」へと続いていきます。「あれからの話だけど」のラストの「それからの話だけど 街に中であたしは誰かと笑ってる」という歌詞から、ハッピーなラブソングに続いていくのはストーリー性を感じますね。
そうなんです。曲は宮野(弦士)さんにデモをいくつか作ってもらって、その中から選ばせてもらいました。私とディレクターとの間で1990年代の女性シンガーの曲を聴くのがブームになっていて、そういうアレンジに仕上げていきました。歌詞は男性から見た理想の女性像を演じる日もあっていいなって思ったので、そういう歌を歌いたくて、かせきさんに歌詞をお願いしました。実はこの曲のレコーディングをした日は風邪を引いていて。コンディションとしてはよくないはずなんですけど、私は自分の風邪気味のときの声が好きなんですよ。ちょっと甘苦い感じがする気がして。そういう自分の好きな声を残せてよかったなと思います。
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死ぬまで歌を歌い続けたい
- SHE IS SUMMER「WATER」
- 2017年11月8日発売 / Being
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[CD]
2800円 / SCL-003
- 収録曲
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- (mirage)
[作曲:Sosuke Oikawa(CICADA)] - とびきりのおしゃれして別れ話を
[作詞:MICO、ヤマモトショウ / 作曲:釣俊輔] - 私たちのワンピース
[作詞:MICO / 作曲:石井浩平(Alaska Jam)] - NIGHT OUT
[作詞:MICO / 作曲:小島英也(ORESAMA)] - WATER SLIDER
[作詞:MICO / 作曲:土器大洋(LILI LIMIT)] - ナイトブルー
[作詞:角舘健悟(Yogee New Waves) / 作曲:orange spotting]
- LAST DANCE
[作詞:MICO / 作曲:木暮晋也(ヒックスヴィル)] - 思い出はシャンプーの中に
[作詞:MICO / 作曲:原田夏樹(evening cinema) / 編曲:渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)] - あれからの話だけど
[作詞:MICO / 作曲:ひろせひろせ(nicoten、フレンズ)] - 冬の街とキミと永遠に
[作詞:かせきさいだぁ / 作曲:宮野弦士] - 待ち合わせは君のいる神泉で
[作詞:ヤマモトショウ / 作曲:ひろせひろせ(nicoten、フレンズ)] - 出会ってから付き合うまでのあの感じ
[作詞:MICO、ヤマモトショウ / 作曲:釣俊輔]
- (mirage)
- 公演情報SHE IS SUMMER Join ROOM SHARE the FINAL
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2017年11月11日(土)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
出演者 SHE IS SUMMER / Shiggy Jr.
- SHE IS SUMMER(シーイズサマー)
- 1992年9月3日生まれのMICOによるソロプロジェクト。2015年9月に解散したエレクトロポップユニットふぇのたすのボーカリストとして知られ、キュートな歌声とルックスでポップアイコンとしても注目を集める。2016年4月1日にSHE IS SUMMERを始動。同年8月に4曲入りのCD「LOVELY FRUSTRATION E.P.」をリリースした。2017年6月に5曲入りのCD「Swimming in the Love E.P.」を発表。同年11月にバンド時代も含めてキャリア初となるフルアルバム「WATER」をリリースする。これまでに発表してきた作品にはひろせひろせ(nicoten、フレンズ)、高橋海(LUCKY TAPES)、角館健悟(Yogee New Waves)、原田夏樹(evening cinema)、土器大洋(LILI LIMIT)といったMICOと同世代のアーティストを多く起用しており、彼らとのコラボレーションによって生まれる多彩なサウンドでも人気を博している。
- マメタロウ
- ビションフリーゼの男の子。KANA-BOONや忘れらんねえよなどさまざまなアーティストのスタイリングを手がけるスタイリスト・入山浩章の愛犬。11月に1歳になる。