SMAPにしかないアウトローな魅力をスマヲタたちと客席で一緒に楽しみたい
──「華麗なる逆襲」はSMAPの解散によって、今となっては提供当時とはまた異なる特別な意味合いを帯びた1曲ですね。
いつも作曲のオーダーをいただくと、先様の魅力について考え、惚れ込むところから私の仕事が始まります。すると「そのパフォーマーを端的に形容した目次のような曲を1曲は書かせて!」という欲求が出てくるものです。これはまさにそんな作家業を営むうえでの色気を丸出しにしてしまった曲でした。完全に中居(正広)くんのロックダンスを期待したモントゥーノとテーマの掛け合い部分。コンサートで「大阪!」「福岡!」などなどご当地名の呼びかけを期待した2番のサビ前の1小節ブレイク。SMAPにしかないアウトローな魅力をスマヲタたちと客席で一緒に楽しみたくて書いたのは明らかです。私はあきらめたくない。叶う日が来てほしいな。
──冒頭のエゴサーチの話題にもありましたが、今回この「華麗なる逆襲」と「重金属製の女」「おとなの掟」「最果てが見たい」は、提供時の日本語詞を英語詞に変えて歌われています。特にSMAPについては「逆輸入 ~港湾局~」のインタビューの際、「自分で歌う際は男言葉が過ぎるし、提供先様のファンが楽曲をご愛顧くださった際のイメージを崩したくないから」と語っていらっしゃいましたが、今回については?
はい、同じ理由からですね。あくまで私が歌うのは本家(=提供先)に対して分家と言うか亜流と言うか、オルタナティブなもので、両方ご試聴された方が「やっぱり本家へ戻りたい」と感じてくださるのなら、それが一番。言語よりも精査したいのがキー設定です。弦楽器の解放弦や倍音が、否が応でも残るキーだとか。管が高らかにほしい場合は転調後をB♭にするだとか。私の声のスイートスポットのために楽器の響きを捨てるという発想はあまりしない。このチームの最大の特徴は“楽器コンシャス”なとこだと思いますよ。
──でもその一方で、「おとなの掟」で聴ける音符に対するリズミカルな英語の当て方はとても気持ちがいいですよ?
ありがとうございます。元詞も比喩表現などの構造がシンプルですから、直訳したとしても伝わる情報にあまりギャップがなさそうですよね。SMAPやさゆりさんへ書き下ろした曲のように、古参のファンの皆さんだけにわかっていただける暗号などが入っているときは、本当はドメスティックなものとして守りたい気がしてしまいますよ。柴咲コウさんに提供した「野性の同盟」はテレビドラマ「科捜研の女」の主題歌だったので、彼女の中性的で清潔な一途さを描写するとき「割り出す」「真相」といった語彙を用いることで、サスペンスを観ながら謎解きをなさる視聴者の方のご気分にも寄り添ってほしかった。そんな具合で、リリックは常に、その場にふさわしいボキャブラリーで書きたい。密室性の高いアプローチをしながら、普遍性に富んだメッセージが残ってくれたら最高ですよね。目指し続けているところです。
20周年、宇多田ヒカル&aikoと「We Are The World」しちゃいたい
──そう言えば前回のインタビューの際、楽曲を提供してみたいお相手として、早見あかりさんと中条あやみさんの名前を挙げていましたが、最新リストにはどなたか追加されていますか?
(食い気味に)杉咲花ちゃん。彼女を含め、愛されるために生まれて来られたような方ばかりに惹かれていますよね。それは当然なんですよ。たくさんの愛を受けて育った子が、大人になる。そんな方は、ちょっと微笑むだけで、蓄積された愛があふれ出てしまう。自然たくさんの人に分け与えられる。効率がいいですよ。歌のスキルの有無などどうでもいいから、ぜひ、お声を聴かせていただきたいと思っています。
──近年の作品も含めて、充実した作家業の成果が出そろいました。今後の作家業については?
ドラマの枠を超えるドラマとか、広告の枠を超える広告とか、なんらか夢のあるプロジェクトに加担させていただくのはマジで緊張します。喜んでくださる方がいらっしゃるかどうか、まるでわからない状態からひたむきに悩むなんて面倒くさいことじゃないですか。しかし完成すると、いただいたギフトのほうが遥かに大きいと気付く。クライアントの皆さんに改めて感謝しきりです。よろしければ新たなお題をください。
──そんな控えめにではなく、「袖をまくって待ってるぞ!」とか言ってくださいよ?(笑)
いや……いざゼロから取り組むことを想像するとそこそこお腹痛いです。
──今年の大みそかの「NHK紅白歌合戦」を経て新年を迎えると、3月からはホールツアー「ひょっとしてレコ発 2018」が始まります……が、なんですか、この脱力したタイトルとロゴデザインは?
あれ、お気に召しませんでした? 「早く決めて」と弊社スタッフから急かされ、いつも通り口から出まかせで……。
──いや、以前「ちょっとしたレコ発」もありましたけど、“ひょっとして”は何かがひょっとするのかな?とか思ったり……。
そっか。そうですよね。何やっても許されるタイトルなのか。どこもちゃんとしたホールだから、まさかお客様もトラップだなんて疑っていらっしゃらないでしょうしね。
──今ちょっと悪い人の顔付きになっていましたよ?(笑) さらに来年はデビュー20周年イヤーを迎えます。
(宇多田)ヒカルちゃんも途中で少し休んでいらしたからそうだと思うんですけど、私も東京事変の活動を挟んだせいか、20年を実寸で歩んできた感覚がイマイチ乏しいような。ズルと言うか、ワープしちゃったみたいな感覚なのかな。それに比べてaikoときたら……立派ですよね。
──まあそういう見方もありますね(笑)。
でね。私としてはそろそろ、同期みんなで「We Are The World」しちゃいたい気持ち、ある。曲はなんでもいいかな。「『パンがなければケーキを食べれば』的な発想だ」とか、非難しないでいただきたいの。
──マリー・アントワネットですか(笑)。ともかく2018年の活動も楽しみにしています。
ありがとうございます。精進します。
- 椎名林檎「逆輸入 ~航空局~」
- 2017年12月6日発売 / EMI RECORDS
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初回限定盤 [CD]
3780円 / UPCH-29274 -
通常盤 [CD]
3240円 / UPCH-20468
- 収録曲
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- 人生は夢だらけ
(高畑充希 出演・歌唱 / かんぽ生命「人生は、夢だらけ。」CMソング) - おいしい季節
(栗山千明 / シングル「おいしい季節 / 決定的三分間」&アルバム「CIRCUS」収録曲) - 少女ロボット
(ともさかりえ / シングル「少女ロボット」収録曲) - 暗夜の心中立て
(石川さゆり / シングル「暗夜の心中立て」&アルバム「X -CrossII-」収録曲) - 薄ら氷心中
(林原めぐみ / シングル「薄ら氷心中」収録曲) - 重金属製の女
(ICHIGO-ICHIE[深津絵里]/ NODA・MAP 第17回公演「エッグ」劇中音楽) - おとなの掟
(Doughnuts Hole[松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平]/ 配信シングル曲) - 名うての泥棒猫
(石川さゆり / シングル「暗夜の心中立て」&アルバム「X -CrossII-」収録曲) - 華麗なる逆襲
(SMAP / シングル「華麗なる逆襲 / ユーモアしちゃうよ」&アルバム「SMAP 25 YEARS」収録曲) - 野性の同盟
(柴咲コウ / シングル「野性の同盟」収録曲) - 最果てが見たい
(石川さゆり / アルバム「X -CrossII-」収録曲)
- 人生は夢だらけ
ライブ情報
- 椎名林檎「ひょっとしてレコ発 2018」
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- 2018年3月2日(金)埼玉県 川口総合文化センターリリア
- 2018年3月7日(水)神奈川県 川崎市スポーツ・文化総合センター
- 2018年3月8日(木)神奈川県 川崎市スポーツ・文化総合センター
- 2018年3月15日(木)宮城県 仙台サンプラザホール
- 2018年3月16日(金)栃木県 宇都宮市民文化会館
- 2018年3月23日(金)静岡県 静岡市民文化会館
- 2018年3月30日(金)兵庫県 神戸国際会館
- 2018年3月31日(土)兵庫県 神戸国際会館
- 2018年4月6日(金)富山県 オーバード・ホール
- 2018年4月8日(日)新潟県 新潟県民会館
- 2018年4月13日(金)北海道 ニトリ文化ホール
- 2018年4月16日(月)大阪府 フェスティバルホール
- 2018年4月17日(火)大阪府 フェスティバルホール
- 2018年4月20日(金)東京都 東京国際フォーラム ホール A
- 2018年4月26日(木)福岡県 福岡サンパレスホテル&ホール
- 2018年4月27日(金)福岡県 福岡サンパレスホテル&ホール
- 2018年5月9日(水)埼玉県 大宮ソニックシティ
- 2018年5月11日(金)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
- 2018年5月12日(土)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
- 2018年5月16日(水)東京都 NHK ホール
- 2018年5月17日(木)東京都 NHK ホール
- 2018年5月25日(金)広島県 上野学園ホール
- 2018年5月27日(日)鹿児島県 鹿児島市民文化ホール
- 椎名林檎(シイナリンゴ)
- 1978年生まれ、福岡県出身。1998年5月にシングル「幸福論」でメジャーデビュー。1999年に発表した1stアルバム「無罪モラトリアム」が170万枚、2000年リリースの2ndアルバム「勝訴ストリップ」が250万枚を超えるセールスを記録し、トップアーティストとしての地位を確立する。2004~2012年に東京事変のメンバーとしても活躍したほか、2007年公開の映画「さくらん」では音楽監督を務めるなど多角的に活躍。2013年11月にデビュー15周年を記念してコラボレーションベストアルバム「浮き名」とライブベストアルバム「蜜月抄」を、2014年5月にはセルフカバーアルバム「逆輸入 ~港湾局~」を発表する。11月には椎名林檎名義では約5年半ぶりのオリジナルアルバム「日出処」を、2015年8月には15枚目のシングル「長く短い祭 / 神様、仏様」をリリース。10月からはソロ名義としては12年ぶりの全国ホールツアー「椎名林檎と彼奴等がゆく 百鬼夜行2015」を開催した。2016年8月にはリオデジャネイロオリンピック・パラリンピック閉会式のフラッグハンドオーバーセレモニーにて演出 / 音楽監督を担当。2017年1月からスタートしたTBS系ドラマ「カルテット」では、キャストの松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平が歌う主題歌「おとなの掟」を制作し大きな話題を集める。4月には椎名林檎とトータス松本名義の楽曲「目抜き通り」を発表した。5月には全国ホールツアー「椎名林檎と彼奴等がゆく 百鬼夜行2015」の映像がBlu-rayおよびDVD化。2017年12月、セルフカバーアルバム第2弾「逆輸入 ~航空局~」が発売された。